ワインラバー永遠の憧れの産地ブルゴーニュ。特にコート・ドール(黄金の丘)と呼ばれる中心部は、ロマネ・コンティやモンラッシェなど世界最高峰のワインを産む「神に愛された土地」。その妖艶な美女のごときワインに翻弄されている方も多いのではないでしょうか?
一方で、ブルゴーニュは難しいというイメージがあったり、高すぎて買えるワインが少ないと悲嘆にくれる方もいたりするかもしれません。
この記事では、ブルゴーニュの基本を易しく紐解きながら、日々の生活でブルゴーニュワインを200%楽しめるようにナビゲートいたします。深淵なるブルゴーニュワインの世界へようこそ!
【目次】
- 土地の個性が出やすいブルゴーニュワイン
- ブルゴーニュの品種はシャルドネとピノ・ノワールが基本
- ブルゴーニュの気候と土壌
- ブルゴーニュワインの主な産地
① シャブリ
② コート・ドール
③ コート・シャロネーズ
④ マコネ
⑤ ボージョレ - ボルドーとの違いで理解するブルゴーニュの格付け
- ドメーヌとネゴシアン、注目のマイクロネゴシアンとは?
- ブルゴーニュワインの当たり年は?
- ブルゴーニュワインにおすすめのグラス
- ブルゴーニュワインのまとめ
1. 土地の個性が出やすいブルゴーニュワイン
ワインを語るときに欠かせない「テロワール」という言葉。日本語に訳しにくいフランス語独自の概念であり、それだけで一冊の本になるほどですが、あえて一言でいうならば「その土地らしさ」と訳すことができるでしょう。同じように造っても味わいに差が出るのは、畑をとりまくさまざまな要素が絡んだ“テロワール”が作用しているからです。このテロワールの概念が生まれたのがまさにブルゴーニュである通り、ブルゴーニュワインには土地の個性が反映されやすいと言われます。
ブルゴーニュは畑の区画(クリマ)が緻密に細分化されていることでも有名ですが、それも「畑の場所によりワインの味が違う」と昔の人が気づいたから。12世紀にはすでにクロ・ド・ヴ―ジョやクロ・ド・タールなどの銘醸畑が認識されていました。
ワインにテロワールを表現しそれを五感で感じられることは、造り手にも飲み手にもこの上ない喜びである一方、その区画の線引きの細かさこそ、ブルゴーニュワイン=難しいとなりがちな理由のひとつ。畑名が記されたワインのラベルを見ても、「ぜんぜん覚えられない。そもそも読めない…」と頭を抱える方も多いのではないでしょうか。さらに、大抵は一つの区画を複数人の生産者がシェアしているので、畑名を覚えればワインの味わいが想像できるというわけでもありません。例えばクロ・ド・ヴージョの畑のオーナーは50haに80人もいます!同じ「クロ・ド・ヴ―ジョ」と書かれたワインでも、造り手によって味わいも変わりますから、畑の名前だけでなく造り手のスタイルまで把握しておかないと、味わいをはっきりとイメージしにくいのは事実です。
2. ブルゴーニュの品種はシャルドネとピノ・ノワールが基本
ほら、やっぱり難しそうと思ったあなた。安心してください。ブルゴーニュは意外にもシンプル。なんといっても、基本は単一品種でワインを造るのですから。ボージョレ地区を除くブルゴーニュ地方では、白はシャルドネ、赤はピノ・ノワールが王様と女王様です。例外は、白ブドウだとアリゴテ、ソーヴィニヨン・ブラン。アリゴテはブルゴーニュで伝統的に栽培されていた品種で、酸味の高いすっきりとしたワインを産みます。ソーヴィニヨン・ブランの使用は、シャブリに近い「サン・ブリ」というAOCで認められています。
赤の次点はガメイ。ボージョレ地区の主要品種ですが、マコネ地区やブルゴーニュ北部でもわずかに栽培されています。ガメイは実は昔はブルゴーニュの主要品種。1855年の時点でもコート・ドール地区のブドウ畑の87%がガメイでしたが、19世紀後半にヨーロッパに蔓延したフィロキセラをきっかけに、付加価値の高いピノ・ノワールに植え替えされました。
3. ブルゴーニュの気候と土壌
気候
ブルゴーニュ地方は南北に長いため、最北と最南では気候や土壌分布にも幅があります。
基本は冷涼な大陸性気候で、不安定な天候から毎年のブドウの出来に差があり、当たり年・外れ年が話題に上がりやすい産地ともいえるでしょう(当たり年については7章を参照)。
特に問題になるのが、霜害や雹。被害が甚大な年は生産量が激減することも…。霜害対策としてはストーヴを炊いたり、ヘリコプターを飛ばして空気の対流をよくしたり等さまざまな方法があります。最近では2021年の霜害が大きく、何百というキャンドルが畑に灯る光景がニュースになりました。
年間の降水量は約700㎜程度ですが、生育期に降る雨も悩みの種で、かび病や生育不良の原因に。マコネ地区やボージョレ地区は、ブルゴーニュ地方の最南端にあるため、気候はより温暖になります。
土壌
ボージョレを除くブルゴーニュ地方のほとんどは、ブドウ栽培に適した粘土石灰質の土壌です。
ただし分布は複雑なパッチワーク状になっているため、「小道を挟んだけでワインの味が劇的に変わる」といわれるほど。大まかにいうとコート・ド・ニュイは石灰質主体、コート・ド・ボーヌは泥灰岩質となり、それが赤ワイン(ピノ・ノワール)のニュイ、白ワイン(シャルドネ)のボーヌという差につながっているのです。
粘土石灰岩のなかでも特に特徴的なのが、シャブリに分布するキンメリジャン土壌。牡蠣殻を含む海の堆積物が風化した土壌は、シャブリに火打石のようなミネラル感を与えるといわれます。
ボージョレ地区には花崗岩質も分布しています。ガメイと相性が良く、水はけの良い痩せた土壌から、より凝縮したブドウが育ちます。ボージョレの中でも品質の高い「クリュ・ボージョレ」はこの花崗岩の土壌から生まれます。
4. ブルゴーニュワインの主な産地
① シャブリ
ブルゴーニュ地方の最北部にあり、シャンパーニュ地方にも近いシャブリ。冷涼なだけに、ブドウを完熟させるのが至上命題で、特級畑は太陽の光を少しでも多く受ける南西向き斜面中腹の等高線上にあります。
シャブリの醍醐味といえば、冷涼産地ならではの透明感やピュアな果実味。基本は樽を使わずにステンレスタンクなどで発酵・熟成を行ったシャープなワインが多いですが、生産者によっては樽を使って複雑なワインに仕上げることも。ただし樽を使う場合は、ブドウのポテンシャルが高いことが必須条件です。特級畑には公式には7つの畑がありますが、コート・ドールに比べると、グランクリュ・ワインでも比較的安価で買いやすいのが嬉しいところです。
② コート・ドール地区
南北50㎞、幅2㎞の丘陵地に連なるコート・ドール。「黄金の丘」の名の通り、世界最高の銘醸畑が集中する奇跡の産地です。
特級畑や一級畑の畑は斜面中腹の日当たりの良い場所にあります。
コート・ドールの北部に位置するのがコート・ド・ニュイ。世界最高のピノ・ノワールを生み出す銘醸畑がひしめき、特にジュヴレ・シャンベルタン、モレ・サン・ドニ、シャンボール・ミュジニー、ヴ―ジョ、ヴォーヌ・ロマネ村などが有名です。コート・ド・ニュイの特級畑はほとんどが赤ワインですが、唯一ミュジニー村では特級畑の白ワインがごく少量造られています。十字架がシンボルのロマネ・コンティの畑は、ブルゴーニュ愛好家ならば死ぬ前に訪れたい場所の一つに入るでしょう。
一方、コート・ドールの南半分を構成するコート・ド・ボーヌは白ワインの聖地。特にムルソー、ピュリニー・モンラッシェ、シャサーニュ・モンラッシェが三大銘醸地として有名です。同じシャルドネでもシャブリと異なるのは、樽発酵・樽熟成したリッチなスタイルが多いこと。新樽率も高く、ナッツやバターのよう風味のある何十年も熟成する長期熟成型ワインを生みます。また、コート・ド・ボーヌの特級畑はほとんどが白ワインですが、コルトンの丘にある「コルトン」は唯一特級畑の赤ワインとなります。
その少ない生産量に対し人気が高いブルゴーニュワイン。価格は上がる一方ですが、諦めるのはまだ早い!狙い目は、サン・トーバンやフィサンなど少しマイナーな村のワイン。以前はブドウを熟させるのに苦労していた畑でも、最近は温暖化の影響もありしっかり熟すようになってきています。粘り強くコスパの良いワインを探してみて下さい!
③ コート・シャロネーズ
コート・ドールの陰に隠れて少し影が薄めのコート・シャロネーズ。それだけに手頃で美味しいワインが見つかりやすい穴場の産地でもあります。最も栽培面積の大きいメルキュレは、長期熟成型ピノ・ノワールの赤ワインで有名。ビュクシー村の協同組合「カーヴ・デ・ヴィニュロン・ド・ビュクシー」のワインは、そのコストパフォーマンスの高さで世界的に評価されています。
④ マコネ
ブルゴーニュ南部に位置し気候も温暖になるマコネ地区も、上質なシャルドネの産地です。同じシャルドネでもコート・ドールより熟すため、トロピカルフルーツのような香りを呈する、より芳醇で丸みのあるボディに近づいてきます。
特に太陽がさんさん降り注ぐプイィ・フュイッセは評価が高く、2021年には22の区画が念願のプルミエ・クリュに認定されました。
⑤ ボージョレ
ボージョレ・ヌーヴォーの輸入量世界No.1はどこかといえば…なんと日本です!軽やかで飲みやすいボージョレ・ヌーヴォーは、ワイン初心者にも愛されるチャーミングなワインですよね。その親しみやすさが仇となり、ときに軽視されがちな産地がボージョレですが、実は、ブルゴーニュのピノ・ノワールを思わせるような素晴らしい赤ワインもあるんです。確実な見分け方としては、「クリュ・ボージョレ」を探すこと。ボージョレ地方の中でも「クリュ・ボージョレ」を名乗れる特定の村は、村ごとに個性を持つ優れたワインを造っています。初めて飲んだ人は、「これがガメイ? ボージョレのワイン?今まで誤解してすみません」と思うはず。
5. ボルドーとの違いで理解するブルゴーニュの格付け
ブルゴーニュの格付けは畑ごとに行われます。図のピラミッドのように、地域名(全体の約1/2)→村名(約1/3)→一級畑(約1/10)→特級畑(1/100)と希少になるほど、一般的に品質も値段も上がります。
このシステムはボルドーと比較してみるとわかりやすいです。ボルドーの場合は、シャトーごとに格付けがされています。例えばメドックでは64シャトーが1級~5級に分類されていますが、1級のシャトー・ラフィット・ロートシルトも5級のシャトー・ランシュ・バージュも、AOCでいえば同じ「AOCポイヤック」。かたやブルゴーニュの場合は、畑の等級がAOC名に直結します。
例)AOC ブルゴーニュ・ルージュ(広域)→AOC ヴォーヌ・ロマネ(村名)→AOC ヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュ+クロ・デ・レア(畑名)→AOC ロマネ・コンティ(特級)
そのため、ブルゴーニュの栽培面積と総生産量はボルドーの1/3以下にも関わらずAOCの数はボルドー60、ブルゴーニュは100近くと、格段に多くなっています。
逆にいえば、ラベルのAOCをみれば品質のおおよその目安がすぐにわかるともいえます。ある意味わかりやすいと思いませんか?
6. ドメーヌとネゴシアン、注目のマイクロネゴシアンとは?
生産形態についても、ボルドーと比較してみるとわかりやすいかもしれません。ワインの映画等では、ボルドーの人間=びしっとスーツを着たビジネスマン、ブルゴーニュの生産者=土のついた作業着をきた農夫然として描かれることがあります。実際、ブルゴーニュには家族経営の小さな造り手が多いのが特徴です。畑が細分化されているブルゴーニュでは自身では醸造所を持たない栽培家も多く、それがブドウやワインを買い付けブレンド・熟成して自社の製品として売るネゴシアンが栄えた理由の一つです。一方、ブドウの栽培から瓶詰まで一貫して行う造り手はドメーヌといいます。20世紀は優れた栽培家によるドメーヌ元詰め運動がさかんになり、ドメーヌの数が爆発的に増えました。アルマン・ルソーやジョルジュ・ルーミエなど高名なドメーヌのワインは、その需要の高さもあり天文学的な価格に…。
最近増えてきているのが、マイクロ・ネゴス。自分達の畑は持たず、選りすぐったブドウのみを買いつけ少量生産する小規模なネゴシアンです。まさにドメーヌとネゴシアンの中間的存在で、その品質の高さから注目を浴びています。
7. ブルゴーニュワインの当たり年
グレート・ヴィンテージ(当たり年)とは、天候に恵まれ完熟したブドウが収穫できた素晴らしい年のこと。ブドウのポテンシャルが高く長期熟成型のワインになります。
ブルゴーニュの当たり年は一般的に以下の通り。
赤
1990、1996、2005、2009、2010、2015、2019年
白
1989、1996、2010、2014、2017、2019年
※ヴィンテージチャートはメーカー等が独自に発表したものであるため、各社違いがあります。
ただし、注意したいのが一概に当たり年のワインが良いわけではないということ。すぐに楽しみたいなら、早飲みできるオフ・ヴィンテージを選んだほうがいい場合もあります。また、パワフルなワインよりも、線が細くて涼しげなワインを飲みたい気分のときもありますよね。そんなときは、オフ・ヴィンテージをあえて選んでみるというのも通な選び方です。オフ・ヴィンテージのワインは同じ銘柄でも少し価格も抑えめなのも嬉しいところ。
8. ブルゴーニュワインにおすすめのグラス
ブルゴーニュの醍醐味といえば、香り高さと繊細な味わい。その魅力を最大限に引き出してくれるのは、グラス部分がふわりと大きく膨らんだブルゴーニュグラス。上質なものは白も赤も大きいグラスの方が、その気品あふれる魅力を存分に堪能することができます。
9. ブルゴーニュワインのまとめ
テロワールと造り手の個性、そしてヴィンテージの特徴が如実にワインに反映されるブルゴーニュワイン。単一品種から造られるとはいえその味わいは千差万別です。ぜひいろいろと飲み比べて、その奥深い世界を楽しんでみてくださいね!