伊東道生の『<頭>で飲むワイン』Vol.106

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○○○○革命

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伊東道生の『<頭>で飲むワイン 』No.106

RVF誌の特集記事の表題です。○○○○部分が、今回のクイズです。

まずこれに関して評価されたワインを挙げます。(番号は便宜上のものです)

19/20点

(1)Philippe Cahtillon, arbois Savagnin Amphore 2017 48€

18/20点

(2)Domaine Andre et Mireille, Tissot, arbois Savagnin Amphore 2018 45€

(3)Camin Larredya, vin de France L’Iranja 2017 42€

(4)Domaine Gauby, IGP Cotes Catalanes Ka Roque 2011 価格未確定

(5)L’Oiseau Rebelle, vin de Frane VVNT 2014 66€

(6)Prieure-Roch, vin de table Le Blanc 2014 60€

17/20点

(7)Matassa, vin de France Alexandria 2018 22€

さて、どういうカテゴリーで選ばれたワインでしょうか。

最初の(1) (2) はJura。セパージュはサヴァニャン。

(3) Camin Larredyaはピレネー山脈麓の南西地区のドメーヌ。セパージュはプティ・マンサン。

(4) Domaine Gaubyはわりと有名ですね。スペイン国境に接するコート・カタラン、AOCルーション南西地区。セパージュはミュスカ。

(5) L’Oiseau Rebelleもピレネー近くで、バニュルス。セパージュはグルナシュ・ブランとグリ。ドイツ人の所有ということでHPのメインがドイツ語。

(6) Prieure-Rochはブルゴーニュ。ヴォーヌ・ロマネ村の南Boncour-le-Boisのシャルドネ。

(7) 最後のMatassaもルーションで、先のDomaine Gaubyの元醸造者で、ゴビーの妹と結婚したトム・ルップなどによるドメーヌ。ミュスカ・ダレクサンドリがセパージュ。

さて答えは? ・・・・

では、ヒント。

(1) は10月末の遅摘みで、(1) (2) ともにアンフォラ壺で5ヶ月マセラシオン。

(3) は2年半ものマセラシオン。ちなみに、ここのL’Iranja 2015はRVFのワイン・ガイドで南西地区初の20点満点を獲得しています。

他のワインも、いずれもマセラシオンの期間が概して長い。セパージュはいずれも、白葡萄系。

もうおわかりですね。

○○○○に入るのは「オレンジ」。

RVF誌は「オレンジ革命」という表題でオレンジ・ワイン特集です。

RVF誌がオレンジ・ワインの特集を組んだのが、2014年で、その間に状況はかなり変化しました。

日本のワイン雑誌をはじめ、今ではいろいろなメディアに取り上げられ、ワインバーやショップにも銘打って置いてあり、勧められますね。

ジョージア発のオレンジ・ワイン-旧ソビエト連邦下で、集団農法を強要された栽培家たちが、ほそぼそと伝統を守り続けてきたワイン-は、イタリア経由でフランスに入ってきました。

フランス語では、blanc macéré (ブラン・マセレ)、つまりマセラシオンされた白葡萄という言い方もでてきたようです。

オレンジ・ワインといっても、セパージュは異なりますし、そもそもマセラシオンの期間も、全般には長いのですが、数日で終わらせるというドメーヌもあります。

Christelle et Gilles WickyのVin de France Jurassique, 16点-ジュラシック・ワイン(恐竜がでてくるわけではありません)は、シャルドネを、花梗のマセラシオンを防ぐために、マセラシオン・カルボニッックと、ボジョレー・ヌーボー方式をとっています。

また技術上は、赤ワインで行うエグラパージュやフラージュ、ルモンタージュといった作業を、オレンジ・ワインでもするかどうかも、ドメーヌによってことなります。

どういうワインを目指すのかが、その決め手なのでしょう。

白ワインでタンニンを強く押し出すものもあれば、きわめてオーソドックスな白ワインを目指すのもあり、そういうドメーヌではオレンジ・ワインの名称を嫌うところもあります。

オレンジ・ワインでは、アッセンブラージュを行うこともあります。

アルザスでは、リースリング、ピノ・グリ、ゲヴルツトラミネールを混合したオレンジ・ワインもあります。

Domaine Laurent Bannwarth, Alsace Synergie 2015は15点。

このドメーヌはアルザスのオレンジ・ワイン作りの先駆者で、Alsace gewurztraminer Quevri 2016は16.5点。またローヌではオレンジ・ワインつくりはほとんど行われていないのですが、Domaine Viret, Vin de France Dolia Paradis Ambre 2016 (16点)は、ローヌらしくヴィオニエ、グルナシュ・グリ、ミュスカ、ヴェルメンティーノなど7種をアッセンブラージュ、オリエンタルな風味・・カレーに合いそうな。

ここには面白い事情があります。

アルザスのゲヴルツトラミネールは最近人気がありません。

ルーション地区のミュスカ種も同様で、不人気のセパージュを商品化する手段としてオレンジ・ワイン作りがされている傾向があるようです。

RVF誌では、アルザスでの最初の「犠牲者」がゲヴルツトラミネールだ、とまで書かれています・・・。

もう一つ。ワイン名にあるQuevriというのはジョージア風の素焼きのアンフォラで、(1) (2) もアンフォラ使用というのを表に出しています。

シャンパーニュでもアンフォラで発酵というのを「売り」にしているのもありますが、ここでもそうでしょう。

ただし、零細ドメーヌではもう少し異なった事情がアンフォラ使用を促進しています。

例えば、400リットルのアンフォラは1900ユーロで、225リットルの木樽は700ユーロです。

この値段としてはさほどでもないですが、セパージュ毎に樽を当てたりする必要もないし、なんといっても耐久性ですね。

木樽も価格が上昇していますから、資金力に欠けるドメーヌではアンフォラ使用の方が適切なところもあるということです。

一昔前だったら、コンクリの風呂桶のようなものを使っているところもありました。

上のリストから分かるように、フランスでオレンジ・ワイン作りが盛んなのは、まずジュラ、ジュラではシャルドネも多く栽培されていますが、ことオレンジ・ワインに限ってはサヴァニャン種、それもよく熟したものがメインです。

セパージュからするとジュラ特筆のヴァン・ジョーヌ―とくに(2) ドメーヌ・ティソ―の延長上にあるといっていいでしょう。

それから南西地区。様々なセパージュによる試みがなされていますが、80年代に醸造技術を革新したドゥニ・ドゥブルデュ氏の影響も大きいようです。

もっとも盛んな地区はルーションとラングトック南部、今のところAOCを外れていますが、将来的にはAOCとしての偉大な白ワインを視野に入れています。

オレンジ・ワインの多くはAOC枠外なので、生産者も消費者も「自由」が楽しめます。マリアージュの楽しみもありますが、様々なオレンジ・ワインを並べて、ブラインドでセパージュを当てっこ、というのも面白そうです。

2020.03.20


伊東道生 Michio Ito

東京農工大学工学研究院言語文化科学部門教授。名古屋生まれ。
高校時代から上方落語をはじめとする関西文化にあこがれ、大学時代は大阪で学び、後に『大阪の表現力』(パルコ出版)を出版。哲学を専門としながらも、大学では、教養科目としてドイツ語のほかフランス語の授業を行うことも。
ワインの知識を活かして『ワイナート』誌に「味は美を語れるか」を連載。美学の視点からワイン批評に切り込んでいる。

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