ワインには個性があります。
同じブドウ品種であっても、同じ国や地方で造られていても、生産者によって味わいや香りは変わります。
古くからブドウを栽培し、土地柄やブドウの特徴を活かしながら改良に改良を重ねた結果、生産者ごとにそれぞれ個性のあるワインが造られているのです。
ただ、ワイン好きの方で、カベルネ・ソーヴィニョンやピノ・ノワールなど、ワインのブドウ品種をいくつか知っていても、生産者まで知っている方は少ないでしょう。
正直なところ、ワインを気軽に楽しむだけであれば、そこまで知る必要はないのかもしれません。
ですが、並々ならぬ想いでワイン造りに取り組んできた生産者がいます。
それだけでも頭に入れておくとワインを味わうときの感動がより一層深まるでしょう。
……ちょっと生産者について知りたくなってきませんか?
そこで今回は生産者に関する基礎知識として、ワインやブドウの生産者を表す「ドメーヌ」、「ネゴシアン」、「ブドウ栽培家」、「シャトー」についてご紹介します。
【目次】
では、上の目次に沿って説明します。
ドメーヌ(Domaine)とは
ドメーヌとは、フランスのブルゴーニュ地方で使われる言葉で、自分でブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを行う生産者のことを指し、その多くは家族で経営を行っています。
自分の畑を所有していたり長期契約で畑を借りたりして、ブドウの栽培を行いますが、他の国や地方のワイン生産者と比べると小規模で、数ヘクタール程度の土地しか使えないという場合がほとんどです。
現在のブルゴーニュ地方ではわずかな面積の畑にも数人から数十人の所有者がいるのが普通となっています。
敷地が狭いので収穫できるブドウの量は少なく、生産・出荷できるワインの量も少ないのがドメーヌ産ワインの特徴です。
市場に流通する価格は他のワインと比較して高くなる傾向にあるのですが、その理由は小規模生産による高コストや希少性が高まることだけではありません。
ブドウ栽培から始まり瓶詰めに至るまで、すべて同じ生産者が行うこともあり、熱い想いでワイン造りに取り組み、生産者のイメージする個性あふれるワインを造られるからです。
たゆまぬ努力で品質向上や品質維持に努め、良質のブドウが収穫できる年もそうでない年も消費者により良いものを、との想いで造る生産者が多いからこそ人気を集め、価格も高くなる傾向にあるのでしょう。
ネゴシアン(Négociant)とは
ネゴシアン(ワイン商)とは、自分で畑を持たず、ブドウ栽培家やドメーヌからブドウや樽・タンクに入ったワインを購入して、醸造・熟成・アッサンブラージュ(ブレンド)して瓶詰めし、販売する形態をとる生産者のことです。
瓶詰めされたワインを購入し、ラベルだけを貼って出荷することもありますし、ネゴシアンであっても自分で畑を所有してワインを造ることもあります。
規模が大きく、ワインを大量に生産するのが特徴です。
ブドウの良し悪しは天候に大きく左右されるために、あまり出来の良くないブドウとなってしまう年もあります。
しかし、ネゴシアンの生産するワインなら他の生産地のワインとアッサンブラージュすることができるため、ワインの品質を安定的に保つことができます。
関連記事:ワイン通なら知りたい!アッサンブラージュ(Assemblage)とは?
ブドウ栽培家とは
ブドウ栽培家とは、ワインの醸造を一切行わず、ブドウ栽培だけをしている農家のことです。
基本的にはブドウを売るよりも醸造してワインにしてから売るほうが収入を得られますが、ワイン造りには時間と手間、それから生産するための設備コストがかかりますし、専門的な知識と技術も必要となります。
そのため、収穫したブドウや、ブドウの果汁をネゴシアンに売る生産者もいます。
ただ、生産者によっては収穫したブドウの一部をネゴシアンに売って、それ以外を自分で醸造まで、あるいは瓶詰めまでしてネゴシアンに売ることもあります。
シャトー(Château)とは
シャトーとは、フランスのボルドー地方で使われる言葉で、自分でブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを行う生産者のことを指します。
ドメーヌのボルドー地方版と考えると良いかもしれません。
ただし、ボルドー地方の場合にはドメーヌとは違い、非常に大きな規模で1つの畑を所有しているのが特徴です。
シャトーという言葉には、「城」や「大邸宅」といった意味があり、広大な土地を所有して大規模な設備を備えていることを表しています。
生産者の種類 | 概要 |
ドメーヌ | 自分でブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを行うブルゴーニュ地方の生産者 |
ネゴシアン | 自分で畑を持たず、ブドウ栽培家やドメーヌからブドウや樽・タンクに入ったワインを購入して、醸造・熟成・アッサンブラージュ(ブレンド)して瓶詰めし、販売する形態をとる生産者 |
ブドウ栽培家 | ワインの醸造を一切行わず、ブドウ栽培だけをしている農家 |
シャトー | 自分でブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを行うボルドー地方の生産者 |
どうしてブルゴーニュ地方の生産者が使える畑は小規模なの?
ブルゴーニュ地方の生産者の使える畑が小規模な理由を知るには、フランスの歴史を見ていく必要があります。
分かりやすくするために細かな部分は省略してお伝えしていきます。
時は1789年のフランス革命にさかのぼります。
革命以前、ブルゴーニュ地方の畑の大半は教会や王侯貴族が所有していました。
その畑はすべて革命政府によって没収された後、1791年に競売によって民間に払い下げられます。
しかし、当時の民間人は畑をまるごと手に入れるだけの財源を持たなかったために、1つの畑を分割して購入することになりました。
19世紀初頭にナポレオン法典が公布されるまでは、長男のみが親の持つ土地をすべて相続していましたが、法典によって親の財産は子ども全員に均等に相続することが義務となります。
そのため、代が進むにつれて畑が細分化されることになったのです。
そして、細分化した畑の所有者には自分だけでワインを造るための設備や販売経路がなく、資金もなかったために、ネゴシアンにブドウやアルコール発酵後のワインを売ることで生活を成り立たせていました。
価格を安く設定されてもネゴシアンに売らなければ生活できない状況となりました。
ネゴシアンへの反撃・ドメーヌ元詰め運動とは
当然のことながら、ネゴシアンに不満を持つブドウ栽培家もいました。
売買交渉の主導権を握られているだけでなく、優れたブドウやワインを生産しても他のものとアッサンブラージュ(ブレンド)されてしまい、いくら良質なものに仕上げても自分の仕事が消費者の手元まで届くこともなく、評価もされないことに不満を感じていたのです。
1930年代に入り、反撃ののろしが上がります。
ネゴシアンの支配から独立するために、ブドウ栽培家たちが資金を出し合ってワイナリーを建設し、自らワインを瓶詰めして独自のラベルを貼り、販売するようになりました。
これをドメーヌ元詰め運動と言います。
問題となるのは販売経路ですが、これを助けたのは運動の仕掛人で最大の支援者ともなった、フランス最高のワイン誌の創始者レイモン・ボードワンと、アメリカ人輸入業者のフランク・スクーンメーカーです。
ボードワンは雑誌で褒めたり、親交のあるレストランに紹介したりし、スクーンメーカーはアメリカに持ち込んで熱心に普及活動を行い、ブドウ栽培家が協同して築き上げたワイナリーを助けました。
次第にワイナリーを立ち上げるブドウ栽培家が出てくるようになった結果、生産者がイメージして、努力して造り上げたワインが評価されるようになります。
1960年代前半にはコート・ドール地区で造られるワインの15%がドメーヌ産となり、1990年代になると50%近くまで増えました。
ネゴシアンが支配していた頃には、ブルゴーニュ地方のワインを選ぶときには畑や村の名前で判断するのが当然でしたが、ドメーヌ元詰め運動の後には生産者名もワインを評価するうえで重要なポイントとなってきたのです。
次にブルゴーニュワインを買うときには生産者にも注目してみてください。
ワイン選びのときには生産者をどうやって見分ける?
ワインを選ぶ際に、生産者も知るためにはエチケット(ラベル)の表記を見ましょう。
ドメーヌで生産されたワインのラベルにはミザン・ブテイユ・オ・ドメーヌ(「Mise en Bouteilles au Domaine」)、ミズ・オ・ドメーヌ(「Mise au Domaine」)と書かれています。
ネゴシアン産のものにはミザン・ブテイユ・オ・ネゴシアン(「Mis en bouteille au négociant」)、シャトー産のものにはミザン・ブテイユ・オ・シャトー(「Mis en bouteille au château」)という表記があります。
関連記事:ワインのラベルをエチケットという理由とは
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まとめ
ブドウやワインの生産者の「ドメーヌ」、「ネゴシアン」、「ブドウ栽培家」、「シャトー」についてお分かりいただけましたでしょうか。
ワインを選ぶときには、種類やブドウ品種、造られた国・地域だけでなく、生産者にも注目してください。
さらに、ここに紹介した知識を手掛かりとして、どこのドメーヌなのか、どんな背景があるのかといったことも調べながらワイン選びをしていってみてはいかがでしょうか。