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秋の夜長にふらっと寄りたい店
めっきり涼しくなった。
飲みたいワインも、食べたいものも、急に変わってきたのではないだろうか。
暑かったこの夏は、冷えたロゼを心底欲していた。
ロゼばかりを大量に購入し、毎晩、ミョウガや生姜やパクチーをたっぷり使った料理と共に喉を潤していた。
朝は朝で、トマトをベースにした冷製スープ、ガスパチョを作ってよく冷やし、麦茶を飲むようにゴクゴクと飲んでいた。
朝晩、過ごしやすくなると同時に欲さなくなったガスパチョだが、うちで作るレシピの元となっているのは、北参道にある「ヴァンマリ」という店で習ったものだ。
自分の苦手な生ニンニクや生玉ねぎを除いたり、オリーブオイルの量を大幅に変えたりしたので、ほとんど原型をとどめていないのだけれど、それはさておき、小さくて可愛いカジュアルフレンチ「ヴァンマリ」はとても魅力的で使える店なので、ぜひ紹介したい。
北欧テイストの入った、一見するとカフェのような店で、女性一人でやっている。
もちろん、予約をしていけば確実だが、外からのぞいてカウンター席が空いていれば、ふらっとワイン一杯だけでも立ち寄れる温かい空気がある。
料理はアラカルト。数は多くないが、きっとその日の気分のものがあるだろう。
ワインは流行りのナチュールだ。とても美味しいのを選んでくれている。
やはり夏に印象的だったのは旨味たっぷりのロゼスパークリング。
そう、つまり、この夏の我が家の食卓は、この店の影響を大いに受けていたのであった。
秋冬に向けてお勧めしたいのは、「ヤンソンさんの誘惑」という一皿だ。
じゃがいものグラタン、ドフィノワを想像してもらえると一番近い。
表面にパン粉をたっぷりかけて焼き、カリカリと香ばしい。
なぜこんなユニークな料理名がついているのか?
聞けば、菜食主義者だったというヤンソンさんが思わず食べてしまったほど美味しいから。
実はこのグラタン、アンチョビが入っているのである。
さて、最近訪れた、美味しくて使い勝手のいい店をもう一つ挙げるなら、西麻布と六本木の中間にできた「マ・キュイジーヌ」だろうか。
ここのシェフは昔、広尾にあった「ラ・ピッチョリー・ド・ルル」という店でシェフをしていた方。
もう15年近く前、その店ルルは業界人の溜まり場のようになっていて、みんな2軒目、3軒目にも訪れていた。
営業を終えた料理人もやってきた。そう、深夜まできちんと美味しいものが食べられるビストロだったのだ。
新しいこの店も、ラストオーダーは2時。
ビルの地下にあるので、知っていないとちょっと入り難いかもしれないが、カウンターに一人で訪れても大丈夫。
先日、昔ルルで散々飲んでいたという友人と懐かしがりながら訪れたら、早速近くのイタリア料理店のシェフにばったり会ってしまった。
訪れたのは早い時間だったが、あの界隈の料理人たちも嬉しいであろう。
こちらはフランスの王道のワインが中心のようだ。
カスレや羊のクスクスといった、体の温まりそうな、ちょっぴりコテっとした料理がこれからの季節に嬉しい。
やはり料理はアラカルトで、ピクルスのようなものから肉料理まで幅広く、かなりの品数がある。
席についた全員に出てくる、サクッと焼かれたほの甘いパンが、これまた美味しい。
危険な味だと思いつつ、ついつい止まらなくなって、滅多にないことだがお代わりしてしまった。
「ヴァンマリ」に「マ・キュイジーヌ」。
タイプは正反対というほど違う店だが、どちらもいい店。
今宵の気分や、一緒に訪れる相手によって、うまく選んで訪れたい。
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2020.10.02
浅妻千映子 Chieko Asazuma
J.S.A.認定ワインエキスパート。
1972年東京生まれ。聖心女子大卒、大手建設会社で3年間のOL生活ののち、フードライターに。
著書に『食べたきゃ探そう』(時事通信社)、『東京広尾 アロマフレスカの厨房から』『パティシエ世界一』『江戸前「握り」』(すべて光文社)。『東京最高のレストラン』(ぴあ)採点者としても活躍。パティシエをテーマにしたマンガ『キングスウヰーツ』(全5巻 小学館)の原案を担当。近年は『dancyu』などの媒体でもレシピを公開。人気サイト「All About」でプラチナレシピのガイドも担当している。