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閉店とニューオープンをつなぐもの
浅妻千映子の最新レストラン事情 Vol.21〜閉店とニューオープンをつなぐもの
少し前に、あるレストランの「閉店」パーティーがあった。
開店パーティーは少しも珍しくないが、閉店パーティーは、とても珍しい。
パーティーがあったのは、新宿にあるハイアット リージェンシー東京に入っていたフランス料理店「キュイジーヌ［S］ミッシェル・トロワグロ」だ。
言わずと知れたフランス「トロワグロ」の海外唯一のレストラン。
本国の店は、ミシュランの3つ星を50年以上取り続けている。
日本に上陸したのは2006年のことで、こちらも、2007年からミシュランの2つ星を12年連続で取り続けていた。
わたしは2、3度しか訪れていないが、最初にすっと出てくる突き出しに始まり、前菜やメインはもちろんのこと、最後のお茶や小菓子に至るまで、出てくるものすべては文句なしに美味しく、贅沢かつ軽やか。
白トリュフを食べた時のことは、今思い出しても頰が緩む忘れられない思い出という、素晴らしいレストランであった。
閉店パーティーをしたということは、円満に閉店したということだ。
パーティーには、今もカフェやお惣菜のブティックがある小田急百貨店や、ハイアット リージェンシーホテルの関係者はもちろんのこと、肉や魚や野菜の生産者もたくさん招待されていた。
パーティーフードがまたとても美味しく、サーモンオゼイユという店のシグニチャーメニューまで小皿で出てきて、これから閉店というのに、なんだか申し訳なくなるほどだった。
さらには、ミッシェル・トロワグロ氏や、日本でのシェフやパティシエといった方からの挨拶は心に響くものがあり、涙もろい私だけでなく、多くの人が目尻をぬぐっていた。
いいパートナーシップというのはこういうものだと感じさせてくれた。
帰りにいただいた手作り感溢れる写真集も、こうした時代になかなか見ない素朴なもので、それがまた新鮮でもあり、温かみとこの店への思い入れを強く感じ、またジンと目尻が熱くなったのであった。
さて、ミッシェル・トロワグロ氏は、またいつか日本で何かをしたいという気持ちがあるようだったので、それは期待したいところだ。
パーティーから1ヶ月ほど経ったところだが、来月半ば、ホテル一階のその場所は新たなレストランができるようである。
ほどよくカジュアルなブラッスリーで、ホテルなのにサービス料を取らないという。
オープンしたら、早速行ってみたいと思っている。
ちなみにハイアット リージェンシー東京は、都内屈指のスイーツの美味しいホテルである。訪れたらぜひ、2階のペストリーショップものぞいてほしい。
話は少し変わって、最新のニューオープンで素敵だったレストランを一つご紹介したい。
アカデミー・デュ・ヴァン青山校からも遠くない、表参道のジャイルビル（キディランドのすぐ近くだ）にできた、「エラン」。
あの銀座「エスキス」でスーシェフを務めていた信太竜馬さんがシェフとなって、現代的な素材重視のコース料理を展開する。
信太シェフの経歴をよく見たら、フランスのトロワグロでの研修経験があった。
実は、師匠となるエスキスのシェフ、リオネル・ベカ氏は、2006年「キュイジーヌ［S］ミッシェル・トロワグロ」が日本にできたとき、ミッシェル・トロワグロ氏に任命されて日本のシェフになって来日したのである。
おお、見事に今日の話が繋がりましたね。
信太シェフが「エラン」をオープンするにあたり、師匠であるリオネル・ベカ氏に店名の相談をすると、リオネル氏は、20も30もフランス語の候補を挙げて、熱心に言葉の意味を説明してくれたのだそうだ。
その中から「飛躍」を意味する「エラン」が選ばれたとのこと。そんな話を聞くと、トロワグロから脈々とつながる温かい何か、そして確かな技術があるような気がして、この店の今後をさらに期待してしまう。
10数皿出てきたエランの料理では、糠漬けをトマトのスープであるガスパッチョに入れた料理が衝撃的だった。
他に、魚を使った皿が特に印象的だったが、さて、この先どんな風に飛躍していくのか楽しみだ。
ジャイルビルの4階は、このレストランだけでなく、信太シェフの監修するカジュアルレストランや、緩く飲めるバー、グロサリーなどもあって、全体が統一されたジャングルみたいな空間となっている。
バーでは「タップカクテル」というユニークなカクテルもあって、まずは一度、デュヴァンの帰りにでも、気軽にふらりと訪れてみることをお勧めしたい。
▶︎エラン(élan)のウェブサイトはこちら
2020.01.24
浅妻千映子 Chieko Asazuma
J.S.A.認定ワインエキスパート。
1972年東京生まれ。聖心女子大卒、大手建設会社で3年間のOL生活ののち、フードライターに。
著書に『食べたきゃ探そう』（時事通信社）、『東京広尾 アロマフレスカの厨房から』『パティシエ世界一』『江戸前「握り」』（すべて光文社）。『東京最高のレストラン』（ぴあ）採点者としても活躍。パティシエをテーマにしたマンガ『キングスウヰーツ』（全5巻 小学館）の原案を担当。近年は『dancyu』などの媒体でもレシピを公開。人気サイト「All About」でプラチナレシピのガイドも担当している。
