一般的にワインを作るブドウの収穫は「全て手摘み」が高品質の証とされますが、機械収穫はそんなに悪いことなのでしょうか。そもそも、畑の機械化は収穫だけではありません。剪定や農薬散布、下草刈りなど、様々な場面で機械の力を借りています。それらをすべて人力で行い、馬で鋤入れすることは本当に美徳なのでしょうか。
文/小原 陽子
【目次】
機械収穫したブドウは手摘みに劣るのか
ブドウの収穫について、手摘みが高品質なワインの代名詞ということはままありますし、大筋間違いではないと考えられます。しかし「高級ワインのほとんどはぶどうを手摘みしている」という表現はほぼ正しいと考えられる一方、「このワインは手摘みだから、機械収穫のあのワインより高品質」という表現は決して正しいとは言えないのが現状です。それはなぜでしょう。
手摘みが優れていると信じる人々が口をそろえて言うのは「手摘みは収穫時に選果ができるから」という理由です。では機械収穫で収穫時に選果はしていないのでしょうか。そもそも機械収穫ではブドウの列にまたがるような大きなトラクターでブドウの樹を揺らし、梗から外れたブドウの果粒を並走するトラクターへコンベヤのようなもので運びます。(https://www.youtube.com/watch?v=9NnzGoFboCM では機械収穫の様子がよくわかります)。その際に葉や枝の切れ端など(Material other than grape;MOGと呼ばれます)が混入することは確かにあり得ます。しかし、最新の機械では動画内(2:25あたり)でも見られますが、コンベヤ上でMOGと果粒をかなりの確率で分けることができます。また、樹を揺らすことで梗から外れるのは完熟した果粒のみです。過熟してレーズンのようになった果粒や未熟な青い果粒は外れないため、混入は最小限となり、「機械収穫は選果ができない」という表現は正しいとは言えないのです。
では、手摘みの場合はどうでしょうか。一般には「熟練の」作業者が房ごとハサミで収穫を行います。確かに外観からの選別は非常に繊細に行われているようです。下の写真はシャトー・ピション・バロンの収穫風景ですが、集められたブドウに混入している葉などはわずかです。
しかし、熟練した作業者でも、房の中までは見ることはできません。房の内部だけが腐っていたり、MOG(虫など)が入り込んだりしていても感知することはできないのです。腐敗果については「熟練した」作業者なら匂いで選別する場合はあるようですが、人材不足の今、必ずしもそんな人ばかりが作業しているとは限りません。また、内部に未熟な青い果実があっても、もし全房のまま仕込むのであれば取り除くことはできません。もちろん、ピション・バロンでは醸造設備で除梗を行い、さらに厳しい選果を行っていますが、そこまでのリソースを投入できるワイナリーばかりではないはずです。それなのに、手放しで「手摘みは機械収穫より勝る」と言えるのでしょうか。