「ヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)」「ヴァン・ド・パイユ(藁ワイン)」など独自のワインを産出する、個性豊かなフランスの産地ジュラ地方。オーガニックや自然派ワインも多く、今ソムリエやワイン愛好家たちから熱い視線を浴びている穴場の産地なんです。今回はそんな注目のジュラワインについて、学んでいきましょう!
【目次】
1. ひそかなブームのジュラワイン、その特徴は?
2. 雨にも負けずオーガニック栽培、ジュラの気候風土
3. 品種も個性爆発、独自品種とブルゴーニュ品種
4. ジュラの代名詞、黄ワインと藁ワイン
5. 押さえるべき7AOC
6. 美食家にも愛されるわけ、マリアージュのすすめ
7. ジュラワインのまとめ
1. ひそかなブームのジュラワイン、その特徴は?
ブルゴーニュの東、スイスとの国境沿いにあるジュラ地方。ジュラ山脈を越えればスイスという、緑豊かな秘境の産地です。ワインの名声も高く、この地を代表するヴァン・ジョーヌは、かつてのオーストリア宰相メッテルニッヒに「世界最高のワイン」と言わしめたほど。しかしジュラワインの生産量は少なく、栽培面積はフランス最小です。19世紀末には約2万haにまで畑が広がりブルゴーニュと同程度のワインを生産していましたが、1850年以降に起こったフィロキセラ被害や戦争のどさくさに紛れ、現在は約1/10規模に縮小してしまいました。
一方、今世紀に入って、プロや愛好家の間では “知る人ぞ知るワイン”となっているジュラワイン。もともと生産量が少ない上に8割が国内消費なので、流通量は少ないですが、日本でも自然派のワインバーや、お洒落なレストランのペアリングでもたまに見かけるようになりました。
その魅力といえば、小さい産地ながら個性的なワインが揃うこと。有名なヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)やヴァン・ド・パイユ(藁ワイン)だけでなく、コスパに優れたスパークリング(クレマン)から辛口白、ロゼ、赤、甘口、はたまた酒精強化ワイン(マクヴァン・ド・ジュラ)から蒸留酒(マール・ド・ジュラ)まで勢ぞろい。辛口白ワインは長期間酸化熟成させる伝統的なスタイルだけでなく、軽く酸化熟成の風味を帯びた中間的なスタイル、最近はフレッシュでモダンなスタイルも増えています。
オーガニック栽培率が高く、自然派ワインも多いのも人気の理由。キツネのラベルでおなじみのドメーヌ・ボールナールは特に有名ですし、日本人夫婦が造る青空のラベルのドメーヌ・デ・ミロワールも大人気です。
2. 雨にも負けずオーガニック栽培、ジュラの気候風土
「ジュラシックパーク」でおなじみのジュラ。地質年代の呼称であるジュラ紀というのは、このジュラ山脈に分布する石灰岩層にちなんでいるんです。その名のとおり恐竜全盛期のジュラ紀にまで遡る石灰質土壌と泥灰土がジュラには分布し、その組成は「道一つ挟んで土壌が変わる」といわれるほど複雑です。
気候は、年間平均11~13度と穏やかな大陸性気候。ブルゴーニュとも似ていますが、もう少し涼しくじめじめしていて、冬は厳しい寒さになります。日照時間は年間約1700~1900時間と少なめですが、ブドウ畑の多くがジュラ山脈の標高240~400m、南/南西向き斜面に広がるため陽当たりは良く、さらに昨今の気候変動によりブドウが熟しやすくなっているようです。
特徴的なのが、比較的雨が多い(年間1100㎜程度)こと。特に春先から初夏に雨がよく降り、開花や結実が阻害されて収量に影響が出ることも。雨が多い年はカビ病対策も大切になってきます。春先の霜も栽培上のリスクになるため、垣根仕立ても地面から少し高めにする生産者が多いようです。
そんなフランスで3番目に雨の多い県にもかかわらず、ジュラではオーガニック栽培がさかんで、オーガニック栽培は約20%(フランス平均の約2倍)。ビオディナミの造り手も多く、ピエール・オヴェルノワ、ステファン・ティソやジャン・フランソワ・ガネヴァといった大家が、自然派ワイン造りをけん引してきました。
3. 品種も個性爆発、独自品種とブルゴーニュ品種
白はサヴァニャン、黒はプールサールやトゥルソーといった地ブドウに加え、シャルドネやピノ・ノワールといったブルゴーニュ品種も多く栽培されています。
白ワインの栽培面積が多いのはシャルドネ、サヴァニャンの順。ジュラの約半分の面積を占めるシャルドネは、ここではムロン・ダルボワとも呼ばれ、10世紀にはすでにジュラで栽培されていました。酸化熟成させない白ワインはブルゴーニュとも似たスタイルになるため、ブルゴーニュ好きにもおすすめです。2012年には、ヴォルネイの名生産者ドメーヌ・マルキ・ダンジェルヴィーユもジュラに進出。その理由が、パリのレストランでラベルを隠して提供されたジュラのシャルドネを、ブルゴーニュのものと間違えたことで、ジュラのテロワールに興味を惹かれたからなんだそうです。
そしてジュラが誇る品種といったら、なんといってもサヴァニャン。現地ではナチュレとも呼ばれ、ヴァン・ジョーヌの原料になる超重要品種です。酸化させない通常の白ワインを造る場合は、シャルドネとブレンドされることもあります。若いワインはレモンや林檎のような風味を持つすっきりとしたワインに、樽熟成するとヘーゼルナッツのような香り高いワインになります。
サヴァニャンは非常に古くから存在するブドウで、実は片親はピノ・ノワールという高貴な生まれ。多くの品種の祖先でもあり、シュナン・ブランやソーヴィニヨン・ブランもサヴァニャンの子どもなのです。変異種もたくさんあります。実はゲヴュルツトラミネールもサヴァニャンが突然変異したもので、遺伝的にはサヴァニャンと同じというから、驚きですよね!
また、サヴァニャンはオーストラリアの南部でも少量植えられていますが、実はこれはアクシデントによるもの。流行品種であるアルバリーニョの苗木を植えていたつもりが、苗木商が表記ミスをしてしまったそうで、2009年にオーストラリアのアルバリーニョ=サヴァニャンと判明しました。しかしその後ヴァン・ジョーヌの製法を取り入れた独創的なワインもできており、その臨機応変さは、さすがオーストラリアです!
黒ブドウが多いのはプールサール、ピノ・ノワール、トゥルソーの順。ブルゴーニュの花形品種ピノ・ノワールは、ジュラの赤では単一でもブレンドでも使われます。
プールサールは果皮が薄いため、赤ワインにしても非常に淡く、ロゼか思うほど。赤い果実が繊細に香る、酸味のしっかりとした軽やかなワインになります。プールサールだけに、夏のプールサイドで飲むにはぴったりのワインといえそうです。
かたやトゥルソーは、胡椒やスミレなどスパイシーな香りを持ち、色も濃くパワフルな熟成向きワインになります。晩熟なので冷涼なジュラでは熟しにくく、栽培面積は5%ほど。植える場所を選び、たいてい標高が低くて暖かいスポットか、砂利が混じるような水はけの良い斜面などで育ちます。赤ワイン生産の多いアルボワ周辺で主に栽培されていますが、最近はカリフォルニアの北部でも栽培が広がっています。
4. ジュラの代名詞、黄ワインと藁ワイン
ジュラといえば、最も高貴なワインが「ヴァン・ジョーヌ」。独特の風味と味わいを持つ珍しい酸化熟成の風味を持つ白ワインで、キュルノンスキーも世界5大白ワインのひとつに認めた偉大なワインです。ジュラ地方全体で造ることができますが、なんといっても後述するシャトー・シャロンが銘醸地として有名です。
特殊なのは、発酵終了後のワインを樽で寝かせる際に、補酒をしないこと。ワインが蒸発すると、ワインの表面に産膜酵母という白い膜(ヴォワール)ができます。ワインを継ぎ足さず長期熟成すると、ワインがその膜に守られながら適度に酸素に触れ、ナッツやスパイス、はちみつなど複雑な風味を持ったなんとも独特な風味が生まれるのです。ヴァン・ジョーヌの規定は最低6年(うち最低5年は産膜酵母下で熟成)と極めて長いため、高価なのも納得ですよね。ヴァン・ジョーヌは見た目にもわかりやすく、一般の750mlボトルではなく620mlの「クラヴラン」と呼ばれるボトルに入っています。これは1リットルを大樽にいれたとき、熟成後に残っていた量が620mlだった、というのが理由だそうです。
ちなみにこの産膜酵母の下で熟成するワインとしては、スペインのシェリーも有名。フィノやマンサニージャといった軽い辛口タイプのシェリーはこの方法で造られます。シェリーとヴァン・ジョーヌの大きな違いは、ヴァン・ジョーヌは酒精強化をしないこと。かつシェリーのソレラシステムのように若いワインが継ぎ足されることがないので、産膜酵母の栄養分が枯渇し、シェリーの産膜酵母(フロール)に比べると、ヴァン・ジョーヌの産膜酵母(ヴォワール)は薄くなります。アルコール度数はといえば、約15度のフィノ・シェリーに対し、ヴァン・ジョーヌは13.5%~15%とシェリーに比べるとやや低めになることが一般的です。
もうひとつの特徴的なワインは、「ヴァン・ド・パイユ」。早めに収穫したブドウ(シャルドネ、サヴァニャン、プールサール)を藁のむしろやスノコの上で陰干しにし、ブドウ状態になったものを発酵させた甘口ワインです。発酵後は、古い樽で最低18ヵ月以上熟成させます。糖度の高い干しブドウを発酵させるので、アルコール度数も14%以上、残糖も70~120g/Lと高くなります。ヴァン・ド・パイユは375mlの「ポ(Pots)」という容器に入れて販売されます。
ヴァン・ジョーヌもヴァン・ド・パイユも、良いものだと50年以上は熟成する長期熟成向きワインです。
5. 押さえるべき7AOC
スパークリングワイン、酒精強化ワインや蒸留酒も含めると、ジュラには7つのAOCがあります。特にアルボワ、シャトー・シャロン、レトワール、コート・デュ・ジュラは1936~37年とフランスでも初期に制定された歴史あるAOCです。それぞれみていきましょう。
アルボワ
ジュラ地方の中心部となる北部のアルボワの町周辺に広がる、比較的大きなAOC(780ha)。アルボワは、アルコール発酵の原理を解明したルイ・パスツールの出身地として知られています。すべてのタイプが生産可能ですが、生産量の7割が赤の産地。またピュピヤン村で収穫・醸造されたワインは別格とされ、「アルボワ・ピュピヤン」を名乗ることができます。
シャトー・シャロン
他の地域と異なりヴァン・ジョーヌのみを生産するジュラ最小のAOC(54ha)で、ヴァン・ジョーヌのいわばグランクリュ的存在です。AOCの名前は、ジュラではじめてヴァン・ジョーヌ製法を生み出したとされるシャトー・シャロン修道院に由来しています。
製法にも厳しい規定があり、一般のヴァン・ジョーヌの収量制限が60hL/haであるのに対し、シャトー・シャロンの収量はその半分の30hL/haで、収穫時のブドウの糖度にも高い基準が求められます。ヴィンテージが良くない年は、「シャトー・シャロン」名で出荷されず、例えば1974年、1980年、1984年、2001年ヴィンテージはシャトー・シャロンのヴァン・ジョーヌは生産されていません。
レトワール
シャトー・シャロンAOCに隣接する小さなAOC(73ha)で、ヴァン・ジョーヌとヴァン・ド・パイユを含む白ワインのみを生産できます。ちなみにAOC名になっているレトワールは、土壌中に含まれる星型の小さな化石に由来しています。
コート・デュ・ジュラ
アルボワ、レトワール、シャトー・シャロンを内包する広域AOC。赤・ロゼ・白・ヴァン・ジョーヌ、ヴァン・ド・パイユすべての生産が可能ですが、白ワインの生産が多いAOCです。
そのほかスパークリングワイン、甘口の酒精強化ワイン、蒸留酒のAOCとしては以下があります。
クレマン・ド・ジュラ
ジュラワイン全体の1/4を占めるのがスパークリングワイン。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で、瓶内熟成期間は最低9カ月です。ジュラの主要5品種に加え、ピノ・グリの使用も可能です。比較的安価でコストパフォーマンスが良いので、泡好きなら覚えておきたいワインです。
マクヴァン・ド・ジュラ
ジュラの主要5品種から造られる甘口の酒精強化ワインです。発酵前か発酵初期段階のブドウ果汁に、度数52%以上の蒸留酒(フランシュ・コンテ産)を加え、最低10ヵ月以上熟成させたもの。白、ロゼ、赤があり、地元では食前酒として愛飲されています。
マール・ド・ジュラ
ジュラ地方のAOCワインの搾りかすから造られる度数40%以上の蒸留酒(最低24ヵ月熟成)。ジュラの主要5品種+ピノ・グリのうち、サヴァニャンを含む最低3品種をブレンドする必要があります。
6. 美食家にも愛されるわけ、マリアージュのすすめ
緑豊かな山の産地では牧畜もさかんで、あの有名なコンテチーズもモンドールもジュラ地方の名産です。また、ジュラを代表する名物料理といえば、地元のブレス鶏をヴァン・ジョーヌで煮込んだコック・オー・ヴァン・ジョーヌ。当然、熟成チーズやクリーミーな鶏の煮込みなどは、ジュラのワインと抜群の相性です。
ヴァン・ジョーヌなど酸化熟成タイプのワインにおすすめしたいのが、ちょっと高度な魚介類とのマリアージュ。魚卵やカラスミ、アワビの肝ソースなどワインと合わせるのが難しい食材でも、酸化熟成由来の独特の風味が生臭さを感じさせず、驚きのマリアージュを見せてくれるでしょう。中華やお寿司とも相性が良いのでおすすめです。
7. ジュラワインのまとめ
テロワールを大切に、誇りを持ってワイン造りに取り組むジュラの生産者たち。その個性こそが、多くの愛好家やプロを惹きつける理由であることがおわかり頂けたと思います。ぜひワインショップやレストランでジュラのワインを見かけたら、試してみてくださいね!