いま熱い!チリワイン ~新たな魅力を知るための3つのポイント

今、チリワインが熱いー。2022年にチリワイン生産者団体公認の「チリワインエキスパート試験」が開始され、愛好家の間でもチリワインの知識がより深く理解されようとしています。今回は、チリワインを理解するうえで大切な3つのポイントをご紹介しましょう。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
ポイント1:動物ラベルのチリワインは日本だけ
ポイント2:冷却効果を求めて
ポイント3:厳格な醸造家の教育と認証
これまでと異なる視点で


ポイント1:動物ラベルは日本だけ

チリワイン=動物がラベルに描かれたお手頃なワイン、そんなイメージを持っている人が多いようです。しかし、この動物ラベルのワインが売られているのは日本だけ。チリ国内のワインショップはもちろん、スーパーに行っても動物ラベルのワインはまったく見当たりません。

実際、チリは21世紀に入り、量産型から、品質重視のスタイルに転換しています。それでは、なぜ日本だけ動物ラベルのワインが売られているのでしょうか。この答えは、2008年のリーマンショックにあります。

当時、世界的不況で経済が冷え込み、「ワインなんて飲んでる場合じゃないよ」という重たい空気が、日本中に広がり始めていました。どうしたらもっと気軽にワインを飲んでもらえるのか…そんな中、少し前に爆発的ヒットを果たしたオーストラリアワイン「イエローテイル」を成功事例として模倣したらよいのでは?というアイディアが、とある日本企業のなかで持ち上がりました。そして、その担い手として白羽の矢が立ったのが、チリだったのです。

こうして日本市場専用に、動物ラベルのジューシーでわかりやすい果実味のワインがつくられ始めました。かわいらしい動物が描かれたチリワインは、日本市場で大ヒット。その後、次々とプドゥーやピューマなどの動物が描かれたワインが誕生したのです。

ポイント2:冷却効果を求めて

チリの主要生産地は、首都サンチャゴ南部の「セントラル・ヴァレー」に広がります。この地域は温暖な地中海性気候が中心で、カビや霜害のリスクが少なく、安定してブドウを栽培できるため、ブドウにとっては理想的な環境といえるでしょう。

その反面、近年は深刻な水不足、ブドウの過熟、日焼けが問題となっています。そのため、涼しい風が受けられる場所や、気温が低くなりやすい場所(これを「冷却効果」と呼びます)に畑が広がっているのです。

1つは沿岸部周辺。太平洋には南極からフンボルト寒流が流れているために、朝方まで霧で覆われ、湿度が上がるばかりか、気温が下がります。また強すぎる日差しを霧が遮ってくれるのも魅力です。そのため、チリでは「うちの畑は海から〇km」といった具合に、海からの距離がよく語られます。

沿岸部カサブランカの葡萄畑

2つ目は、アルゼンチンとの国境ともなるアンデス山脈の麓に畑を築くこと。100m標高が上がるごとに、気温は0.6℃低くなっていきます。アンデス山脈から、吹き降ろす冷たい「ラコ」という風が畑を冷却してくれるのも魅力的です。現在、チリでもっとも標高が高い畑は3200メートルにあります。

アンデンス山脈の麓に広がる葡萄畑

チリワインというと、果実味芳醇でジューシーなワインを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、近年はこのように冷却効果を受ける産地から、エレガントで軽快なワインが多数つくられているのです。

ポイント3:厳格な醸造家の教育と認証

醸造家たちがワインの道を選ぶ理由はさまざま。例えば「おじいちゃんがチチャ(アルコール発酵を途中で止めた酒)をつくっていて、子供のころからワインに興味があった」とか、「サイエンスが好きだったから」など、個々の背景が色濃く反映されています。

チリでは、ワイン醸造家を「エノロゴ」(女性の場合は「エノロガ」)と呼びます。この職業に就くためには、厳格なステップを踏む必要があります。まず、ワイン醸造学を専門に学べる大学(チリ大学、カトリカ大学が有名)入学し、学位を取得することが求められるのです。興味深いことに、これらの学位プログラムでは、ブドウ栽培や醸造学に加えて、化学、生物学、感覚評価、ワインビジネスなど幅広い知識を学びます。チリの醸造家たちに質問をすれば、ワイナリーでの作業だけでなく、ブドウ栽培や市場動向に対しても正確な答えが返ってくるのも納得です。

次に、ワイナリーでの実習やインターンシップ、業界での経験が必要です。そして最後に、SAG(Servicio Agrícola y Ganadero)への登録が求められます。SAGはチリの農業と畜産業を監督する政府機関で、ワインの生産や品質管理に関する規制や認証を担当しています。

世界を見渡せば、醸造家のバックグラウンドに対する規定がない国もあります。もちろん、学位がなくても技術の伝承や経験で素晴らしいワインは生まれています。しかし、品質管理という観点で、チリは国をあげて非常に厳格な姿勢を示しているいるのです。

プレミアムワイン「ドン・メルチョル」の醸造家エンリケ・ティラド氏。ブレンドの再現を披露してくれた

これまでと異なる視点で

チリワインは、しばし「誤解されている」、あるいは「情報が少ない」と感じることがあります。もし今度、売り場でチリワインを手にしたり、飲んだりすることがあれば、これらのポイントを少しだけ思い出してみてください。きっと、これまでと違った視点でチリワインに接することができるでしょう。

次回は、チリの最新事情をご紹介します。

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