グルナッシュとは?~人気急上昇中の黒ブドウ!完全攻略

ワイン初心者でも飲みやすい豊かな果実味が魅力のグルナッシュ。かつて黒ブドウ栽培面積世界第1位に君臨するも、質の悪い安ワインの横行や国際品種の台頭により栽培面積は世界5位にまで激減。しかしただでは転ばないグルナッシュ。「量より質」への転換とともに地位を回復し、さらに温暖化にも対応できる品種として重要度が高まっています。シャトーヌフ・デュ・パプなど凝縮感のあるワインだけでなく、最近はピノ・ノワールを彷彿とさせるピュアなグルナッシュもトレンド。コストパフォーマンスの良いワインから高級ワインまでバリエーション豊かなのも嬉しいポイントなのです。多面的なグルナッシュの魅力を知れば、日常のワインライフがもっと楽しくなりますよ!

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【目次】
1.  再注目されるグルナッシュ
 1.1 グルナッシュの香りや味わいをおさらい
 1.2 地中海沿いで繁栄、古木にも注目
 1.3 醸造で変わるスタイル
 ● 単体かブレンドか、それが問題だ
 ● ピノ・ノワール的グルナッシュの台頭
2. グルナッシュのおすすめ産地
 2.1 フランス
 2.2 スペイン
 2.3 サルデーニャ島(イタリア)
 2.4 オーストラリア
 2.5 南アフリカ
3. グルナッシュは熟成する?
4. グルナッシュに合う料理・ペアリング
5. グルナッシュのまとめ


1. 再注目されるグルナッシュ

1.1 グるナッシュの香りや味わいをおさらい

グルナッシュ、グルナッシュ、グルナッシュ…。呟いてみると、なんだか丸みがあって豊満な女性が浮かんでくるような気がしませんか?名は体を表すではないですが、その実グルナッシュは、なんといってもチャーミングな果実香と芳醇な味わいが魅力。温かい場所を好むため糖度とアルコール度が上がりやすく、フルボディのワインが多いです。酸味と渋みは控えめで、とがった要素が少ないところも万人に好まれる理由といえるでしょう。

そして大きな特徴は、皮が薄く果皮に含まれる色素やタンニンが少ないこと。絞った時にきれいなピンク色かつ飲みやすいワインになるため、ロゼの原料としても好まれます。プロヴァンスタヴェルなどフランスの有名ロゼの原料は、実はグルナッシュが主体です。恐ろしいほどアルコール度数が上がりやすいためポートワインのような酒精強化ワインにも向きます。つまり赤ワインだけでなくロゼや酒精強化ワインも造れる万能な品種なのです。地中海で栄えるのも納得ですよね。

シラーとの違いを比較されることがありますが、シラーのほうが色も濃く酸もタンニンも強い骨太かつ野性的なワインになります。グルナッシュがシラーとよく一緒にブレンドされるのは、がっちりとしたシラーがグルナッシュに足りない部分を補ってくれるためです。また、グルナッシュを「南仏のピノ・ノワール」と呼ぶ人がいますが、涼しい場所を好み栽培の難しいピノ・ノワールと、基本的に温暖な場所でおおらかに育つグルナッシュでは、育つ環境が根本的に違います。洗練された淑女がピノ・ノワールだとしたら、グルナッシュは田舎のおかあさん的雰囲気といえるかもしれません。ただし最近は、色気のある透明感を備えたピノ・ノワールを彷彿とさせるグルナッシュも増えてきています。母だって女なのです。

ちなみに黒ブドウのグルナッシュを指す場合、正確にはグルナッシュ・ノワール(ノワールは黒の意味)といいます。変異種としてグルナッシュの白ブドウ「グルナッシュ・ブラン」や皮が灰色がかった「グルナッシュ・グリ」もあり、それぞれスパークリングや白ワインやロゼの原料に使われますので、合わせて覚えておきましょう。

1.2 地中海沿いで繁栄、古木にも注目

世界中のグルナッシュの97%が栽培されているのが、ヨーロッパと北アフリカ。グルナッシュの起源は、フランスとの国境沿いにあるスペイン北部アラゴン州という説が有力です(イタリアのサルデーニャ島という説もあります)。そこからスペイン全土、フランス南部、イタリア、クロアチア、ギリシャ、イスラエル、北アフリカなど地中海沿岸に広がったとされています。そのためグルナッシュはスペインでは「ガルナッチャ(ティンタ)」「アラゴネス」、イタリアでは「カンノナウ」と呼ばれるなど、シノニム(別名)が多いのも特徴です。

地中海といえば、夏は暑く乾燥し、冬は穏やかな地中海性気候。グルナッシュも温かい気候を好み、高温や乾燥に強いという特性があります。例えば、フランスのローヌ地方を見てみると、南北で主要なブドウがくっきりと様変わりします。ブルゴーニュにより近く大陸性気候である北ローヌはシラー主体、地中海性気候の南ローヌはグルナッシュ主体になるのです。近年問題となっている干ばつにも強いため、気候変動にも対応できる品種として世界で注目を浴びています。

ただし糖度とアルコールが上がりやすく、酸と風味の成熟度のバランスを取るのが栽培上で難しいポイント。エレガントなグルナッシュを造りたい生産者は、標高の高い場所を選んだり収穫期を少し早めたりして、酸を残す工夫をしています。

樹勢が強い品種のため、良い品質のブドウを取るには収量を取りすぎないことが大切です。土壌としても水はけの良い痩せた土地を好みます。グルナッシュの銘醸地、南ローヌのシャトー・ヌフ・デュ・パプの有名な土壌といえば、こぶしより大きい岩がごろごろ転がったガレ土壌。この丸石が昼間に太陽熱を蓄え夜に放射することが、ブドウの成熟を助け高品質なワインを産むとも言われています(最近では温暖化の影響でブドウが熟すため、そのありがたみは薄れているようです)。ちなみにシャトー・ヌフ・デュ・パプの土壌がすべてガレ土壌なわけではなく、かの有名生産者シャトー・ラヤスの畑は砂質であるなど、さまざまな土壌が分布しています。

ガレ土壌

樹勢が強く、かつ新梢が直立しやすいグルナッシュにおあつらえの仕立て方が、株仕立て。砂漠のような乾燥した土地に、ぽつぽつとブドウの株が自然に植わっているブドウ畑の写真を見たことがないでしょうか?

株仕立て

ブドウの樹間を広げた株仕立てにすると、樹が必要最低限の水分を確保しつつ自然に収量も抑えられ凝縮度の高いブドウになります。またブドウが葉の陰になり、日焼け等を防ぐこともできます。そしてグルナッシュの価値を上げているのが、なんといっても古木の存在。栽培面積が激減した時代に引き抜かれずに残った古いブドウの樹が、質の高いブドウを産む古木として尊重されています。最近トレンドの古木の株仕立てのグルナッシュのワインは、「古木」「株仕立て」かつ生産者によっては「無灌漑」という収量を抑える要素が重なることで、風味の強い高品質なワインになるのです。

1.3 醸造で変わるスタイル

単体かブレンドか、それが問題だ

ブドウの特性によって、ブレンドに向く品種とそうでない品種があります。例えばブレンドに向かない品種の代表といえばピノ・ノワール。高貴でけっして群れず、単体でこそ真価を発揮する孤高な存在です。グルナッシュはどうでしょうか?結論からいえば、他の品種とブレンドされることがほとんどですが、最近では単体のグルナッシュで素晴らしいワインも増えてきています。

グルナッシュがなぜブレンドに向くかというと、ワインの骨格になるタンニンと酸が少ない品種のため、他の品種で補った方がワインとして全体の完成度が高くなるのです。例としてグルナッシュの名産地を見てみましょう。南ローヌでは、シラーやムールヴェードルという黒ブドウと黄金トリオ=GSMをよく組みます。リオハでも、テンプラニーリョやマスエロ(カリニャンの別名)といった品種とブレンドされることがほとんどです。プリオラートは非常に凝縮感の強いグルナッシュを産む産地ですが、ここではカリニャンやカベルネなど国際品種ともブレンドされます。

単体として輝く例外的な存在が、低収量のブドウから造られる凝縮感のあるグルナッシュ。先に紹介したシャトー・ラヤスはグルナッシュ100%です。自然に低収量になり味わいに複雑味の出る古木のグルナッシュにも逸品を多く見つけることができます。

ピノ・ノワール的グルナッシュの台頭

グルナッシュは酸化しやすいため、不必要に空気にさらさないよう醸造には注意が必要です。醸造容器には古樽を用いるのが伝統的で、ステンレスタンクやコンクリートタンクなど嫌気的な容器も好まれます。新樽の香りはグルナッシュのチャーミングな香りを凌駕してしまうと考える向きが強いですが、生産者によりけりです。安価なワインにはボジョレーのようにカーボニック・マセレーションも使われることもあります。かつて量産ワインで評判を落とし「ジャンクグレープ」と揶揄されていた可哀そうなグルナッシュが、再び輝くきっかけを造ったのがロバート・パーカー。パーカーといえば、濃厚でパワフルなワインがお好き。シャトーヌフ・デュ・パプやプリオラートといった凝縮感のあるワインが一躍世界のスターになりました。軽やかなワインが好まれる傾向にある最近では、トレンドの造りとしてよく見かけるのが、ピノ・ノワールでよく用いられる低温浸漬や全房発酵といった手法を使い、よりフレッシュでデリケートな香りや味わいを引き出すこと。人的介入を抑えた造りをモットーにしている自然派の生産者に多く、こういったワインは、非常にピュアで繊細で、ピノ・ノワールを彷彿とさせるものがあります。ご存じのとおりピノ・ノワールは今、値段が高騰中なので、ピノ・ノノワール的なエレガントなグルナッシュを探してみるのも面白いですよ!

2. グルナッシュのおすすめ産地

2.1 フランス

まず正統派グルナッシュを探すなら、おフランスに行きましょう。フランスではメルローに続き栽培面積2位を誇るグルナッシュ。特に南ローヌやラングドックはグルナッシュの一大産地で、GSMブレンドの美味しいワインがゴロゴロあります。高級ワインならシャトーヌフ・デュ・パプを筆頭に、その周辺のジゴンダスヴァケイラスなどの村が優れたワインを生み出します。安旨ワインなら、広域のコート・デュ・ローヌラングドックもおすすめの産地。昔は、それこそ安かろう悪かろうのワインも多くイメージを損ねたラングドックですが、ワインの原料過多が問題になり、適さない土地から多くのブドウ樹が引き抜かれました。生産者の意識も量から質へ変わり、非常にコストパフォーマンスに優れたワインがたくさんあります。ロゼを選ぶなら、プロヴァンスは鉄板!グルナッシュ主体に様々な品種とブレンドされ、軽やかで飲み心地の良いロゼでバカンス気分を味わえます。フランス3大ロゼワインのひとつタヴェルも、グルナッシュ主体のワイン。こちらは途中までブドウの皮を漬け込み発酵させるため、色も濃く、味わいもしっかりしたワインになります。

2.2 スペイン

グルナッシュの原産地スペイン。栽培面積はテンプラニーリョに続き2位の重要な品種です。スペインを代表するグルナッシュの高級ワイン産地が、バルセロナ南部の街タラゴナから内陸に入ったプリオラート。人里離れた山奥でひっそりとブドウが栽培されていましたが、1980年代後半以降、革命を起こしたのが「プリオラートの4人組」と呼ばれる生産者のグループ(ルネ・バルビエ、アルバロ・パラシオス、カルロス・パストラーナ、ホセ・ルイス・ペレスの4人)。新樽を使いカベルネなどの国際品種とブレンドしたモダンなスタイルのワインを造り始め、一躍世界のスーパースターになりました。極端な低収量のブドウからは非常に凝縮感のある長熟スタイルのワインが生まれます。

フランスの国境ナバラも昔からのガルナッチャの伝統産地。特にロゼが有名で、スペインのスーパーのワインコーナーにはナバラ産のロゼが数ユーロから売られています。ただしガルナッチャのロゼは最近減少傾向で、栽培面積もテンプラニーリョに抜かれました。お隣のリオハでは、ガルナッチャはテンプラニーリョやマスエロ(カリニャン)等とブレンドされてリオハの赤ワインになることがほとんどです。

トレンドして注目されているのは、やはり古木のガルナッチャ。ガルナッチャの原産地とされるアラゴン州のカラタユドやカリ二ェナ、カンポ・デ・ボルハには古木が多く残るほか、マドリードの南にあるグレドス山脈当たりも最近のトレンド。標高の高い場所で育った透明感のある味わい深いガルナッチャは、ピノ・ノワール好きにもおすすめです。

2.3 サルデーニャ島(イタリア)

イタリアでグルナッシュといえば、サルデーニャ島。イタリア20州のうちサルデーニャ島でのみ黒ブドウの栽培品種が異質で、グルナッシュやカリニャンが多く栽培されているのです。非常に複雑な歴史を持つサルデーニャ島。14世紀初頭から4世紀にわたりアラゴン=カタルーニャ王国に支配されていた時代にブドウの行き来があった可能性が高いです。ちなみにサルデーニャの人たちは、品種の起源はサルデーニャだと考えており、最近ではイタリアの学者によりサルデーニャ説が支持されるなど、いまだに議論が続いています。グルナッシュはここではカンノナウと呼ばれ、「カンノナウ・ディ・サルデーニャ」が赤ワインのDOCで有名です。

2.4 オーストラリア

オーストラリアといえばシラーズが有名ですが、シラーとよくブレンドされるグルナッシュも少量栽培されています。ローヌにならってGSMブレンドで造られたフルボディのワインが主流ですが、最近は単体としてのグルナッシュにも光が当たっています。特にオーストラリア南部のバロッサ・ヴァレーマクラーレン・ヴェイルが銘醸地。バロッサ・ヴァレーには樹齢150年以上と、現存する世界最古のグルナッシュが残っています。古木から取れたブドウにはグルナッシュ単体でも十分なパワーがあり、熟成にも向く濃厚で力強いワインとなります。オーストラリアでも近年温暖化の影響が問題となっているため、高温や干ばつに強いグルナッシュの重要度はますます高くなるでしょう。

2.5 南アフリカ

グルナッシュの産地として外せないのが南アフリカ。特に最近評価がうなぎのぼりなのがスワートランドという産地です。温暖で乾燥した砂漠のような土地はローヌ品種に向き、グルナッシュもメイン品種。「スワートランド革命」が起こった2000年以降、イーベン・サディなどカリスマ生産者が素晴らしいワインを産むホットな産地(気候だけでなく)として注目されてきました。特にデイヴィッド・ナディアは、白はシュナン・ブラン、黒ブドウはグルナッシュのみにフォーカスした生産者。彼らの人的介入を抑えた古木のグルナッシュのワインは、複雑な妖艶さをたたえながらも、すーっと体にしみ込みながらも味わい深さ。あらためてグルナッシュの魅力を再認識させてくれます。

3. グルナッシュは熟成する?

熟成に必要な要素(アルコール度数、タンニン、酸、フレーバー)のうち酸やタンニンといった骨格に欠けるグルナッシュは、基本的にあまり熟成に向きません。若いうちに飲んだほうがその身上であるチャーミングな果実味を楽しめることがほとんどです。もちろん例外もあります。ほかの品種とブレンドして骨格が強化されたワインや、単体でも凝縮感のあるワインには長熟向きのものも。例えばシャトー・ヌフ・デュ・パープやプリオラート、オーストラリアの古木のグルナッシュなどは年月を経ると、エロティックな妖艶さをまとい、また若さだけでない違った魅力を見せてくれるでしょう。

4. グルナッシュに合う料理・ペアリング

多様なスタイルのワインになるグルナッシュは、ペアリングとしても選び方が無限大。ロゼの使い勝手の良さは、もはや説明不要でしょう。渋みの少ないフルーティーな赤ワインは、スパイシーなインド料理と合わせてみるのもおすすめ。よりしっかりした飲みごたえのあるタイプは、ローストビーフラムハンバーグビーフシチューなどお肉料理全般にばっちり。南仏にはカスレという白いんげん豆やお肉を煮込んだ郷土料理があるのですが、こちらにグルナッシュ主体のブレンドワインを合わせるのは定番です。甘口の酒精強化ワインは、チョコレートのデザートによく合いますよ!

カスレ

5. グルナッシュのまとめ

太陽が産んだ地中海の女王グルナッシュ。チャーミングだったり妖艶だったり…くるくると表情を変える多面性を魅せてくれる魅力的なブドウです。コストパフォーマンスもよく、デイリーワインにもぴったり。ぜひあらためてグルナッシュに着目し、美味しいワインを探してみてくださいね!

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