太古のワインがリバイバル、注目のギリシャワインvol.1「山のワイン」

ギリシャワインとの大きな出会いは、2018年3月Wines of Greece主催World of Greek Wine Programです。なんと私、このプログラムの最終日の筆記&テイスティングテストで一番になったのです。「最優秀成績者はギリシャ研修にいける!」とご褒美付きでしたので、もちろん張り切りましたが、アカデミー・デュ・ヴァン講師陣、優秀なソムリエやワイン業界の方々がたくさんいらっしゃいましたので、自分でもびっくりでした。その後、正式にギリシャワイン・オフィシャル・アンバサダーを務めることになりました。ご褒美研修はまさに私のためにだけ組んで頂いたスペシャルなもので、北はアミンデオから南はクレタ島まで。忘れられない貴重な経験です。昨年から予定しているギリシャ訪問はペンディング中。一刻も早く行きたいです。

文・写真/青山 敦子


【目次】

1.ギリシャは暑い! でも土着品種は温暖化に強い!
2.山のワイン① マケドニアー アミンデオとナウサ「クシノマヴロ」
3.山のワイン② テッサリアー ティルナボスの「リムニオナ」
4.山のワイン③ ペロポネソス半島― スロープ・オブ・エギアリアの「ロディティス」


1.ギリシャは暑い! でも土着品種は温暖化に強い!

©Wines of Greece

今年の夏、ギリシャは、過去30年で最も深刻な熱波に見舞われ、各地で山火事が発生しました。7月下旬から8月にかけて、地中海沿岸の国々を襲った猛烈な暑さに加え、空気の乾燥した状態により、被害が広がってしまいました。

この熱波は異常現象としても、今すでに暑い国といわれるギリシャは、今後間違いなく気候変動の厳しい状況に直面するでしょう。では、ギリシャはどれくらい暑い国なのでしょうか?アメリン&ウィンクラー教授の積算温度による産地区分によれば、ギリシャの主要産地の区分は以下の通りです。

  • Region II:ジツァZitsa
  • Region III:アミンデオAmyntaio/マンティニアMantinia
  • Region IV:ケファロニアKefalonia/ナウサNaoussa/ネメアNemea/ペザ(クレタ)Peza (Crete)/ティルナボスTirnavos
  • Region V:サントリーニSantorini/シティア(クレタ)Sitia(Crete)

現時点でRegion IV & Vの産地が多く、2050年までにはギリシャではワイン用のブドウが栽培できなくなるという予測もあります。

しかしながら、実際にギリシャを訪れると、積算温度だけでは計り知れない、多様な地勢、絶え間ない海風、そして何より夏の夜間の気温の低さを実感します。ジャンシス・ロビンソンMWも低アルコールワインに関する記事(自身のウエブサイトPurple Page 7月10日発行)でギリシャの高地にある畑の夜の気温の低さを指摘しています(この夜の冷え込みがブドウの成熟スピードを遅くするため、アルコールが低く抑えられる)。

更には、ギリシャの土着品種は国際品種に比べて迫り来る地球温暖化に寛容であり、特に晩熟のロディティス、クシノマヴロ、アギオルギティコ、マヴロダフニなどはより影響を受けづらいという調査結果がでています。また、ロビンソンMWは、上述記事で「予想外にも夏が暑いと連想するギリシャで低アルコールワインが多く見つかった」と述べていますが、これは予想外でもなんでもなく、ギリシャワインは往々にしてアルコール度数が軽めです。高地の畑、醸造方法、伝統・文化背景等諸要因が関連してのことでしょうが、何千年もの昔からこの地に根づいている土着品種は暑さへの耐性をも含め図太い逞しさを持っているのでしょう。

北のマケドニアから南のクレタ島までギリシャのワイン産地を訪れて、強く感銘を受けたのは、各産地の土着品種のユニークさです。ギリシャの土着品種には底知れない生命力と輝きを感じずにはいられません。現に気候変動の対処策の一つとしても、その可能性は世界中の生産者から注目を浴びています。ギリシャワインの最大の強みである、土着品種はギリシャワインの将来を左右する鍵でしょう。

ギリシャは山あり、海ありの多様な景観をもった国。逞しくその地に育まれてきた山のワイン、島のワインを泣く泣く6つに絞り、前後編に渡ってご紹介します。

今回は、山のワインについてお伝えします。島のイメージが強いギリシャですが、紛れもなくヨーロッパ有数の山岳国。ギリシャ本土は国土の約7割を占め、平地がとても少なく山勝ちです。最高峰のオリンポス山だけでなく、中央ヨーロッパアルプスの延長であるピンドス山脈がギリシャ内陸部最南端のペロポネソス半島まで貫いています。

 

2.山のワイン① マケドニアー アミンデオとナウサの「クシノマヴロ」


「よりタンニンが控えめで、赤果実のフルーティーさとフローラルなアロマを併せ持った軽やかなアミンデオ」と、「タンニンと酸が強く、パワフルでしっかりとしたストラクチャーを持つナウサ」、ヴェルミオン山で隔てられたこの二つの産地は異なったスタイルのクシノマヴロXinomavroの赤ワインを産出しています。

このスタイルの違いはそのテロワール所以。ヴェルミオン山北西のアミンデオは、ギリシャの中でも最も冷涼な産地の一つ。大陸性気候で冬には降雪もあります。570 – 750mの高い標高、夜間の低い気温、ヴェゴリティス湖とペトロン湖の恩恵、そして、砂質土壌。一方、ヴェルミオン山南東のナウサは海洋の影響も受ける半大陸性気候です。畑はヴェルミオン山の斜面150 – 400mに位置し、アミンデオほど夜が冷えこまず、晩熟のクシノマヴロを最高の状態に完熟させることができます。

アミンデオの光景

ナウサPDOは紛れもなくギリシャを代表する高貴なワインです。近年は知名度も上がり、各生産者はクシノマヴロの魅力を最大限に表現する多様なスタイルのワインを生み出しています。しかしながら、その価格はリーズナブルなものに留まっています。ワインの格、詰まるところ、価格を引き上げる手段の一つとして、ナウサの7つのコミューンをクリュ的なものに分類しようという議論が数年前から巻き起こっていますが、なかなか進んでいないようです。

クシノマヴロは、ネッビオーロやピノ・ノワール、シラーのようだとか様々な喩えをされます。つまり、クシノマヴロはどの品種でも表現することができない独自の個性をもっているということ。そして、多彩な表情を持つということなのです。気難しいだけあって、巧みな造り手の手にかかれば、唯一無二の輝きを放ちます。赤ワインのみならず、ロゼや白ワイン、伝統方式のスパークリングワインを飲んでこそ、クシノマヴロの真の魅力を再発見することができるでしょう。

Domaine Karanika/ドメーヌ・カラニカ(アミンデオ)
ギリシャ屈指の瓶内二次発酵スパークリングワインの造り手。ワイン評論家のトム・スティーヴンソン氏から「シャンパーニュに勝るとも劣らない」と褒め称えられ、シャンパーニュのジャック・セロスをも惹きつけたスパークリングワインを造る。

ドメーヌ・カラニカを訪れた筆者

Domaine Thymiopoulos/ドメーヌ・ティミオプロス(ナウサ)
アポストロス・ティミオプロスは、今のナウサを牽引する才能溢れる造り手。彼の手にかかれば、クシノマヴロのいかめしいタンニンが果実味と見事に調和。残念ながら上級キュヴェは日本には入荷していないが“クシノマヴロ・ナチュール”(SO2無添加)を飲めば、彼がいかに素晴らしい造り手であるかを納得できるはず。旨味たっぷりのロゼはまさにfood-friendly!

ドメーヌ・テミオプロスの畑の古木

ドメーヌ・ティミオプロス ナウサ クシノマヴロ・ナチュール Naoussa Xinomavro Nature 2018
クシノマヴロ100%、アルコール度数13%、¥2,860 輸入元:ラシーヌ

 

3.山のワイン② テッサリアー ティルナボスの「リムニオナ」

ザフェイラキス(ティルナボス)のリムニオナ

「ギリシャはまあまあ知っているよ」という方にも耳なれないティルナボスという小さな街から、かのイレブン・マディソン・パーク(ミシュラン3つ星/NY) にオンリストされるような秀逸なワインが生まれています。品種はリムニオナLimniona。事実上絶滅していた状態からドメーヌ・ザフェイラキス当主のクリストス・ザフェイラキスによって救済されたライジングスターです。

クリストスはクシノマヴロらと混植されていたこの品種の可能性に着目し、1998年に初めてリムニオナのみの植栽を開始。そして、2007年に初めてリムニオナの赤ワインをリリースするや否や、そのチャーミングさとエレガントさから一気に人気を博し、世界レベルにまで知られるようになりました。

果粒が大きく果皮が厚いリムニオナは晩熟で暑さに耐性があり、ギリシャ本土の中心に位置する暑く乾燥したテッサリアで逞しく生育します。しかし、大切なのは夜の冷え込みです。クリストスのリムニオナの畑はギリシャ最高峰のオリンポス山の麓の標高200 – 300mに位置し、8月の日中の気温は36 – 38度まで上がりますが、夜は18 – 20度まで冷え込むのです。その結果、ブドウは収穫時期の9月末までゆっくりと成熟していくのです。

Domaine Zafeirakis/ドメーヌ・ザフェイラキス
イタリアで修行を積み4代目としてワイナリーを継承後、瞬く間にギリシャのワイン地図にその名を刻み込んだ気鋭の造り手。リムニオナとティルナボスのテロワールの実力を世界に知らしめるべく力を注ぐ。

ドメーヌ・ザフェイラキス当主のクリストス

 

ドメーヌ ザフェイラキス リムニオナ Limniona 2018
イレブン・マディソン・パークにオンリストされているリムニオナが、今年8月から日本でも飲めるようになりました! リオムニナ100%、アルコール度数13%、¥4,180 輸入元:アズマコーポレーション

 

4.山のワイン③ ペロポネソス半島― スロープ・オブ・エギアリアの「ロディティス」

スロープ・オブ・エギアリア

凡庸なロディティスRoditisのイメージを覆す逸品がギリシャで最も感動的で美しい畑が広がるといわれる注目の産地「スロープ・オブ・エギアリア」から生まれています。ここは、険しい山がバルコニーのように海に迫り出た地形で「海に近い、高い標高、北向き斜面」というギリシャの中でも特異なメソクライメットを有します。実に平均の標高が862mで冬には雪が積もるほど冷涼です。この標高の高さは高い日較差をうみ、夜はぐっと冷え込みます。しかも、ギリシャの中でも数少ない北向き斜面の産地故に、その斜面はコリントス湾からの涼しい風をダイレクトに受けています。

ロディティスはピンク色の果皮を持つギリシャで栽培面積第2位の平凡な品種。レッツィーナの原料ブドウでもあり、質より量をうむワークホース的な役割を担う大量生産ワイン用ブドウのイメージが一般的ですが、品質管理とクローンの選択とを適切に行えば、素晴らしいワインを生み出す今改めて注目されているブドウ品種です。

スロープ・オブ・エギアリアには最も高品質とされる、赤ともいえるほど濃いピンク色の果皮をもち、小粒で低収量のクローン「ロディティス・アレプ」の古木のブッシュヴァインが現存します。ブドウは標高の高さと海風の恩恵をうけ、リンゴ酸を保持しつつ、長い生育期間を享受します。そのワインは、北緯38度の産地のものとは到底思えない冷涼さとエレガンスを備えています。

Tetramythos Winerey / テトラミソス・ワイナリー
地元出身のスパノス兄弟と醸造家パナヨティス・パパヤノプロス氏は、この地のユニークな”Sense of Place”を最大限に表現するため、できるだけ人為的介入をしない手法でピュアなワインを造る。標高850mの畑の古木から生み出される“ロディティス・ナチュール”、そして“ロディティス・オレンジ・ナチュール”はロディティスの底力を知り得るワイン。味わい深くも美しい自然の酸味が鮮やか。

オーナーのアリストス・スパノス


テトラミソス・ワイナリー ロディティス・ オレンジ・ナチュール Roditis  Orange Natur 2019
ロディティス100%、アルコール度数12.5%、¥4,180
輸入元:Vd`Oヴァンドリーヴ

青山敦子(あおやまあつこ)DipWSET

WSET Diplomaコースをロンドン本校で学び最速最短の一年半で取得。ロンドン本校にて認定講師と認められた唯一の日本人。元WSET試験採点官。ロンドンから帰国後WSET日本語コースを立ち上げ、現在WSET資格取得コース主任講師。WSET®Level 4 Diploma / WSET®Certified Educator / WSET®Level 3 Sake / IWC インターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドン Associate Judge/ ギリシャワイン・オフィシャル・アンバサダー / German Wine Academy認定講師 / J.S.A. 認定ワインエキスパート

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