初デートで正しくワインで失敗する方法 vol.2:お店でやってはいけない5大タブー

ワイン・エキスパートに合格したほどワイン愛好家なら、デートのお相手ももちろんワインが大好き。となれば、初デートでワイン・バーや、ワインに熱心なお店へ行くのが定石ですね。前回、この講座では、「デートをする前に正しく嫌われる方法」を書きました。今回は、その第1関門を乗り越え、いよいよお店へ入った状況です。
金曜日の夜、初デートで、ワイン好きの彼女や彼氏と一緒にオシャレなフレンチ・レストランやワイン・バーへ行き、プロが作った食事と美味いワインを合わせ、ロマンチックな雰囲気の中でお話をします。お相手がこの楽しい空気に染まって少し飲みすぎ、終電に乗れなかったらどうしよう……なんていう「終電の嬉しい乗り損ない」にまで妄想がシャンパーニュの泡以上に膨らみます。
銘醸ワインを飲んでガッカリする度合いは、パーカー・ポイントが高いほど、価格が高いほど、期待が高いほど、ヴィンテージの評価が高いほど、大きくなります。同様に、デートでの期待が高いほど、場の雰囲気が盛り上がっているほど、下心が膨らんでいるほど、ワイン・バーでの初デートが失敗します。
今回は、オシャレなワイン・バーやフレンチ・レストランでの初デートで、これをやったら一発でお相手から嫌われたり、下手をするとお店から出禁を食らう「5大タブー」を紹介します。

文/葉山考太郎


【目次】

タブ―その1:ホスト・テイスティングがやたらに長い
タブーその2:思いっきりワインの悪口を言う
タブーその3:変質したワインをことさら強調する
タブーその4:ワインのマニアックな話をする
タブーその5:過去に飲んだ高価なワイン自慢をする
まとめ


 

①タブ―その1:ホスト・テイスティングがやたらに長い

「ワイン・エキスパート」に合格していても、「デート・エキスパート」は?

ワインが好きな彼女や彼氏との初デートでオシャレなレストランやワイン・バーへ行くと、まずは、ワイン・リストで盛り上がるケースが一般的です。ソムリエが持ってきた分厚いワイン・リストを開いて、「おっ、ル・パン1986(注1)が26万円だって」「この店に、ルロワのミュジニー1988(注2)があるぞ、スゴイねぇ」と大騒ぎして、1本ずつ「探検」するのは、ワイン愛好家には至高の時間ですね。で、「じゃあ、1本目は、アルゴンヌ2008(注3)で乾杯しませんか?」となり、ソムリエさんがボトルを持ってきます。
コルクを抜いて、まずホスト・テイスティングをしますが、ここで、ソムリエ・コンクールのデギュスタシオンのように、細かくコメントをする人がいます。「色調は淡い麦わら色で、清澄度が高く、泡も細かくて、量もかなり多めで……」から始まり、「提供温度は8℃から10℃、価格帯は60,000円前後で……」と、『地獄八景亡者の戯れ(注4)』以上に延々と続きます。これだけコメントが長いと、シャンパーニュの泡がなくなって、ムルソー・ぺリエール(注5)になりそうです。
アルゴンヌみたいな稀少価値がある銘醸シャンパーニュは、お相手も早く飲みたくてうずうずしています。ホスト・テイスティングは10秒以内で終わらせましょう。

注1:ボルドーの右岸、ポムロル村で作る「元祖シンデレラワイン」。1986年が出回ったころ、アメリカでの価格は1本50ドルだったが、年産300ケースとスズメの冷や汗しか作っておらず、セクシーなワインとパーカーが大絶賛したためあっという間に2千ドルを超えた。なお、ル・パンは、フランス語で「松」の意味で、同シャトー(と言ってもシャトー・マルゴーみたいに豪邸ではなく、作業小屋みたいな雰囲気)の前に松が植えてあるところからの命名。なので、日本風にいえば「一本松酒造」。

注2:ただでさえ超高額のブルゴーニュの超エリート的な高額ワインなのに、あのルロワが当たり年の1988年に出したワインとして、伝説となった。一般人が所有できる世界文化遺産がこれ。ルロワのミュジニーの畑を見たことがあるけれど、水たまりができそうなほど窪んでいて、「香油を摺り込んだアラビアンナイトのシェラザード姫とヌメヌメと裸で抱き合っているみたいにセクシーなワイン」ができる雰囲気は全くなかった。

注3:アンリ・ジローが作る神のシャンパーニュ。アルゴンヌの森の新樽で熟成させたシャンパーニュで、超級官能的。この官能に対抗できるのは、マリリン・モンローが1回履いた絹のストッキングだけ? 10年前にアカデミー・デュ・ヴァンの福袋で、高級シャンパーニュの6本詰め合わせの中の1本として合計20万円で売っていた。昔はそんなことが可能だったのだ。

注4:日本で一番長い落語として有名。上演時間が1時間を越えるただ長いだけの典型的な上方落語。4コマ漫画の連続のように、特にストーリーがないため、テキトーなところから聞き始め、テキトーなところで帰っても、話の筋は理解できる。

注5:バターの香りがするとワイン愛好家が狂喜する白ワインの最高峰。私には、DRCのモンラッシェより、アルベール・グリヴォーの手になるムルソー・クロ・デ・ペリエールの方が官能的。

注6:ペトリュスのオーナー、クリスチャン・ムエックスは、『ヴォーグ』誌のモデルをしたこともあるスタイリッシュでハンサム。来日した時の試飲会で、「ウチのシャトーで、ペトリュスの垂直試飲会をした時、1985年の香りを嗅いで、みんなが大騒ぎしているので、どうしたのか聞いたところ、ブショネだと言う。私は何も感じなかったのに」と堂々と言って、ブショネがほぼ分からない私はとても心強く感じたことを覚えている。

注7:熟成感がたっぷりあるのに、泡もたっぷりあるボランジェの不思議なシャンパーニュ。「女子高生の時の岩下志麻」みたいなもの。官能的なのに泡がある秘密は、熟成期間が長いのに、デゴルジュマンの日付が新しいから。RDは、「最近デゴルジュマンをした(Récemment Dégorgé)」のことで、ボランジェの登録商標。

注8:同じヴィンテージの生産者違いのワインを試飲すること。水平試飲。同じ生産者のヴィンテージ違いを飲む垂直試飲(縦飲み)に比べると難度は低いが、プロが大喜びするテイスティング・イベント。違う生産者の違うヴィンテージを飲むのは「斜め飲み」という。

注9:ペトリュスの最高峰。1983年、アメリカでぺトリュス1982年のプリムール(先物ワイン)の開始価格が半ケース(6本)で120ドルとタダ同然だった。これは、ロバート・パーカー以外の世界中の評論家がボルドーの1982年を全く評価しなかったため。パーカーだけが、他の評論家から馬鹿にされる中、「絶対に1982年を買え」と熱弁した結果、実際に世紀のヴィンテージであることが分かり、1985年にぺトリュス1982年の実物がアメリカへ出荷された時には1本1,000ドルを越えていた。この「10倍の大儲け」がアメリカ人のワイン愛好家の頭に今でも強烈に残っており、「プリムールは儲かる」と信じている人は非常に多い。

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