初デートで正しくワインで失敗する方法 vol.1：店に行くまで

ワイン・エキスパートに合格したほどワインが大好きなら、ワインのプロです。ワインのプロは、初デートでワイン・バーへ行くのが定石ですね。ワイン・バーは自分の庭と思いがちですが、ワイン・バーでのデートには、意外な場所に巧妙な落とし穴が300ケース分も隠れています。

例えば、彼女との初デートの待ち合わせ場所で印刷したクーポンを見せ、「今から行く店だけど、これがあると20％オフになるんだよね」と言いながら「オレの経済観念、スゴイでしょ？」と得意になったり、おシャレのつもりで、先のとがった蛇皮の靴を自慢げに履くと、店に行くまでにデートは終了してしまいます。
バッターボックスに入る前にアウトにならないよう、まずは、ワイン・バーへ行くまでいろいろな関門を越える必要があります。ヨットのレースでは、スタートの号砲が鳴る前からレースは始まっています。今回は、お店に行く前の注意事項を解説します。

文／葉山考太郎

【目次】

①はじめに
②鼻毛がはみ出してませんか？
③お仕事はラクダの飼育係ですね？
④店は決まってますか？（できれば、地下１階の店に）
⑤会社の面接時間に遅刻したことあります？
⑥地下鉄で店に行くのもあり
⑦競歩の金メダリストだったんですね？
⑧シミュレーションできてますか？

まずは、身だしなみをキチンと。これが意外にできてません。思いっきりオシャレして、初デートに出かける男女の93％は、実は残念な箇所があります（当社比）。以下、やってしまいがちな、あるいは、本人が気がついていない残念な個所を具体的に解説します。

①はじめに

「ワイン・エキスパート」に合格していても、「デート・エキスパート」は？

ワイン・エキスパートの受験では、筆記試験に合格すると、二次試験でのデギュスタシオンでは、いきなり、ワインを飲みます。一方、自動二輪の免許を取得した人はご存じでしょうが、筆記試験後の実技試験では、すぐにエンジンをかけさせてもらえません。第１関門は、地面に寝かせた巨大なバイクを自力で直立させることです。バイクを立てられないと、試験は打ち切り。エンジンをかけさせてもらえません。はい、さようなら。
レストランで、ワイン・エキスパート合格の実力を発揮する前に、「試験は打ち切りです。そのままお帰りください」となってはなりません。第１回目となる今回は、ワイン・バーへ行く「前段階」のポイントを挙げ、しっかり切り抜ける方法を解説します。

②鼻毛がはみ出してませんか？

気を付けるべきは、鼻毛です。デートでは、睫毛は、長くてクッキリしていると、美男美女に見えますが、たった５cm下にある鼻毛は、ない方がイイのです。この差は、アルマン・ルソーのシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ1988（注１）と、南方系の１本380円のワイン以上ですね。
時々、『天才バカボン』のパパみたいに、立派な鼻毛をたくわえているオジサンがいますが、これは問題外。初デートでは、会った３秒後にレッド・カードを食らい、「このまま、お帰りください」になります。シュヴァル・ブラン1947（注２）を飲ませてあげますとお相手を誘っても、残念ながら、鼻毛の印象の方が強く、話に乗ってこないでしょう。

絶対に、鼻毛のお手入れをさぼってはいけません。鏡でじっくり鼻を見て、正面から鼻毛が見えないからといって、油断できません。これは、女性には盲点になっています。気をつけねばならないのは、シャンパーニュを飲む場合です。宮中晩餐会では、平らなクープ型グラスでシャンパーニュを飲みますが、ワインに熱心なレストランでは、細長いクープ型グラスで、泡の美しさを愛でながら飲みます。イソップ物語の「狐と鶴」がスープを飲むシーンを思い出しますね。
泡をキレイに見せるクープ型グラスで困る点は、最後の一滴までシャンパーニュを飲み干す場合、頭が思いきり天井に向くことです。この瞬間、鼻の穴の奥まで、鼻毛まで相手にバッチリ見られてしまいます。注意しましょう。
男性の場合、無精ヒゲもレッド・カードです。指先で感じるくらいで、女性には、「うわぁ、この人、無精ヒゲを剃らずに来たんだぁ」と大顰蹙をかいます。

女性の場合、午後半休を取って、ヘア・サロンへ行ってもいいぐらいです。特に、眉毛に気を配りましょう。
女性には意外でしょうが、女性が大好きで、お金と時間をタップリかけるのに、男性に不人気なのがネイル・アートです。気合を入れて爪を飾るほど、男性は引きます。
指は、食事をする場合、食べ物に最も近い体の部位ですので、「ゴージャス感」より「清潔感」が圧倒的に重要です。例えば、刺身のツマの場合、普通の大根の細切りをさり気なく盛り付けると、スッキリ感が出ますが、大根で、手の込んだ鶴と亀の彫刻を作って並べてあると、「鶴と亀を作るとき、ベタベタ、手で触っているんだろうな。ダサいし、食べる気ないし」と思ってしまいます。ネイル・アートが好きな女性は、お相手との仲が順調に深くなる３回目以降から、披露するとよいと思います。爪は、キレイに切り揃え、マニキュアを塗るなら上品な色がイイと思います。

注１：ブルゴーニュの中のブルゴーニュ、シャンベルタンの中のシャンベルタン。名手、アルマン・ルソーの手になるこのワインは（特に、世紀のヴィンテージ、1988年物は）、超級官能的で、一口飲めば、香油を摺り込んだアラビアンナイトのシェラザード姫とシーツの中でぬめぬめねばねば抱き合っているようなセクシーさを感じるはずです。個人が所有できる「世界文化遺産」なので、見つけたら、とにかく買って、支払い方法は１ヶ月かけて悩むべし。

注２：初代「伝説のボルドー」。ロバート・パーカー、ヒュー・ジョンソン、マイケル・ブロードベントをはじめ、あらゆるワイン評論家が大絶賛したワイン。飲むと、自動的に涙が出るらしい。かつては、１本800万円もしたが、今は200万円ぐらいで落ち着いているよう。二代目「伝説のボルドー」はオー・ブリオン1989で、こちらは、まだ10万円台で買えるので、今のうちに手に入れることをお勧めする。

③お仕事はラクダの飼育係ですね？

服装も、超級重要です。待ち合わせ場所で、最初にお相手の姿を目にして、「さっきまで、ジャック・セロス（注３）の畑で、シャルドネを収穫してました」みたいな作業着風は一発退場のレッド・カードを食らいます。
ジャケット、ズボン、シャツはきちんとクリーニングに出しましょう。靴も、ピカピカに磨きましょう。意外な盲点がベルトのバックルです。有名ファッション・メーカーのロゴが大きく入ったバックルは、やめた方がイイでしょう。「友情」とか「根性」と刻印したバックルのベルトを着用するのは問題外です。自宅の玄関には、切り株から彫った鷹の置物や、水牛の角が飾ってあるのではと思われてしまいます。

美術館や、クラシックのコンサートに行って、その後でワイン・バーに行くのはよくあるパターンですね。美術館やコンサート・ホールへの待ち合わせで、「いかにも、仕事帰りです」と、オフィスでのバタバタ感を出してはいけません。仕事モードからロマンチック・モードへきちんと転換する場合、最少体積で、かつ、最少価格で、変身する方法は、男性の場合、蝶タイ、女性の場合、白いレースの手袋を使うことです。これだけで、急に、ジェームス・ボンドとグレース・ケリーの雰囲気が漂います。是非、お試しください。

注３：世界最高峰のシャンパーニュ。自社畑のブドウだけで作るレコルタンの生産者。樽を使って異次元のシャンパーニュを作る。生産量はスズメの冷や汗しかない。特に、最高峰のシュブスタンスは微量生産なのに、世界中の大富豪がトラックに札束を積んで買いに来るため、マーケットに出回る本数は白いカラスより少ない。

④店は決まってますか？（できれば、地下１階の店に）

「じゃあ、表参道の青山ブックセンターで７時に」とか、「六本木のアマンドの前で６時に」と待ち合わせしたのはイイのですが、会ってから店を決める男性がいます。「彼女の意見を聞いてから、店を決めようと思って」とのことらしいのですが、そのお店が満席だったらどうしますか？　店は自分で、事前に決めて、ちゃんと予約しましょう。

⑤会社の面接時間に遅刻したことあります？

これまで、会社面接の時間に遅刻した人は、電車が事故で遅延した以外は、まず、いないでしょう。デートの時間も同様で、初デートを重要と思うなら、絶対に遅刻してはなりません。
慢性的に遅刻する人がいますね。特に、初デートで遅刻するのは、宮中晩餐会に招待されて、１時間遅れたり、ボージョレ・ヌーヴォーを翌年の１月に出すのと同じです。社会人として、ワインとして、レッド・カードを１ダース食らいます。時間厳守は最低限のマナーです。

⑥地下鉄で店に行くのもあり

現地集合のデートでもいいのですが、行く予定のレストランやワイン・バーが少し遠くにある場合、待ち合わせの後、タクシーではなく、地下鉄で行くことをおススメします。なぜか？　多分、退社時間帯なので、車内は混んでいてえ、２人はくっつかざるを得ません。「混んでてゴメンね」と嬉しそうに困ればいいのです。タクシーではこうはいきません。「混雑」を正しく悪用しましょう。

⑦競歩の金メダリストだったんですね？

待ち合わせ場所からお店へは歩きますね。その場合、男性は、通勤時にオフィスへ向かうように、競歩の日本代表選手みたいに、シャキシャキと歩いてはいけません。
女性は、気合を入れて、ピンヒールを履いてくるはずなので、早く歩けません。女性の速度に合わせて、ゆっくり歩きましょう。澱がキレイにボトルの底へ沈んでいるラ・ターシュ1988年（注４）をそーっと運んでいると思ってください。

注４：ロマネ・コンティを作るＤＲＣ（ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社）の中で、ロマネ・コンティに次いで高価なワイン。価格は、ロマネ・コンティの20％以下だけれど、ロマネコンティに優ることが少なくない。特に、世紀のヴィンテージ、1988年物はモンスター。チョコレートやミルク紅茶、鰹ダシの香りがして、物凄くセクシー。ルビーに香りと味があるなら、ラ・ターシュ1988になる。

⑧シミュレーションできてますか？

ヨット・レースは、スタートの号砲が鳴る前から、有利な位置取りのため、激しい戦いが始まっています。初デートでも同様で、どのお店に行き、どんな食事とワインを選ぶか、前日から周到にシミュレーションしておきましょう。

まとめ

初デートのお店へ行く前に、いろいろなハードルがあることがお分かりいただけたと思います。本人は気が付いていませんが、お相手は、実に細かく見ています。ワイン愛好家が、分析的にワインを評価するのと同じで、少しでもブショネ臭があると、ダメ認定されてしまいますね。
「ブショネだぁ」と言われないよう、初デートは思いっきり気を付けてください。少なくとも、上記のすべてがＯＫなら、2回目のデートにつながるはずです。

ワイン・バーやレストランでどのように振舞えばいいか、続きのコラムで詳しく解説します。

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