ワインは、単なるアルコール飲料にあらず。「お酒をめぐるストーリーづくり」を手掛けるクリエーター・岩瀬大二が、ボトルの中身と、外側の物語を掘り下げるこのコーナー、今回は、映画の場面を鮮やかに盛り上げる、あのお酒に注目です。
文/岩瀬 大二
【目次】
1.小道具以上の存在感のお酒で、映画の魅力はぐんと広がる
2.粋人、ジェームズ・ボンドのマストアイテムは?
3.映画の場面を雄弁に語るお酒の存在感
1.小道具以上の存在感のお酒で、映画の魅力はぐんと広がる
映画に登場する酒。それはただの小道具ではない。と訴えてくる映画に出会うことは酒好きとしては愉しいものだ。登場人物の物語、抱えている問題を象徴したり、そのキャラクターに深みを与え、また背景をたったひとつのアイテムで明確にできる。映画に登場する探偵が愛飲する酒が、バーボンなのか、テキーラなのかウォッカなのか。それをどう飲むのか。バーボンでもIWハーパーなのか、ジムビームなのか。それは好みか、スタイルか、それとも食うに困っていても酒が手放せないのか。それだけでも探偵のキャラクターが透けて見えるし、そうでなければ、キャラクターがぶれる。バシッとアルコールの効いた本醸造をコップで流し込み胸をカーっと熱くする主人公、ゆったりと純米大吟醸を味わう悪役、同じ酒でも今度は主人公と悪役を入れ替えてみると、キャラクターは一変するだろう。ハマってくれる酒ならいいが、ただ酒があればいいという、ただの小道具であるともう没頭できない…なんてこともある。その主人公ならビールはクラフト系であってほしいとか、その恋人役であればきつめで王道のショートカクテルじゃなきゃおかしいだろうとか。そこまで見るのもマニアックすぎないかとちょっと引かれてしまうのかもしれないけれど、酒好きとしてはどうしてもそこに目が行ってしまうのだ。