今や1本800万円! ヴォ―ヌ・ロマネの神話的生産者、アンリ・ジャイエ。その箴言とワイン造りについての文献を精読すればするほど・・・・
見えてくるのは現代のナチュラル・ワイン造りの先駆としての先見性と偉業なのです。
【目次】
1:「選抜酵母で造られたワインは、単純な味になる」(H・ジャイエ)
2:「化学肥料をやれば、ブドウは根を伸ばさなくなってしまう」(H・ジャイエ)
3:高価になったから、有名になった??
1:「選抜酵母で造られたワインは、単純な味になる」
「私のワインが香りの複雑さで有名なのは、天然酵母のお陰なんだ。私は自然のなすがままにしている。選抜酵母で造られたワインは、どれも似たような味になり、テロワールの違いが覆い隠されてしまう」。「選抜酵母で造られたワインは、単純な味になる」。
皆さんこのコメントは、誰の発言だと思われますか? フィリップ・パカレ? ピエール・オヴェルノ ワ? 順当な推測です。ところがこの言葉を発したのは、かのアンリ・ジャイエ(1922~2006)。ブルゴーニュの神話の中の神話、今や一本400万円から800万円の値がつくワインの造り手です。
彼について学べば学ぶほど、ある面でアンリ・ジャイエは今日のヴァン・ナチュール、及びそれに通じる栽培醸造哲学の先駆けだったのではないか?? との思いが 強まるばかり、なのです。
選抜酵母(培養酵母)を使わず、天然酵母のみで醸造するというのは今日のヴァン・ナチュールの不動の基本にして最重要条件の一つですね。
なぜなら、培養酵母を選ぶこと=生産者の意図する味に近づけること。酵母会社のカタログを見ると、例えば「RHONE2323:色素抽出が強く、カシスフレ―ヴァ―を引き出す」、「UOA Maxi Thiol:グレープフルーツやシダの芳香性チオールを強化」など、有難い酵母の効能が、派手に列挙、アピールされています。
つまりあなたが飲む、しっかり肉厚なワインや、爽快なハーブ香あるワインは、テロワールの力よりも培養酵母の力、という可能性があるのです。それが、ジャイエの言うところの、「似たような味になり、テロワールの違いが覆い隠されてしまう」。そして、「単純な味になる」ということなのでしょう。
一方、天然酵母のみでワインを発酵させた場合、発酵の初期、中期、後期それぞれの段階で計30~40種類もの酵母が働き、それによってより多層性、多様性のあるアロマと味わいにつながる、とされています。