マルゴーとは ~ボルドーのエレガンス!女王が君臨する産地マルゴーを徹底解説

マルゴーのアペラシオンから生まれる、エレガントな赤ワイン。香り高く、そして滑らかなタンニン。80年代の当たり年のシャトー・マルゴーを飲んでみると、まさに実感できます。香水のように官能的。ドライ・フラワーやシダ、葉巻、皮革などの様々な香りが交錯する複雑性。底流にはしっかりと熟した長熟な果実感が息づいています。酸もタンニンも、骨格を留めつつ、樽のニュアンスと共に、ワイン全体の要素の中に溶け込む素晴らしいワイン。

今回は、この卓越したワインを生む産地を深堀してみましょう。

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【目次】
1. 大西洋と砂利質土壌が織り成す、自然に恵まれたマルゴーの地
2. 温暖化と上手く付き合う:栽培の多様性
3. ワイン造りのマジシャンたち
4. 注目すべきマルゴーの2大シャトー
5. 血統書付シャトー VS 挑戦者たちのシャトー
6. マルゴーのまとめ


1. 大西洋と砂利質土壌が織り成す、自然に恵まれたマルゴーの地

メキシコ湾流の影響を受ける、温和な海洋性気候のボルドー。暑い7月でも平均最高気温は26度程度。寒い1月でも、平均最低気温は、3度程度です。

ありがたくもあり、苦労もするのは、6月から9月の乾燥した気候。病害の悩みを和らげてくれるのは良いのですが、開花、結実、色づきから収穫に向けての時期。熱波が襲ってくると、基本的には灌漑が許されていない産地ですから、品質にも収量にも影響を及ぼしかねないのが、玉に瑕です。

マルゴーは、ガロンヌ川とドルドーニュ川の合流地点。ピレネー山脈と中央山塊から堆積物が流されてきた歴史があります。第4紀の氷河期を含む土壌。砂利や小石、粘土と砂質が、その下層の、第3紀の粘土や石灰岩の地層に重なっています。

百万年前に活断層が生じて、ボルドー右岸が隆起。その後、1万年前に水面が上昇して、左岸に洪水が押し寄せてメドックが干潟になりました。今日のメドックの隆盛があるのは、16世紀から18世紀に及ぶ、オランダ人による干拓の恩恵です。

川下に行けば粘土質が多くなりますが、マルゴー周辺は2つの川の合流地点。土壌は様々に変化します。例えば、格付け2級のシャトー・ローザン・セグラでは、土壌や、地勢、日照などが異なる様々な区画のブドウから造った20種類ほどのワインを2か月かけて、テイスティング。その結果で、ブレンドを検討します。

格付け1級のシャトー・マルゴーでは、石灰岩の母岩の上に浅い砂利層が乗っていて、他のシャトーとも様相を異にしています。

それでも、全体としてのマルゴーの特徴は、メドックで最も痩せた、粘土質の少ない砂利質中心の土壌。その土壌の蓄熱効果のお蔭もあって、メドック北部の他のコミューナル・アペラシオンと比べると、果実の成熟が数日から1週間程度早まります。

海抜が低く、帯水層が高い為、排水は課題となります。粘土質や沈泥成分が多い土壌の場合は水はけが悪くなり、ブドウ樹の根、引いては生育全体に悪影響を与えます。土壌下層の過剰な地下水の排水を行うには、プラスチックの5~10センチ程度の穴が開いたパイプを使ったタイル排水が一般的です。

2. 温暖化と上手く付き合う:栽培の多様性

2015年から、「マルゴー生物多様性テロワール」というプロジェクトで、土壌の浸食防止、昆虫や小動物の保護が行われてきました。森林や牧草地、湿地帯がブドウ畑と渾然一体となっている産地の生態系。これを大切にすることがワイン造りにも重要と理解されているのです。

ブドウ品種は、カベルネ・ソーヴィニョンが5割強。メルロが4割。そして、プチ・ヴェルドー、カベルネ・フランが残りの大半を占めます。シャトー・ラフィット、ムートン、ラトゥールを擁するポイヤックは、カベルネ・ソーヴィニョンが6割、メルロが3割程度です。

骨格がしっかりした、ポイヤックのワインと、エレガントなマルゴーというイメージと上手く符合するのではないでしょうか。一方で、メドック南部では、熱波に襲われると、水分ストレスが強く発生するので、晩熟品種へ移行しつつあります。

プチ・ヴェルドーは、芽吹きは早いのに、カベルネ・ソーヴィニョンよりも晩熟です。果皮は厚くて、果粒も小さく、完熟すれば、長熟なワインを造ることができます。温暖化傾向の中で、注目され栽培面積が増えつつある品種の一つです。

カルメネーレは、格付け2級のシャトー・ブラーヌ・カントナックで、栽培が顕著です。チリでだいぶ有名になった品種ですが、18世紀にはボルドーで広く栽培されていました。その後は忘れ去られていましたが、温暖化の影響も踏まえて、日当たりの良い区画で栽培したところ、上手く成熟したのです。このシャトーでは、2007年から改めて栽培を始めて、2011年のヴィンテージからブレンドに加えています。

黒ブドウのカステはご存知でしょうか?2021年から、トゥーリガ・ナショナルやアルバリーニョと並んで、広域アペラシオンで新たに認められたブドウ品種の一つ。条件付きで、マルゴーのアペラシオンでの使用が認められています。この品種は、19世紀後半にベと病への耐性から重宝された歴史があります。

台木は、湿った土壌に適合するリパリア系のリパリア・グロワールや420Aがボルドーの、高品質ワイン生産には人気です。格付け3級のシャトー・パルメも、リパリア・グロワールや、樹勢が控えめな、3309Cを使っています。その他にも、マルゴーでは、リパリアとルペストリスの交雑の101-14や、ブルゴーニュで広く使われてきて、近年温暖化の影響でうまく行っていないとも言われている161-49Cを使い始めたシャトーもあるようです。

今後、さらに温暖化の影響が深刻になるに連れて、台木の選択も変わってくるかもしれません。更には、樹齢の若いブドウ樹には灌漑も必要になってくることでしょう。既に、2020年から3年連続で、すぐ南のアペラシオン、ペサック・レオニャンが緊急避難的な灌漑を実施しています。

マルゴーでは、オーガニックやビオディナミは2割ほど。メドックのアペラシオンの中で、最も多いのですが、慎重に歩を進めてきた印象です。

格付け2級のシャトー・デュルフォール・ヴィヴァン、格付け3級のシャトー・フェリエールでは、ビオディナミに転換が終わっています。

シャトー・パルメも、2009年に実験的に慣行農法とビオディナミ栽培を並行して進めて徐々に広げていきました。オーガニックもビオディナミも認証を取得しましたが、ベト病で収量を大きく落とした苦労もあります。(因みに、このベト病の対策に散布する、ボルドー液。硫酸銅と生石灰を混合して作る殺菌剤ですが、実は、格付け5級のシャトー・ドーザックとボルドー大学との協力で開発されました。)

こうした苦労もあり、オーガニックやビオディナミの手法を取り入れていても、認証は受けていないシャトーもあります。4級格付けのシャトー・プージェは、合成肥料を長年に渡り使用していませんが、認証を取得する方向に舵取りはしていません。

シャトー・マルゴーの醸造責任者だった、故ポール・ポンタリエ。セカンド・ワインのパヴィヨン・ルージュの区画で実験を行いました。3つの区画に分けて、夫々、慣行農法、オーガニック、ビオディナミの栽培方法から収穫したブドウで造ったワインをブラインド・テイティング。ロンドン、ニューヨーク、パリ、香港を周り、業界のプロ達の意見も聞きました。それでも、まだ認証取得に踏み切っていません。

ヴィンテージ

近年のマルゴーの素晴らしいヴィンテージと言えば、2009年、2010年、2015年、2016年などが挙げられます。

因みに2015年を取ってみると、冬は比較的穏やかで雨にも恵まれて、メルロは4月初頭に芽吹きを迎えます。6月は暖かく開花、結実も順調。7月に向けて気温が上がり乾燥します。8月に若干、雨が降ってくれたおかげで順調に成熟。収量も、ヘクタール当たり約47ヘクトリットルと、恵まれたヴィンテージとなりました。

こうして、雨が然るべき時に降り、果実の成熟と収穫の時期には、晴天に恵まれることが良いヴィンテージには欠かせません。

3. ワイン造りのマジシャンたち

ボルドーでは全般的に、醸造は、培養酵母を使い、乳酸菌もスターターを使用して安定した発酵を行うのが一般的。シャトー・パルメも培養酵母を使っています。抽出は穏やかになってきていて、例えば、日に2回実施していたポンピングオーバーの量を4分の1にして、4回に分けて行うなど、きめ細やかに醸し作業をしているシャトーもあります。

コンサルタント

ボルドーではコンサルタントの役割がいまだに大きく、ブレンドはもちろん、ブドウの成熟を見て収穫時期を決めたり、醸造工程を監督したりというワイン造りの重要ポイントで手助けをします。そうしたコンサルタントの内、真っ先に思い浮かぶのは、ミシェル・ローランかと思いますが、ここマルゴーでは、エリック・ボワスノが重要です。

1級のシャトー・マルゴーに始まり、2級のローザン・セグラ、3級のカントナック・ブラウン、フェリエールにデスミライユと、主だった格付けシャトーを総なめ。エリック・ボワスノの父ジャック・ボワスノは、ボルドー大学教授であり、偉大なコンサルタントで有ったエミール・ぺイノーの右腕でした。血統書付きのコンサルタント家系です。

ブレンドは、ボルドーでは重要視されていて、コンサルタントの業務としてもかなりの比重を占めます。タイミングも重要で、シャトーによって考え方が異なります。フェリエールは、マロラクティック発酵を終えた後に、早めにフリーラン・ワインとプレス・ワインをブレンド。そして、熟成終了時に最終調整します。一方、ミシェル・ローランをコンサルタントに起用している、4級格付けのシャトー・マルキ・ド・テルムでは、熟成後に、コンクリート・エッグを使用したワインと、新樽、旧樽を使って熟成したワインとをブレンドします。熟成が終わってからのブレンドだと、ワインの変化を見ながらブレンドができます。ですので、ワインの選別には貢献しますが、手間が掛かります。

亜硫酸の使用を抑制して、フレッシュで、純粋な味わいを追求するという傾向も見られます。フェリエールでは、オーナーのクレア・ヴィラール・リュルトン(格付け2級のデュルフォール・ヴィヴァンのオーナー、ゴンザーグ・リュルトンの奥様!)が亜硫酸に対して不寛容だと言われています。また、シャトー・パルメも収穫時に亜硫酸は加えず、全体でもビオディナミの許容範囲を下回る亜硫酸しか使いません。

亜硫酸の使用を少量に抑えるためには、健康な果実を畑で育てる事は当たり前。腐敗や酸化を抑えるために収穫した果実を低温管理し、厳しい選果が必要です。

また、アルコール発酵後やマロラクティック発酵の後は、ワインが酸化や微生物汚染に対して脆弱になるので、温度や酸素管理に注意が求められます。熟成中の丁寧な補酒作業、瓶詰作業の衛生管理なども含めて、手間暇を厭わない覚悟が必要になるのです。

マルゴーのアペラシオンでは、認められていませんが、ボルドーブランとして出荷する、白ワインでは、澱との接触やバトナージュでワインに厚みを与えることは一般的です。

一方で、発酵前のスキンコンタクトは、一時と比べると控えめになっています。長時間のスキンコンタクトは果皮からのフェノール類の抽出が過剰になって、ボルドーの主要白ブドウ品種、ソーヴィニョン・ブランのワインの香り成分、チオールの生成を妨げてしまいます。

新樽の使用は比率を落として、古樽や大きなサイズを採用、若しくはアンフォラやコンクリートに回帰する造り手も増えています。意図的で穏やかな酸化は取り入れるものの、オーク樽の新樽から来る、ヴァニラの様な強い香りは抑える。果実中心の純粋でフレッシュなワインを志向する傾向があります。

コンクリートタンク

4. 注目すべきマルゴーの2大シャトー

1,530ヘクタールと、メドックのコミューナル・アペラシオンとしては、最大。ローマ時代には、既にブドウ栽培が始まっていたとされていますが、本格的には、16世紀から18世紀のオランダ人による干拓事業を待ってからです。

アペラシオンとしてのマルゴーには、メドック格付け61シャトーの内、21のシャトーが存在します。1級から5級のすべての格付けシャトーを持つ唯一のアペラシオンです。67の生産者は、1ヘクタールに満たないものから100ヘクタールを超えるシャトーと多様。

そして、ご存じの通り、赤ワインのみがアペラシオン名を名乗る事を許されています。

他のボルドー左岸のコミューナル・アペラシオンとは違って、マルゴーは、アペラシオンに、複数のコミューンを包含しています。北からスーサン、マルゴー、カントナック、ラバルド、アルサックという5つのコミューンでしたが、2017年にマルゴーとカントナックが一緒になり、現在では、4つのコミューンに整理されています。

更に、この産地では一つのシャトーが、マルゴー内の複数のコミューンに畑を所有しています。マルゴーのワインは、必ずしも、特徴が定まっていないといわれる理由の一つにもなっています。格付け4級シャトー・プリュレ・リシーヌは、全てのコミューンに畑を有しています。

シャトー・マルゴー

シャトー・マルゴー

シャトー・マルゴーは、アペラシオンの名前、マルゴーを冠する唯一のシャトーです。

ギリシャ系の、コリンヌ・メンツェロプーロスが現在は経営しています。それ以前は、有力ネゴシアンのジネステ家が所有していました。ところが、ボルドーを揺るがす、一大スキャンダルとなった1973年のワイン・ゲート事件が起きます。

有力ネゴシアンのクルーズ社など数社が、ラングドックのバルク・ワインとボルドーの安いワインを化学物質も使って変造。ボルドーのアペラシオンのワインと偽ったものです。この出来事と石油危機も相まって、ジネステ家は、シャトー・マルゴーを泣く泣く手放すこととなりました。

さらに遡れば、フランス革命では、畑とワイナリーが接収された歴史もあります。

シャトー・マルゴーを愛した有名人たちは多く、良く知られているところでは作家アーネスト・ヘミングウェイが筆頭でしょうか。著書「日はまた昇る」での引用に加えて、孫の70年代のモデルかつセレブリティであった、マーゴ・ルイーズ・ヘミングウェイの名前が、シャトー・マルゴーに由来するという話が良く知られています。

とは言え、格付け1級のマルゴーでも、厳しい年はありました。1975年のヴィンテージには、容赦なく、ワイン評論家のロバート・パーカーは批判的な評価を下していました。凡庸で凝縮度に欠けるとして、70点台の評価。ボルドー格付け1級のワインに取っては忸怩たるものがあったことでしょう。

小売価格で、10万円前後からヴィンテージによっては、数倍にもなる高価なワイン。偽造されないように、ボトルのネックとキャップシールを貼り合わせる「プルーフ・タグ」を2011年から採用しています。2012年にはワイン偽造で、ルディ・クルニアワンが、FBIに逮捕されるという事件がありました。この顛末は、映画「すっぱいブドウ」で紹介されています。日本でも凸版印刷が「コルク・タグ」のIC付きの偽造防止タグを開発しました。しかし、コラヴァンの様な装置を利用して、空にしたボトルに偽造ワインを注入するという手口もあるとのこと。いたちごっこは、まだまだ続きそうな様相を呈しています。

セカンド・ワインの成り立ち

シャトー・ラフィットや、ムートン、ラトゥールと同じように、マルゴーでも、セカンド・ワインが多数造られています。その代表格は、もちろん、シャトー・マルゴーのパヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー。1908年に名付けられました。

更に、2009年のヴィンテージが余りにも素晴らしかったので、セカンド・ワインの選に漏れたワインをバルクで売却するのは、惜しいと、サード・ワインのマルゴー・デュ・シャトー・マルゴーを世に出しました。但し、ボリュームは絞って、徐々に販売を広げるという戦略。1~2万円の価格ですが、流通量が非常に少なく、今でも日本では手に入りにくい状態です。ブランド価値の棄損可能性を考えれば理解できます。2009年以降、サード・ワインに及ばなかったワインは、フォース・ワインとして、ネゴシアンにバルクで売却しているとの事。いつか、このワインもシャトー元詰めのワインとして、小売店に並ぶ日が来るのでしょうか?

セカンド・ワインは、シャトーのトップキュヴェであるグラン・ヴァンに使われないブドウから造るワイン。若木から造る場合もあれば、セカンド・ワイン用の区画から収穫した果実を使うものも。古くは、17世紀頃から造られていますが、広く知られるようになったのは、1980年代からと言って良いでしょう。

シャトー・マルゴーでは、黒ブドウの畑は82ヘクタールで、グラン・ヴァンが4割、セカンド・ワインが3割、そして、サード・ワインが3割。ブルゴーニュのグラン・クリュ、シャンベルタンは、13ヘクタールほど。ブルゴーニュは造り手で大きく価格が変わりますが、シャトー・マルゴーのグラン・ヴァンと比べて、コスパは如何に思われますでしょうか?

パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー

白ワインは、マルゴーのアペラシオンすら謳うことができませんが、お構いなしに評価が高い、パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴー。19世紀から造られていたと言われていますが、1920年にこの名称に変更されます。ソーヴィニョン・ブランのヴァラエタル・ワインで、ペサック・レオニャンのグラーヴ格付けワインや、シャトー・オー・ブリオン・ブランなどの高級白ワインと並んで、評価が確立しています。

スーパーセカンド・シャトー・パルメ

シャトー・パルメ

伝説になっている、1961年のシャトー・パルメ。100万円の大台越えの格付け3級ワイン。良いヴィンテージのパルメは、シャトー・マルゴーを越えるとも言われます。

一体、なぜこのように評価が高いワインができたのでしょう。この年のヴィンテージは、過半がメルロ。収量は、ヘクタール当たり12ヘクトリットルと極めて低く、凝縮度が高かったようです。最近でも、一部を除けば、メルロとカベルネ・ソーヴィニョンが同程度の割合で、メルロが多いヴィンテージもあります。カベルネ・ソーヴィニョンが9割方を占める、シャトー・マルゴーと比べると、同じアペラシオンでも大きく異なります。

スーパーセカンドという呼び名は厳格なものではありません。格付け2級のワインでも、特に素晴らしい品質で、1級と同格或いは上回ることもあるワインという概念。例えば、サン・テステフ格付け2級のコス・デストゥルネルやサン・ジュリアンのデュクリュ・ボーカイユは最右翼。2級以外で広く認知されているのは、ポイヤック格付け5級のシャトー・ポンテ・カネとこのシャトー・パルメとなりましょう。

19世紀の英国人オーナー、チャールズ・パーマー少将の名前を冠したシャトーを、20世紀に入って、ボルドーのネゴシアンが共同で買収。現在は、その内、シシェルとマーラー・ベッセが保有しています。そして、2004年には、ボルゲリのオルネライアから、トーマス・デュローが参画して、さらにワイン造りが向上したと評されています。

現代の有名ワインの二次流通市場価格を反映した、ワイン取引プラットフォーム「Liv-Ex」の2021年の格付けを見てみましょう。1級に分類されているのは、シャトー・マルゴーを含めたボルドー5大シャトー、ロマネ・コンティ、ペトリュス、スクリーミング・イーグル、ペンフォールズ・グランジ他の錚々たるラインナップ。シャトー・パルメは、2級に格付けされています。メドック格付け2級の、シャトー・ラスコンブ、ローザン・セグラは、「Liv-Ex」では、シャトー・パルメのセカンド・ワインのアルテル・エゴ・ド・パルメと同格の3級格付けです。

アルテル・エゴ・ド・パルメを、セカンド・ワインと表記しましたが、パルメとは異なる区画から収穫したブドウを使った、シャトー・パルメのテロワール表現のもう一つの形。シャトーとしては、あくまで、アルテルは独自の位置づけであって、セカンドでは無いと説明しています。

話題作りも上手く、ローヌのシラーをブレンドしたワインを、トーマス・デュロー参画のヴィンテージから、「ヒストリカル19世紀ブレンド」と名づけて、発表しています。19世紀のボルドーワインが酒質強化で、ローヌのシラーをブレンドしたことへのオマージュというわけです。

5. マルゴーの血統書付シャトー vs 挑戦者たちのシャトー

ボルドー名家のリュルトン家は、マルゴーでも深く根をおろしています。フランソワ・リュルトンの次男、故ルシアン・リュルトン。その次男ドニ・リュルトンは、デスミライユを、3男のアンリは、ブラーヌ・カントナックを、4男のゴンザーグは、デュルフォール・ヴィヴァンを夫々経営しています。

格付け4級シャトー・プリュレ・リシーヌ。ワイン作家、そしてインポーターでもあった、アレクシス・リシーヌが1951年に取得して、プリュレ・カントナックから、1953年に改名。さらにアレクシス・リシーヌは、格付け2級のラスコンブも手に入れました。栽培面積はマルゴー最大。また、メルロが5割と大きい割合を占めます。リシーヌは、1855年の格付けを現実に即して改定すべきだと訴える運動を起こした先駆者です。

ラスコンブは、MACSF保険会社が取得しましたが、2022年にアメリカの投資家、ゲイロン・ローレンスとの提携が発表されました。また、プリュレ・リシーヌは、現在はグループ・バランドが保有しています。それでも、アレクシス・リシーヌの名声は今後とも、輝いていくことでしょう。

シャトー・マレスコ・サン・テグジュペリは格付け3級。名前から想像されるように、「星の王子様」で有名な、作家のアントワーヌ・ド・サン・テグジュペリの曽祖父にあたる、サン・テグジュペリ伯爵が所有していたこともあります。今では、ミシェル・ローランがコンサルタントを務めています。現在は、ジャン・リュック・ズジェールがオーナーですが、彼は、ボルドー有数のネゴシアンと共同で、2009年にはプロヴァンスの畑を手に入れて、ロゼ造りも始めています。

シャトー・ローザン・セグラは、ファッションブランドのシャネル傘下。ワイン・メーカーは、LVMHのアルゼンチン、ルハン・デ・クージョに立地するシュヴァル・デス・アンデスでもワイン造りに携わっていた、ニコラス・オーデバート。こう聞くと、お洒落な印象が先行しますが、シャネルは地道に、改植、排水にも資金を投入。高密植も採用して、格付け2級に十分見合う品質のワインを造っています。

シャトー・ローザン・セグラ

シャトー・マロジャリア。その昔マルゴーは、ラテン語で、マロジャリアと呼ばれたとされて、この名前を冠する小規模ワイナリー、「ガレージ・ワイン」がメドックに1999年誕生しました。シャトー・マルゴーの向いに立地。ワイン造りをしているのは、元祖「ガレージ・ワイン」、サン・テミリオン、シャトー・ヴァランドローのジャン・リュック・テュヌヴァンとミュリエル夫妻。ですから、最初から話題になること必至でした。

シャトー・マロジャリア

フィリップ・ラウーが1986年に取得した、シャトー・ダルサック。格付けどころか、AOCマルゴーのアペラシオンすら与えられていませんでした。その後のシャトーの整備と投資、そして、地質調査に歴史考証も重ねて、国立原産地名称研究所(INAO)と粘り強く交渉。結果、栽培面積の約半分に、AOCマルゴーのアペラシオンが与えられます。さらには、クリュ・ブルジョワ・エクセプショネルの格付けも勝ち取りました。

6. マルゴーのまとめ

今回は、ボルドーのアペラシオンの一つ、マルゴーに絞って栽培や醸造、更には、著名なシャトーに焦点を定めて、歴史や、コンサルタントの役割なども見てきました。

様々な出来事と共に、色とりどりのオーナーが活躍。セカンド・ワインのブランド戦略を見ると、ビジネスや経営を考える姿勢が浮き彫りになります。ブルゴーニュとは受ける印象に違いを感じられた方もいるのでは無いでしょうか?ボルドーのワインは高くなったと言っても、まだまだ手の届く格付けシャトーも多々あります。今回、勉強したシャトーのワインを、この際一度試してみては如何でしょうか?

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