*連載コラム「堀晶代の知っておきたいブルゴーニュ&シャンパーニュのエッジなお話し」のアーカイブページはこちら
新型コロナ対策の緊急事態下、ブルゴーニュのワイン造りは?
3月16日の20時に、フランスではマクロン大統領が緊急テレビ演説で「我々はコロナとの戦争下にある」という強い言葉で、翌日の17日正午から外出制限を実施した。
ただし、この外出制限は農業従事者には適用されていない。
ワイン生産者は今も畑仕事に1日を費やしている。
ブドウ栽培のシーズンは前年の収穫が終わり、本格的な冬が訪れた時から始まる。
近年は「異常気象」や「温暖化」が当然のように訪れるが、ブルゴーニュにとっての2020年ヴィンテージは、現時点では概ね良好に推移している。
2019年は年間を通して乾燥していたが、今年1月には適度な降雨があり、土壌に必要な水分が保たれた。その後は暖冬。
だが生産者は暖冬を歓迎していない。理由は2つある。
一つ目は前年の病害などが冬らしい寒さによって完全に死滅しないこと。
二つ目は暖冬による早い芽吹きが、4月の急激な寒暖差によって、春の霜害に遭うリスクがあることだ。
今年もシャブリは春の霜害に見舞われ、コート・ドール以南では季節外れの雹害に遭った区画もある。
生産者たちが感じているのは、「今年の4月の気温はマイナス2℃まで下がったり、28℃まで上がったり。やはり異常気象だ」。
とくに今年の芽吹きは例年よりも一ヶ月近く早く、芽搔き作業などの畑仕事がすべて前倒しとなった。
「このままでは今年の収穫は8月?」という不安と、「夏が冷涼になればブドウ畑の生育サイクルが読めない」という不安もある。
コロナ災禍の下でも畑仕事は許可されていると前述したが、畑への移動に不可欠な車での移動では、二人以上は乗車できない。
よって畑の周辺には栽培従事者の車が溢れている。
自動車の排出ガスとCO2の関係という意味では、エコに真摯に取り組んできた生産者にとって心理的なストレスを感じるもので、不経済でもある。
またワイン造りに必要なマテリアル(用具や器具など)を扱う農業ショップも閉まっているので、マテリアルを取り寄せることも面倒なことになっている。
畑仕事の本格的な繁忙期は5月から7月まで。
この時期は季節労働者を雇わなければならない。
しかし多くのワイナリーが今年の繁忙期に憂いているのは、「季節労働者にマスクの着用の必要性や、ブルゴーニュの植樹率を考えると、2畝という距離を置いて作業することを徹底させられるか」ということ。
そして早い収穫時期が予想される今年は、もし収穫時期にもコロナが終息していない場合、何十人という収穫人が密になる畑や、人の出入りが多くやはり密になる醸造現場をどのようにコントロールするかも対策しなければならない。
経済的には余力のあるワイナリーでない限り、飲食店の営業再開が見えない今、売り上げの低下による経費削減も急務となっている。
昨年10月から米国による報復関税(航空機大手エアバスへの補助金を巡って米国とEUが交渉している貿易摩擦問題。
米国はフランスなどEU産のアルコール度14%以下のスティルワインや、EU産チーズなどの農産物に25%の報復関税を課した)があり米国への輸出が低迷。
中国からのオファーも激減した後の、国内での消費減。
「予約はあるものの出荷が滞っている。キャッシュフローが把握できないと、予算が組めない」と多くのワイナリーが言う。
しかし良いこともある。ワイナリーに訪問客が来ないということだ。
大手メゾンなら訪問客に応対する広報がいるが、一般的なワイナリーは当主が応対し、年間で訪問客に割く時間はワイナリーにもよるが膨大なものとなる。
「今年は100%、畑仕事やワイン造りに集中できそうだ」という状況は、2020年ヴィンテージに吉をもたらすかもしれない。
2020.05.08
堀 晶代 Akiyo Hori
J.S.A.認定シニアワインアドバイザー、栄養士。
酒販店でのワイン販売を経て、2002年に渡仏。現在は大阪とパリを拠点に、ワインライターとしてフランスやイタリアを訪問。生産者との信頼関係に基づいた取材をモットーにしている。
おもに「ヴィノテーク」「ワイナート」などの専門誌に寄稿。
著書に「リアルワインガイド ブルゴーニュ」(集英社インターナショナル)など。