ワイン造りではワイナリーの倉庫に大量の「樽」が並ぶ光景をよく見かけますが、どうして木製の樽が使われるのかご存知ですか?
木樽で熟成させると、樽に含まれる成分がワインに抽出されたり、樽の香りがワインに移ったりしてワインの味わいと香りに変化を加えます。
ワインの味わいや香りがより複雑になり、飲む方の楽しみを広げてくれます。
ただ、ワインの熟成は樽の代わりにタンクが使われることもあります。
それにも理由がありますので、今回は樽熟成についてご紹介するとともに、タンクが使われる理由についてもお伝えしていきます。
【目次】
では、上の目次に沿って「ワインの樽熟成」を説明します。
ワインの熟成には木樽とタンクが使われる
ワインの基本的な製造工程としては、ブドウから搾汁した後、発酵と圧搾をし、熟成させます。
その後、澱引きして瓶詰めをするという流れになります。
このときの「熟成」の段階で木樽やタンクが使われます。
赤ワインは木樽を使って熟成させ、白ワインはステンレスやコンクリートを使ったタンクで熟成させることが多くあります。
一部、ボジョレー・ヌーヴォーなどの若飲みタイプの赤ワインはタンクを使い、ブルゴーニュ産の白ワインなど高級な白ワインの場合には木樽を使って熟成させます。
白ワインの熟成をタンクで行う理由とは?
どうして多くの白ワインはステンレスやコンクリートのタンクで行うのか、その理由は白ワインの性質にあります。
ワインには、何十年にも渡って熟成させるタイプと、数年熟成させるタイプ、醸造してすぐに飲む若飲みタイプの3種類あります。
このうち、何十年にも渡って熟成させることのできる寿命の長いワインにはタンニン(渋味成分)が多く含まれており、このタイプのワインは、空気を浸透させる木樽を使うなどして長い間、少しずつ酸素に触れさせることで熟成させていきます。
タンニンはブドウの果皮や種から抽出するもので、白ワインを造る際には果皮や種からの成分をなるべく入れ込まないようにしているため、白ワインには赤ワインほどタンニンが含まれていません。
赤ワインに比べて寿命の短い白ワインを熟成させるときには酸素とあまり触れさせないようにして、フレッシュな味わいとフルーティーな香りを感じやすいものに仕上げます。
そこで、白ワインの熟成には空気の出入りのほとんどないタンクを用いています。
そのため、フレッシュな味わいを楽しむ若飲みタイプの赤ワイン、ボジョレー・ヌーヴォーもタンクを用いて熟成されています。
赤ワインの熟成で使われる木樽の役割とは?
ワインの品質にとって、大量の酸素と急激に接触・酸化するのは好ましくありません。
しかし、タンニン(渋味成分)が多く含まれていて、しっかりとした骨格を持つ高級ワインの場合は、少しずつ時間をかけて酸素に触れさせると風味が向上します。
製造方法の関係からタンニンが多く含まれる赤ワインの場合は特に、酸素による熟成によって渋味がマイルドになり、色に関しても濃い状態で安定しやすくなります。
そんな特徴を持つ赤ワインの熟成に適しているのが木樽。
木樽には酸素を浸透させる性質がありますので、中に入っているワインは、ゆっくりと時間をかけて酸素と触れながら熟成を進めることができるのです。
また、木樽の内側部分はワインと直接触れ合うことになります。
木樽に含まれるタンニンなどの成分が抽出されたり、樽由来の香りがワインに付着したりします。
木樽を使っての熟成によって風味が複雑になり、深い濃くのある味わいのワインに変化していくのです。
木樽で熟成させたときにつく香り
木樽での熟成による香りと一口にいっても、様々な香りがあります。具体的には以下のような香りがワインにつきます。
樽熟成による香りの種類 | 芳香成分名 |
---|---|
ヴァニラ | ヴァニリン |
ココナッツ・ミルク | ウィスキーラクトン |
丁字(ちょうじ) | オイゲノール |
燻製・焦げ | グアイアコール |
アーモンド | フルフラール |
キャラメル | マルトール シクロテン |
なぜ木製の樽からキャラメルや燻製・焦げといった香りがつくのかというと、樽を作る際に樽板の内側の面(ワインと接触する面)を火で炙って焦がすのが理由です。
こうした風味がどのくらいワインにつくかは、樽材を火で炙る程度や、樽の新しさ、種類、産地などによっても異なりますが、最も影響するのがワインのボリューム感や骨格です。
同じ新樽を使ったとしても熟成させるワインが、しっかりしたワインほど樽香(たるこう)が目立たなくなるという特徴があります。
過度な樽香は避けられている?
樽香が目立たなくなることが良いことなのかというと、悩ましいところです。
というのも、ひと昔前までは樽香には高級というイメージがあったこともあり、必要以上に樽の風味が感じられるワインが数多く流通していました。
現在では必要以上に樽の香りがするワインは「けばけばしい」として避けられる傾向になったため、伝統的に木樽での熟成をしているワイナリーでも、樽香が強くしないように仕上げるようになっています。
木樽の種類と特徴
項目 | 一般~高級のワイン | 高級~最高級ワイン |
---|---|---|
大きさ | 大樽(1,000ℓ前後) | 小樽(225ℓ前後) |
年数 | 古樽(3~5年以上使用) | 新樽(未使用のもの) |
種類 | アメリカンオーク | フレンチオーク |
価格 | 4万円程度(小樽) | 10万円程度(小樽) |
簡単に理解できるように上記の表にまとめましたが、これはあくまで傾向です。
一般的なワインだから小樽を使わない、あるいはフレンチオークを使わないといったことはありませんのでご注意ください。
樽の大きさと樽香
樽が小さいものほど樽板がワインに触れやすくなるため、大きい樽よりも小さい樽のほうが、ワインに酸素を供給できますし、樽の風味も移しやすくなります。
小さい樽ほど樽熟成の効果を発揮できるというわけです。
樽の使用年数と樽香
樽はしっかりと手入れをしておけば10年以上繰り返し使用することができますので、ワインの熟成が終わった後の木樽は丁寧に洗って、次のワイン熟成に備えます。
ただ、10年以上使えるといっても新しい樽のほうが酸素を供給したり風味を与えたりする役割が機能しやすいという特徴があります。
そのため、高級ワインを造る際には同じ樽を3年までしか使わないこともありますし、場合によっては新樽100%といって、すべて新樽で製造しているところもあります。
新樽100%の高級ワインとは
新樽100%のワインとは、先ほどお伝えしたように熟成させる際にすべて新品の樽を使って造られるワインのこと。
これは高級ワインにしかできないことです。
というのも小樽(225ml)から造れるのは750mlのワインボトル300本分です。
10万円のフレンチオークを使った場合、ボトル1本当たり約330円となります。
日本市場において小売価格3,000円程度で売られているワインの場合、ワイナリーの卸価格は1,000円以下が普通ですから、330円を樽代として支出するのは現実的ではありません。
新樽100%のワインが高級品に限られているのは、樽香の強さとワインの強さのバランス以外にも、こうした原価上の制約があるというわけです。
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まとめ
ワインを熟成させるときに使う木樽は、そのワインの風味にも影響することが分かりました。
キャラメルの香りやアーモンドの香りなど、樽由来の様々な香りが生じるのでしたね。
ワインを選ぶ際には樽にも注目し、木樽で熟成されたものなら樽香に意識を向け、その特有の香りを感じてみてはいかがでしょうか。