アリゴテとは? ~ブルゴーニュの名脇役!白ワイン品種「アリゴテ」の特徴・産地を徹底解説

アリゴテ(Aligoté)という、ブルゴーニュ地方の白ブドウをご存じでしょうか。同じ地方産の偉大すぎる白ブドウ、シャルドネ(Chardonnay)の陰にいる地味な兄弟品種で、通常は酸味の強いフレッシュな辛口ワインとなります。同地方全体で栽培は認められてはいるものの、その面積はシャルドネの10分の1を少々上回る程度でしかありません。これまでに飲む機会があったとしても、「あの薄くて酸っぱいやつね。シャルドネよりはずいぶん安いけど」という印象の方が、おそらく多いかと思われます。しかし、2010年代が終わろうとする頃から、このアリゴテという品種に、ブルゴーニュ地方でにわかに注目が集まるようになりました。この先、アリゴテが無明の闇から立ち上がり、晴れ舞台に立つ日は来るのでしょうか(いや、既に立っているとも見る人もいるでしょう)。

フランスのブルゴーニュ地方以外だと、一部の東欧諸国と、旧ソヴィエト連邦諸国に、アリゴテはもりもりと植わっています。ただ、そうした国々で生産されたこの品種のワインが、日本を含む世界市場で出回ることは、ほとんどありません。したがって、日本でアリゴテを飲もうとすると、ブルゴーニュ産一択になります。

本記事では、アリゴテを使ったワインの風味特徴やスタイル、栽培特性、歴史、主要産地について、詳細にわたって掘り下げていきます。加えて、アリゴテのワインを楽しむためのヒント、すなわちサービス方法やフードペアリングについても、実用的なアドバイスを記しましたので、どうか最後までお付き合いください。

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【目次】
1. アリゴテはどんなワイン?
2. アリゴテの栽培特性
3. アリゴテの歴史
4. アリゴテの主要産地
5. アリゴテワインのサービス方法とフードペアリング、熟成能力
6. アリゴテのまとめ


1. アリゴテはどんなワイン?

風味の特徴

アリゴテ(Aligoté)は、その鮮烈な強い酸味と、素晴らしいフレッシュ感が特徴的な、辛口の白ワインになります。柑橘類や青リンゴのような快活な果実風味が感じられ、とりわけ若い時に見られるのは、ハーブや花を思わせる香りです。瓶内で時が経つと、チョークのような風味や、ミネラルのニュアンスを帯びてくるため、複雑で興味深い味わいに変化します。特に良い年では、これらの特性がより・顕著に表れ、瓶熟成によって(長短の差によるとはいえ)、風味の深みが増します。

スタイルの多様性

アリゴテのスタイルとしては、上述のように「フレッシュで酸味が印象的な、若飲みの辛口白」というのが一般的です。ブレンドはめったになされず、単一品種100%。大多数のアリゴテは、ステンレスタンクを使用してアルコール発酵と熟成を行ない、醸造・熟成過程で酸素に極力触れさせず、爽やかさを最大限に引き出すように造ります。とはいえ、主要産地がブルゴーニュですから、同地方で伝統的に用いられてきた小樽(228リットル容量で「ピエス」と呼ばれる)で、発酵または熟成、あるいはその両方を行なう生産者も少なくはありません(ただし、新樽が用いられるのは希です)。

ピエス

醸造・熟成過程での工夫のみならず、ブドウ栽培の段階から、アリゴテの凝縮した風味を得ようと試みる生産者もいます。たとえば、アリゴテのブドウを、シャルドネやピノ・ノワールよりも遅く収穫する手法の使い手として、コート・ドール地区のコント・アルマン、ミシェル・ラファルジュなど。ラファルジュは、遅くにアリゴテを収穫したときの果実の深い黄金色にちなんで、その銘柄を「レザン・ドレ」(黄金の粒)と名付けています。また、ブルゴーニュにはいまだ、古木のアリゴテが多く植えられており、そうした樹が生むのも凝縮度が高い果実です。

アリゴテが有する強い酸味は、スパークリングワイン「AOCクレマン・ド・ブルゴーニュ」の生産において、重宝される特性です(時には主要品種として用いられます)。また、ほとんど知られていませんが、スティルワイン用のシャルドネの畑に、少しばかりアリゴテが混植され、ワインにフレッシュさを与えている事例があります。

生産者団体「レ・ザリゴトゥール」(Les Aligoteurs)

アリゴテは故郷のブルゴーニュ地方において、ずっとシャルドネの陰に隠れ、ひっそり暮らしてきました。もともと多くなかったその栽培面積は、1950年代末から1970年代末にかけて急降下し、底を打った1979年には1200ヘクタールを割るところまで減ってしまいます。しかし、そこからアリゴテは徐々に盛り返し、2016年には約2000ヘクタール弱になりました。

それでも、シャルドネ ーーブルゴーニュ地方だけで約1.6万ヘクタール、フランス全体なら約4.7万ヘクタール(2016年統計)ーー と比べれば、やはり脇役でしかないのですが、ここのところブルゴーニュ地方では、アリゴテが確かに存在感を増しています。その推進主体となっているのが、真摯にアリゴテ造りに向き合う生産者団体、レ・ザリゴトゥール(Les Aligoteurs)です。2018年に、シルヴァン・パタイユ、ローラン・フルニエといったマルサネ村のスターを含む7名のワイン生産者たちと、シェフのフィリップ・ドゥラクールセルが結成しました。その名前は、アリゴテという品種名に、創造者を意味するフランス語「auteur」を重ねた造語。現在、60名ほどの造り手がこの団体に加盟しており、年に一度、フラジェ・エシェゾー村で合同試飲会を開いては、ワインとアイデアを共有しつつ、この品種から生まれるワインの品質向上と啓蒙に努めています。

ブルゴーニュの造り手たちと、その向こうにいる買い手たちが、ここにきてアリゴテに着目しているのは、値段が高くなりすぎたシャルドネへの反発、地球温暖化への対策(もともと酸の高いアリゴテは有利)、アリゴテ自体がもつ潜在性の見直しなど、いろんな要因があるようです。今後、ムーヴメントがさらに盛り上がっていくのか、成り行きを見守りましょう。

価格の幅 ~3000円から60万円まで!

Irik – stock.adobe.com

アリゴテの価格帯は非常に広く、日常的に楽しめるお値頃品から、著名な生産者による超のつく高額品まであります。日本に輸入されているのは、ほぼブルゴーニュ産の銘柄だけで、小売価格で3000円から6000円の範囲に収まるボトルが大多数です。昨今、価格が爆上がりしている、ブルゴーニュ産シャルドネ(とりわけ有名生産者が格上の畑で生産する銘柄)の値段を考えると、ずいぶんとリーズナブルですが、例外はあります。世界中で売られるワインの市場価格を検索可能なウェブサイト、「ワイン・サーチャー」によれば、日本円の税別価格で1万円を超えるアリゴテは、23銘柄も存在するのです(すべてブルゴーニュ産/2024年5月時点)。トップに君臨するのは、あまりに高名な女傑ラルー・ビーズ・ルロワが個人所有するドメーヌ、ドーヴネ(Domaine d Auvenay)で少量造られているアリゴテで、その価格はなんと60万円! ただし、ドーヴネといえば、シャルドネを使ったバタール・モンラッシェやシュヴァリエ・モンラッシェといったグラン・クリュ(特級畑)のワインが、400万円を超える値を付けるという、「世界一高い白ワインを造るワイナリー」です。それを考えれば、60万円のアリゴテは、お買い得なのかもしれません……。

2. アリゴテの栽培特性

アリゴテは、冷涼~寒冷な気候に適応する能力が高いブドウ品種です。この品種は特に、水はけが良くカルシウムを豊富に含む石灰岩質の土壌で、すくすくと成長します。その点で、原産地のブルゴーニュ地方は、絶好の栽培適地だといえるでしょう。

アリゴテは早春に芽吹きを始める早生種で、春先の霜には注意が必要です。花は比較的早く咲き、果実は夏の終わりには成熟するため、全体に前に倒れた生育期間になっています。開花時に、結実不良の一種であるミルランダージュ(無核硬粒)が起きやすい品種です。

アリゴテは樹勢が強いブドウで、意図的に厳しい収量制限を行なわなければ、歩留まりは悪くありません。畑の立地条件によって、多少の振れ幅はありますが、ヘクタールあたり50~70ヘクトリットルの収量が、ブルゴーニュ地方で得られます。ただし、生産者によっては、冬の強い剪定や夏の摘房で収量を抑え、高品質のワインを得ようと努める者もいます。

アリゴテはウドンコ病に対しては比較的抵抗力がありますが、ベト病と灰色カビ病には弱いです。ブルゴーニュ地方のように、比較的湿気の多い地域での栽培では、これらカビ系病害への対策として、防カビ剤による防除のほか、除葉などの手段で房周りの風通しをよくし、日当たりをよくするのが推奨されます。

主要生産国のフランスにおいて、公的に認定を受けているアリゴテのクローンは、現在7種類です。これらの認定クローンは、比較的果実の成熟度が低く、収量が高いという性質を共有していて、地元では「アリゴテ・ヴェール」(Aligoté Vert/「緑のアリゴテ」の意味)と呼ばれています。爽やかなタイプのアリゴテのワインを生産するならば、このアリゴテ・ヴェールが向いているのですが、飲み応えのある本格的な白をこの品種から造ろうと志す生産者たちは、マッサル選抜によって得た独自の穂木を、己の畑に植えています。最も有名なのが、後述するブーズロンのドメーヌ・ド・ヴィレーヌが選抜・繁殖している、「アリゴテ・ドレ」(Aligoté d’Oré/「黄金のアリゴテ」の意味)です。フィロキセラ後に初めて植えられた、樹齢 115 年の古木が、この亜種の母株になっています。このアリゴテ・ドレは、果実が小粒で濃厚な風味をしていて、成熟すると果皮の色が黄金色になるために、そう呼ばれるようになりました。

3. アリゴテの歴史

アリゴテは、ピノ(Pinot)とグエ・ブラン(Gouais Blanc)というふたつの、非常に古くからあるブドウ品種の自然交配によって生まれました。この2品種の自然交配で生まれたブドウはほかにもあり、シャルドネ、ガメ、ムロン・ド・ブルゴーニュ(ミュスカデ)などは、同じ両親を持つ兄弟にあたります。

アリゴテという名前は、親にあたる品種グエ・ブランの古い別名「Gôt」から派生したようです。この別名は、ブルゴーニュ地方のアリエール・コート・ド・ボーヌ地区で用いられていたもので、彼の地ではグエがアリゴテに植え替えられていったという歴史があります。アリゴテという品種について文献上で初めて触れられたのは、おそらく 1780 年で、デュプレ・ド・サントモールという人物によって、プラント・ド・トロワ(Plant de Trois)という名で記述されています。アリゴテという現代の名で初めて登場するのは、1807 年に記されたコート・ドール地区の文書なのですが、そこではこのブドウを新しく畑に植えるのではく、逆に引き抜くよう推奨されていました。歴史がそれなりに古い品種なので、上記のプラント・ド・トロワを含め、「地元で使われる別名」(シノニム)はかなりの数にのぼるのですが、EUの法規制でラベル表示が認められているのは、「アリゴテ」(Aligoté)のみになります。

ブルゴーニュ地方において、アリゴテは昔から、もてはやされる存在ではありませんでした。農夫たちがブドウの状態で売る場合も、ワインに仕込んで樽やワインに詰めて売る場合も、シャルドネよりもはるかに低い価格しか付かなかったからです。そのため、アリゴテは歴史的にブルゴーニュ中で、ひまひとつ条件が良くない場所、特にブドウが完熟する可能性の低い、気温の低い土地に植えられてきました(これはアリゴテが、シャルドネやピノ・ノワールよりも、寒さに強いブドウだからでもあります)。典型的な悪循環ですが、そうした土地で生まれるブドウやワインが安くしか売れないため、生産者たちは品質よりも量を優先するようになっていきます。味が薄く酸味の強いワインが大量に市場に出回るようになり、そのイメージが強く固まってしまったため、たとえ熟した味の濃いアリゴテの果実を実らせても、ほとんど価格に割り増しがつきませんでした。これでは、ブルゴーニュでの権勢拡大は望めません。

こうしたわけで、アリゴテはその兄弟のシャルドネのように、そのポテンシャルを評価される機会がなく、栽培地域を世界中の主要なワイン生産地に広げられませんでした。しかしながら、一部の東ヨーロッパや旧ソヴィエト圏の国々は例外で、現在もアリゴテがそれなりの規模で栽培されています。これは、旧ソヴィエト連邦時代の農業政策と関連があり、当時のソ連と、その影響下にある東ヨーロッパ諸国では、安価なワインの生産に力点が置かれていました。アリゴテには耐寒性があり、かつ収量も高い水準に保てるブドウなので、安ワインの大量生産を目標として掲げていたソ連政府の方針に合致したのです。その流れの中でアリゴテが、フランスから直接か、またはどこかの国を経由して持ち込まれ、いわゆる昔の「東側」、「共産圏」で広がっていったと推察されます。

4. アリゴテの主要産地

フランス ブルゴーニュ地方のAOCブーズロン

コート・シャロネーズ

ブーズロン(Bouzeron)は、ブルゴーニュ地方のコート・シャロネーズ地区(Côte Chalonnaise)に属する村名格のAOCで、アリゴテ専用のアペラシオンとして特別な地位を有しています。ここは、アリゴテの栽培に特化したブルゴーニュ地方で唯一の村で、とりわけ高品質なアリゴテの産地として認識されてきました。ただし、生産されるワインの価格が目立って高いかというと、必ずしもそうではありません。ピノ・ノワールやシャルドネの名手として知られる、コート・ドール地区の有名生産者が仕込んだワインのほうが、品種がアリゴテであっても、常識外れの高値が付けられやすいです。

ブーズロンはまず、1979年にアリゴテ専用のアペラシオンとして設立されました。そのときの名称は、「AOCブルゴーニュ・アリゴテ・ブーズロン」といいまして、いわゆる地方名アペラシオンであるAOCブルゴーニュの、特殊な一形態という位置づけになります。普通のAOCブルゴーニュは、この地方で認可されているブドウ品種ならなんでも使えますが、この「AOCアリゴテ・ブーズロン」は、法規制によりアリゴテ100%の白ワインでなければなりませんでした。そこから、村名格のAOCである「ブーズロン」に昇格したのが、1998年です。ブーズロン産のアリゴテ100%の白という点は、昇格前後で何も変わらなかったのですが、法定最大収量がヘクタールあたり60ヘクトリットルから45ヘクトリットルへと、大幅に切り下げられました。なお、ブーズロン村に加えて、東隣にあるシャセ・ル・カンプ村(Chassey-le-Camp)も、同じアペラシオンを名乗る権利を有します。

アリゴテが植わっているのは、東か南東を向いた急斜面の上部(標高270~350メートル)、薄い表土が白い色をした泥灰岩土壌のエリアです。この土地で生まれるアリゴテは、より強い味わい、凝縮感を有すると評価されています。「AOCブーズロン」を名乗れるのは、アリゴテに向く、より冷涼なこの斜面上部の畑だけで、比較的温暖な斜面下部では、シャルドネかピノ・ノワールが栽培され、ラベルに書かれるのは「AOCブルゴーニュ・コート・シャロネーズ」という格下のアペラシオン名。コート・ドール地区の事情(後述)とは対照的に、品種間の立場が逆転しており、なかなか興味深いです。ブーズロンで育つ古木のアリゴテは、ボージョレ地区と同じく株仕立て(ゴブレ)が採用されていて、自然な収量制限につながっています。

2024年現在、AOCブーズロンとして出荷されるアリゴテの畑は、わずか50ヘクタールの面積しかありません。これは、コート・ドール屈指の有名グラン・クリュ(特級畑)である、クロ・ド・ヴージョと同じ広さです。AOCブーズロンのアリゴテを仕込む生産者数も、25軒程度と、これまた決して多くはありません。

このアペラシオンを代表する生産者といえば、何と言ってもドメーヌ・ド・ヴィレーヌ(Domaine de Villaine)です。ここは、長きにわたってドメーヌ・ド・ロマネ・コンティ(DRC)の共同経営者を務めた「ミスター・ロマネ・コンティ」、オベール・ド・ヴィレーヌが個人所有するワイナリー(ド・ヴィレーヌは、2022年にDRCの共同経営者の座から退いています)。ブーズロンの名が高まり、村名格のAOCに昇格できたのは、1971年にこの村に畑を買ったド・ヴィレーヌの功績だと、誰もが認めています。ありがたいのは、ド・ヴィレーヌのアリゴテが、極めて高い水準で品質が安定しているにもかかわらず、財布に優しいという事実。一昔前と比べれば、倍ぐらいの価格にはなったものの、日本市場における小売価格は6000~7000円ほどで(2024年現在)、上述したドメーヌ・ドーヴネのアリゴテ(60万円)の、100分の1程度なのです。

余談ですが、ラルー・ビーズ・ルロワも、かつてはDRCの共同経営者を、ド・ヴィレーヌとともに務めていました。いろいろあって両者が不仲になり、ビーズ・ルロワがDRCを追い出される形で解任されたのが、1992年に起きた大事件でした。以来、このふたりは、ドメーヌ・ルロワ&ドメーヌ・ドーヴネ(※)対DRCという構図で、「世界一高価で、高品質なワインはどちらか」という戦いを続けてきました。ルロワ、ドーヴネ、DRCのワインはどの銘柄の価格も、1992年からの30年あまりで、少なくとも10倍には跳ね上がっていますが、その一方で、ド・ヴィレーヌが個人として生産するアリゴテは、いつまでも慎ましい価格のままです。

※ラルー・ビーズ・ルロワは、ふたつのドメーヌとひとつのメゾン(ネゴシアン)を運営しています。ドメーヌ・ルロワとメゾン・ルロワは、ラルー・ビーズとその姉ポーリーヌのほかに、日本の高島屋が主要な株主になっていますが、ドメーヌ・ドーヴネは、ラルー・ビーズが夫とともに、実質的な「個人所有」をする蔵です。

フランス ブルゴーニュ地方のコート・ドール地区

ブルゴーニュ地方では、北のシャブリ地区から南のマコネ地区まで、さまざまな場所でアリゴテが栽培されています。どの土地で造られても、アペラシオンは地方名格の「AOCブルゴーニュ・アリゴテ」になってしまうため、ラベルを見ただけでは畑がどこにあるのか、判然としません。とはいえ、ワイン愛好家の人気を集めるのは、やはり心臓部にあたるコート・ドール地区の、有名生産者が手がける銘柄になります(アリゴテの畑も、その造り手が暮らす村の近隣に位置するのが普通です)。

コート・ドール地区では、もちろん主役はアリゴテではありません。シャルドネとピノ・ノワールが、王と女王ですから、アリゴテに割り振られるのは、冷涼すぎて王・女王には向かない標高の高い土地や、水はけが悪く肥沃すぎて、優れたワインを生産しにくいソーヌ川近くの平野部の土地になります。しかし、歴史を紐解くと、割合近年まで、有名な畑にもアリゴテは植わっていたようです。19世紀後半のフィロキセラ禍までは、モンラッシェやコルトン・シャルルマーニュといった白のグラン・クリュ(特級畑)にも、アリゴテの列がかなりあったそうですし(酸味を増すために、混醸されていました)、後者については1970年代までアリゴテが残っていました。ほかにも、卓越した一級畑の白ワインで知られるムルソー村で、かつてはアリゴテが比較的盛んに栽培されていたようです。

生存競争に負けたアリゴテが、コート・ドール地区で最良の斜面を再び縄張りとする事態は、少なくとも近い将来には出来しそうにありません。しかし、もし卓越したシャルドネを生む特級畑や一級畑に、アリゴテが植えられたとき、いかほどのワインが生まれるかは、おおいに好奇心をそそられる問題提起でしょう。この問いへのひとつの答えが、モレ・サン・ドゥニ村のプルミエ・クリュ(一級畑)モン・リュイザンです。名門ドメーヌ・ポンソが所有するこの畑では、アリゴテのみが栽培されています。

この畑に現在植わるアリゴテは、80%が 1911 年に植えられた樹齢100年を超す古木で、残り20%は2006 年に植え替えられました。生まれ出る白ワインは、亜硫酸無添加、樽発酵、樽熟成で仕込まれた、本格的かつスケールの大きい逸物で、曰く言いがたい味わい深さ、密度があり、酸味はさほど目立ちません。日本市場での小売価格が3万円以上する高額品ではありますが、ブルゴーニュワイン好きならば、一度は試してみてほしい希少品です。

東欧と旧ソ連圏の国々(ルーマニア、ロシア、モルドバ、ウクライナなど)

前述のとおり、かつて共産圏であった一部の国々で、アリゴテは盛んに栽培されてます。2016年時点での栽培面積が、「本国」のフランスで1900ヘクタールほどなのに対し、モルドバが約7800ヘクタール、ルーマニアが約5800ヘクタール、ロシアも約5800ヘクタール、ウクライナが約4800ヘクタールと、どの国も原産国フランスの2倍から4倍ものアリゴテを育てているのです。ほかにも、ブルガリア、ジョージア、カザフスタンの各国において、数百ヘクタールの規模で栽培されています。

それぞれの国の気候によりますが、概してブルゴーニュ産のワインと比べ、酸味が控えめな味わいです。収量がブルゴーニュよりもはるかに高い場合が多く、品質はその収量と反比例しがちになります。ロシアでは、甘口ワインにアリゴテがブレンドされるそうです。

その他の産地(カナダ、スイス、カリフォルニア)

上記に述べた国以外では、アリゴテの栽培は極めて限定的です。旧世界ではスイス、新世界だとカナダにそれぞれ少し畑がありますが、2016年統計でいずれも50ヘクタールに達していません。このほか、アメリカのカリフォルニア州において、ピノ・ノワールで名高いカレラ・ワイン・カンパニー(Calera Wine Company)が、古樽で熟成させたアリゴテを生産するなど、ポツリポツリと、この品種に取り組む造り手が世界に点在しています。

5. サービス方法とフードペアリング、熟成能力

アリゴテといえば、なによりもまず、しっかりした酸味とミネラル感が印象深いワインです。食事のお供としては、なにかと役立ちやすいスタイルではあります。当チャプターでは、アリゴテを最大限に楽しむためのサービス方法と、推奨されるフードペアリングについて紹介します。

アリゴテのサービス方法

一般的なスタイルのアリゴテは、8〜10℃の温度で提供するのがよいでしょう。この温度帯では、ワインの爽やかさが強調され、ならではの快活な魅力を十分に堪能できます。一方、例外的ながらも、樽発酵や樽熟成を経たスケールの大きい銘柄であれば、10~12℃と、少し温度を上げてやるのがよいでしょう。グラスについても同様で、一般的なスタイルなら小ぶりな白ワイン用のタイプが最適ですが、スケールの大きい銘柄だと、その度合いに応じてよりボウル部分の大きいグラスを選びましょう。そうすれば、ワインと空気との接触面積が増え、アロマが豊かに開きます。デキャンターの利用も、これまた同じで、一般的なスタイルのアリゴテは、その爽やかさを保つためにも、わざわざデキャンタージュをする必要はありません。ただし、スケールの大きい銘柄については、ヴィンテージがまだ若いうちは、デキャンタージュによって香りが開いたり、固い味わいがまろやかになったりする効果が得られるかもしれません。まずはそのまま一口味わってみて、香りが閉じている、味わいが固いと感じたら、それからデカンターを用意するのでも遅くはないでしょう。

フードペアリング

アリゴテが備えるしっかりとした酸味とミネラル感は、魚介類全般との、素晴らしい相性を見せてくれます。天ぷらのような揚げ物と合わせるのもよいですし、鶏や豚の白身肉が素材の料理でも、あっさりめの味付けならば守備範囲の内です。地方料理との相性という点では、ブルゴーニュ地方の郷土料理であるジャンボン・ペルシエ(豚ハムとパセリのゼリー寄せ)が、鉄板の組み合わせになります。日本の家庭で作る料理ではないものの(とはいえ、レシピはウェブ検索で簡単に発見可能です)、フレンチ・ビストロに足を運べばこの国でも食べられますので、どうかお試しあれ。チーズは、どちらかといえばフレッシュ寄りのタイプが無難で、ブルゴーニュワイン委員会は公式ウェブサイトの中で、ロワール地方の山羊乳チーズであるクロタン・ド・シャヴィニョルの名前を挙げています。

そのフレッシュで辛口なスタイルから、単体でも食前酒になるアリゴテですが、この品種をベースにした有名なカクテルのキール(Kir)も、すばらしいアペリティフとして楽しめるでしょう。アリゴテのワインに、少量のクレーム・ド・カシス(ブルゴーニュ地方北部の都市、ディジョン名産の甘口リキュール)を加え、泡が抜けないように優しくステアすればできあがりです。このカクテルは、高名な聖職者で、かつ第2次世界大戦中のレジスタンスの英雄でもあったディジョン市長、カノン・フェリクス・キールが世に広めた「名作にして古典」。大戦後の厳しい経済状況下、ブルゴーニュワインの販売が伸び悩んでいた時期に、テコ入れの一矢となったという逸話もあります。酸のしっかりしたフレッシュな白ワインなら、どんな品種のものであれ、キールのベースにはなりえますが、ここはやはりアリゴテを使って、本流を名乗りましょう。

キールとクロタン・ド・シャヴィニョル

アリゴテの熟成能力

ほとんどのアリゴテは、そのスタイルや価格から判断されるのか、発売から1、2年のうちに飲まれてしまいます。実際、フレッシュさを最大限に楽しみたいのなら、早く飲むに越したことはないでしょう。しかしながら、優良生産者が丁寧に造ったアリゴテは、思いのほか長い瓶熟成に耐え、若いときとは異なる「大人の魅力」を発揮する事実も、知っておいて損はありません。白ワインの寿命を決める重要な要素のひとつに、酸味の強さがあり、その点でアリゴテは長命になりうる可能性が低くはないのです。ブルゴーニュワインの権威である評論家のジャスパー・モリスは、ドメーヌ・ド・ヴィレーヌが造ったアリゴテの1995年を、14年後の2009年に飲んだときの感想を、「ミラベルの果実風味をふんだんに含んだ、継ぎ目のない味わい」だったと、拍手喝采で述べています。ブルゴーニュワイン委員会もまた、公式ウェブサイトにおいて、アリゴテが瓶熟成するのを強調して書いていて、若いうちに支配的なブドウ品種の特徴が、瓶熟成によりテロワールの特徴に変化するというのです。どんなふうに様変わりするのか、何年か寝かせて試してみたいですね。

6. アリゴテのまとめ

「ブドウ品種に貴賤があるか?」というのは、生産者や評論家、ソムリエといったワインのプロたちや、シリアスな愛好家たちのあいだで、しばしば議論になる問いです。兄弟というだけで、光輝くシャルドネといつも比べられ、「賤」の烙印を押され続けたアリゴテほど、悲哀を味わってきたブドウ品種は、ほかにそうそうないとも言えます。

しかし、アリゴテには固有の品種個性があります。栽培特性にマッチした、優れた立地条件を備えた土地に植え、丁寧に樹の世話をし、摘み取られた果実を巧みに仕込んでやれば、どこに出しても恥ずかしくないワインが出来上がります。同じ畑から生まれる、シャルドネのワインより優れているかは、あえて問わないようにしましょう。シャルドネとは違った個性のワインになる、それだけで十分ではないでしょうか。また、なにも天上界での競い合いばかりを、気にする必要はありません。気軽に栓を抜けて、難しく考えずに楽しめるブルゴーニュワインというのは、今日それだけで価値があります。

ワインの世界もまた、「シャルドネ/カベルネ一直線」の時代を経て、多様性の時代を迎えています。アリゴテは、飲み手の視野と見識を広げてくれる、素敵なブドウです。手頃なボトルから高級品まで差別や区別をせず、あれこれ経験してみてください。

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