サン・ジュリアンとは ~美しき中庸!ボルドー「サン・ジュリアン」を徹底解説

シャトー・ラグランジュ

サン・ジュリアンは、言わずと知れたボルドーのコミューン。サントリー資本が入っていることで馴染み深い、シャトー・ラグランジュもある有名産地です。この名称は、13世紀に遡るとも言われますが、歴史にブドウ栽培の産地として登場するのは、17世紀。

サン・ジュリアンのワインは、果実の豊かさとしっかりした骨格に加えてエレガンス。逆に言えば、ポイヤックの力強さやマルゴーの薫り高さには少々及ばないとも言えますし、その双方の良さをバランス良く兼ね備えているとも言われます。今回は、この産地を深堀り。あわせてこちらの記事にも目を通しておくと理解が深まりますよ。

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【目次】
1. 2大コミューンに挟まれた産地 サン・ジュリアン
2. 格付け2級。サン・ジュリアンのレオヴィル3兄弟
 ● レオヴィル・ラス・カーズ
 ● レオヴィル・バルトン
 ● レオヴィル・ポワフェレ
3. シャトー・オーナーはコミューンを超えて
4. ロアルド・ダールと格付け4級の面々
 ● ブラネール・デュクリュ
 ● ベイシュヴェル
 ● タルボ
 ● サン・ピエール
5. フランスの伝統と日本の誇り
6. サン・ジュリアンのまとめ


1. 2大コミューンに挟まれた産地 サン・ジュリアン

アペラシオンの及ぶ範囲

サン・ジュリアンのシャトーを一つ一つ丁寧に見て行くと、パワフルで骨格ががっしりしたポイヤック寄りのものや、エレガントで洗練されたマルゴー寄りのワインも見つかります。

若いうちは骨格が強く、熟成を待って本来の味わいを発揮するクラシックなワインもあれば、早いうちからも楽しめるワインも有るのです。

それもその筈、サン・ジュリアンのアペラシオンのワインを生む、サン・ジュリアン=ベイシュヴェル村は、お隣のアペラシオン、ポイヤックに北部で隣接。間には、ジュイヤック川が流れています。そして、南にはマルゴー村。

マルゴー村との間にある、キュサック・フォール・メドック村。そして、西側では、サン・ローラン・メドック村に接しています。アペラシオンとしては、これらの周辺コミューンの一部の畑から造ったワインに、サン・ジュリアンの名称を掲げられます。例えば、南部に立地している、シャトー・ベイシュヴェルシャトー・ブラネール・デュクリュなどが、キュサック・フォール・メドック村に畑を保有しています。

勿論、周辺コミューンの大半のワインは、広域オー・メドック名になってしまいます。ですから、キュサック・フォール・メドック村では、近年、サン・ジュリアンのアペラシオン名を要求し続けた生産者も存在しましたが、却下されました。

一方、サン・ローラン・メドック村では、オー・メドックとして、4級及び5級のメドック格付けのワインが認められています。

気になる土壌は?

ボルドー国立農業技術大学校が、ボルドー両岸の優良シャトーの土壌とワインの品質や収量との関係を研究しました。畑の全体の半分は、沖積層に砂利質が堆積した土壌でした。

深い崩積土壌や酸性土壌などでは品質が低く、砂利質や砂質の土壌の畑は品質が高かったと報告されています。

台木では、根が土中に細く浅く張り、適度に肥沃で保水性のある土壌と相性が良い、リパリア・グロワール・ド・モンペリエが多く使われています。加えて、420Aや3309Cが高品質ワインを造るブドウ樹の台木として大半の畑で取り入れられています。

サン・ジュリアンでは、砂利質、砂質、粘土質、石灰質などが混在した土壌が見られます。北部、そして川岸沿いは、比較的砂利質が優勢。南部および内陸部は、砂利は目が細かくなり砂質も増えてきます。ポイヤックほどではないにしても、全般的に、深い砂利質土壌に恵まれているコミューンです。

E. Cowez – stock.adobe.com

メドック・ワインルートとも、シャトー・ルートとも呼ばれる道路D2。ここからジロンド川に向かっては、緩やかな斜面に畑が美しい景観を形作ります。

ですが、標高は、せいぜい20メートル強までで平坦な産地。良いワインは、急斜面の高い標高から生まれるという伝説はこの地とは無縁です。栽培環境を評価する際には、気候(温度、降雨量、日照・日射角など)や土壌(水はけの良しあし、保熱など)全体を見渡す必要があります。

栽培面積と格付けシャトー

サン・ジュリアンの栽培面積は900ヘクタール強。メドック全体の6パーセントにすぎません。ポイヤック、マルゴー、サン・テステフと言うメドックの有名なコミューンの中では最小。アペラシオンとしては、他のメドックコミューンと同様、赤ワインのみが認められています。白ワインを造っても、広域アペラシオンの扱いになってしまいます。

品種は、カベルネ・ソーヴィニョンの栽培面積が最大で、6割以上。次にメルロが3割弱。そして、カベルネ・フランとプティ・ヴェルドが3パーセント程度です。

格付1級はないものの、19のシャトーの内、11がグラン・クリュと祝福された産地。5つの2級、2つの3級、4つの4級という構成です。畑の8割以上が、グラン・クリュに属する、素晴らしいシャトーが密集しているコミューンになります。グラン・クリュで最大面積を有するのは、ラグランジュの約120ヘクタール。

逆に、メドック格付けには含まれていないけれど、秀逸なシャトーに与えられるクリュ・ブルジョワ格付けは、サン・ジュリアンのシャトーには与えられていません。

2. 格付2級、サン・ジュリアンのレオヴィル3兄弟

現在では、3つのシャトーに分かれているレオヴィルですが、元は一つ。17世紀に、ボルドー議会の議員を務めたジャン・ド・モアティエが所有していました。当時の名称は、モン・モアティエ。

その後、かつてのサントンジュ県レオヴィル村の貴族、アレクサンドル・ド・ガスクによって、レオヴィルに改名。18世紀には120ヘクタールという当時最大面積を誇る畑に成長しました。

そして、レオヴィルは、幾多の相続の歴史とフランス革命を経て、1826年以降、3分割されていきます。アレクサンドル・ド・ガスクの系譜を引き継ぐのは、ラス・カーズ家。その畑から、先ずは、レオヴィル・バルトンが生まれ、その後、レオヴィル・ラス・カーズレオヴィル・ポワフェレへと生まれ変わります。

レオヴィル・ラス・カーズ

3兄弟の中でも、サン・ジュリアン全体を考えても、もっとも評価が高いのは、レオヴィル・ラス・カーズでしょう。スーパーセカンドワインとして、1級シャトーにも匹敵すると言われます。19世紀末からディロン家が所有。

北のポイヤックの格付け1級シャトー・ラトゥールとは、ジュリヤック川が隔てるのみ。川に近い南東向きの、深い砂利質土壌では、カベルネ・ソーヴィニョンを、斜面の粘土質砂質土壌では、メルロを栽培します。

摘房を積極的に取り入れ、新樽比率も8割から9割と高く、贅沢な造りです。

コンサルタントは、エリック・ボワスノが務めています。アルコール発酵とマロラクティック発酵を並行して行うコイノキュレーションの採用には積極的。一方、微量酸素を吹き込み、色素やタンニンの安定を促すミクロ・オキシジェナシオンはあまり後押ししていません。

セカンドワインか異なる個性か

セカンドワインは、ル・プティ・リオン・デュ・マルキ・ド・ラス・カーズで、若木を使ったワインを造ります。

他方、クロ・デュ・マルキは、異なった区画で育つブドウから造ったワイン。そして、このワインのセカンドラベルが、ラ・プティット・マルキーズとなります。クロ・デュ・マルキは、元はトップキュヴェにするには品質が足らないものも、加えられていたとされています。しかし、2007年にル・プティ・リオン・デュ・マルキ・ド・ラス・カーズを新たにリリースすることによって、異なる個性を持ったワインとして完全独立。

こうした考え方は、ボルドーの他の産地でも広がっており、他のコミューンで有名なのは、例えばマルゴーの格付3級パルメ。セカンドワインではなく、異なったスタイルという位置づけとしてリリース。しなやかでタンニンも柔らかい飲みやすいスタイルのアルテル・エゴ・ド・パルメを販売しています。

その実、セカンドワインは過去に存在しました。1997年に販売中止したラ・レゼルヴ・デュ・ジェネラルです。このワインは、バルクワインとして卸すことに切り替えました。ですから、アルテル・エゴ・ド・パルメは、新しいコンセプトで、パルメを造っていた区画を活用しているというわけです。

セカンドワイン、あるいはサードワインと様々なワインを造ることは良い点も悪い点もあるかもしれません。消費者が、低廉な価格でシャトーの味わいの片鱗を試すことができて、需要のすそ野は広がります。シャトーとしては、売り上げ向上やブランドの浸透が望めます。また、トップキュヴェの高品質化、高額化のメリット。勿論、バルクとして販売するよりも利益が上がります。

格付シャトーが土地を拡張している中では良い戦略です。販売チャンネルも、限られたレストランや、数少ないインポーターに任せることで、ブランドの安売りを避けることも可能。一方で、消費者の視点からは、同等の価格を支払うのであれば、クリュ・ブルジョワで品質の高いブドウを使っているワインを選ぶ方が賢いという見方もできるかもしれません。

アン・プリムールの課題

ラ・プラス・ド・ボルドーの中核を占める、アン・プリムール。
2023年の最新ヴィンテージのレオヴィル・ラス・カーズは、弱含みの経済状況に影響を受けて、前年比4割減の価格でリリースされました。

このアン・プリムールは、主として4月に実施され、日程が決められてしまいます。その為、本来は、新樽を余り使わないようなワインも新樽比率を上げて、早くワインを樽に入れてなじませるという調整が行われることも。こうした調整がうまくいかないと批評家のスコアが伸び悩むという問題も出てきます。

そもそも、青田買いで本当に何年も先のワインの味わい、熟成状況が占えるのか、疑問の声が専門家からも出ています。シャトー・ラトゥールがアン・プリムールに参加しなくなったのも有名な話。

レオヴィル・バルトン

レオヴィル・バルトンはワイン商から身を起こしたバルトン家の所有。コンサルタントは、同じくエリック・ボワスノです。

アイルランドから18世紀にフランスに来たトーマス・バートンが始祖です。18世紀半ばにボルドーに乗り込みました。そして、孫にあたるヒュー・バートンが、1821年にまずは格付3級のランゴア・バルトンを購入。その後、レオヴィルの区画を1826年に手に入れました。順風満帆で苦労知らずだったわけではなく、フランス革命の中で、逮捕、投獄の憂き目にも遭っています。

ワイナリーでは、ほとんど摘房をしない代わりに、剪定で収量を抑えています。カバークロップを使い、畑の半分ほどはオーガニック栽培を実施。醸造では、コイノキュレーションを取り入れています。こちらは、新樽比率は5~6割程度で、ラス・カーズよりは控えめ。

コイノキュレーション

コイノキュレーションは、早期にマロラクティック発酵を完了できますから、時間が節約できますし、微生物リスクを低減可能。クリームやバターなどのマロラクティック発酵から発生する香りが際立たなくなり、果実中心の香味が向上するとされています。勿論、良いことづくめではありません。きちんと管理しないと、酵母と糖分の取り合いをしてしまいますし、酵母が発生させる、二酸化硫黄で乳酸菌の活動が阻害される可能性もあります。

ランゴア・バルトンはレオヴィル・バルトンにとっても肝です。レオヴィル・バルトンの購入範囲が、醸造設備を含まなかったので、ランゴア・バルトンで一緒に醸造。それが今日まで続いています。醸造手法は、どちらも同じで、違いは、土壌と日照、いわゆるテロワールの違いと説明されています。

ランゴア・バルトンは、畑が、北西向きなので、レオヴィル・バルトンと比べるといくらか軽いワインになると言われています。

レオヴィル・ポワフェレ

レオヴィル・ポワフェレは、キュヴェリエ家が1920年代から所有しています。1979年から長らく指揮していたのは、ディディエ・キュヴェリエ。土壌の調査、改植や栽培面積の拡大などに力を尽くしました。

2018年のヴィンテージからは、サラ・ルコント・キュヴェリエに、バトンが渡りました。

右岸で圧倒的な存在感を確立したミッシェル・ローランが、サン・ジュリアンでは珍しくコンサルタントを務めます。以前には、醸造コンサルタントの元祖エミール・ぺイノーやエリック・ボワスノの父親ジャック・ボワスノがコンサルタントに携わっていたこともありました。収量は、ヘクタール当たり、20ヘクトリットルから30ヘクトリットルと抑えています。

収穫時期は遅く、ミッシェル・ローランの思想と合致。新樽使用率は、8割程度で18~20か月の熟成。メルロ比率も高くて、豊満と言われます。

キュヴェリエ家とミッシェル・ローランの蜜月ぶりは、アルゼンチンのウコ・ヴァレーでも花開きました。マルベックを中核に据えた、キュヴェリエ・ロス・アンデスです。

レオヴィル・ポワフェレでは、低温浸漬も採用し、マロラクティック発酵もオークの新樽で行います。樽でのマロラクティック発酵は、ステンレスタンクで行った場合よりも、ワインが柔らかく、豊満になり、収斂性が控えめになると言われています。

セカンドワインのパヴィヨン・ド・レオヴィル・ポワフェレの他に、別区画のブドウから造る、ムーラン・リッシュがあります。こちらの別系統のキュヴェにも、セカンドワインがあって、エム・ド・ムーラン・リッシュという名称でリリースされています。

3. シャトー・オーナーはコミューンを超えて

シャトー・デュクリュ・ボーカイユ

同じく2級のデュクリュ・ボーカイユは、ネゴシアンのボリー家が1942年に手に入れました。生産量を、半分近く落として品質を上げて評価が大きく上がりました。

このシャトーを2003年に受け継いだ、3代目のブルーノ・ボリー。1956年生まれですが、若い時分に、ニューヨークで、ワイン商のシシェルで働いたり、アペリティフワインのリレを買収したりと、帝王学を学びました。

父親の、ジャン・ウジェーヌ・ボリーはエミール・ぺイノーをコンサルタントとして引き入れて、1950年代半ばから、早めの収穫と選果、温度制御を取り入れました。ヘクタール当たり1万本の高密植。台木はリパリア・グロワール・ド・モンペリエや3309Cを使っています。

畑の一部はキュサック・フォール・メドック村に入りますが、サン・ジュリアンのアペラシオンを名乗ることを許されています。

このシャトーは、19世紀末の、ボルドー液の開発に深くかかわっています。当時のオーナーのナサニエル・ジョンストンが、マルゴーの5級格付けドーザックも所有していたため、両方の畑で起きていた、ベト病に効用があった薬剤の特定が円滑に行われたのです。

また、ブルーノ・ボリーと兄弟の、フランソワ・グザヴィエ・ボリーは、ポイヤックのシャトー・グラン・ピュイ・ラコストを所有しています。かように、一つの家系が様々なシャトーに跨って、有機的にボルドーのワイン産業を牽引してきたのです。

4. ロアルド・ダールと格付4級の面々

ブラインド・テイスティング好きには、あまりにも有名なロアルド・ダールの小説『味』。主人公が、サン・ジュリアンの格付4級から、シャトー・ベイシュヴェル、シャトー・タルボ、ブラネール・デュクリュへと絞り込みます。この3つのシャトーを中心に格付4級を見て行きましょう。

ブラネール・デュクリュ

ブラネール・デュクリュは、砂利や小石などのガロンヌ川の堆積物から成る、水はけの良い土壌に恵まれています。畑は60ヘクタールの内、カベルネ・ソーヴィニョンが7割弱で、3割程度がメルロ。残り数パーセントで夫々、カベルネ・フランとプティ・ヴェルドが栽培されています。

マーサルセレクションを行い、自社で苗木も育てています。台木は、101-14、3309C、リパリア・グロワール・ド・モンペリエを使います。除草は、土壌を耕すか、カバークロップを採用するかを適宜、判断。

このシャトーは、1680年までは、シャトー・ベイシュヴェルの一部でした。その後の幾多の歴史的変遷を超えて、マロトー家が1988年に、このシャトーを入手し、大規模な投資をして、品質は大幅に改善したと言われます。

一役買ったのが、若い時分に、このシャトーでワイン造りの才能を開花させた、フィリップ・ダリュアン。その後、ポイヤックの格付1級ムートン・ロートシルトの責任者に出世しました。

ロアルド・ダールの物語に出てきた、1934年のヴィンテージとは、だいぶ違った味わいになっていることでしょう。

そして、このワイナリーはバルクではワインを卸しません。

バルクワイン

バルクワインは、シャトーが直接或いは、協同組合が纏めてシシェルや、ジネステ、コルディエ・エクセル等のネゴシアンへ販売します。こうした大手ネゴシアンは、シャトーも保有しつつ、世界各国で営業ネットワークを有し、いまだ強い存在感があります。

ですから、かなり安い購入価格を提示する場合も多く、直近では、合理的な価格を巡って裁判にまで発展したケースもありました。ワインボトル一本当たり、210円辺りが最低購入価格という線が出てきています。

バルクワインは、ボルドーに限ったことではありません。ワイナリーとしては、瓶詰費用や、販売管理費などのコストが抑えられ、大量のワインが捌けます。一方、極めて安い価格で買いたたかれることも有るので、自社瓶詰へと舵取りし直すことも。

ボルドーでは、2023年で、4千万ボトルという巨大な過剰生産が問題化。3分の1の生産者が赤字に陥っていると言われます。バルクに流して処理したくもなります。政府とボルドー委員会も、抜根を進める為に、90億円を超えるほどの補助金を供出。切羽詰まった状態になっています。

ベイシュヴェル

ベイシュヴェルは、実は、日本にもなじみ深いシャトー。一時期、フランスのGMS保険の傘下に入った後に、1989年に4割の資本をサントリーが取得。今では、フランスの大手ワイン複合企業のカステルと合弁で、同社を経営しています。

ベイシュヴェルが保有する、キュサック・フォール・メドック村の畑のブドウは、セカンドワインやサードに使われています。オーガニック栽培も3分の1ほど取り入れています。光学式の選果機を導入。瓶詰までは、ラッキング、つまり別の容器に移し替えての澱引きはしない、ワインにやさしい醸造をしています。

ここで、厳しい品質管理、設備刷新など、ワイン造りを任されている、フィリップ・ブランは、なんとメドック・マラソンの立役者の一人。走行ルートを計画するなどの力の入れようです。

メドック・マラソンでは、シャトー同士の対抗戦もあります。最近では、ベイシュヴェルは振るわないものの、サン・ジュリアンでは、2級のグリュオ・ラローズが、7位と健闘しています。

ベイシュヴェルにもセカンドワインがあって、アミラル・ド・ベイシュヴェルという名前。この2つを試しに2018年ヴィンテージで比べてみると、アルコール度数、アントシアニン、タンニン量が共にトップキュヴェの方が、高いという結果が出ています。

タルボ

シャトー・タルボは、大手ネゴシアンの一角、コルディエ家の所有。第一次世界大戦後の1910年代後半に潤沢な資金を活用して、買収します。標高は、海抜23メートルですが、これでもメドックでは一番高い部類なのです。

シャトー名は、イギリス貴族で、15世紀に軍人として活躍した、ジョン・タルボットの名前に因んでいます。このジョン・タルボットが財宝をシャトーに隠したという伝説がある一方で、ワイナリーの運営はとても科学的。

ジェノディクス・システムという装置で、特定の音波によって、ブドウ樹の代謝を高めて、耐病性を改善するといった試みが行われています。

また、コンサルタントも、畑と醸造はステファン・ドゥルノンクール(ただし、2023年の収穫を最後に一線を退き、共に働いてきた仲間たちに顧客を引き渡す予定だと、同年の夏に報道されました)を、ブレンド作業は、エリック・ボワスノと使い分けています。

白ワインは1945年と早い段階から造っていて、ソーヴィニョン・ブラン主体で、セミヨンとのブレンドのカイユ・ブランが知られています。

コルディエ家は、タルボを買収したのと時同じくして、サン・ジュリアン格付け2級のグリュオ・ラローズも手に入れました。でも、その後90年代には次々と所有者が交代。今では、大手ネゴシアンのジネステを傘下に置くタイヤン・グループのジャン・メルローが所有しています。

コルディエ家は、19世紀初頭のオークションで2つに分割されてしまったグリュオ・ラローズを統合したという貢献をしました。ワインのラベルには、「王のワイン、ワインの王」と記されていて、その当時のこのシャトーの高い評価を思い起こさせます。

サン・ピエール

このシャトーは、ロアルド・ダールの小説には登場しませんが、注目すべき点を有しています。

マルタン家が所有。祖父をグリュオ・ラローズの醸造責任者に持つアンリ・マルタンが、購入。父親のアルフレッドが、樽職人だったので、その樽の保管場所が必要だったという経緯も。CIVB(ボルドーワイン委員会)の会長職も務め、シャトー・ラトゥールの責任者も歴任したボルドーの著名人です。

因みに、CIVBは、2022年から大手ネゴシアン・シシェルのアラン・シシェルが会長職。ネゴシアンと言っても、サン・ジュリアンのシャトーを優に超える200ヘクタールもの自社畑を有する企業です。

一方でアンリ・マルタンが、少しずつ、ベイシュヴェルなどのグラン・クリュの畑を集めて行って立ち上げたのが、シャトー・グロリア。実質、格付けの実力を持つシャトー。歴史は20世紀半ばからと浅くは有りますが、樹齢は平均45年程度と凝縮したワインが楽しめそうです。

新しいワイナリーの出現は、格付けシャトーの栽培面積占有率が高まるサン・ジュリアンを活性化する意味で、喜ばしいと言えます。

マルタン家は、キュサック・フォール・メドック村に、ベル・エア・グロリアも有しています。こちらは、クリュ・ブルジョワ・スペリュ―ルに格付けられています。

5. フランスの伝統と日本の誇り

格付け3級ラグランジュでは、1983年にサントリーが経営権を取ってからの莫大な投資が報われました。前所有者のセンドーヤ家の時代には、十分なケアがされなかった畑が再生。メルロからカベルネ・ソーヴィニョンへと栽培の比重が移りました。若木を使ったセカンドワインのレ・フィエフ・ド・ラグランジュも素晴らしい味わいと評価を得ています。

試験栽培区画では、マルベック、プティ・ヴェルド、カルメネーレ等を植えて、過去20年程度の降雨量の推移等の気候変動の観察。70種類ほどに細かく分類した土壌で、きめ細やかな区画管理をしています。

醸造温度は、28℃を超えず、繊細さと果実味を重視。コイノキュレーションはコンピューター制御の醸造管理を取り入れています。

ここでも、エリック・ボワスノがコンサルタント。300種類のブレンドを9時間掛けて行い、ブドウ品種の割合を決めています。

新樽を5~6割使う、フレンチオークの樽での熟成に混じって、アンフォラの活用も。ボルドーでは、ポイヤックのスーパー5級のシャトー・ポンテ・カネでの大々的な採用など、アンフォラが広まる傾向です。

清澄は、大半のボルドーのシャトーと同様で、卵白を使用します。アルブミンとも呼ばれますが、粗いタンニンを除去して赤ワインに柔らかを出します。ボディが厚くある程度熟成を経たワインに向くとされています。ただ、動物性のタンパク質で有るため、最近のヴィーガンブームを踏まえて、代替品の採用も検討しているシャトーもあります。

6. サン・ジュリアンのまとめ

サン・ジュリアンを、代表的なシャトーにも目を向けながら、眺めてみましたが如何だったでしょうか。経営者が変わると共にワイン造りが変わるシャトーも有ります。また、一つの有力な家系が複数のシャトーを経営して、シナジーを創出する場合がある事も知りました。

また、ワイン・コンサルタントの存在の重要性や販売チャンネルの独自の発展と課題も学びました。

ボルドーは、ワイン産地のいろはの「い」。でも、途方もなくその奥行きは深く広いものがあります。アカデミー・デュ・ヴァンでは、Step-I、II含めて多数の講座を準備して皆さんのお越しをお待ちしています。

シャトー・ラグランジュ

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