あの人のワイン人生vol.11 ~ 片寄雄啓さん「東日本大震災もコロナも乗り越える飲食店づくり」

「自分だけが幸せになっても、何も面白くないじゃないですか。」そう笑顔で語る片寄雄啓さんは、新橋を中心に飲食店を5店舗展開し、いま20年という節目を迎えようとしています。

「家庭環境が複雑だったこともあり、学生時代から仲間に拠りどころを求めていました。そのなかで、共に支え合うことの大切さを学んだのです。」

飲食店の生存率は厳しく、1年で半数が姿を消し、10年続く店はほんのわずか。そのなかで20年もの間、飲食店を続けてきた片寄さん。その歩みには、単なる経営ノウハウでは語れない、彼ならではの哲学がありました。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. 広告代理店から飲食業へ
2. 飲食業界への挑戦
3. 東日本大震災と飲食業の未来
4. コロナ禍の試練と新たな挑戦
5. 20年の軌跡とこれからの夢


1. 広告代理店から飲食業へ

子どもの頃から飲食に興味がありました。小学生の卒業文集にも「将来は飲食店をやりたい」と書いたのを覚えています。家庭の事情で中学生の頃から自炊する機会も多く、冷蔵庫にあるもので工夫して料理をするのが好きでした。

そのような中で大学を卒業し、広告代理店に就職。TVCMの制作、メディアミックスの販促計画、商品開発・調査など、多岐にわたる業務を担当しました。医薬品メーカー・エーザイの「チョコラBB」や「ナボリン」などのトータルコミュニケーションを手がけ、多忙ながら充実した日々を過ごしていました。

広告代理店時代の片寄さん(左)

しかし、27歳のときに転機が訪れたのです。ヘッドハンティングを受け、新たな道を考えていたのですが、そのときにふと、「広告業界では十分評価も受け、やり切ったのではないか」と思い始めたのです。

「だったら、やったことのないことをやろう」小さい頃から抱いていた飲食店経営の夢がよみがえり、決意が固まりました。その背中を押したのは、ウルフルズの「ええねん」。“後悔してもええねん また始めたらええねん” この歌詞が、自分の人生を大きく変えたのです。

2. 飲食業界への挑戦

「よし、ピッツァをやろう!」と決意しても、未経験者がすぐにキッチンに立たせてもらえるほど甘い業界ではありませんでした。当時はナポリピッツァの技術を学べるスクールもなく、窯の普及も進んでいませんでした。そのため、営業しながら技術を教えてくれるピッツェリアを探し、1カ月30万円を支払って修業しました。

開業資金の問題も大きな課題でした。最低でも1000万円が必要とされる中、手元にあるのは300万円。銀行に借り入れを申し込むものの不安が大きかったのですが、広告代理店時代の先輩や友人たちが協力してくれ、最終的に1200万円を集めることができました。家もなく、お店で寝泊まりしながら朝まで営業し、1年で全額を返済しました。

搬入される石窯

3. 東日本大震災と飲食業の未来

開業して数年後、ソムリエ資格を取得するためにアカデミー・デュ・ヴァンに入校しました。しかし、その2週間後に東日本大震災が発生しました。

3月は歓送迎会シーズンで、予約は満席でしたが、その日からすべての予約がキャンセルされ、売上はゼロになりました。スタッフも動揺し、「もうダメかもしれない」と思いました。

わたしは両親の地元が仙台であり、家族や友人の中にも被災した人がいました。被災地での清掃作業やボランティア活動に励みました。その経験を通じて、社会貢献の重要性を強く感じるようになりました。同時に、「何があっても潰れないお店作り」を目指すべきだと考えるようになりました。助け合える仲間がいることの幸せ。それを形にするのが、自分の役目なのかもしれません。

4. コロナ禍の試練と新たな挑戦

2020年のコロナ禍では、新橋に5店舗を構えていましたが、オフィス街の新橋はゴーストタウンとなり、やむを得ず3店舗を閉店しました。

しかし、「止まらない」ことを選びました。不安でいっぱいの仲間たちの「生きるモチベーション」を保つために、子ども食堂(江東区で子供にお菓子やピッツアを配布)や母子家庭向けの無料弁当配達を行い、スタッフの士気を保つようにしました。苦境の中でも「みんなで生き残る」ことを最優先に考え、従業員一人ひとりと向き合いながら、新たな道を模索しました。

その中で、新橋以外のエリアに進出するアイデアが生まれ、代々木、日暮里、豪徳寺にも店舗を構えました。また、ワインだけでなくクラフトビールにも業態を広げ、スタッフの経験やスキルを活かせる場を増やしていきました。

仲間とともに挑戦を続けたこの決断が、現在の事業の柱になっています。

豪徳寺のアトリエ・ド・テリーヌ・メゾン・オケイ

5. 20年の軌跡とこれからの夢

これまでに、わたしの店から17人のスタッフが独立し、自分の店を持つようになりました。スタッフのソムリエ資格取得を、勉強的にも経済的にも応援しています。今年は7名も受験する予定です。勤勉なムードが醸されて店にもいい影響が出ています。

そして2025年、ついに20周年を迎えます。その記念イベントとして、長年の夢だったロックフェス「OKEI FESTIVAL」を開催します。脱サラ、未経験、20代で独立することは夢のようでしたが、20年を迎えることができました。このフェスを通じて、諦めなければ夢は叶うことを周囲に伝えていきたいと考えています。

また2025年4月には、新店舗「ビストロオケイヤ(仮)」をオープン予定です。新橋の馴染みの場所に建つ新しいビルに入り、大好きなオーストリアワインやナチュラルワインを楽しめるビストロスタイルの店となる予定です。自分だけが成功するのではなく、仲間と共に夢を叶えること。それが、私の目指す経営の形です。


夢を形にする力

20年の歩みの中で、片寄さんは数々の困難を乗り越えながらも、「仲間と動き続ける」ことで成長を遂げてきました。その姿勢は、逆境の中でも前を向き続ける力を示しています。

夢を叶えることは一度きりではなく、何度も挑戦し続けることなのだと、片寄さんの歩みが教えてくれます。これからの挑戦にも、大いに期待したいと思います。

プロフィール

片寄雄啓(かたよせたけひろ)
飲食業経営・ビール醸造業・ワインショップなど。代表取締役社長

  • 星座:いて座
  • 血液型:O型
  • ワイン以外の趣味:サッカー、音楽フェス
  • 好きな食べ物:イチゴ、納豆
  • もし生まれ変わったら何になりたい?:三浦知良
  • 酔っぱらったらどうなる?:無限に食べだす
  • 人生を変えたワイン:カルフォルニア・カレラ ピノ・ノワール

株式会社okey:5店舗運営中!

  • 東京・新橋 ビストロ・居酒屋
    BISTORO OKEIYA (仮) 2025年4月末オープン予定

豊かな人生を、ワインとともに

(ワインスクール無料体験のご案内)

世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

ワインスクール
アカデミー・デュ・ヴァン