ネッビオーロ ~イタリア随一の高貴なブドウ品種!その特徴を徹底解説

サンジョヴェーゼと双璧をなすイタリアの有名品種、ネッビオーロ。高級ワインであるバローロやバルバレスコの原料になり、最上のものは数十年と熟成するワインを生み出す高貴な黒ブドウ品種です。今回はそんなワインラバーを魅了してやまないネッビオーロについて、特徴や主要産地などを網羅しながら詳しく解説していきます。

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【目次】
1. ピエモンテのピノ・ノワール?:ネッビオーロの香りや味わいの特徴
2. 気難しいと言われるわけ:ネッビオーロの栽培特性
3. ネッビオーロのクローンとシノニム(別名)
4. テロワールを反映するブドウ:ネッビオーロと土壌の関係
5. 伝統 VS. モダン:ネッビオーロの製法の変遷
6. ネッビオーロの主な産地と有名ワイン
 ● 北イタリア
 ● オーストラリア
 ● アメリカ
7. ネッビオーロの楽しみ方やおすすめペアリング
8. ネッビオーロのまとめ


1. ピエモンテのピノ・ノワール?:ネッビオーロの香りや味わいの特徴

ネッビオーロ種の赤ワインの特徴といえば、透明感のある淡いルビーやガーネットの色調と、洗練された香り。すみれや薔薇、チェリーやプラム等赤果実主体の芳しい香りは、ピノ・ノワールを彷彿とさせます。酸とタンニンが強いため熟成のポテンシャルも高く、年数を経たワインは腐葉土やきのこ、たばこや皮革など複雑極まりないフレーバーに。ワインの魅力をこれでもかと感じさせてくれる品種なのです。

「ピエモンテのピノ・ノワール」などとも言われるネッビオーロですが、両者の決定的な違いは、渋みの強さにあります。魅惑の香りに誘われいざ口に含むと、思いのほか力強い味わいに驚くはず。ブラインドテイスティングで出てきたら、この渋みの強さがピノ・ノワールとの判別ポイントになります。

2. 気難しいと言われるわけ:ネッビオーロの栽培特性

ネッビオーロが栽培されているのは、北イタリアのバローロ・バルバレスコ地区ロエロ地区北ピエモンテロンバルディア州ヴァッレ・ダオスタ州などイタリアの中でも狭い地域に限定されています。主産地であるピエモンテ州はアルプスの麓に位置し、厳しい冬と暑い夏をもつ穏やかな大陸性気候。生育期の雨が少なく程よく冷涼な気候は、晩熟の品種であるネッビオーロの栽培に適しています。収穫期は10月後半から11月と遅く、この時期に霧(ネッビ)がかかることが品種名の由来とも言われています(他にも諸説あります)。

一方、問題となるのが春霜と収穫期の雨。芽吹きが早いため、斜面の下など冷気が溜まりやすい畑は、春霜の被害を受けやすくなります。また樹勢が強いため、果房が葉っぱの影にならないよう、生育期の新梢管理が重要です。

ネッビオーロはピノ・ノワール同様、栽培が難しい品種として知られています。果皮が薄いため病気にもかかりやすく、また畑の方位や高度などわずかな差異に敏感に反応し、条件の良い畑でないと成熟しません。標高が高すぎると完熟しないため、最良のワインは標高150~350mの南向き斜面のブドウから造られます。気難しい性格であることは、イタリア全土で栽培されているサンジョヴェーゼと比べて栽培エリアが極端に少ないことからも明らか。ピエモンテ州を代表するブドウであるにも関わらず、黒ブドウの栽培面積としてはバルベーラ、ドルチェットに続き第三位に留まっています。

3. ネッビオーロのクローンとシノニム(別名)

ネッビオーロ

ネッビオーロ

ネッビオーロは13世紀には文献に記録が残っている古い品種であり、クローンも多く存在します。特に有名なのは次の3つ。「ネッビオーロ・ランピア」は、最も広く流通しており、信頼性の高いクローンです。「ネッビオーロ・ミケ」はランピアのウィルス感染型で、生産量は少ないものの品質の良い果実が収穫可能といわれています。「ネッビオーロ・ボッラ」は、以前は広く栽培していましたが、今は重要性が下がっているクローンです。また「ネッビオーロ・ロゼ」は、形態学的にかなり異なり、ネッビオーロのクローンというよりは別品種として認識されています。

また、サンジョヴェーゼ同様シノニム(別名)も多く、北ピエモンテでは「スパンナ」、ヴァルッテリーナでの「キアヴェンナスカ」、ヴァッレ・ダオスタ州では「ピコテネル」と呼ばれます。同じ品種でも名前が変わるのは、地域性が強いイタリアらしいですね。

4. テロワールを反映するブドウ:ネッビオーロと土壌の関係

ネッビオーロはピノ・ノワールと同じく、テロワールの個性を反映しやすいブドウです。例えばバローロの中でも小地区によってワインの味わいに違いが生まれます。バローロの中でも特に有名なのが5つの村、ラ・モッラ、バローロ、セッラルンガ・ダルバ、モンフォルテ・アルバ、カスティリオーネ・ファレット。土壌で分けるとざっくり2つに分かれます。ラ・モッラ、バローロなどの村がある生産地区西側は、トルトニアーノと呼ばれる泥灰土と砂が混ざる土壌。薫り高く優美で、比較的早飲みのバローロが造られます。対してセッラルンガ・ダルバ、モンフォルテ・アルバ、カスティリオーネ・ファレットなどの村がある東側はエレヴィツィアーノと呼ばれる泥灰土。鉄分が多く赤茶色をした土地は、厳格でスパイシーなバローロが生み出すといわれています。

また、歴史的にバローロは複数の畑のブレンドで造られてきましたが、より畑の個性を際立たせるためブルーノ・ジャコーザアンジェロ・ガヤといったバローロやバルバレスコの代表的造り手が単一畑のワインのリリースをはじめ、「クリュ・バローロ」が注目されるように。特に有名な畑として、バローロ村にあるカンヌビは覚えておきたいところ。名生産者ルチアーノ・サンドローネのカンヌビ・ボスキスは「神の雫」でも取り上げられ、一躍有名になりました。

5. 伝統 VS. モダン:ネッビオーロの製法の変遷

ネッビオーロの特徴である強烈な酸とタンニンを扱うために、生産者たちは様々な醸造方法が試してきました。バローロの製法を見てみると、その変遷をわかりやすく追うことができます。バローロの昔ながらの伝統製法といえば、長期マセレーション&長期の大樽熟成。3〜4ヶ月にわたる長い醸しの後に大樽でワインを5〜8年程度寝かせることで、強いタンニンや酸を和らげつつ、飲みごたえのある重厚なワインを造るのが慣わしでした。

イタリアでのワイン造りに大きな変化が訪れたのは、ワインの近代化「イタリアワイン・ルネッサンス」が起こった1980年代以降。長期間熟成させないと飲みにくい伝統的なバローロは時代遅れと見なされ、短期のマセレーションや小樽での新樽熟成により、果実味を重視した早飲みできるモダン・バローロが造られるようになりました。最近は、伝統派とモダン派の中間を取り、適度な抽出で新樽の香りを抑えたバランスの良いワインを造る生産者も増えています。

6. ネッビオーロの主な産地と有名ワイン

北イタリア

バローロDOCG

ネッビオーロの本場は北イタリア、ピエモンテ州。トスカーナと並ぶイタリアが誇る高級ワイン産地であり、何十年も熟成するバローロやバルバレスコはワインラ

バー垂涎のワインです。特にバローロは最低熟成期間も38ヶ月(リゼルヴァは62ヶ月)と長く、リリースまでに時間を要する「王のワインでありワインの王」と言わしめるワインです。先述した通り、ブルゴーニュのピノ・ノワール同様、土壌の違いを反映すると言われるネッビオーロでは、バローロ村の中でも違いがはっきりと出るため、ワイン愛好家が沼りやすい産地といえます。

バルバレスコDOCG

バローロと並ぶ高貴なワイン、バルバレスコ。バローロと同じくネッビオーロ100%で造られます。バルバレスコのブドウ畑は一般にバローロの畑よりも高度が低く、より暖かいところにあるため、収穫時期が早くなります。その酒質の違いは熟成期間にも表れており、バローロの38ヶ月に比べて26ヶ月で出荷できるため、バローロよりも安価であることが多く、早く楽しめる使い勝手の良さがあるのも魅力です。

ロエロDOCG

同じくピエモンテ州、アルバの北西にあるロエロ丘陵で造られるネッビオーロ主体の赤ワイン。2004年に昇格した比較的新しいDOCGです。赤ワインに白ブドウのアルネイスを少量ブレンドすることが認められているのが珍しいポイントです。ロエロ丘陵に広がる砂質土壌からは、比較的軽やかなネッビオーロのワインができるといわれています。

ガッティナーラDOCG(北ピエモンテ)

ピエモンテ州北部のヴェルチェッリ県で造られるネッビオーロ主体の赤ワイン。日本ではあまり飲む機会が少ないかもしれませんが、かつてはバローロにも勝る名声を誇っていました。タンニンと酸が強いため、長期熟成させる必要のある力強いワインです。

ゲンメDOCG(北ピエモンテ)

ピエモンテ州北部でガッティナーラと並んで有名なのが、同じくネッビオーロ主体の辛口赤ワイン、ゲンメ。バローロ一帯に比べてより寒暖差が大きく、酸がしっかりとしたワインになりますが、ゲンメはガッティナーラより優美な味わいが特徴といわれています。

ヴァルテリーナ・スペリオーレDOCG/スフルサート・ディ・ヴァルテリーナDOCG(ロンバルディア州)

スイス国境に近いヴァルテリーナ地区でもネッビオーロが造られており、ここではキアヴェンナスカと呼ばれています。日当たりの良い山の急斜面にブドウ畑が広がり、スパイスやなめし皮のフレーバーを持つ筋肉質な赤ワインが生まれます。通常のヴァルテリーナよりもアルコール度数の高いヴァルテリーナ・スペリオーレ、そして陰干ししたブドウを使ったスフルサート・ディ・ヴァルテリーナはDOCGに認定されています。

以上はすべてDOCGですが、バローロやバルバレスコのような高級ワインをいつも飲めるわけではなし、さらに味わい的にもカジュアルなものを飲みたい時もありますよね。そんなあなたにおすすめなのが、ランゲ・ネッビオーロDOCやネッビオーロ・ダルバDOC。コストパフォーマンスの良い掘り出したものが見つかりやすい穴場の産地です。ランゲ丘陵に広がる広域DOCのランゲ・ネッビオーロには、バローロやバルバレスコ等も内包するため、生産者が「これはバローロとしては出せないな」と思えば、同じ畑のものでもランゲ・ネッビオーロに格下げして販売することも。また、国際品種とのブレンドも認められているため、新しいスタイルのワインが見つかりやすいのも面白いポイントです。

オーストラリア

栽培が難しいネッビオーロは、イタリア以外では栽培量が少ないですが、それでもこのブドウに魅せられ果敢に挑戦を続けている生産者も。イタリア以外でネッビオーロの栽培が増えているのがオーストラリア。代替品種といわれる、メジャーな国際品種以外の品種の栽培が増えており、その中にネッビオーロも含まれています。冷涼なヤラ・ヴァレーやモーニントン・ペニンシュラ、アデレードヒルズ等で栽培されているほか、特に覚えておきたいのがヴィクトリア州キング・ヴァレー。キング・リヴァー流域の内陸の産地で、標高は155m~800mと、オーストラリアで最も標高の高いブドウの産地の一つです。ここはイタリア移民の影響が強く、バルベーラ、ドルチェット、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼなどのイタリアの代替品種が近年注目を集めています。

アメリカ

カリフォルニアにおけるネッビオーロの栽培地としてポテンシャルを秘めているのがサンタ・バーバラ。温暖な気候と冷たい海風によりピノ・ノワールやシャルドネなど冷涼品種の産地として名高いですが、近年質の高いネッビオーロでも注目されています。そのパイオニアといえば、1980年代からネッビオーロに挑戦していた、オーボンクリマのジム・クレンンデネン氏。惜しくも2021年にお亡くなりになったことは記憶に新しいですが、クレンデネン・ファミリーのブランドでリリースしていたネッビオーロは、カリフォルニア最高峰のネッビオーロの一つです。

7. ネッビオーロの楽しみ方やおすすめペアリング

しっかりしたタンニンと酸を持つネッビオーロのワイン。いうまでもなくお肉とは抜群ですが、鶏肉や豚肉といった軽めのお肉よりは、かみごたえのある牛肉、特に赤身のステーキなどにぴったりです。熟成するとマッシュルームやレザーなどの香りを呈するため、秋から冬に美味しいきのこやジビエ料理とはこれ以上ないペアリングをみせてくれるでしょう。また、年月を重ねてタンニンや酸が溶け込んだ熟成バローロやバルバレスコは、単体でゆっくりとそのままでグラスを傾けながら物思いに耽りたい、知的なワインの代表格です。

8. ネッビオーロのまとめ

ピノ・ノワールとの共通点も多いネッビオーロは、ワイン好きの好奇心を刺激してくれる高貴な品種です。価格が高価なものも多いですが、銘柄や格付けにこだわらなければ掘り出し物を見つける楽しみもあります。王道を攻めるもよし、ニューワールドのネッビオーロに挑戦するもよし、ぜひ様々なタイプのネッビオーロのワインを試してみてくださいね。

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