フランスと並ぶワイン超大国イタリア。20州すべてにブドウ畑が広がり、おびただしい数の土着品種が栽培されています。中でも、黒ブドウ品種として双璧をなすのが、北部イタリアのネッビオーロと、中部イタリアのサンジョヴェーゼ。「あれ、南部イタリアは?」と思われた方、安心してください。知名度こそ二大巨頭には敵わないものの、その潜在性では決してひけをとらない偉大な黒ブドウがあるのです。その名はアリアニコ Aglianico。力強い性質からか、「南のバローロ」の異名をとります。イタリアワインの専門家の中には、「世界でも最上位1ダースに入るワイン用ブドウ」とまで、アリアニコの実力を評価する人もいます。栽培面積も、本拠地イタリアで約1万ヘクタールと、かなりのボリュームです。値段が、有名国際品種ほどバカ高くないのもアリアニコのいいところ。バーゲンハンターには狙い目ですね。さて、この品種には、いったいどんな特徴があり、どこでどんなワインが生産されているのでしょうか。徹底的に掘り下げます。
【目次】
1. アリアニコはどんなワイン?
● 風味の特徴
● スタイルの多様性
● アリアニコーネ(Aglianicone)について
2. アリアニコの栽培特性
3. アリアニコの歴史: ギリシャ起源か否か?
4. アリアニコの主要産地
● イタリア カンパーニア州タウラージ
● イタリア カンパーニア州タブルノ
● イタリア バジリカータ州ヴルトゥレ
● イタリア以外の産地
5. アリアニコのサービス方法とフードペアリング
● サービス方法
● フードペアリング
6. アリアニコのまとめ
1. アリアニコはどんなワイン?
イタリア国内でのアリアニコの産地は、大都市ナポリを擁するカンパニア州と、その南、イタリア半島の土踏まずの部分に位置するバジリカータ州に集中しています。周辺の南部諸州(カラブリア州、プーリア州、モリーゼ州、カラブリア州)にも少々。これまた、今のところわずかな面積にはなりますが、イタリア国外にもブドウ畑があり、将来を見据えた際の注目株です。ブドウ樹の栽培特性、ワインの風味ともに際立った個性があります。優れた造り手による銘柄は、10年以上も瓶熟成させられる長期熟成型のワインです(強靱な渋味と酸味が和らぐのに、それぐらいの歳月を必要とします)。

カンパニア州(左)とバジリカータ州(右)
風味の特徴
アリアニコの赤ワインで、文字通り、まず目に止まるのが色。ガッツリと濃いです。グラスに鼻を近づけると、プラムやブラックチェリーを思わせる華やかで熟した果実香、赤いバラのフローラルさ、銘柄によっては、甘いチョコレートのようなアロマが感じられるでしょう。野鳥獣の肉、燻製、タール、コショウといった、ワイルドでスパイシーな風味も見つかります。口を付けると、これまたガツンと来る渋み(ただし、高級銘柄ではタンニンのキメは細やか)、そしてしっかりした酸味が、強い骨組みを形作っています。高い酸度は、アリアニコのワインに、ミネラル感をもたらす要素です。栽培地域がどこも温暖な土地なので、アルコール度数は比較的高めでしょう。こうした諸特徴は、栽培される場所(およびそのテロワールの諸条件)に、さほど左右されません。もちろん、次項に述べる多様性はあるものの、アリアニコはどこでもアリアニコとして振る舞うため、カベルネ・ソーヴィニョンやシャルドネのような「普遍的ブドウ品種」に、将来なり得る可能性があります。
スタイルの多様性
そのほとんどが、辛口・非発泡性の赤ワインになります。最優位産地タウラージのワインから、フルボディで複雑な赤というイメージが強いですが、実際には芳醇でジューシーなライトボディの赤まで生み出せる、多才さをもつブドウです。品種構成は、必ずしも100%ではありません。骨格が強くなりすぎないように、あるいはフレッシュさや香り高さをもたらすために、別の地場赤品種が少量ブレンドされる場合もあります。カンパニア州ではピエディロッソ、アブルッツォ州とモリーゼ州ではモンテプルチアーノ、プーリア州ではプリミティーヴォがその役割を担うブドウです(なお、バジリカータ州の代表的DOC、アリアニコ・デル・ヴルトゥレでは、法規定でアリアニコ100%以外は許可されていません)。サンジョヴェーゼと同じく、カベルネ・ソーヴィニョンやメルロなどフランス原産国際品種とブレンドされ、IGTクラスのワインとして販売される銘柄もあります。
代表産地に根ざした、ブドウ樹のバイオタイプ(一群のクローン)の違いによる、スタイルの差も認められます。主要なバイオタイプの名として付けられているのは、タウラージ、タブルノ、ヴルトゥレという三大産地です。最も小さな実をつけ、樹勢が弱いタウラージのバイオタイプは、濃密でフローラルな個性を見せます。タブルノのバイオタイプは最も房が大きく、糖度・酸度が最も高くなるので、アルコールと酸味が強く、皮革やタバコのニュアンスが。ヴルトゥレのバイオタイプは、果実味に厚みがあって、スミレが典型的なアロマです。それぞれのバイオタイプの下に、多数のクローンがあり、それぞれミクロな点で風味に特徴があります。
アリアニコーネ(Aglianicone)について
実に紛らわしいのですが、アリアニコの主産地であるカンパニア州とバジリカータ州には、アリアニコーネという黒ブドウも植わっています(栽培面積は、アリアニコよりもはるかに少なく、微量です)。アリアニコが突然変異した結果、生まれた別品種ではないようですが、DNA鑑定の結果では、ふたつの品種は近い親戚関係にあるようです。栽培面積がわずかなので、アリアニコーネを主たる品種として造られた赤ワインを、市場で見かけることはないでしょう。
2. アリアニコの栽培特性
アリアニコはその栽培において、長所が多く、短所が少ないブドウだと言われます。地球規模での気候変動に立ち向かう力もあり、それらの点で、今後世界中へと進出する蓋然性は高いです。病害への耐性という側面でも、比較的育てやすいのがプラスになります。
放っておくと、たんまりと実を成らせてしまう品種で、そのままワインにすると、若飲みの軽い赤にしかなりません。そのため、本格的な赤を目指す生産者は、厳しい収量制限を行なっています。
発芽は早いのですが、成熟が非常に遅いブドウで、イタリアでは摘み取りが11月に入ってからなされるのも珍しくありません(バジリカータ州のヴルトゥレでは、収穫が11月下旬になる年もあります)。果皮が厚く、カビ病に冒されにくいため、晩秋まで果実を樹にぶらさげておけるのです。ある程度の暖かさは必要なものの、標高がかなり高い畑(600~700m)でも果実は完熟に至ります。山の斜面の痩せた土壌で栽培すると、深みと複雑性をもつスケールの大きな赤ワインになります。

カンパニア州タウラージ地区に植わるアリアニコの樹
3. アリアニコの歴史: ギリシャ起源か否か?
4000年以上の歴史をもつイタリアのブドウ栽培においても、アリアニコは最も古い品種のひとつと言われています。かの地にワイン造りを伝えたのは古代ギリシャ人だったため、アリアニコがギリシャ原産だと考えられたのは、無理もありません。アリアニコという名前そのものが、現代イタリア語で「古代ギリシャの」を意味する形容詞、「エッレーニコ Ellenico」から派生したのだと言われています。実際、15世紀末まで、アリアニコは「エッレーニコ Ellenico」、または「エッレーニカ Ellenica」と呼ばれていたようです。しかしながら、近年行なわれたDNA鑑定では、既知のいかなるギリシャ原産品種からも、アリアニコと結びつく関連性が見つかっていません。とはいえ、現在もう栽培されていない古代ギリシャの品種が、その昔に渡来した可能性が否定されたわけではないです。
一方で、このギリシャ起源説に異を唱える学者もいます。言語学的な観点に立つと、エッレーニコ Ellenicoが、アリアニコ Aglianicoに訛ると考えるのには無理がある点、古代ローマ時代に使われていた、「古代ギリシャの」を意味するラテン語の形容詞は「グラエクス Graecus」であり、当時はまだエッレーニコという言葉が存在していなかった点などが論拠です。代わりに提唱されるの語源が、スペイン語で「平らな、平野」を意味する言葉、「イラーノ Ilano」。アリアニコの名が文献に登場するのは16世紀に入ってからなのですが、これは、15世紀から16世紀にかけて、イタリア中南部がスペインに占領されていた時期と一致します。この説によれば、アリアニコとは「平野のブドウ」を意味していて、語源学的には確からしいつながりがあるのですが、詳細については割愛します。ギリシャ起源説に異を唱える学者たちは、アリアニコはイタリア南部を起源とする古い品種で、スペイン占領下の時代にその名がついたと考えています。
なお、アリアニコは、フランス・ローヌ地方北部が原産と目されている黒ブドウ品種、シラー/シラーズと親戚関係だとも、DNA鑑定で判明しています。
アリアニコの歴史をめぐり、もうひとつのロマンティックなのが、古代ローマ時代の銘醸ワイン、ファレルヌム Falernumについての物語です。紀元1世紀を生きた博物学者の大プリニウスほか、多数の文人によって書物に記されたこのワインは、現在のカンパニア州北西部カゼルタ地区で造られていました。極めて長寿だったとされる逸品で、辛口と甘口があったようですが、何色だったかははっきりしていません。白ワイン説が有力ですが、赤も造られていた可能性は捨てきれず、その際にはアリアニコが用いられていたかもしれません。現在、カゼルタ地区には、古代ファレルヌムにちなんだワインの原産地呼称、DOC ファレルノ・デル・マッシコ Falerno del Massicoがあり、ファランギーナを主体とする白ワインのほか、アリアニコ、ピエディロッソ、プリミティーヴォを使用できる赤ワインが認可されています。
4. アリアニコの主要産地
イタリア カンパーニア州タウラージ
ネッビオーロにとってのバローロ、サンジョヴェーゼにとってのブルネッロ・ディ・モンタルチーノに当たるのが、アリアニコにとってはタウラージ Taurasiです。1993年に、イタリアワイン法上の最高位であるDOCGに認定され、これは南イタリアで初めてでした(生産可能色は赤のみ)。カンパニア州の中央内陸部に位置する、火山性土壌の丘陵地帯です(アリアニコのイタリア国内主要産地が、どれも火山性土壌なのは注目すべきポイントで、それがミネラル感につながっているとの指摘があります)。標高は、400~700mと高めで、昼夜の寒暖差が大きいため、ワインのアロマが華やかに、酸味が強くなるとされています。20世紀半ばまでは、強い骨格と作柄の安定性が評価されて、北イタリアのバローロや、はるか北のボルドーへと、樽に詰めたタウラージの赤ワインが貨物列車で運ばれていました。輸送先では、その土地の品種の弱い部分を補強する、ブレンド用途で使われていたそうです。

タウラージ地区のブドウ畑
タウラージDOCGにおいて、ブドウを植栽可能な総面積は1000ヘクタールほどになります。10年ほど前には、実際に樹が植わっているのはその半分程度でしたが、近年になって急増中です(タウラージのワインを瓶詰めする蔵元の数も、同じく急激に増えています)。DOCGの域内に4つのサブゾーン、17の村が包含されていて、畑の標高、方位、傾斜、土壌などは実に多様、できあがるワインについてもしかりです。このテロワールの条件差は、タウラージ域内にあって、2~3週間もの収穫時期の違いを生んでいます。
タウラージで用いられるブドウ品種は、最低85%がアリアニコで、残り15%についてはピエディロッソほかの地場品種をブレンド可能です。とはいえ、優れた銘のほぼすべてが、アリアニコ100%です。DOCGの全域にわたって、寄生虫フィロキセラの被害を免れた、19世紀末~20世紀初頭植樹の古木が残っています(火山灰の土壌が、フィロキセラに嫌われたため)。
タウラージのワインはそのたくましさから、市場に出すまでに3年間の熟成が義務づけられていて、うち12ヶ月は樽熟成です(リゼルヴァは4年間の熟成、うち18ヶ月が樽熟成)。1990年代から2010年代にかけての時期は、世界の他の赤ワイン産地と同じく、過熟状態のブドウを摘み、新樽をたっぷり使って濃厚極まりないスタイルに仕上げ、「国際化」を狙った造り手たちがいました。しかし、流行の振り子が揺れ戻した今は、クラシックな姿へと回帰した銘柄が大半です。とはいえ、昔のように「10年間待たないと飲めない」ような、いかめしいワインを造るのではなく、「若いうちから楽しめて、熟成にも耐える」状態を目指しています。そのために採用されているのが、適熟の果実を摘み、マセラシオンの期間を短縮し、圧搾を優しくし、新樽比率を下げ、といった手法です。樽については、使用年数、オークの産地、容量のそれぞれについて、複数の選択肢を組み合わせて使っています。
タウラージの優良生産者は多数いますが、ツートップを挙げるとすると、マストロベラルディーノ Mastroberardinoと、フェウディ・ディ・サン・グレゴリオ Feudi di San Gregorioでしょう。マストロベラルディーノは1878年創業の蔵で、ワイン造りそのものは1750年頃から行なっていたという超・超老舗。20世紀後半には、フランス系国際品種の侵入をはねつけ、アリアニコほか、地場品種を守ってきました。仕込み方法は伝統的です。旗艦銘柄であるラディチ・タウラージ・リゼルヴァは、「不死のワイン」と呼ばれるほど長い寿命をもち、50年以上前まで遡る垂直試飲で、何度もその力が実証されています。長らく、ビオンディ・サンティだけが気勢を上げていたモンタルチーノの丘と同じように、国際市場でのタウラージはずっと、マストロベラルディーノだけでした。その「望まぬ寡占状態」に新しい風を吹き込んだのが、1986年創業、1993年を初ヴィンテージとするフェウディ・ディ・サン・グレゴリオです。最新技術を駆使した現代的なワイン造りを、地域の伝統と巧みに折衷し、モダンテイストながらも、歴史的アイデンティティはしっかりと感じられるタウラージを世に送り出しています。この蔵は、タウラージのテロワールについて、エリアごとに詳細な研究を実施し、得られた知見を公開したので、同地区の他生産者たちも恩恵を受けました。なお、この二社は、イタリアの大学との協同プロジェクトとして、自根の古木から採取した苗木から、新しいアリアニコのクローンを選抜する取組みも実施しています。
イタリア カンパーニア州タブルノ
カンパーニア州で、アリアニコが主役を張るもうひとつの土地が、タブルノ Taburnoです。タウラージの北西に位置する内陸部の地域で、2011年にDOCGアリアニコ・デル・タブルノが認定されました。品種はタウラージと同じく、アリアニコが主体(最低85%)ですが、地場品種のブレンドも認められています。赤のほかに、ロゼも生産可能です。
知名度は高くないものの、最良の銘柄は、タウラージにもひけを取らないと言われます(知られていない分、お買い得品の宝庫です)。1980年代までは、とにかく質より量を追求する産地でしたが、1990年代に転回し、品質向上を果たしました。
気候上の特徴として、タウラージと比して昼夜の寒暖差がさらに大きく、夏に雨が多く降り、全体的に涼しい土地です。そのため、ワインはかなり酸味が強くなります。骨格はタウラージほど強くありませんが、フレッシュな味わいで、香りはとても華やかです。

タブルノ地区では冬に降雪があることも
イタリア バジリカータ州ヴルトゥレ
バジリカータ州は、土地の多くを山岳地(アペニン山脈)が占めているため、人口がとても少ない州です(約60万人。北隣のカンパニア州は約560万人)。ワインの生産量も少なく、DOCGの銘柄は、2010年認定のアリアニコ・デル・ヴルトゥレ・スペリオーレ Aglianico del Vulture Superioreのみです(スペリオーレが付かない、ただのアリアニコ・デル・ヴルトゥレはDOC)。ヴルトゥレは州内北部の地区で、そのワインのノーマル品(DOC)とスペリオーレ(DOCG)では、最低アルコール度数、最低熟成期間などが違っています。どちらも赤ワインのみでロゼは造れないのですが、ノーマル品(DOC)では赤色のスプマンテ(スパークリングワイン)が認められていて、少し不思議です。使用可能なブドウ品種は、スティルワインでも泡でも、アリアニコ100%になります。
ヴルトゥレ産のアリアニコが、バジリカータ州を代表する赤ワインなのは明白で、スター銘柄はタウラージにも負けない品質です(こちらも知名度が低いので、お値頃銘柄が多く見つかります)。ほんの10年ほど前までは、いい加減な醸造・熟成を経て瓶に詰められたお粗末な品か、過熟な果実味にコッテリ樽風味の化け物ばかりでしたから、まさに有為転変です。新しい波を起しているのは、家族経営の蔵を継いだ若い世代の造り手たちで、テロワールを重視した緻密な栽培、醸造を行なっています。単一畑名を冠した銘柄も増えてきました。
死火山ヴルトゥレ山の麓、火山性土壌の傾斜地にブドウ畑は広がっています。標高は200~700メートル。タウラージよりもやや冷涼で、おだやかな気候です。冷涼なのは、標高のせいだけではなく、アフリカ大陸から吹き付けてくる熱い風を、ヴルトゥレ山が防いでくれるから。かなり広い原産地呼称なので、テロワールはやはり多様です(2011年に、70の小地区に区分されました)。ただし、ヴルトゥレでは多くの生産者が、その地名を冠するアリアニコのバイオタイプのほか、タウラージやタブルノのバイオタイプも植えており、それがこの土地のワインについて、若干アイデンティティを見えづらくしています。

ヴルトゥレ山
イタリア以外の産地
アリアニコのもつ力に世界が気づいてから、まださほど年月が経過していないのもあって、イタリア国外での栽培は限定的です。しかし、イタリアの他のスター黒ブドウ、ネッビオーロやサンジョヴェーゼほど土地を選ばないため、伸び代が十分あります。
カリフォルニアで生産されるイタリア品種のワインを、「カル・イタル Cal-Ital」と現地では呼んでいて、過去10年のあいだに、再び盛り上がってきました。1990年代にちょっとしたブームがあったのですが、様々な理由で失敗が続いた末に、残ったのはピノ・グリージョの畑だけでした(ピノ・グリージョから生産される、シャキシャキの軽い白は、イタリア産であれカリフォルニア産であれ、アメリカ合衆国で新たな定番となっています)。しかし、カル・イタルの基盤にあるのは、「全体に温暖で地中海性気候のカリフォルニアには、フランス系品種よりもイタリア系品種が向くのでは?」という問題提起です。気温上昇のトレンドの中で、カリフォルニアの造り手たちの目は、再びイタリア半島へ向くようになりました。マイナーなものまで含めてかなりの数のイタリア系品種で、目下実験が重ねられています。アリアニコもそのひとつです。
フランス系の国際品種以外のブドウ(代替品種と呼ばれます)をあれこれと試すのは、2000年代以降、オーストリアでも盛んです。当然、イタリア系品種も含まれ、アリアニコに取り組む生産者は複数います。このほかの国で、アリアニコが若干栽培されているのは、アルゼンチンとメキシコです。
5. アリアニコのサービス方法とフードペアリング
サービス方法

スタイルに多少の幅があるとはいえ、基本的には「重く、渋く、酸味が強く、アルコール度数も高い」赤ワインなので、同じような特徴をもつネッビオーロの赤(バローロやバルバレスコ)と、類似のアプローチが適当でしょう。渋味と酸味をまろやかにするために、提供温度は高め(18~20℃付近)が望ましいです(ただし、少し軽いタイプなら、16~18℃に下げてやります)。大柄なワインで、かつ若いうちは閉じている瓶も少なくないため、ワイングラスは大ぶりなものを選びましょう。そして、ボウル内で酸素にしっかり触れさせて、香りを開かせるようにしましょう。デキャンティングはお好みになりますが、渋味の強いワインなので、若いヴィンテージでも通気のために行なうのは効果的です。長期熟成した古いヴィンテージは、澱の除去のためにデキャンティングは必須になります。古さの度合いにはよりますが、堅牢で骨格が強いワインなので、通気をきっかけに息を引き取る事態はまず起きません。
フードペアリング
アメリカの有力ワイン批評家マット・クレイマーは、イタリアワインに関する著書の中で、「アリアニコは肉のためのワインである」と主張しました。たしかに、たくましいアリアニコを飲んでいると、肉が欲しくなります。鶏や豚といった白身肉よりも、牛、羊、猪、鹿あたりの赤身肉でしょう。タンニンが強いワインなので、それを和らげようとするならば、脂分の多い部位を選ぶと良いです。強い酸味を和らげるつもりなら、甘味のあるソース(バーベキューソースなど)を使うのが有効な一手でしょう。
イタリアの郷土料理から選ぶならどうでしょうか。タウラージあたりでは、羊や山羊のローストにアリアニコを合わせるそうで、シンプルな料理ですがど真ん中の感じです。バジリカータ州の有名郷土料理であるピニャータ Pignataも、うってつけの相手と言えます。これは、羊肉、サラミ、トマト、ジャガイモ、玉葱、赤唐辛子などを、密封した陶製鍋で煮た料理で、具材のほぼすべてがアリアニコにぴったり寄り添ってくれるはずです。

6. アリアニコのまとめ
ネッビオーロやサンジョヴェーゼだけではない、イタリア系品種の世界。群雄割拠の時代に入った今、頭ひとつ抜けて黒ブドウの第三極になったのが、このアリアニコです。代表産地タウラージ、その背中を全速力で追い始めた新興産地ヴルトゥレ、お値打ち品の多いタブルノの三大産地も、まだまだ発展途上で、10年後、20年後にはさらなる高みに達するでしょう。イタリア国外の海外勢からも、面白いワインがどんどん出てきそうですし、注視を続けましょう。そして、栓を開けるときには、とにかく肉です、肉。