佐藤陽子のブルゴーニュ便りvol.1 霜害からの復活、ただいまフロレゾン(開花)まっ盛り!

皆様、ご無沙汰しております。2015年までアカデミー・デュ・ヴァン講師を務めておりました佐藤陽子です。
ワインの勉強のため渡仏し、ブルゴーニュ地方ボーヌの専門学校にてブドウ栽培とワイン醸造の職業資格、その後、ブルゴーニュ大学で醸造技術士の資格を取得いたしました。
コート・ドールで様々な経験を経て、2019年の収穫よりボージョレにおります。
私の目から見たコート・ドールとボージョレの畑作業や醸造、生活など、ブルゴーニュの情報を皆様にお届けいたします。

文・写真/佐藤 陽子


【目次】

1.  4月、ブルゴーニュとボージョレを襲った霜害
2.ブルゴーニュのエブルジョナージュ、ボージョレのモンダージュ
3.フロレゾン(開花)、そしてヌエゾン(結実)へ
4.フランスのCOVID状況は?


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1.4月、ブルゴーニュとボージョレを襲った霜害

霜の被害を受けたシャルドネの芽

4月9日、シャンパーニュ、シャブリを含めブルゴーニュ、ボージョレに霜が降り、多くの畑が被害にあいました。
霜が降りると予想された前日、畑で働く同僚に「陽子、明日の朝は気を付けてね」と言われ、(当然何もできませんでしたが)朝一で畑に出てみると、昨日まで緑色に生き生きと芽を付けていた畑が一面灰色となりました。あまりの変容に、「どうしよう……」と言葉が漏れるほど。昨年の収穫を豊作で終え、冬の剪定も寒さと腰の痛さと闘いながら頑張り、暑さが続く春を迎え、芽吹きが始まった矢先の寒波でした。

今年は2月、3月に晴天が続き、気温も高い日が多かったためブドウの芽の発育も早く、ヴィニュロン達は「今年も収穫早くなるかもね!ヴァカンスなしだね!」と冗談を言っていたほどでした。が、一夜にして「今年の収穫は最悪だ」と、話題が一転。

毎年、天気予報から霜が降りるだろうとされる日を予想し、村々の組合が対策を立てます。今年も朝5時くらいからコート・ドール、特にグラン・クリュの畑では藁や蠟燭を焚き、村を挙げて対策を施しました。流石にグラン・クリュの畑はお金をかけて畑を守ります。

蝋燭の費用だけでも1ヘクタール2,500ユーロ以上。気流を変えるためにヘリコプターを飛ばし、巨大扇風機を整備し、命がけで畑を守りました。その模様は、仏国内のニュースになり、ヴィニュロンの苦労と今年のワイン高騰が話題になりました。つまり、この労力が皆様のお手元に届くワインの価格に上乗せされることになります!(温暖化もブルゴーニュワインの価格高騰の要因ですね)ブルゴーニュのワインが高くなるわけですね。

特に、モンラッシェのグラン・クリュの対策はシャブリやシャンパーニュよりも壮大なものでした。シャルドネはピノ・ノワールよりも発育が早いため、芽吹きも早く、白ワインの銘醸地は必死に畑を守るしかありません。暗闇の中に灯る蝋燭の火は芸術的ともいわれますが、極寒の早朝から蝋燭や藁に火をともすヴィニュロンの仕事は計り知れません。煙だらけの村の道には視界不良のため通行禁止の標識がおかれるほど。

煙を焚き、気流を促すことで霜を防いだり、寒さで樹液が凍ったブドウの芽に直射日光が当たらないように煙で架空の雲を作り、芽を保護します。こちらでは、「芽が焦げないように対策する」と言われます。

しかし、今回、同じシャルドネを生産するコート・シャロネーズやマコン地区も霜の被害を受けました。モンラッシェではないので、霜対策や天災に費用をかけることはありません。特にシャルドネ主体のマコン地区は被害が多く、8割の収量減が予測されています。

霜の被害の結果は5月の中旬に生き残った芽が伸びる頃に出ました。死んでしまった芽は灰色のままですが、樹液が行き渡ることができ、生き残った芽が緑を見せてくれるようになりました。

しかし、伸びてきた芽は葉をつけるものの、ブドウの実を付けているものが少ない状況。「8割がた駄目だね」と話していたヴィニュロンの言葉が理解できました。実を付ける芽がなくては収穫量減少。コート・ドールも被害を受けた畑が多く、実を付けた枝がどのくらいあるかが今年の収穫、ワインに影響を及ぼすことになります。

 

2.ブルゴーニュのエブルジョナージュ、ボージョレのモンダージュ

ボージョレの赤砂の石灰岩土壌の若木のガメイ

芽が出てきたと同時に、芽かきの作業が始まりました。生き残った芽の中でも必要のない芽やブドウの実をつけていない芽を落とす作業です。

コート・ドールでは「エヴァジヴァージュ」や「エブルジョナージュ」と呼ばれる作業。
エブルジョナージュは必要のない芽を落とすという意味合いが強く、「間引き」のニュアンス。

ブドウの芽は時々、主な芽(良い芽を付ける主役の芽)の横にわき役ともいうべき、主役がだめだった時のために準備されている芽があります。それらの2つの芽が同時に芽吹きをした場合、不要な芽や実を付けていない芽を落とします。樹勢を守り、残した芽に樹力を集中させ、良い房を作るため。

コート・ドールのギヨ仕立ては短梢2芽、長梢6芽という規定がありますので(もちろん任意ですので、正直なところ、作り手さん次第で規定以上に芽を付けている樹もありますが…)経験から良い実を付ける芽を厳選し、樹勢に合わせて丁寧に芽かきをしていきます。

私はちょっと神経質すぎて残す芽を選定するのに迷ってしまい、仕事が遅くなってしまい、ある程度フランス人気質の仕事のやり方でないと駄目だと怒られています。畑の作業はその年の一度限りの作業になりますので、やはり1年や2年では学ぶことのできない経験が必要な作業だと感じています。

ここボージョレでは芽かきの作業を「モンダージュ」と言います。モンダージュはブドウの樹をきれいにする、掃除をするというニュアンスが強く、両手を使って幹を撫で、不要な芽の出芽を制御し、幹をきれいにします。ボージョレの主要品種がガメイで、ゴブレ(株)仕立てが多いため、幹の掃除に重点が置かれます。

しかし、今年の芽かきの作業は天候に恵まれて順調に育った昨年とは異なりました。
昨年は剪定をした芽から規定数の発芽があり、芽かき作業は樹勢の強い樹が余力で発芽させた芽を除去する程度で、作業に時間をかけることはありませんでした。

今年は4月上旬の霜と寒波の影響でブドウの樹の成長が制御されたうえ、死んでしまった芽が多く、ブドウの樹はその力を吐き出すべく、幹の下部や普通では考えられない幹の気孔部分から発芽を始めました。要は、必要でない芽(グルマン)がブドウの樹の至る所から芽を出したのです。そのため昨年の倍以上の時間を要しました。

また、晴天による乾燥が続いた4月から一転、5月に入ってから雨の日が続きました。ブドウの樹にとっては恵みの雨ですが、畑作業は中断。その間は醸造所でのウイヤージュ(補填)作業で、畑を眺めるだけの日々が続きました。

5月下旬、ようやく太陽が戻ってきました。自然は正直です。太陽の光が当たると一気に芽が伸び始め、枝となる準備、実を付ける準備に入りました。

私の作業している畑はビオ(有機農法)の畑となり、雑草が絶えません。唯一てんとう虫が癒しになります。主に午前中にしか姿を現しませんが、ブドウの樹の守護神としてありがたく手に乗せて、作業の邪魔にならないように逃がしてやります。(ブドウの樹の天敵の虫を食べてくれます。なので、ビオワインのシンボルによくてんとう虫が起用されていますね。)

ビオの畑のテントウ虫

 

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3.フロレゾン(開花)、そしてヌエゾン(結実)へ

現在、フロレゾン(開花)とヌエゾン(結実)真っ盛りです!先週まで真っ青だったブドウの芽の赤ちゃんに、白い穂が付き始めました。

ブドウの花が咲きだすとヴァンダンジュ・オン・ヴェール(夏の剪定作業)が本格始動です。
気温も30度を超え、朝6時から作業開始。涼しい早朝から作業を始め、猛暑時は休むという労働体制です。ただ22時まで明るいヨーロッパ、体内時計が狂います。

ボルドー液の散布も終わり、ロニャージュ(摘芯)の作業も始まりました。ブドウの穂先を切り、ブドウの枝の成長を止め、樹勢をブドウの実に集中させるように仕立てる作業です。大きな畑はトラクターが入りますが、傾斜の畑は手作業です。私の顔より大きい剪定バサミを持って胸の位置程に伸びた枝を切ります。二の腕強化にはなりますが、筋肉痛がつらいです。

 

4.フランスのCOVID状況は?

最後にフランスの「COVID」状況に関して。
こちらはすでに高齢者の2回目のワクチンが進み、年齢問わず希望者に接種できるほどの体制。外国人も受けられる状況になりました。

レストランやバーのテラスが開放された5月19日、もちろん畑仕事の後にバーに向かいました。午前中の雨が嘘のように夕方には太陽が顔を出し、テラスは満席!多くの人が開放感に歓喜し、友と交わすビールやワインを楽しみ、大声で喋り、歌い、長い間のストレスを発散し、19時までの外出許可の時間を満喫していました。

そして、6月9日からレストラン、美術館などの規制が緩和になり、23時までの外出が可能となりました。買い物や街の中でフランス人が真面目にマスクをしている姿に驚きますが、(傘もささないのがフランス人なので)「やればできるじゃん!」と、感心!
耳にするニュースも明るい話題が多くなり、街中や人々の会話に活気が戻ってきたように感じます。

引き続き、こちらの状況をお伝えいたしますね。A bientôt !

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佐藤 陽子/Yoko Sato

2013年〜2015年、アカデミーヴァン講師を務め、2015年9月より、ワイン勉強のためブルゴーニュのボーヌに留学。2016年Brevet Professionnel Agricole « Viticulture Œnologie » 取得。2017年Diplôme université de technicien en Œnologie取得。シモン・ビーズやプティ・ロワで研修を行い、2019年よりボージョレChâteau de Bel Avenir、Domaine François 1er にて畑仕事、醸造所の仕事に従事。

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