浅妻千映子のワインレストランvol.1〜ワインで楽しむ、絶品の串揚げ店「銀座 六覺燈」神楽坂店。

©「銀座 六覺燈」神楽坂店

レストランを極めるライター浅妻千映子が、毎回、ワインが充実したおすすめレストランを紹介する。今回は、大阪発、銀座経由で、神楽坂にオープンした串揚店。オーストリアつながりで思い出した名店のあのスイーツのお話も!

文/浅妻千映子


【目次】

1.ワインの品揃えがすごい串揚げ店。
2.「ワインリストなし」から始まるコミュニケーション。
3.職人ワザの揚げあがり。串の向きが指すものは?
4.ハプスブルク帝国の栄華を極めた店の隠れた名物。


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1. ワインの品揃えがすごい串揚げ店。

お店は、毘沙門天脇の小道の奥に。©「銀座 六覺燈」神楽坂店

この6月、「銀座 六覺燈」神楽坂店がオープンした。地名が二つも入って、ちょっと不思議な店名なのは、こういうことだ。
そもそもは1980年にオープンした大阪黒門市場の「六覺燈」。その暖簾分けが、銀座の交詢ビルにある「銀座 六覺燈」で、今回オープンしたのはその支店にあたる神楽坂店なのだ。

2004年に銀座の店がオープンした時のことはよく覚えている。「ワインの品揃えのすごい串揚げ店」「接待にも使える串揚げ店」として話題だった。

聞けば、大阪のオーナーがワイン好きで、特にオーストリアと縁があって、オーストリアワインが数多くあるのだとか。今回の神楽坂店にも「2000年代前半のオーストリアワインなんかがありますよ」とソムリエの方が話してくれた。リストを見せてもらおうかと思ったら、「リストはないんです。お客様のリクエストでワインを選んでいく」とのこと。

 

2.「ワインリストなし」から始まるコミュニケーション。

ワイン好きには、たまらない品揃え。一番右がシャンパーニュのコレ。真ん中は、オーストリア南部シュタイヤーマルク地域で、Mr.ソーヴィニヨン・ブランと呼ばれるテメント。©「銀座 六覺燈」神楽坂店

最近はワインリストがない店も珍しくないが、ソムリエの言葉を聞いてふと思い出した、今はなき店がある。やはり2000年代前半に大阪から銀座に上陸した「クロドミャン」だ。

パテやマリネといったビストロ的な気の利いた料理がいろいろあって、料理の美味しさと使い勝手のよさもあり、瞬く間に人気となった。

そして、この店がメディアで紹介されるときに必ず取り上げられていたのが「ワインリストがなく、お客さんと会話しながらワインを決める」という点だった。少なくとも当時の東京の一般的なレストランにおいては、とても珍しいスタイルだったのだ。

そう考えると、「ワインリストがない」店は、独自のコミュニケーションのある(と東京人の私からすると思える)大阪だからこそ生まれたスタイルだったのかもしれない……、なんてことを、串揚げ前の生野菜を洗っただけのサラダをつまみ(この店では箸が出てこない!)、店一押しの「COLLET(コレ)」というシャンパーニュを飲みながらぼんやりと考えた。

手元に渡された紙によれば、コレは「最も古いCM(コーペラティヴ・ド・マニピュラン)であるCOGEVI(シャンパーニュ域内生産者協同組合)のトップブランドとしてラウル・コレ氏によって創設されたシャンパーニュメゾン」とある。

2. 職人ワザの揚げあがり。串の向きが指すものは?

車海老の串は、塩に向けて登場。Photo:筆者

さて、六覺燈の串揚げは本当に楽しい。まず、目の前に置かれるのは調味料の皿だ。右から、2種類の塩、特製の赤ワインソース、赤ワインソースに胡麻とからしを入れたソース、出汁醤油、からしとレモンという順になっていて、揚がってきた串が、それに合う調味料のところに向いて差し出される。

串の手に持つ部分が、時計の針のように調味料を指すのだ。写真でわかってもらえるだろうか? ちなみに串自体は、薄く切った10センチ角程度のパンの上に置かれる。わざと干からびさせたパンが余分な油を吸う役目を担っている。

最初に出てきた車海老の串は、塩の方を向いていた。次に出てきた和牛のヒレは赤ワインソース。ホタテの貝柱は出汁醤油。えんどう豆のコロッケは塩。とんぶりののった鶏肉はからしレモンといった具合だ。

ちなみにここまで5つの串は、六覺燈の定番。「串揚げは、どうしてもインスタ映えしないんですよね」とお店の方が言う。そうなのだ。美しい緑色をしたえんどう豆のコロッケも、ヒレ肉も、ホタテの貝柱も、あとで写真を見てもほとんどどれも同じ。はて、これが何だったかと思い出すとき、串がどの調味料を指しているかが、かろうじての手がかりとなる。

次に出てきた茗荷と豚ヒレ肉は、赤ワインソースと胡麻ソースの間という、なんとも微妙な位置に串が向けられていた。「どちらでも合います」ということだろうか。その通り。

実は、この日出た15本もの串の中で、個人的に一番気に入ったのがこの一本だった。さっぱりした茗荷にコクが加わって、でもせん切りにした時のあのシャリシャリ感はそのまま残されており、目の前にあるシャンパーニュにもぴったり! この季節に最高の組み合わせではないか。

串揚げ前に出てくる、フレッシュなサラダ。Photo:筆者

このあとの佐島のタコは、出汁醤油で。口にすると明石焼きが思い浮かんだ。そら豆は塩で。あらかじめタルタルソースののったヒラメは、串がどの調味料も指さずに向こうを向いている。

トロトロのナスは赤ワインソース。アオリイカは出汁醤油。隣の席ではこれが塩に向けられて出てきて、あれっと思ったら正解は出汁醤油だそうだが、「どっちでも合いますよ」と。つまりは、堅苦しいわけではなく、好きなもので食べれば良い。
さらに数本の串が出て、ラストの串はチーズだった。チーズフォンデュみたいな味わいで締める。

衣のついた揚げ物がこんなに心地よく食べ進められるのだから、きっと揚げ油は軽い植物性のものかと思うところだが、なんと豚と牛の脂。ラードとヘッドだけで揚げているというから驚きである。

サクサクと薄く、同時にふんわりともして、それなりに存在感のある衣は、オリーブオイルや白ワイン、牛乳、卵、そして最後にメレンゲを加えているのだそう。

すごいなあと思ったのは、揚げたてを口にしても、火傷しそうに熱々ということがなく、どの串も、非常に心地のいい適温で出てきていること。客の食べるペースを見ながら油の温度を変えていると言う。だが、それによって串の具の火通りがばらついては意味がない。その辺りの調整は、口で説明し尽くすことのできない職人技なのだろう。

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4.ハプスブルク帝国の栄華を極めた店の隠れた名物。

さて、数日後に銀座を歩いているとき「銀座ハプスブルク」というレストランを思い出した。六覺燈でのオーストリアワインの話が頭の片隅にあって、店の入っているビルの前を通ったときに、あっと思い出したのだ。

溜池山王にあった「カーウントカー」という店でシェフをしていた、オーストリア国家公認キュッヘン(料理)マイスターという肩書きを持つ神田真吾さんがこの店をやっている。「カーウントカー」は素晴らしく洗練されたオーストリア料理を出す店だった。

当時、何度か訪れ、毎回うっとりとした時間を過ごしていた。決して安い店ではなかったが、とある食通の方の送別会を、これまた食通の方が音頭をとってやった時にこの店を選んでおり、さすがと思ったものだ。

シェフが銀座に移ってから伺ったことはないが、ここのクッキーは食べたことがある。贈り物として人気が高く、ネットや雑誌で、黄緑色の缶が紹介されているのを目にしたことのある人もいるのではないだろうか。私もやはり食通の方から何かのお礼にいただいたのだ。たっぷり使ったバターの風味がたまらなく、太りそうと思いながら手が止まらなかった。

せっかく「銀座ハプスブルク」の店の前でこうやって思い出したのも縁と思い、ちょうどランチタイムが終わるくらいの時間だったが、店内を覗かせてもらえるかなとエレベーターに乗った。降りるとすぐ目の前に受付があり、感じのいい女性が迎えてくれた。

ちょっと店内やメニューを見てみたいというと、快く応じてくれ、奥へ。優雅としか言いようのない、ゆったりと贅沢な空間が目の前に広がる。ヨーロッパのお城の中の一部屋のようだ。まだ食事中のお客様がいらしたので、さっと見ただけにしたが、まさに喧騒を忘れられる空間で、ここだけ別の時間が流れているみたいだった。

メニューを見せていただいたら、期待通り! ウイーン伝統のハムやスープ、料理が並び、それらと共に楽しむワインペアリングは当然のようにオーストリアワイン。そればかりか、ワインリストもオーストリア一色ではないか! 多分、東京で一番オーストリアワインが充実した店だろう。オーストリアの味と文化にどっぷりつかれそうだ。

人気のクッキーも、オンラインだけでなく店で直接購入可能。銀座に行ったら、まずはちょこっと覗いてみて欲しい。さらにクッキーを口にしたなら、予約を入れずにはいられなくなるだろう。

「銀座 六覺燈」神楽坂店
http://www.rokukakutei.jp/index_jp.html

「銀座ハプスブルク」
https://ginza-habsburg.com

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浅妻千映子/Chieko Asazuma

©土居麻紀子

フードライター、料理研究家。東京都出身。
『dancyu』、『Figaro』、『Pen』、『サライ』等の雑誌やオンラインを中心に、主に料理やワイン、レストラン、料理人について執筆。料理は、身近な素材を中心に、短時間で作れるちょっとおしゃれなおつまみが得意。講談社のサイト「コクリコ」でレシピを連載中。All Aboutレシピガイド。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。
<主な著書>『ほめられレシピ』主婦と生活社/『浅妻千映子キッチン』ぴあ/『パティシエ世界一』PHP文庫(辻口博啓シェフと共著)、『江戸前「握り」』光文社新書(荒木水都弘さんと共著/『東京広尾アロマフレスカの厨房から』光文社新書(原田慎二シェフと共著)など。また、毎年刊行されるレストランガイド『東京最高のレストラン』の選者の一人。

©「銀座 六覺燈」神楽坂店

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