*連載コラム「堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し」のアーカイブページはこちら
シャンパーニュにおける、ビオ(ディナミ)とサステナブル
日本でもここ数年で、頻繁に耳にするようになった「サステナブル(人間・社会・地球環境の持続可能な発展)」という言葉。
しかしワイン造りを始め農業に就く人たちは、サステナブルという言葉が浸透するより遙か以前から(企業理念という概念もなかった時から)、少なくともさまざまなアプローチによって、自身が手がける畑の振る舞いがどう変わるのか、
次に収益性、そして農薬などが人体や環境に与える影響などを観察し続けてきた。
シャンパーニュにおいてはフランス最北のワイン産地という気候条件だけではなく、今までもこのコラムで触れてきたが、商業的な意味でもビオは実践しにくい産地だ。
過去に回帰するように見なされたビオの先駆者は、フランスのどのワイン産地でも1980年代頃まで多かれ少なかれ異端児扱いされた。
シャンパーニュとなると、あるビオ実践者のメゾンを引き継いだ栽培・醸造責任者曰く「メゾンの前所有者は『エペルネの丘のヒッピー』と呼ばれ、奇行と蔑視する者までいた」となるので、シャンパーニュでビオに取り組むにはかなりの決意と覚悟が必要だったと推測される。
だが前回のコラムで書いたように、著名なシャンパーニュやボルドーが「特別なワイン」であり続けるためには、産地として、そして企業(ブランド)としてもクリーンなイメージが求められる時代へと変化した。
ビオが農産物に付加価値を与える一方で、シャンパーニュで1999年まで続いた「青いゴミ問題」(注)や、病害虫予防剤の使用過多によるマルヌ川の汚染がメディアに批判されるに至り、今世紀に入るとCIVC(シャンパーニュ委員会)は環境保全のガイドラインを明確にした。
なかでもエネルギー問題と温暖化対策は2005年のフランスの法規制を待たずに、2003年に具体策を定義。
「もっとも農薬を使っている産地」と名指しされたボルドーも同年に対策を打ったことを考えると、農薬はエネルギー問題や温暖化対策とは直結しないものの、環境や健康を見直すことやイメージ回復においては、シャンパーニュとボルドーはいち早く修正をかけた産地だ。
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シャンパーニュが本腰を入れて環境を見直してから10年以上が経ち、「シャンパーニュにおけるサステナブル」を考えた結果、CIVCの主導の下、新たな認証「VDC( Viticulture Durable en Champagne)、シャンパーニュのサステナブル」を構築し始めたのが2014年。
古くからビオを実践する生産者からは「今更、、、とは思いながらも、環境保全を喚起する良いきっかけ」という声も聴けば、ビオではない契約農家やメゾンからは「サステナブルが自身の仕事ではどこまで実行できているのかは判断できないので、VDCのマニュアルは分かりやすい」という声も聴く。
10年以上かけて、CIVCに「シャンパーニュにおけるビオ」を尋ねたことが何度もある。
返答は「シャンパーニュにおけるビオは、まだアウトサイダーです」であったり、近年は「ビオに関する返答はしかねますので、シャンパーニュ・ビオロジック団体「ACB(Association des Champagnes Biologiques)に問い合わせてください」であったり。どうやらCIVCが進めるサステナブルと、現場での杓子定規ではすまないビオを実践する生産者とは、まだまだ解釈の違いや温度差があるようで、ビオ=サステナブルではないことが現状だ。
互いに目指す正解に、いくつかは共通点があるのだけれど。
そこに訪れたのが新型コロナ。
皮肉にも新型コロナはシャンパーニュへ「サステナブルへの転換」を、あらゆる意味で加速したように思われる。どのように加速したかは、コロナ収束後を待って書ければと思う。
(注)青いゴミとは「都会の肥料」。都会の肥料は一般の家庭ゴミを砕いたもので、家庭ゴミは青いビニールはゴミ袋で梱包されていたため、畑には土に溶けない青いビニールが残った。「都会の肥料」の使用は1999年、フランス全土のブドウ産地で禁止されたが、シャンパーニュは都会の肥料の撤廃するまでに、最も時間がかかった産地であると指摘されている。
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2020.09.11
堀 晶代 Akiyo Hori
J.S.A.認定シニアワインアドバイザー、栄養士。
酒販店でのワイン販売を経て、2002年に渡仏。現在は大阪とパリを拠点に、ワインライターとしてフランスやイタリアを訪問。生産者との信頼関係に基づいた取材をモットーにしている。
おもに「ヴィノテーク」「ワイナート」などの専門誌に寄稿。
著書に「リアルワインガイド ブルゴーニュ」(集英社インターナショナル)など。