「ウンブリアの有名なワインは?」と聞かれてパッと名前が出てくる方は、なかなかいらっしゃらないのではないでしょうか。緑豊かな丘陵地帯から生まれるオルヴィエートやサグランティーノは中世から愛されてきたワインですが、トスカーナの影に隠れて知名度はいま一つ。意外と飲む機会がないのではないかと思います。今回の記事は、そんな貴方のために、ウンブリアワインについて徹底的に解説していく内容となっております。読み終わる頃には、また一つイタリアワインに詳しくなっているはずです!
【目次】
1. ウンブリアのワインとは?
2. ウンブリア州の気候と土壌
3. ウンブリアワインの主要品種
4. ウンブリアの有名ワイン
● モンテファルコ・サグランティーノDOCG
● トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァDOCG
● モンテファルコ・ロッソDOC
● オルヴィエートDOC
5. ウンブリアの郷土料理とおすすめペアリング
6. ウンブリアの観光名所
7. ウンブリアのまとめ
1. ウンブリアのワインとは?

イタリアワインの世界地図を広げると、トスカーナやピエモンテなどの有名産地に目を奪われがちですが、その間にひっそり息づくワイン産地がウンブリア。海に面していないイタリア唯一の州で、州都ペルージャは古代エトルリア時代から栄えたイタリアでも重要な都市でした。州の70%を占める緑の丘陵地帯は、「イタリアの緑の心臓」と称されるほど、美しく豊かな気候風土を持っています。中世から名声を博したのが、南部のラツィオ州にまたがって造られるオルヴィエート。黄金色の甘美な甘ロワインが教皇に愛されてきましたが、1960~70年代の辛口白ワイン流行に伴い、現在はすっきりとした辛口白ワインが主流になっています。
北部のペルージャ周辺モンテファルコでは、サグランティーノという黒ブドウの固有品種が修道士によって栽培され、陰干しブドウを用いた甘口のパッシート・ワインがミサ用に長年ひっそりと造られてきました。サグランティーノは1960年代までは絶滅が危惧されていた品種ですが、そのポテンシャルに着目したアルナルド・カプライが、1990年代初頭に品種の魅力を活かした辛口赤ワインで国際的注目を集めます。1992年に無事DOCGに昇格、産地も390ha(2022)まで復活し、現在は辛口から甘口まで個性あるワインが造られています。

モンテファルコ サグランティーノのブドウ畑
そのほかウンブリアワインで押さえておきたい生産者が、ルンガロッティとカステッロ・デッラ・サラ。創業1950年、トルジャーノにある家族経営のルンガロッティといえば、ウンブリアを代表する名門ワイナリーです。創業者のジョルジュ・ルンガロッティ氏は、1970年代から革新的なワイン造りを実践、トスカーナと並ぶ優れたワインを生み出し、ウンブリアワインの可能性を広げました。
カステッロ・デッラ・サラは、トスカーナのアンティノリが所有するワイナリーです。「ウンブリアから熟成向きの偉大な白ワインを造りたい」と、1980年代後半にリリースしたのがチェルヴァロ・デッラ・サラ。シャルドネとグレケットをブレンドし、地品種の個性を加えながらもモダンで国際的なワインを打ち出しました。モンラッシェを意識したそのワインは、「イタリア白で最高峰の1本」とも称されます。
2. ウンブリア州の気候と土壌

イタリア半島の中央部に位置し、アペニン山脈を挟んで東はマルケ州、北西はトスカーナ州、南はラツィオ州と接するウンブリア州。トスカーナに似て、夏は暑く冬はかなり冷え込む穏やかな大陸性気候です。山脈の懐にある産地は、州の中央を流れるテヴェレ川、イタリアで4番目に大きいトラジメーノ湖など豊かな水源にも恵まれています。年間降水量は800mmとしっかりありますが、生育期には雨が比較的少ないため、ブドウの病気も防げます。一方、収穫期の雨と湖の影響で湿気が高くなるため、ボトリティス菌の繁殖によって甘口の貴腐ワインの生産も可能です。
アペニン山脈の麓から湖や川の流域まで多様な微気候に畑が広がるウンブリアは、土壌もさまざま。山脈の麓には石灰岩と泥灰土、テヴェレ川の流域には砂利質の沖積土が広がります。州の南側は、ラツィオ州内にある「Est!Est!Est!」という有名な白ワインのDOCと隣接しますが、このあたりは火山の噴火でできた火山性土壌が広がり、オルヴィエートのワインにもスモーキーなニュアンスが加わると言われます。
3. ウンブリアワインの主要品種
気候や地理的条件もトスカ―ナと共通するウンブリアでは、ブドウ品種も似たメンツが並びます。栽培面積は上から順に、サンジョヴェーゼ(黒)、トレッビアーノ・トスカ―ノ(白)、グレケット・ディ・オルヴィエート(白)、メルロ(黒)、サグランティーノ(黒)、カベルネ・ソーヴィニヨン(黒)。中部イタリアでメジャーなイタリア品種&国際品種のほかに、ウンブリアにユニークなブドウが2つありますね。それが「オルヴィエートDOC」の原料となる白ブドウのグレケット、「モンテファルコ・サグランティーノDOCG」の原料となる黒ブドウのサグランティーノです。
サグランティーノ

ペルージャ近辺に端を発する、ウンブリアが誇る黒ブドウの固有品種がサグランティーノ。香りはブルネッロ、タンニンはネッビオーロと比較される、パワーのあるブドウです。しっかり熟すには太陽光がたっぷり必要な晩熟品種のため、畑は日当たりと水はけの良い斜面、標高220~470mで栽培されます。寒さやカビにも強いためパッシート・ワインに向き、長年にわたり主に甘口ワインが造られてきました。実際、1977年に最初にDOCに認められたのは「サグランティーノ・パッシート」―甘口のDOCでした。
サグランティーノの特徴といえば、強烈なタンニンにあります。エドモンドマッハ財団によると、そのタンニン量はカベルネ・ソーヴィニヨンやタナ、ネッビオーロ等と比較しても最多という研究結果も。そのため甘口にしたり、モンテファルコ・ロッソDOCのようにサンジョヴェーゼとブレンドしたりと、飲みやすくするための工夫がなされてきました。近年は醸造技術の進歩により、サグランティーノのみの辛口でも、その個性がいかんなく発揮された、果実味を活かしたワインができるようになっています。
当然長期熟成向きの品種で、熟成サグランティーノは、ブラックベリーやプラムの濃縮した果実味、黒コショウ、カカオ、土の香り等が複雑に絡み合います。最も優れたヴィンテージは、数十年以上の熟成能力を持つとされています。
グレケット

正式名称は「グレケット・ディ・オルヴィエート」。グレコやグレカニコのように名前はギリシャ由来を彷彿とさせますが、由来ははっきりわかっていません。厚い果皮と高い酸を持ち、病気に強く収穫期も引っ張れるため、ヴィンサントなど甘口ワインにも向く品種です。トレッビアーノやシャルドネともよくブレンドされますが、個性を前面に打ち出すため、カンティーナ・ライナのようにグレケット100%でリリースする造り手も。ワインは、柑橘や白い花、ハーブの香りに、ナッツのような香ばしい香りが特徴です。ちなみにグレケットとつくブドウに「グレケット・トーディ」もありますが、こちらはエミリア・ロマーニャの品種ピニョレットと同一とされ、グレケット・ディ・オルヴィエートとは異なる品種です。
その他の白:プロカニコとトレッビアーノ・スポレティ―ノ
イタリアで最も栽培されている品種トレッビアーノ。いろいろな種類や呼び方があり、ウンブリア州で栽培されているトレッビアーノ・トスカ―ノは「プロカニコ」の名で親しまれています。
近年注目されているのが、トレッビアーノ・スポレティ―ノ。スポレートの街周辺で栽培されているトレッビアーノの一種で、トレッビアーノ・トスカ―ノ(プロカニコ)よりも個性があり、金柑やオレンジピール、ミネラルなど独特の風味が魅力的です。
4. ウンブリアの有名ワイン
モンテファルコ・サグランティーノDOCG
1992年にDOCGに昇格した歴史あるワインで、サグランティーノ100%から造られます。甘口・辛口もどちらも法定熟成期間は33カ月。辛口赤ワインに関しては、うち最低12カ月は木樽での熟成が義務付けられています。イタリアの他の産地同様、昔は長期のマセレーションが主流でしたが、最近は過剰なタンニンの抽出を防ぐためにマセレーションも2~3週間が一般的。アルナルド・カプライなどは新樽を用いて長期の樽熟成を行うなど、伝統と革新のバランスをみごとに取り、サグランティーノの魅力を最大限に引き出しています。
トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァDOCG
トレジャーノDOCより1991年に独立したDOCGが、「トレジャーノ・ロッソ・リゼルヴァ DOCG」。サンジョヴェーゼ主体(50~70%)で、リゼルヴァは少なくとも 3 年間熟成(うち6 カ月の瓶内熟成)する必要があります。DOCGに認定されているのは、エトルリア時代から存在していたトルジャーノ丘陵地帯で造られる「リゼルヴァ」のみ。ワインにはエレガントな赤い果実と花の特徴が加わり、十分な熟成ポテンシャルを持ちます。偉大なトスカーナのワインとも堂々と肩を並べるルンガロッティの「ルベスコ・ヴィーニャ・モンテッキオ トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァ」はぜひ飲んでみたい1本です。
モンテファルコ・ロッソDOC
サンジョヴェーゼ主体(60~70%)にサグランティーノ(10~15%)をブレンドした赤ワイン。サグランティーノによって独自のスパイシーさと力強さが加わった、ウンブリアらしいワインです。モンテファルコ・サグランティーノよりも早飲みしやすく、伝統料理にもマッチするワインとして注目されています。
オルヴィエートDOC
南に接するラツィオ州にまたがって造られる白ワイン。グレケットとプロカニコ(地元のトレッビアーノ)を主体(60%以上)とした辛口スタイルが主流です。もともと甘口が有名でしたが、1960~70年代に辛口白ワインの人気が高まると、トレッビアーノ主体のあまり個性のない白ワインも横行。その状況に危機感を抱いたカッライアやデクニャーノといった生産者により、グレケットの良さを活かしたウンブリアらしいオルヴィエートが見直されています。
5. ウンブリアの郷土料理とおすすめペアリング
地元の食文化と共に発展してきたイタリアワイン。ウンブリアにも豊かな郷土料理が根付いています。海のない州ですが、湖や川のおかげで独特の淡水魚料理が発達しており、トラジメーノ湖畔では、鯉やマス、ウナギを使った料理なども頂けます。名物料理の鯉のポルケッタ(香草を詰めた丸焼き)に地元産の白ワインなんて、ボトル1本があっという間に空になりそう!黒トリュフを筆頭に野生きのこ、豆、スペルト小麦、ナッツ類、そしてチーズ作りもさかんなため、食の楽しみは無限大。きのこのリゾットに、ナッティーなグレケットなんていかがでしょう。
サグランティーノの強靭なタンニンは、同じく強烈な風味を持つウンブリアの食材と相性ばっちり。実はウンブリアが発祥のポルケッタ(豚の丸焼き)、鳩やキジ、ウズラ、羊、熟成サラミなどジビエ類とは、力強く複雑なサグランティーノの辛口赤ワインが風味をみごとに引き立てます。

ポルケッタ
オルヴィエートは美食の街として有名で、特に黒トリュフやチョコレートが名産です。ウンブリアのご当地パスタであるもちもち太麺の「ウンブリケッリ」とオルヴィエートの白ワインは、抜群の相性!黒トリュフをたっぷり削ったパスタも、現地に行ったらぜひ試したい逸品です!最後にサグランティーノの甘口ワインは、チョコレートやデザートにも毛布のようにぴったり寄り添ってくれます。
6. ウンブリアの観光名所
ローマからも近いウンブリアは、実は観光名所にも恵まれた穴場です。フランチェスコ修道会の創設者である聖フランチェスコが12世紀に生まれたのが北部にある古都アッシジ。聖フランチェスコ教会には貴重なフレスコ画が現存し、今でも世界中からカトリック教会の巡礼者が絶えない世界遺産の街です。

アッシジ 聖フランチェスコ聖堂
ウンブリアの州都ペルージャは、中田英寿が活躍したサッカーチームの本拠地で、耳馴染みのある方も多いと思います。古代ローマ以前にイタリア中部で栄えた古代国家エトルリアの人々が丘の上に築いたペルージャは、中世に交易で栄えた城塞都市。いまもなお中世の街並みが残り、紀元前4~3世紀に遡るエトルリア門は堂々とそびえたつ街のシンボルです。ペルージャはジャズでも有名で、「ウンブリア・ジャズ・フェスティバル」には世界中から人が訪れます。

ペルージャ旧市街
オルヴィエートワインを産むオリヴィエ―トも、古代エトルリア人が凝灰岩の丘の上に築いた古い歴史を持ち、「世界一美しい丘の上の街」とも呼ばれています。美食の街だけに美味しいレストランも多く、お散歩に疲れたら、地元の郷土料理と地元産ワインに舌鼓を打つ……イタリアらしい旅の楽しみですね!

オルヴィエート
7. ウンブリアのまとめ
徐々に国際市場での注目も集めてきたウンブリアワインですが、限られた生産量から、依然として「知る人ぞ知る」存在です。逆に相当なワイン好きでも飲む機会は少ないため、ワイン会などにもっていけば注目を集めること間違いなし。これを機会に、「緑の心臓」が産むイタリアの秘宝の魅力を、ぜひ解き明かしてみてくださいね。