ボルドーワイン よくわかる! たった8つの方程式

月の都ボルドー。飛行機でメリニャック空港に飛ぶと上空からドルドーニュ川とガロンヌ川が合流し て、ジロンド川となる様が見えます。市内中心には新古典主義の壮麗な建築、一歩裏通りに入るとしっとりとした街並みが佇んでいます。ここから、緑に囲まれたボルドーの主要シャトーへは目と鼻の先です。胸がわくわくしてきますね。

ワイン産地としてのボルドーは数百ページの本が書ける程の情報量があります。今回は、絞って、絞って、基本8項目の要点をご紹介します。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】

  1. まずは格付けを頭にいれよう
    ①右岸と左岸
    ②セカンド・ワインとスーパーセカンド
  2. 主要ブドウ品種 押さえておくのは4つにしちゃえ
  3. テロワール~代表的ワインと一緒におぼえよう
  4. 歴史~イギリスとなんの関係があるの?
  5. ボルドーをめぐる登場人物たち
  6. ワイン造り~流行のうつりかわり
  7. 流通と業界構造~生産者直売はできないの?
  8. 飲んでみたい当たり年のヴィンテージ
  9. あとがき

ボルドーワインの日本向け輸出は2020年数量ベースで、世界第5位。欧州連合のワインに対する関税も撤廃になって、益々日本とボルドーの取引は活発になっています。
さぁ、それではボルドーへの旅に出発です。大西洋に向かって川が流れ込みますので、川下に向かって左側が左岸、右側が右岸です。方向を見失わずに進んでいきましょう。

1. まずは格付けを頭にいれよう

① 左岸と右岸

1855年の格付け(左岸)

先ずは、1855 年のメドックとソーテルヌの格付けをざっくり頭に入れましょう。メドックの方はペサック・レオニャンの1シャトー(オーブリオン)を含む61シャトーの赤ワインです。ソーテルヌはソーテルヌとバルサックのアペラシオンの27シャトーの甘口白ワインです。パリ万博への出展に備えて、ナポレオン3世の指示で作成されたものです。

61シャトーは最上位の1級から5級までに主として市場価格を元に区分されました。1973 年にムートン・ロートシルトが1級に 昇格したことを除けば、1855 年の格付けは制定 後 150 年以上、基本的に変わっていません。1級には他に、ラフィット・ロートシルトラトゥールとマルゴーがあり、上述したオーブリオンムートン・ロートシルトの合計5つのシャトーがボルドーのメドック地区のトップの座に君臨しているのです。

甘口白ワインではシャトー・デュケムが格付け特1級、その他バルサックやソーテルヌのワインが1級、2級に区分されました。この特1級という称号を持つのはデュケムだけですから、デュケム関係者や愛好家はこのワインこそ左岸ナンバー1と考えているかも知れないですね。

1855 年当時と現在のワインとを 比べると、収量やアルコール度数、色合いや熟成の可能性などは大きく異なると考えられています。また、シャトーに付けられた格付けですので所有者が変わることによる品質やスタイルへの影響も気になるところですね。

ですので、この1855年の格付けに就いては様々な意見がありますが、世界的に高い知名度があり、ワインのブランド・イメージの確立の手法として大変な効果が有った事は間違いありません。

ボルドーの輸出相手国ナンバー1の中国には寧夏自治区に賀蘭山という有名産地があります。この産地ではボルドーに倣って、カベルネ・ソーヴィニョンとメルロを中心としたボルドー・ブレンドを生産。更には、このメドックの格付けをイメージした5段階の等級のアぺレーションまで制定しています。

サンテミリオン(右岸)

この格付けも赤ワインを対象としたもので、1955年が第1回の格付けです。サンテミリオン・グラン・クリュAOCの中で上位の格付けに向かってグラン・クリュ・クラッセ、プレミア・グラン・クリュ・クラッセ(B)、プレミア・グランド・クラッセ(A)となります。実はグラン・クリュAOCはサンテミリオンAOCワインのアぺレーションの2倍を超える栽培面積を有する広域のAOCですから、1つ上の格付けであるグラン・クリュ・クラッセ以上のワインとはありがたみが違います。「クラッセ」の有る無しに気をつけましょう。

この格付けは当初より定期的な見直しを前提にスタートしました。しかし、2006年は格下げされたシャトーから訴訟を受けるに至ります。他方、2012年にはアンジェリスとパヴィがグラン・クラッセ(A)に昇格して、シュヴァル・ブランとオーゾンヌと肩を並べます。

最近、話題になっているのは、シュヴァル・ブランとオーゾンヌが階層トップにありながら、来年2022年の格付け見直しには参加しないと宣言したことです。マーケッティング手法やワインツーリズムなどワインそのもののとは異なる部分が評価され、ワインの長期熟成可能性や味わいそのものへの評価が薄まっているという事が背景に有ります。

グラーヴ(左岸)

1953年(1959年改訂)のグラーヴの格付けは階級分けされていません。また、赤ワインだけで無く9つの白ワインも認められています。全てのシャトーは北部のペサック・レオニャン地区です。

この産地では、ボルドー最高峰の白ワインが造られていて赤ワインよりも高価格で取引されるものがあります。特にメドック格付け1級のオーブリオンの白ワイン、オーブリオン・ブランは高額です。年間数百ケースという非常に少ない生産規模で格付けさえも辞退していますので、手に入ればということになりますが。

グラーヴの高級白ワインはブルゴーニュ程までは、知名度がありませんし、メドックの赤ワインのように1級から5級の様な階級分けもありません。そのため、白ワインだけの格付けができてくれるとありがたいと思う生産者もいます。

クリュ・ブルジョワ(左岸)

1855年の格付けに漏れた優良シャ トーを、1932 年に格付けした のが、クリュ・ブルジョワです。 2003 年の見直しでは格付け シャトー数が 247となりましたが、選定プロセスの 公正さが疑問視されて、 2007 年に無効になりま す。その後の紆余曲折を経て、2020年から3階層の格付け制度適用となりました。5年間に渡るヴィンテージのブラインド・ティスティングによる官能検査が課されます。2020年に認められたものは上位から順にクリュ・ブルジョワ・エクセプショ ネル(14シャトー)、クリュ・ブル ジョワ・シュペリュール(56シャ トー)、クリュ・ブルジョワ(179シャ トー)となります。2010年以降は単一ヴィンテージへの格付けでしたが、5年間有効となり生産者も消費者も中長期的な視点をもってこの格付けを捉えられる様になりました。
このクラスのワインは価格的にもお手頃でコスパが良いです。

その他

他にもクリュ・アルティザンという団体があります。歴史は長く、樽職人や、鍛冶工などが所有していた小規模なワイナリーですが、1989年に中小規模で実際にワイン造りに携わり、自社で元詰めをする生産者で組合を立ち上げて、ボトルのラベルにも団体名の記載が許されています。

② セカンド・ワインとスーパーセカンド

セカンド・ワインとスーパーセカンドの違い

土壌が劣ったり、樹齢が若かったりする区画のブドウや天候不順などの理由で品質がワイナリーの格付けされているトップキュヴェ(グラン・ヴァン)の基準に届かない場合があります。こうした時にネゴシアンにバルクで売る以外に、セカンド・ワインのブランドで販売しているシャトーがあります。

例えばオーゾンヌでは、セカンドのシャペル・ド・オーゾンヌもグラン・ヴァンと同様に醸造して、若木と古木を上手く使って、またメルロ比率を高めて独自の個性を与えます。当初はグラン・ヴァンの品質を極める為に始めたセカンド造りも独自の進化を遂げています。

ラフィット・ロートシルトのセカンドはカリュアド・ド・ラフィットです。メルロ比率を高めて若い内から飲みやすいスタイルにしています。加えて、19世紀にラフィットが手に入れた隣の別区画のカリュアド台地の歴史有る畑が起源という「物語」をブランドとして持っています。

一方、スーパーセカンドというのは、格付け1級ではないものの、これに肉薄するワインです。決まった規則が有る訳ではなく業界関係者や愛好家の評判から評価が固まっていきます。メドック2級格付けのシャトー・コス・デストゥルネルやシャトー・レオヴィル・ラス・カーズや、ペサック・レオニャンのオーブリオンの向かいにある、ラ・ミッション・オー・ブリオン。更には、格付3級のシャトーパルメ、格付けは5級ながら高評価が確立してきたポンテ・カネなどが上げられます。

メドック格付けの再評価

こうした評価の変化が起こるのも、1855年の格付けの見直しがほぼ皆無と言っても良い中で、時代と共に、実際のワインの取引価格や品質も変化していることが背景にあります。

影響力が強いワイン評論家でプリュレ・リシーヌのオーナーでもあった、アレクシス・リシーヌは1960年代に格付け見直しの運動をしています。その後のロバート・パーカーの歯に衣着せぬデジタルな点数評価。そして、英国のインターネットのワインの取引プラットフォームであるライヴ・エックスは市場価格をもとに2009年から格付けを独自に発表しています。こうした世の中の動きに背を向けて古式ゆかしき格付けを堅持していくのが果たして良いのかという議論も有る訳です。良いものは変わらないという見方もありますが、最近の若い世代の中には、ボルドー・オキシジェン という団体を立ち上げて、産地のイメージを若返らせ、伝統と現代を結びつけてボルドーを変革させていこうという新しい風も生まれています。

2. 主要ブドウ品種 押さえておくのは4つにしちゃえ

ボルドーの赤ワイン用の最大品種はメルロです。そしてカベルネ・ソーヴィニョンが続き、この2品種で合計9割ほどを占めます。他にはカベルネ・フランやプティ・ヴェルドーが栽培されています。白ブドウ品種では、セミヨンとソーヴィニョン・ブランが拮抗して、やはり合計で9割程度の栽培面積を占めます。ミュスカデル他のブドウも栽培されています。

ワインは8割以上を赤ワインが占めていて、白ワインは10%を割ります。シャトー・ディケムで有名な甘口は全体の1%に過ぎない貴重なワインと言えます。1960~70年代までは白ブドウの方が多く栽培されていたのですが、1980年代迄には圧倒的に黒ブドウが多くなりました。

ボルドー地方のワイン造りでは、赤・白問わず、複数 の品種がブレンドされるのが特徴です。新世界、旧世界問わずその「レシピ」はボルドー・ブレンドと呼ばれて大いに活用されています。

ブレンドされる品種は相互に上手く補完しあっています。赤ワインにおけるカベルネ・ソー ヴィニョンはワインに骨格と長期 熟成能力を、メルロは 果実味とふくよかなボディをカベルネ・フラン は香りの華やかさを、もたらします。

左岸のメドックで はカベルネ・ソーヴィニョンが 中心で、メルロ、カベルネ・フラン、プ ティ・ヴェルドといった補助品種をブレ ンドします。右岸のサンテミリオン、 ポムロール地区では、メルロにカベルネ・ フランが補助的にブレンドされるのが一 般的です。

白ワインにおいては、ソーヴィニョン・ブランが酸のキ レと華やかな香りを、セミヨンが ボディの厚みを出して長期熟成に向き、樽との相性も良いです。辛口ではソーヴィニョン・ブラン中心のブレンド、甘口はセミヨンの割合を多くします。

複数品種のブレンドには、栽培上のリスクを減らす目的もあります。たとえば、芽吹きも収穫も早いメルロと晩熟のカベルネ・ソーヴィニョンの両方を栽培することで天候被害のリスクが分 散されます。特定の品種が被害にあった場 合に、被害の少ない品種のブレンド 比率を高くしてワインの品質を守ろうという訳です。

ボルドー品種で知られていたのですが栽培面積が減って今では新世界の方が有名な、「お嫁入りした」、黒ブドウ品種があります。ひとつはカルメネーレ。チリで有名です。もうひとつのマルベックはアルゼンチンで有名になっています。白ブドウのソーヴィニョン・ブランも、ニュージランドのマールボロが本家フランスのボルドーやロワールを凌ぐような勢いですね。

一方で、ボルドー品種に新しく加わるブドウもあります。地球温暖化への施策としてポルトガルのトゥーリガ・ナショナルやアルヴァリーニョなどの品種の使用が承認されました。栽培面積やブレンドの制限はありますが広域ボルドー、ボルドー・シューペリオールで栽培が認められました。格付けシャトーは否定的なところが多く、ボルドーの伝統を守る為にも新しい品種では無くてカベルネ・フランやプティ・ヴェルドーへの改植を選択すべきだとの声が聞こえます。

3. テロワール~代表的ワインと一緒におぼえよう

ボルドーは北緯約45度に位置します。日本で言えば北海道の稚内の近くになります。でも、南から暖かい海水を運ぶメキシコ湾流のお蔭で温和な海洋性気候。なので、代表品種のメルロやカベルネ・ソーヴィニョンが生育できるのです。ただし、気候変動で一世代前にはなかったイレギュラーな天候が襲って来ています。2000年代後半からは、雹や霜の被害も深刻で熱波も襲い掛かり乾燥が進み、灌漑の規制も緩和されてきています。

左岸

左岸は、低地で砂利の土壌が緩やかにジロンド川に向けて傾斜しています。高級ワインを生産する畑は傾斜地にあり、水はけが良いです。それでも、メドックでは最も高いところで40メーターを超える程度。その昔、この地をオランダ人が干拓をしており、水はけを良好にする為の排水システムも建設しています。この地のテロワールは「人」が随分と貢献したと言えるのでは無いでしょうか。砂利に恵まれた土地は、水はけが良く、ブドウ樹の根が地中深く数メートルまで張り巡らされます。

ハートのマークで有名でヴァレンタインのプレゼントにもよく使われた格付け3級のカロン・セギュールはサンエステフにあります。この土地は粘土質が多く、メルロの栽培比率が増えています。水はけは今一つですが、昨今の乾燥著しい夏を考えるとメルロ栽培には向いた土壌です。

ポーヤックは1級格付けの5シャトーの内3つ、ラフィット・ロートシルト、ラトゥール、ムートン・ロートシルトを有する地区で左岸全体、ボルドー全域でも最も有名と言って良いでしょう。区画により深い砂利質や砂質、石灰質などが現れますが、穏やかな高低差にも恵まれてカベルネ・ソーヴィニョンを栽培するには最適の土地です。

格付け4級のシャトー・ブラネール・デュクリュはロアルド・ダールの小説「味」の緊迫したブラインド・ティスティングの場面で登場するサンジュリアンのシャトーです。砂利質や粘土質、砂質など様々な土壌に恵まれて、ポーヤックとマルゴーの2つの地区に挟まれているので、夫々の特徴をバランス良く持っているとよく言われます。

マルゴーと言えば渡辺淳一の小説「失楽園」に登場するシャトー・マルゴーで日本でも良く知られています。栽培面積がオー・メドック内のコミューナルで最大。1級から5級の全ての格付けにランク・インして、メドック格付け全体の3分の1を占めています。土壌も様々ですが、概して浅くて痩せた土地で粘土質の割合は低めで砂利質が多めです。

グラーヴではその名の通り砂利質で有名で、川沿いは暖かく、内陸は松林のお蔭で涼しいですが、北のペサック・レオニャンはボルドーの市内に近づくに連れて暖かくなります。カベルネ・ソーヴィニョンを成熟させるにはとても良い土壌です。

ソーテルヌとバルサックのテロワールでは土壌よりも川や霧の話をしない訳にはいきません。ガロンヌ川の支流のシロン川は水温が低く秋口に水温が高いガロンヌ川と合流する地域で、霧が発生します。午後には、霧が晴れて陽の光が降り注ぎます。貴腐菌がついてブドウ果皮を貫きますが、午後の太陽光が菌の成長を抑えます。このお蔭で水分が蒸発して、糖分と酸が凝縮して、ハチミツやマーマレード、アプリコットなどの華やかなで凝縮した香りを持った甘口白ワインが生まれます。

右岸

右岸のランドマークとなる世界遺産サンテミリオンの街は石灰岩の丘の上にあります。この丘の周辺と斜面に格付けのシャトーが並びます。この地域は左岸と違い高い所では100メーターくらいの高度になります。
シュヴァル・ブランは、映画「ボトル・ドリーム(邦題)」や「サイドウェイ(放題)」でも登場するこの産地筆頭のシャトーです。産地全体としては粘土質、粘土石灰質などが中心ですが、このシュヴァル・ブランの辺りは砂利質が多く、比較的、晩熟のカベルネ・フランの生育に向いています。

サンテミリオンのおとなりのポムロールには格付けはありませんが、規模は小さくとも、まばゆいばかりの素晴らしい生産者が点在しています。ボルドーの中でも最も低収量な地域であり高品質なメルロを主体としたワインの生産地です。ル・パンもその一つで、中でも特に生産量が少ないため、畑のそばにあるガレージで醸造・熟成され、「ガレージ・ワイン」と呼ばれます。サンテミリオンのヴァランドローもこれに続いて1990年代にブームを巻き起こします。

土壌は、粘土質や砂質、サンテミリオンから地続きの砂利質の土壌もあります。特筆すべきは、ペトリュスの土壌、クラス・ド・フェール。ペトリュスは左右岸を含めたボルドー全域で最も高値で取引され、オーナーのクリスチャン・ムエックスが日本好きな事でも知られていますが、この酸化鉄の混じった粘土質土壌がペトリュスに命を吹き込んでいるのです。

4.歴史~イギリスとなんの関係があるの?

イギリスとの関係とクラレット

ボルドーのワインの流通にはイギリスがとても重要な役割を担います。1152年に後のイギリス王ヘンリー2世とアキテーヌ女公エレアノールが結婚。ボルドーはアキテーヌの領内ですから、14世紀半ばまでボルドーの港、つまり貿易はイギリスの管理下に入るのです。それ以降もイギリスとのワイン貿易を通じた関係は非常に緊密に続いて行きます。

現代でも、英国人がブルゴーニュをバーガンディー、ボルドーのワインをクラレットと呼ぶことがあります。

13世紀には白ワイン中心であった中世の欧州では現在のロゼに近いボルドーのワイン、クレレ (Clairet)が人気になります。醸しは1日程度、どんなに長くても4日だった様です。16世紀までには貿易を担っていた英国ではクラレット(Claret)の名前で知られていました。16世紀に入るとオーブリオンも植栽されて、グラーヴは有名な産地となります。

メドックは水はけが悪い沼地で、重要な産地となるのは、16世紀末から17世紀に入ってアンリ4世の治世でオランダ人エンジニア達が沼地の干拓を始めてからです。この頃になると、色も濃くて高品質なワインがグラーヴやメドックで徐々に造られる様になって、18世紀初頭にはニューフレンチ・クラレット(Claret)として知られる様になります。

現在のボルドーには、れっきとしたAOCクレレ(Clairet)が存在します。ロゼよりも赤ワインに近い濃い色合いです。

18世紀には貴族や政治家などが中心だったメドックやグラーヴの所有者は、その後、銀行家や実業家やネゴシアン達に変わって行きます。

19世紀後半にぺサック・レオニャンに集中していた赤白ワイン用のブドウ畑は南の方にも伸びていきますが、特筆すべき甘口ワインを除けば優れた畑が集中するペサック・レオニャンが1987年に独立したアぺレーションとなります。

1950 年代末以降、ボルドーの高級シャ トーは、ワイン販売の利益を設備投資や畑 への投資に回せるようになり、品質向上の 速度がアップしていきます。セラーでは、 温度管理装置付きのステンレスタンクの導 入がなされ、畑でも区画別の土壌にあった 品種やクローンへの植え替えが進み、現在に至る品質向上に向かう軌道に乗りました。

5. ボルドーをめぐる登場人物たち

ロバート・パーカー

アメリカのワイン評論家のロバート・パーカーは生産者に慮った評価では無く消費者視点での独立した評価と100点満点のスコア制がわかりやすく消費者から広く受け入れられました。1級シャトーのワインでもヴィンテージによっては手厳しい評価をします。一方で、1982年の熟度とタンニンが高く酸が低いヴィンテージの長期熟成力を見抜きワイン批評家のスターダムにのし上がります。ボルドーの生産者は彼の名声に大きな影響を受けて、高スコアを獲得する為のワイン造りをしようとする生産者も出てきます。右岸の今日の隆盛に繋がる 1990 年 代に盛り上がるル・パンやヴァランドローに始まるガレージワインもパーカーは後押しをしています。

ワイン・コンサルタント

20 世紀のワイン造りを変えたボ ルドー地方の偉大な醸造学者 が、ボルドー大学のエミール・ペイノー教授です。収穫や健康な果実の選別、マロラクティック発酵や発酵温度の管 理、衛生管理の徹底など、現 代における赤ワイン醸造技術 に多大なる貢献をしました。生産者にも積極的に助言を行い、醸 造コンサルタントの元祖にもなり ました。シャトー・マルゴーを始めとして1970 ~ 1980 年 代には、100を超えるシャ トーが、ペイノーの指導を受けていました。

ペイノー教授の指導を受けたミシェル・ロランは、右岸で大活躍します。熟度、糖度が高いブドウの収穫に留まらず、新樽を積極的に使います。澱との接触、マロラクティック発酵を小樽で行なう等のスタイルを確立。右岸のパヴィ、アンジェリュスだけでなく、カリフォルニアやイタリアなど海外でも幅広くコンサルタントとして活躍します。

パワーがあって、果実の爆弾と称されることもあり、滋味深さよりも時には過熟な味わいになることもありました。でも大丈夫。ロバート・パーカーなどの影響力のある批評家達から高い評価を受けて時流に乗ります。1976年のパリスの審判で赤白ワイン共にカリフォルニア・ワインが優勝したことも、果実の凝縮感を重視するなど、当時のワイン・スタイルに影響与えたことも背景にはあったと考えられます。

白ワインで高名なのは、ボルドー大学のデュブルデュー教授。研究者としても、そしてコンサルタントとしても、デュケムやシュヴァル・ブランなどの一流ワイナリーに貢献しました。発酵開始前に、ブドウを低温で果皮と果汁を接触させて複雑性を出すスキン・コンタクトを広めました。更に、小樽を使った樽発酵と樽熟成を取り入れて、澱との接触ではトーストの様な香ばしい風味が得られるのです。澱が樽の一部の香り成分を吸収する為、樽の香りがワイン全体に上手く溶け込むとも云われています。定期的な攪拌、バトナージュは、味わいに厚みを持たせると共に、還元臭の発生を防ぎます。

ワイン・コンサルタントの果たすべき役割

こうして外部の醸造コン サルタントが大きな役割を果たしてきました。ワイナリーに醸造責任者はいても、収穫のタイミングやブレンドといった重要な判断をコンサルタントが行ってきたのです。そのため、コンサルタントの影響が強すぎて、シャトーの個性が無くなってしまうのでは無いかという意見もありました。

ワイナリー側に聞くとコンサルタントにワイン造りは任せていない。ニュートラルな第3者的な外部意見を取り入れるだけだという発言もあります。しかし、確かに、ことブレンドになると、コンサルタントの神業の様な技能には高い信頼を寄せているのも事実のようです。

6. ワイン造り~流行のうつりかわり

栽培と醸造

ボルドーの栽培・醸造技術は世界各地に伝播して現代のワイン造りの土台を築いたと言っても過言では無いでしょう。
1990年代にはブドウの収穫時期を遅くしてフェノール類が完熟するのを待つのが一世を風靡しました。
高級ワイン造りでは摘房や除葉、高密植で芽の数を剪定で厳格に管理する手法が取られます。収穫も手摘みで、区画毎に収穫して個別に発酵する手間を惜しみません。

収穫したブドウから、未熟果や腐敗果を取り除くための光学式選果台の導入で自動化も取り入れます。右岸では、低温での発酵前の醸しが良く見られます。発酵温度は新世界と比較すると高め。発酵後の醸しも1週間程度行います。
最近は、一昔前と比べれば、抽出は穏やかになりました。例えばピジャージュひとつ取っても、昔より穏やかに進め、その分回数を増やすという風に変わって来ています。

新樽バリバリのワイン造りも、なりを潜め、古樽の使用や、大樽、アンフォラやコンクリートタンクを使った、樽香を抑えた溌剌としたスタイルのワイン造りへの流れが勢いを増しています。

いわゆる自然派ワインとは対極で清澄を丁寧に行う生産者が多数派です。また、マイクロ・オキシジェネーション技術も用いて、樽熟成の代わりにコンピューター 制御で酸素をワインに注入する生産者も。

最近では、温暖化、異常気象へ適応していくブドウ栽培方法が取り入れられています。遅めの剪定、除葉の制限や台木選定やマサル・セレクションによる乾燥に強いブドウ樹への移行などの手法が取られます。

白ワインでは、樽発酵、樽熟成は用いずに、ステンレスタンクで発酵させ、柑橘系の香りや草木の爽やかさを大切にした早飲みタイプのワイン造りも重要です。アロマティックなソーヴィニョン・ブランの特徴を活かすワインや広域AOCではこうした造り方が主流なのです。

環境への配慮とオーガニック

ボルドーのぶどう畑では2019年で65%以上が有機栽培やビオディナミも含めた、さまざまな 環境認証を取得しています。

有機栽培はボルドー栽培面積全体の10%を超えるまでに増えていて、ビオディナミも1,400haが認証を受けています。病害対策も簡単では無い気候の下、積極的な取り組みを進めていると言えます。

カジュアルワイン

高級格付けワインの生産者は5千を超える生産者の内のたったの5%程度に過ぎません。広域ワインの代表格であるボルドーAOCやボルドー・シューペリオールなどのカジュアルなワインは、チリや南アフリカなどの新世界ワインとの厳しい戦いに晒されています。その為、品質は向上してきていますが必ずしも利益が十分に出ている訳ではありません。ボルドーワイン委員会は2010年からのキャンペーン、「ボルドー・トゥモロウ」や、大量消費国の中国でも「ボルドー100テイストセレクション」と銘打って中低価格帯の商品の認知度向上に力を入れています。

このレベルのワインでは、摘房や樽熟成はコストが高く付きます。新樽の代わりにフレンチオークの木片を入れてタンクで熟成させるなど生産コストを抑えながら消費者ニーズに応えようとしています。

7. 流通と業界構造~生産者直売はできないの?

シャトー とネゴシアン、クルティエの分業による流通システムとプリムールによる販売方式を総称し て、「ラ・プラス・ドゥ・ボルドー」と呼びます。

シャトーは、複数のネゴシアンと取引する ことによって、世界中の市場にワインを 流通させることができます。ネゴシアンは平均15%を、クルティエは、シャトーとネゴシアンとの仲介をする事により一般に 2%の手数料を取ります。

ネゴシアンは、産地を良く理解して、シャトーのワインを保管、自社ブレンドも造り、熟成させ販売を待ちます。クルティエはネゴシアンが必要とするワイン・スタイルを見つけ出し、幅広い人脈を駆使します。その昔は、市内と畑を馬や馬車に乗って行き来して取引の仲介をしてきたのです。

生産者の直接取引も、20~25%程度までに増えています。その一方で、ボルドー以外のフランス産地やカリフォルニア、イタリアと言った海外の生産者もラ・プラス・ドゥ・ボルドーを流通システムとして活用しています。

高級シャトーのワインの多くは、 収穫翌年の春、まだワインが樽に入っている 段階で、プリムールを通して先物取引されます。5000~6000人に及ぶ業界関係者によるティスティングが行われます。生産者からすると早く代金を回収でき、消費者からすると入手困難なワインを確実に手に入れられるというメリットがあると考えられています。

しかし、2000年以降特に格付けワインを中心に投機的な値段が付けられ、それが瓦解した事や、プリムールの段階のワインのティスティング評価で本当に価格が決定されて問題が無いのかと懸念の声が2010年頃から上がりました。ラトゥールは、2012年以降はプレムールには参加しないと表明しています。

8. 飲んでみたい当たり年のヴィンテージ

右岸と左岸で傾向は異なる部分はありますが、赤ワイン全般的に、2010年は夏が暑く乾燥し適度な水分ストレスがブドウ樹に掛かり、日較差で酸も保たれた素晴らしい年でした。また、2009年や2016年もブドウの成熟度が高く酸と果実のバランスも良く長期熟成が見込めます。2005年も負けず劣らず良い年です。

白ワインでは、2014は夏が涼しく溌剌としたワイン、2011も夏が曇りがちで涼しく酸を保った白ワインには良い年になりました。他には2012年や2017年も飲んでみたい年です。

9. あとがき

ボルドーは世界のワインのベンチマークです。格付け、ワイン造りや商売の仕組みも全てが体系だっていて、伝統的なワイン生産地の成功のお手本と言えます。一方で、ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京などの大都市、若い世代が集まるお洒落なバーやレストランを中心に、ブルゴーニュやカリフォルニアを始めとした新世界の生産地のワインにシェアを奪われる場面も出てきています。本当は新しい技術や流れを取り込んで自らを変革しようという試みが常に行われていて目が離せないのです。アカデミー・デュ・ヴァンでもボルドーは、レギュラークラスのSTEP-IからSTEP-IIIでしっかり時間を取ってワインを味わい、知識を吸収します。ぜひ一緒に勉強しましょう。

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