ゆるりと気負わずに、のんびりとドイツワインの魅力を再発見していただく企画。今回は、ドイツワインの等級からご紹介していきます。
【目次】
1. ドイツワインの等級:プレディカーツヴァインからテロワールへ
2. スパークリングワイン・ゼクト
3. ロゼ・ワイン?知っておきたい変わり種
4. ドイツワインのまとめ
1. ドイツワインの等級:プレディカーツヴァインからテロワールへ
プレディカーツヴァインとは?
ドイツでは、AOP(原産地呼称保護)ワインが、全体の97パーセント前後と圧倒的な割合を占めています。少々、アペラシオンのありがたみが薄れてしまいますね。
このAOPに含まれるのが、プレディカーツヴァイン(Pradikatswein)とその下のクヴァリテーツヴァイン(Qualitatswein)の2つです。クヴァリテーツヴァインには、ドイツワインの評判を落とす事にもなった、リープフラウミルヒ(Liebfraumilch)が含まれていましたので尚更、この等級制度に疑問符がつくことにもなりました。
この2つの等級の下に位置するのが、ドイチャー・ヴァイン(Deutscher Wein)とラントヴァイン(Landwein)で、全体では4等級となります。
最上級のプレディカーツヴァインは、下位の等級と異なり、補糖は許されてはいません。そして、この等級には、更に、収穫時の果汁糖度に応じた区分が設けられていて、ラベルに表記されます。
糖度の低い方から高い方へ順番に並べると、その昔、特別なワインだからとキャビネットに取っておいたというのが語源といわれるカビネット(Kabinett)。遅摘みの完熟ブドウを使うシュペートレーゼ(Spatlese)。完熟ブドウを選びすぐり、貴腐ブドウの影響がみられる場合もあるアウスレーゼ(Auslese)。
そして、過熟ブドウや貴腐ブドウを使うベーレンアウスレーゼ(Beerenauslese)。乾燥した貴腐ブドウを使うトロッケンベーレンアウスレーゼ(Trockenbeerenauslese)となります。一番甘いのになぜ辛口を意味するトロッケン(trocken)?と思いますが、ここで言うトロッケンは、貴腐菌によってブドウから水分が失われて、乾燥しているという意味です(英語のドライ dryに相当する言葉です)。この他に、氷結したブドウを圧搾してワインを造る、果汁糖度はベーレンアウスレーゼと同等のアイスヴァイン(Eiswein)が有ります。
果汁糖度によって等級が区分されたのは、1971年のワイン法。広域の産地から村や畑へと狭い区分になるに従って、高品質なワインに格付けされるフランスなどの産地とは、明らかに体系が異なりますね。そして、あくまで、果実の成熟度を示すもので、残糖、つまり甘さを示す区分ではありません。
しかし、実際は、ベーレンアウスレーゼ以上は甘口ですし、アウスレーゼも残糖を残した造りが多く、辛口は、概ねシュペートレーゼ迄です。また、アルコール度数は、最低7パーセントで、ベーレンアウスレーゼ以上は、5.5パーセントと定められています。
これでは、今日の消費者の視点から見れば、ワインの品質による区分というよりも、辛口なのか甘口なのか、スタイルの違いを示す区分の様に見えます。また、最低7パーセントの基準でも、アルコール濃度が低すぎて、残糖があることが前提になります。アウスレーゼの辛口を飲みたければ、見つけるのが難しいですが、最低13パーセント程度のアルコール表示を確かめたい所です。
ワインの品質と果実の熟度
歴史を振り返ると、産地によるワイン品質の違いについての考え方は古くから存在していました。フランス流の格付けの考え方も、18世紀末から19世紀初頭のナポレオン戦争、ライン同盟時代のフランス統治を通して伝わっています。
そして、19世紀後半に普墺戦争に勝利したプロイセンの税務当局は、1868年にモーゼルの畑を3つの等級に格付けした地図を編纂、ラインガウなどの他の産地もこれに続きました。
この時代のリースリングのワインは、辛口が中心。一方で、当時は良い産地で無いと、果実が十分に熟すことができませんでした。今では、温暖化で、果実熟度の不安は無くなり、4~5割がプレディカーツの範囲に落ち着いていますが、昔は悪いヴィンテージでは1割程度しかプレディカーツの果実熟度が得られないこともありました。
その為、果汁に人為的に糖や水分を加えたものを発酵させた、品質の低いワインも増えていきます。こうした流れに待ったを掛けるために、20世紀前半には残糖に制限を設けるようになります。
ところが、第二次大戦後は、甘口ワインへの大きなシフトが始まります。定着してきた無菌フィルターを活用して、辛口ワインに、未発酵のブドウ果汁、ズースレゼルヴェ(Sussreserve)を添加して甘口ワインに仕上げることも行われました。
こうして、1971年のワイン法成立前後には残糖制限は成りを潜めて、収穫段階で高い糖度を実現することが高品質の証となっていくのは自然な流れでした。
テロワールへの回帰
1990年代以降は、地球温暖化と辛口への消費者嗜好の変化によって、時の振り子は反対側に大きく振れてテロワール重視に戻っていきます。
更に、トリガーとなった一つは、新世界のワイン産地の脅威の中、EU各国のワイン品質と競争力向上を期した2009年のEUのワイン法改正です。
そして、もう一つがドイツ国内の、高級ワイン生産者連盟、ファウ・デー・ペー(VDP)の影響です。100年以上の歴史を持つ団体ですが、生産者数は200社程度。栽培面積はドイツ全体の5パーセントにしか過ぎませんが、その名の通り、高級ワインを造る銘醸地の名立たるワイナリーが加盟。今回、紹介した銘醸畑にも、軒並みVDPの生産者に所有されている区画があります。
2012年に、VDPは、果実の熟度だけなく、収量制限などの厳しい品質規定をもとに、独自の格付けを完成。地理的呼称の考え方にもとづいた、一般消費者にも分かりやすいシステムです。
広域な生産地から順に、地域名ワインのグーツワイン(Gutswein)、村名のオーツワイン(Ortwein)、1級畑のエアステ・ラーゲ(Erste Lage)、特級畑のグローセ・ラーゲ(Grosse Lage)というピラミッド構造。そして、グローセ・ラーゲから生まれる辛口ワインには、グローセス・ゲヴェックス(Grosses Gewachs: GG)という名称が刻印されます。
2021年のワイン法改正
こうして、制度面で新しい枠組みが紹介されると共に、ドイツ国内を中心に消費者嗜好は大きく変わり、2010年代後半には7割程度の消費が辛口になりました。また、温暖化により果実の熟度にも問題がなくなってきました。
従い、政府側もプレディカーツの等級の存在価値が希薄になり、地理的呼称とワインの品質を直接的に、結びつける必要性を認めざるを得なくなります。そして、2021年には全国区のワイン法にVDPの格付けの考え方が取り入れられることになりました。
プレディカーツヴァイン、クヴァリテーツヴァイン、ラントヴァイン、ドイチャー・ヴァインの4つの大分類はそのまま。その内、プレディカーツヴァイン、クヴァリテーツヴァインの2つの等級の中に、生産地域による階級分類を定めました。
下の階級から、先ずは指定生産地域(ベシュティムテ・アンバウゲビーテ)。次に、地区(ベライヒ)と、集合畑(グロースラーゲ)には、地域名のレギオン(Region)を付け加えることになりました。グロースラーゲの廃止迄は踏み切れなかったのは、生産協同組合などの反対があったようです。
そして、村名のオーツワインに続く、単一畑のアインツェルラーゲには、辛口ならば、グローセス・ゲヴェックスかエアステス・ゲヴェックスの名称を冠することも、できるようになります。一方、規定のアルコール度数や残糖に合わない、甘いスタイルのワインには、従来のプレディカーツヴァインの等級をラベルに示すことができます。
段階的に施行され、2026年には法的に義務化されます。
簡単に言えば、甘口を飲みたければ、例えば、プレディカーツの等級でベーレンアウスレーゼを探して、辛口の場合は、グローセス・ゲヴェックスのワインを選べば良いという感じで、消費者がワインを選びやすくなるだろうと歓迎ムードです。
但し、EUの規則では通常、辛口は残糖4g/L迄ですが、残糖が9g/L迄は、糖度より2度低い総酸度があれば辛口、トロッケン(trocken)表記が認められます。しかし、一般的な辛口の残糖上限の4g/Lを超えると人によっては、高い酸があるワインでも甘さを感じます。また、プレディカーツヴァインとVDPの2つの体系が共存する形になりますので、初心者には相変わらずワイン選びは簡単では無いかも知れません。
エスクレと残糖の話
ブドウ糖度を測定するための単位がエスクレ(Oechsle)です。プレディカーツヴァインの夫々のエスクレ度を、一生懸命、ソムリエ試験前に暗記された読者もおられるかと思います。この単位はドイツ、オーストリアで良く使用されます。
日本でワイナリーを訪問した時に、生産者の方が、「糖度(ブリックス)が20度になったから、そろそろ収穫しよう。」と言うのを聞かれた方もいるかも知れません。これは、エスクレでは、83くらいに相当します。ワインでは、どのくらいのアルコール度数にあたるのかというと、(0.57±0.03)Xブリックス=潜在アルコール度数と概ね換算できます。ですから、辛口白ワインを造るなら、11~12パーセントくらいのアルコール度数なのだろう。プレディカーツでは、シュペートレーゼのワインになるのだろうと簡易的に理解すれば良いと思います。
辛口ワインを造るのは、通常、シュペートレーゼ迄。それ以上の糖度のある果実からは、高い糖度のために、自然に発酵が止まる、もしくは人為的に冷却して発酵を止めることにより、甘口ワインが造られます。
果汁糖度が最高のトロッケンベーレンアウスレーゼ。エスクレは150以上で、アルコール度数は5.5パーセント以上という規定があります。エスクレ150は大体、潜在アルコール度数で21パーセントくらいになります。また、潜在アルコール度数=糖分÷16.5で、ざっくり計算できますので、アルコール度数5.5パーセントのワインでしたら、残糖は250g/Lを超える、極甘口ワインになるというわけです。
2. スパークリングワイン・ゼクト
ドイツのスパークリングワイン消費は世界第1位。生産の方も、イタリア、フランスに次ぐ第3位。輸入ランキングが第4位である一方で、輸出は、あまり目立ちません。ドイツ人が如何に泡好きで、国内でどんどん消費しているのかがわかりますね。
ゼクト(Sekt)はそもそも、シェリーを意味する用語のサック(Sack)を間違って使ったことでその名が使われるようになったという歴史があります。19世紀初頭、フランスで学んだクリスティアン・フォン・ケスラーが、1826年にドイツ初のゼクト醸造所を開きました。当初はフランスのシャンパーニュを模倣して造り、名称も本場にあやかっていました。
しかし、ヴェルサイユ条約でシャンパーニュという用語は使えなくなります。そして、大手メゾンは、瓶内2次発酵の伝統方式から、タンク方式へと醸造方法を移行していきます。今や、瓶内2次発酵を用いるのは、僅か5パーセントにも満たない少数派。タンク方式が主流です。
ブドウ品種はリースリング、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、ピノ・ノワール等が使われますが、他にも様々な品種が幅広く使われます。
けれど、高品質なゼクトを代表する品種は、リースリング。アロマティックなリースリングは、ブドウ由来の香りを活かすタンク方式が主体。ですが、瓶内2次発酵で、複雑味を打ち出したスタイルも造られています。
このゼクトにも幾つかの分類があります。ドイチャー・ゼクト(Deutscher Sekt)は、ベースワインをドイツ国内で調達したものを使うという規定があります。
というのも、その下の単なるゼクトですと、フランス、イタリア、スペイン等の南欧から廉価な材料を仕入れてドイツで仕上げるのが典型だからです。
ゼクト b.A.は、13の特定生産地域で、瓶内2次発酵方式で生産される必要があります。
このカテゴリーの、クレマン(Cremant)では、白ブドウは全房圧搾。搾汁率、ドサージュ、亜硫酸使用規定も定められています。また、瓶内2次醗酵で、生産者元詰の場合はヴィンツァーゼクト(Winzersekt)を名乗ることができます。
スティルワインと同様にVDPが認証するゼクトも存在します。自家栽培、手収穫、全房圧搾と手間暇をかけます。そして、ノン・ヴィンテージで15か月の澱熟成。ヴィンテージは24か月。更に、VDPプレステージは36か月の澱熟成期間が課されていて、畑名をラベル表記することも可能です。明らかにシャンパーニュを意識していて、当初は、畑の等級によって熟成期間を定める動きもありましたが、シャンパーニュと同様に畑やブドウ品種などのブレンドの妙味を重んじることで纏まったようです。
3. ロゼ・ワイン?知っておきたい変わり種
ロゼ・ワインで注目したいのは希少なロートリング(Rotling)。EUでは一部の例外を除いては赤ワインと白ワインのブレンドでロゼを造るのは許されていません。ドイツのロートリングは、ブレンドでも無くて、混醸。黒ブドウと白ブドウを一緒に圧搾して、発酵させるという醸造方法です。北ローヌの黒ブドウ、シラーにヴィオニエを混醸することをご存じの方は多いのでは無いでしょうか?
見た目は淡いピンク色のロゼ。でも、厳密に言えば、ロートリングはあくまでロートリング。ロゼという名称では販売されません。
産地によって独自の名称で呼ばれることがあり、ピノ・グリとピノ・ノワールを使う、バーデンのバーディッシュ・ロートゴルト(Badisch Rotgold)は、良く知られています。他にも、白ブドウはジルヴァーナー、黒ブドウはポルトギーザーなどを使ったワインも造られています。
黒ブドウのみで造る、通常のロゼの中にも、単一品種を使用した場合、ヴァイスヘルプスト(Weissherbst)と呼ばれて、区別されるものがあります。また、短期間の直接圧搾方式で造られた、殆ど色が付かないロゼは、スパークリングワインでは無くとも、通称、ブラン・ド・ノワールという名前でドイツでは通っています。
4. ドイツワインのまとめ
色々な規則や用語で複雑、難解と思いがちなドイツワイン。いくらか身近に感じられるようになりましたでしょうか?ライン川に沿って、ワイナリー巡りをして頂ければ、素晴らしい景観と爽やかなワインに魅了されること間違いなしです。その楽しさを倍増させる為に、少しだけ知識を頭に入れておきましょう。アカデミー・デュ・ヴァンでも、各種ドイツワインの通学講座を開講して、みなさんをサポートしています。