日本ソムリエ協会の資格試験(ソムリエ/ワインエキスパート)を受験された方なら、ボルドーの各種格付けをせっせと覚えたはずだ。1955年に初めて行われた、サンテミリオンの格付けもそのひとつ。概ね10年ごとに見直されることになっているこの格付け、次回は来年に予定されているのだが、7月半ば、衝撃的なニュースが入ってきた。今回はこの話題を掘り下げてみよう。
文/立花 峰夫
【目次】
1. あのシャトーとあのシャトーがまさかの辞退!
2. いつも揉めるサンテミリオンの格付け見直し
3. 2トップ2離脱でどうなるのか?
1. あのシャトーとあのシャトーがまさかの辞退!
サンテミリオンの格付けは、プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ・シャトーA(4シャトー)、同シャトーB(14シャトー)、グラン・クリュ・クラッセ(64シャトー)という階層に分かれている。栄えあるシャトーAに分類されているのは、オーゾンヌ、シュヴァル・ブラン、アンジェリュス、パヴィの4つだ。
オーゾンヌとシュヴァル・ブランは、格付け創設の1955年から不動の2トップであり、アンジェリュスとパヴィは、直近のものになる2012年の格付け見直しで昇格した新興組だ。
次の格付け見直しは来年、2022年に予定されていて、格付けを求めるシャトーはこの6月末日までに申請をする必要があった。しかしながら、オーゾンヌとシュヴァル・ブランの2シャトーが、揃ってこの申請を行わなかったのだ。
つまり、来年発表される格付けからは、この2シャトーの名前が消えることになる。前代未聞、びっくり仰天のニュースであった。
ふたつのシャトーが「格付けもういいです」と辞退したのには、相応の理由がある。2012年の見直し以降、サンテミリオンの格付けにおいては、その審査基準に国内・海外市場での評判(媒体記事)、販売・マーケティング手法(SNSなど)が、結構大きな比重で含まれるようになったのだ。
両シャトーとも、辞退の理由について声明を出しているのだが、示し合わせたように(たぶんそうだろう)、「テロワールの優位性や、直近15ヴィンテージの試飲評価が、相対的に審査基準の中で小さくなっている」ということを挙げている。
「ウチら、昔からのトップだもんね。最高のテロワールと歴史的名声だもんね。そんなSNSとか頑張らなくても、ワインはサンテミリオンで一番高い値段で売れるもんね。もう格付けなんかいらんもんね。アンジェリュスとか、パヴィとか、ポッと出の連中と同格だと見られるのも、なんか気に入らんもんね」という心の声は、筆者が勝手に聞いた邪推でしかないが、あながち外れてはいないだろう
実際、来年の格付け見直しでは、現在シャトーBのフィジャックあたりが昇格するのではないかと目されており、シャトーAの数がさらに増えることによってその「格」が薄まるのを危惧したのも、辞退の原因ではないかと、これまた意地の悪い筆者は邪推してしまう。