気候変動と戦う! ~ボルドー最新事情

「もう何十年かしたら、ボルドーでオリーブオイルがつくれるようになるかもしれないよ。」レコール・デュ・ボルドー で講師を務めるマークさんは茶目っ気たっぷりに話します。語り口はユーモアに満ちていても、その内容は真実味を帯びており、聴衆たちは一瞬凍り付いたのでした。この10月、ボルドーワイン員会は、ワイン講師をボルドーに集め研修を開催。今回は、その勉強会で語られたボルドーの気候変動についてレポートします。

ボルドーワイン委員会(Conseil Interprofessionnel du Vin de Bordeaux)が運営するボルドーワインの教育機関

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. ボルドーの気候変動
2. 新たなブドウ品種の模索
3. 台木を探せ!
4. 植樹間隔の調整
5. 酵母の選択
6. シートを被せることも可能になる!?
7. まとめ


1. ボルドーの気候変動

紀元前3億年前のボルドーの気温はシベリアと同じくくらい寒かった、と言ったら、一体誰が信じるでしょうか。しかし年々気温は上がり続けており、もう数十年したらボルドーは地中海性気候になると、昨今では予測されているのです。

実際、深刻化干ばつ(フランスでは基本灌漑は認められていない)に加えて、熱波がボルドーを襲う回数も増えています。さらには温暖化によりブドウの芽吹きが早まり、春霜の被害に遭うリスクも高まっているのです。芽吹きが早まることによって、収穫のタイミングは前倒しに。そのため、ブドウに含まれる香り成分やフェノール類(タンニンや色素)が十分でないものが増えています。

春霜の被害に遭った新芽

2. 新たなブドウ品種の模索

このような状況を「いつまでも指をくわえて見ているわけにはいかない」と、今、ボルドー地方が一致団結して、気候変動の対策を講じているのです。

1つめは、新たなブドウ品種探しです。乾燥に強いことはもちろん、開花が遅く春霜の被害に遭いにくいブドウ品種を模索しています。2021年にトゥリガ・ナシオナル、マルセラン、カステッツ、アリノナルノア、アルバリーニョ、リリオリラといったブドウ品種の使用が認められたことは記憶に新しいことでしょう。しかし、「それだけでは気候変動対策には追い付かない」とマークさんは語ります。

トゥリガ・ナシオナル

3. 台木を探せ!

そこで今、真剣に取り組んでいるのが、干ばつの被害に強い台木のリサーチです。数種類もある台木をいろいろ試して、現在のところはR110(正式名「Richter 110」)が乾燥した土壌に強い耐性があり、干ばつに対してよい結果が出ていることが報告されています。以前はSO4というドイツ出身の台木が主体だったことを思えば大変化です。

最近では、台木の中には、収穫シーズンを遅らせられるものもあることがわかり、ますます、ボルドーでは気候変動に対応する台木探しに熱心になっているのです。

Château Paloumeyは自らのワイナリーで数種類の台木を植えて、干ばつに強いものを調べている

4. 植樹間隔の調整

植えるブドウの木の間隔を広げることが、ブドウを育てる上で効果がある方法の1つになると考える生産者もいます。メドックの有名生産者「シャトー・モンローズ」では、前は1ヘクタールの土地に9000本のブドウの木を植えていましたが、今は7000本まで減らしています。木の間隔を広げると、ブドウの木は新しいツルや葉を育てるためにエネルギーを使います。すると、ブドウの実が成熟するスピードが少し遅くなり、収穫のタイミングを後にすることができるのです。もちろん植樹間隔を広げることは干ばつ対策にもなります。

5. 酵母の選択

年々、酵母の種類も増えています。その中で、期待されているのが、酵母の選択です。酵母はアルコール発酵を起こすだけでなく、その種類によっては、アロマティックなワインができたり、炭酸ガスをたくさん出すものがあったりします(スパークリングワインで好まれる)。

1980年代は揮発酸の出ない酵母、1990年代には香りを高め、酸を低くする酵母株が流行りました。ところが、今は1990年代の真逆で、ワイン中の酸度を高める酵母が注目されているのです。

6. シートを被せることも可能になる!?

フランスのワイン法では、猛暑だから、雨だから、もしくは霜・雹が降りたからといって、いかなる理由でも畑にシートを被せることは認められていません。実際、2000年サンテミリオンの名門「シャトー・ヴァランドロー」のジャン=リュック・デュヌヴァンが雨よけのために畑にシートを被せて、その畑からつくるワインがAOC(原産地呼称のこと)を名乗ることが認められませんでした。

しかし、最近では激しい気候変動を経験するなかで、ボルドーでは畑にシートをかけることが正式に認められる可能性があるのです。そのため、現在、実験的に畑にシートを被せることが認められており、そのシートの名前は「ヴィティトンネル(Viti-tunnel)」。

このヴィティトンネルを使う目的は雨よけだけではありません。1つは猛暑からブドウを守るため、2つめは霜からの保護、そして3つめは、シートをかけることで、ブドウの成熟スピードを調整し、最適なタイミングでの収穫を可能にするためです。

ヴィティトンネル(Viti-tunnel)」1mあたり60ユーロ。決して安い装置ではなく、大規模なシャトーを中心に実験されている(https://viti-tunnel.com/)

7. まとめ

ブドウを栽培することを英語で「Viticulture」と言います。「Viti」 は、ラテン語の 「vitis(ブドウの木)」 が由来です。後ろに「Culture(文明)」がついているのは、良いブドウを得るためには、知識が必要だからでしょう。刻一刻と忍び寄る気候変動の中で、ボルドーの生産者達は知恵をしぼり、さらにどのように戦うのでしょうか。今後もボルドーの気候変動対策からは目を離せません。

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