言わずと知れたカリフォルニアの有名生産者のリッジ・ヴィンヤーズ。ヴァーチャル・ワインメーカー・ラウンド・テーブルと銘打ってワイナリーの幹部が一堂に介するウェビナーを昨年の3月から始めている。紹介されるワインは残念ながら日本未発売だが、ありがたいことにウェビナーの内容はYouTubeで一般にも公開してくれている。カリフォルニアの幅広い産地からの最上のブドウを使ったワイン造り。栽培からアメリカン・オーク、野生酵母へと話は広がる。
文/織田 豊
【目次】
①栽培における選択
②シラーとヴィオニエの混醸
③アメリカン・オークの守護者
④どうして野生酵母を使うの?
⑤まとめ
①栽培における選択
スタンフォード大学出身者による血統書つきの面々がワイナリー運営を1960年代初頭に始めた。1976年のパリスの審判でモンテベロが第5位。2006年の再戦では第1位。英国デキャンター誌で「醸造家が選ぶ最も尊敬する醸造家」トップ5に選ばれることになるポール・ドレーパーが1969年に参画した。
モンテベロがあるサンタ・クルーズ・マウンテンズの他にもアレキサンダー・ヴァレー、ドライ・クリーク・ヴァレー、パソロブレスなど様々なカリフォルニアの産地のブドウからワイン造りをする。産地を横断的に把握した、現場に即した語り口なので深みがある。
新しくワイン造りを始めた、コントラ・コスタはサン・パブロ湾を挟んでナパ・ヴァレーの南東にあり、深い砂質土壌。株仕立てでカリニャンを栽培している。栽培担当副社長のデイヴィッドが語る。
https://www.youtube.com/watch?v=T0tS9lSqPhg&t=1150s
「砂質土壌のおかげでフィロキセラの被害が無いので、古木に恵まれている。雨が少ないのだが、地中深くに根を張ったカリニャンは暑さにも強くて酸も落ちない。」
1860年代から猛威を振るったフィロキセラはチリやオーストラリアの一部などには被害を与えていない。ギリシャのサントリーニ島も火山性の砂質土壌で粘土や有機物も極めて少なくフィロキセラの被害にあっていない。だから、こうした産地ではフィロキセラ対策の台木は必須では無く、貴重な自根の古木が残っている。
自根だと台木のブドウ樹とは成長が違うとデイヴィッドは言うが、COOのジョンはクールだ。「多くの人が自根の方が表現力のゆたかなワインになると言うけれど、おなじブドウ樹を自根のものと台木に接ぎ木をしたもので成長を比べないとなんとも言えないな。」
ロックパイルではジンファンデルの栽培を始めた。この地はリットン・スプリングスと同じドライ・クリーク・ヴァレーAVA内の北部にある。240メーターほどの標高にある事が特徴だ。
「ほかのドライ・クリーク・ヴァレーの土地と違って昼は涼しくて夜は暖かい。強い日照にもかかわらず、ブドウの成熟はおだやかに進む。日が沈んでも酵素が活動していて果実の生理的な成熟が続くんだ。」
仕立ては、ボルドー品種を栽培しているモンテベロで取り入れている垣根仕立てではなくて水平コルドンを採用している。
「ジンファンデルには日照量が多すぎるのは良く無いので樹冠で日差しを抑えている。リットン・スプリングスや、向いのアレキサンダー・ヴァレーAVAにあるガイザーヴィルでは株仕立てにしているけれど、コルドンには良い所がある。」デイヴィッドの話に熱が入る。
ひとつの面にブドウが並んでくれるので、剪定、収穫に便利だし、機械化も容易だと解説する。
一方で、GSM(グルナッシュ、シラー、ムールヴェードル)のローヌ品種が栽培されているリットン・スプリングスでは株仕立てが多い訳だが、シラーは垣根仕立てにしている。「シラーは茎が長く伸びてしまって風に弱いんだ。」GSMブレンドでは有名産地であるラングドック・ルーションでもトラモンタンやミストラルといった強い風の影響もあって、シラーは他の2品種に比べると平均樹齢が短い。樹勢は強いが、生育環境には敏感な所がある。