カフェ、ビストロとフランスワインの切っても切れない関係 vol.2〜フランスの食文化の真髄 「コンヴィヴィアリテ」をパリで体験するなら

カフェとビストロは、フランス人とワインをつなぐ存在。
カフェ文化、パブリックライフ研究家の飯田美樹が、前後編にわたって、その魅力を伝えます。

フランスワインとビストロを理解する重要なキーワード、「コンヴィヴィアリテ」。それは食とワインを囲むことで生み出される豊かな時間のことだと前回述べた。そんなフランスの姿に憧れてパリまで行ってはみたけれど、冷たくそっけない扱いを受けたという人も多いかもしれない。

観光客を嫌い、英語で話すと冷たいことも多いフランス人。わざわざフランスに行くのであれば、心の通った交流や感動体験があればいいけれど、ツンとすました人の多い中、そんな経験をすることは本当に可能なのだろうか。

文・写真/飯田美樹


【目次】

1.コミュニケーションの国、フランス
2.「コンヴィヴィアリテ」を体現する店、シャルティエ
3.社会の浄化装置としてのカフェやビストロ


1.コミュニケーションの国、フランス

フランス人、特にパリの人たちはガードが固く、仲間意識も強いため、友人でもない人とあえて交わろうというオープンな人はあまりいない。だから初対面の人は彼らを冷たく感じるだろう。とはいえ一度そのガードが解けると、彼らは別人のように優しくなり、他者のことを心から大事にしてくれるようになる。私は人生で困っている時、パリの人たちに本当にお世話になって、彼らの熱さやあたたかさに常に励まされてきた。

分厚くて開かずの扉のように見えるパリの壁。それを乗り越える鍵のひとつがフランス語なのは間違いない。フランス語を話そうとすれば、どんなにたどたどしくても彼らは嫌な顔ひとつせずに待ってくれ、こちらの意図を組もうとしてくれる。フランス語でのコミュニケーションはカフェやビストロでも非常に重要である。一般に、パリのカフェのギャルソンは愛想が悪いと言われるが、フランス語でコミュニケーションすれば特に悪い思いをすることもなく、むしろ心あたたまる対応をしてくれる。

カフェ・ド・フロールのギャルソン

なぜフランス語が重要かといえば、フランスは会話の国であり、ビストロやレストランでも、スタッフとのちょっとしたコミュニケーションこそが心地よい場を生み出すからだ。フランスにおける飲食店は単に飲み物を飲み、美味しいものが自動的に運ばれてくる店ではなく、スタッフとのやりとりを通じて、そこでの経験の質を高め、その場にいる幸福感を増す場である。フランスにおけるサービスは、受動的に待っていれば最高のおもてなしが受けられるというよりも、自分が積極的に関わることで、一緒に創り出す、心の通ったコミュニケーションに近いだろう。

たとえば私は以前モンマルトルの麓、クリシー広場の老舗ブラッスリー、ウェプレールに日本人の友人と行ったことがある。彼女はそれまで数日パリに滞在したが、あまりコミュニケーションもなかったため、想像していたほど楽しめなかったらしい。だが、その店で私がギャルソンに牡蠣について尋ねたり、ワインはどれにしようかなどあえてコミュニケーションしたところ、ギャルソンも態度が変わって私たち二人に優しくなった。そして料理が運ばれるたび、私たちはささやかな会話を交わし、この空間に受け入れられているという気持ちになって、数年経っても忘れないほど素晴らしい思い出の夜となっている。つまりフランスにおいて大切なのは、フランス語で会話すること、自らコミュニケーションを試みることであり、じっと待っていても何も起こらず、場合によっては頼んだものがいつまで経ってもこないため、こんな国はけしからんと怒ることになってしまうのだ。

かけがえのない思い出となったウェプレールでの時間

 

2.「コンヴィヴィアリテ」を体現する店、シャルティエ

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