いま熱いチリワイン!~プレミアムワインを生み出す生産者たちの挑戦

「今年の冬は雨が多かったんだよ。おかげで、緑がとても美しいでしょう。」
冬から春にかけて降雨が多いと、生産者たちの顔には安堵の表情が広がります。そう、今チリでは深刻な水不足が続いているのです。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 深刻な水のモンダイ
2. カリカタに夢中
3. スマート農業でBe Smart!
4. 南を目指せ!
5. チリワインの未来


1. 深刻な水のモンダイ

チリ旅行をすると、「あれ、シャワーも、トイレも水量少なすぎ!」と慌てるかもしれません。昨年、ヴァルパライソで発生した火事も、水不足で消火活動が難航し、世界遺産の一部が修復不可能に。チリでは気候変動が進んでおり、それに伴う水不足が深刻化しています。

チリでは取水権(水を引き出す権利)が個別に分配されており、水が私有財産のように取引されているのです。この取水権により、大規模な農事業者や企業が水を独占する一方で、小規模な農家や地域社会が十分な水を確保できないという問題が生じ、社会的な問題となっています。

ブドウ樹は基本的に乾いたところが好きです。ジメジメしているとカビが生えてしまうからです。だからといって、まったく水がない場所では育つことができません。理由はシンプル。光合成は水がないと起こらないからです。今、チリでは水不足と気候変動に取り組むための栽培技術が取り入れられているのです。

2. カリカタに夢中

ミゲール・トーレスの醸造家エドゥアルド・ホルダン氏。カリカタに入って土壌分析をする

チリの畑を歩いていると、ところどころに2メートル近い穴が開いています。この穴、「カリカタ」と呼ばれ、今、チリの生産者たちがしきりに掘っているものです。何のために?理由は簡単、土壌調査のため。

土壌構成が明らかになり、水はけの良さがわかれば、灌漑用水を最小化することができます。もちろん、品質管理という観点でも大切です。水を与え過ぎると、水っぽいブドウができてしまい、ワインの品質を下げてしまからです。

さらには土壌のpHを調べたり、窒素が不足していれば畝間にクローバーを植えたりと土壌改善にも役立てたりしています。今、チリの生産者たちは「土の探検家」となって、品質の高いブドウを手に入れるために日々奮闘しているのです。

根をナイフで削って、白ければ健康であることが確認できる。水不足状態だと根は赤くなる

3. スマート農業でBe Smart!

スマート農業もチリではすっかりおなじみになってきました。たとえば、農業のロボットたちが土に電気を流して、その電気がスムーズに走るかどうかをチェックします。これにより、土の中にどれだけ水分があるかがわかるのです。この技術により、灌漑用水を無駄にすることなく、効率よく使うことができます。

さらに、どこに水分が多いかがわかると、その場所がブドウにとって育ちやすい場所かどうかもわかります。水分たっぷりのところには「カバークロップ」と呼ばれる植物を植えて、逆に水分が少ないところには畝間の植物を取り除くなど、土の状況に合わせた栽培ができるのです。

バロンフィリップ・ロスチャイルドの醸造家ゴンサロ・カストロさん。電気の流れやすい場所とそうでない場所を色分けしている

4. 南を目指せ!

深刻な水不足の解決策として、トレンドとなっているのが、ブドウ畑を南に開拓することです。主要産地セントラル・ヴァレーは温暖な地中海性気候が中心。たとえば、セントラル・ヴァレーの代表的なワイン産地マイポ・ヴァレーは年間降雨量約400~500㎜です。

一方、南部に行けば行くほど、温暖湿潤気候が顕著になり、降雨量が増えます。たとえば、南部のオソルノの年間降雨量は約1300㎜。確かに、車を北から南に走らせていくと、どんどん降雨量が高くなり、緑が濃くなっていくのがはっきりとわかります。

オソルノ山

最近、セントラル・ヴァレーに本拠を構える大手生産者でもマウレ、イタタ、ビオビオ、オソルノといった南部に次々と畑を開拓し始めているのも頷けます。

しかし、この南部の開拓にも課題がないわけではありません。新たな土地でのブドウ栽培には、新たな土壌調査も必要になります。特に、南部は気温が低いため、ブドウが十分に成熟せず、ワインのアルコールが11.5度を超えないことが問題となっています。なぜなら、チリの規定ではアルコール度数11.5度未満のものはワインと名乗れないのですから。

ミゲール・トーレス社はオソルノに進出し、ソーヴィニヨン・ブランを栽培している

5. チリワインの未来

南部開拓が完全な解決策でないとしても、これからのチリワインがどのように成長し、変化していくのか期待が高まります。さまざまな問題に立ち向かいながらも、高品質のワインを生み出すために努力を惜しまないチリの生産者たち。その姿はまさに「挑戦者」、これからもチリワインから目が離せません。

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