今、グイグイ、キテる南アフリカの注目ワインvol.1 赤ワイン編

南アフリカ共和国はアフリカ大陸の最南端、日本から飛行機を乗り継いで最短でも丸一日かかる遠く離れた国ですが、2019年日本で開催されたラグビーW杯といえば、その活躍ぶりを思い出す方も多いのではないでしょうか。2010年にFIFAサッカーW杯の南アフリカ大会が開催された際、日本で南アフリカワインが少し注目されるようになったと記憶していますが、私が本格的に「南アフリカワインの勢い」を実感し始めたのは、2015年ごろでした。

WSET®Diplomaを2016年に修了してすぐに応募したPIWOSA Women In Wine Initiative(世界のワイン業界で活躍する女性に南アフリカのワイナリーがインターンシップに招待するプログラム)に選ばれ、2017年2月から4週間、現地のワイナリーで研修したのが、初の南アフリカ訪問でした。その後、自分でも不思議なくらいさまざまなご縁が繋がり、2018年にCape Wine(南アフリカワイン展示会)の取材で再訪、2019年にはWOSA Japan(南アフリカワイン協会)のプロジェクトマネージャーとなり、Cape Sommelier Cupのアテンドで3度目の訪問を経験しています。

文・写真/高橋 佳子


【目次】

1.ワインの魅力は、近代化×脱グローバリゼーション
2.品種のバリエーションと、若いワインメーカーの取り組み
3.おすすめの南アフリカ産赤ワイン


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1.ワインの魅力は、近代化×脱グローバリゼーション

ステレンボッシュのブドウ畑から、ヘルダーバーグ山を臨む。

南アフリカワインが本格的に存在感を増してきた背景には、国際社会からの孤立を招いたアパルトヘイト政策の終焉、1994年に民主政権が誕生したことが大きな転期となっています。海外から南アフリカへの投資が進むと同時に、次世代を担う若い生産者たちが積極的に海外の産地へ出向き、交流が深まったことで南アフリカワインの現代化、品質向上が一気に加速しました。何より、南アフリカのワイン産地は、私も現地を訪問する度に圧倒されるのですが、世界でも稀に見るダイナミックで美しい恵まれた自然環境を有し、世界中のワイン産地を知り尽くしているであろうワインジャーナリストたちをも虜にしていきました。

国際市場で南アフリカワインの認知度が高まるにつれ、生産者の間で土地の個性を表現しようとする意識も高まっていきました。栽培や醸造技術の近代化が世界と同じレヴェルに急速に追いつきながらも、パーカーイズムによるワインのグローバリゼーションにさほど巻き込まれていないことは、新世界ワイン産地としてユニークな側面でしょう。それは、ジャンシス・ロビンソンMWを始めとするイギリス系の評論家にとっては好意的だったと考えられます。ティム・アトキンMWは2013年から毎年、生産者の格付けを含めたレポートをオンラインでリリースしており、現地で毎年出版される「プラッターズ・ワイン・ガイド Platter’s Wine Guide」と併せて、生産者と消費者双方にとって重要な南アフリカワインガイドとなっています。

 

2.品種のバリエーションと、若いワインメーカーの取り組み

ワイン産地は、南西端の西ケープ州Western Capeに集中している。提供:WOSA

南アフリカの主要ワイン産地のほとんどは、国土の南西端にあたる西ケープ州に集中しています。このエリアは主に乾燥した地中海性気候で、沿岸部では南極から大西洋へと流れる冷たいベンゲラ海流がブドウ畑に涼しい海風をもたらし、夏の暑さを和らげます。また、およそ10億年前に地球上で最初に存在した超大陸に起源を持ち、世界のワイン産地で最古といわれる土壌がいくつか分布しています。地殻活動と侵食を繰り返すことで劇的に多様な地勢が形成されました。このような自然要因がユニークなテロワールを形成し、多種多様なブドウ品種が栽培されています。西ケープ州の主要産地は、コースタル・リージョンに含まれるステレンボッシュ、パール、スワートランド、コンスタンシア、近年注目を増しているより冷涼な気候のケープ・サウス・コーストにはエルギンやウォーカー・ベイなどがあり、これらの地区で南アフリカを代表するプレミアムワインが生産されています。冷却効果と風をもたらす海との距離、畑の標高や方角、そして花崗岩、砂岩、頁岩など土壌タイプによって同一地区内にも異なるテロワールが存在し、ステレンボッシュやウォーカー・ベイのように小地区化が進行している産地もあります。

現在、南アフリカのワイン用ブドウの栽培面積はおよそ9.2万ヘクタールですが、2010年から2020年で8.9%減少しています。その主な要因は、ウイルスに感染したブドウ樹の改植や干ばつの影響などが挙げられます。そして、量より質を優先した高品質な品種への植え替えも進んでおり、20年前までは白ワイン品種が8割を占めていましたが、国際市場で需要のある赤ワイン品種がとって代わり、現在の白赤比率<55:45>になっています。とはいえ、直近の5年ほどは白ブドウ品種が優勢を取り戻しており、最も栽培面積が多い品種はシュナン・ブランです。品種別にみると、ピノタージュを除いてトップ10の品種はフランス系で、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、セミヨン、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー/シラーズ、メルロー、ピノ・ノワール、サンソー、カベルネ・フランなどが栽培されています。

南アフリカワインの歴史は古く、1659年に最初のワインが造られたという記録が残されています。オランダ東インド会社が東方諸国への航路の中継地としてケープタウンに入植したことが始まりで、その後、フランスから宗教迫害を逃れてやってきたユグノー派の人々が本格的なワイン造りを伝えました。

南アフリカで最も多く生産されている赤ワイン品種は、カベルネ・ソーヴィニヨンです。言わずと知れた世界の赤ワインのキングですが、2000年代以降、南アフリカワインが世界のワインマーケットで品質向上をアピールし、存在感を発揮するという重要な役割を担ったと言っていいでしょう。ボルドースタイルのブレンドワインも含め、特にステレンボッシュとパールでプレミアム品質のワインが生産されています。

ステレンボッシュは、南アフリカワイン産業の中心産地。南にフォルス湾を望み、周囲を折り重なるように複雑に山々が連なるダイナミックな地形、至る所にブドウ畑が広がり、訪れる人を魅了します。近代的な醸造設備を導入したラグジュアリーなワイナリーも多く、レストランやギャラリーを併設したモダンなテイスティングルームから、美しいブドウ畑の中に宿泊施設のあるリゾートまで、ワインツーリズムも充実しています。

「南アフリカのワインは新世界産地の中で最もヨーロッパの味わいに近い」と、専門家の間でも一般的によく言われますが、南アフリカのボルドースタイルの赤ワインは、カリフォルニアやオーストラリアと比較して、果実味の主張が控えめで、熟成するにしたがって、よりスパイスやスモーキーさ、ドライな印象に発展していきます。歴史的にも地理的にも、南アフリカとヨーロッパとの親和性は高く、味覚の方向性が同じなのも頷けます。

赤ワインで2番目に多く生産されている品種はシラーズ/シラーで、主要産地はボルドー品種同様ステレンボッシュとパールですが、スワートランドも注目です。
スワートランドは、1990年代までは共同組合としてワインを生産したり、栽培農家が大手のワイナリーにブドウを供給していた産地ですが、2000年代以降、若い生産者を中心にダイナミックな変革が起きています。

そのきっかけとなったワインメーカーが、イーベン・サディEben Sadie。彼に出会い、影響を受けた志高い若いワインメーカーたちが、この地の自然が育むブドウに魅せられ、土地を愛し、世界を魅了するワインが続々と生まれる産地へと変貌を遂げました。彼らは2010年に「スワートランド・レヴォリューション」を結成し、積極的に国内外でスワートランドの真の魅力を伝える活動を行い注目を集めました。現在、18の志を共にする生産者が「スワートランド・インディペンデント・プロデューサーズ(SIP)」としてその理念を受け継ぎ、土地のアイデンティティを語るテロワールワイン造りを目指し、世界に発信しています。
そのムーヴメントの中心的生産者マリヌー夫妻は、世界が一目置く南アフリカを代表するシラーの造り手で、土壌違いの単一畑産シラーを生産し、テロワールの表現を追求しています。パールダバーグPaardebergの風化した花崗岩由来の土壌から造られるGraniteグラニットは、スミレのような華やかなアロマと新鮮な果実味がエレガントなシラー。SchistシストはカステルバーグKasteelbergのシェール(頁岩)とシスト(片岩)の土壌で、ストラクチュアのしっかりとしたワイン。Ironアイアンは、マルメスブリーMalmesburyの西の丘に分布する鉄分豊富なコーヒークリップkoffieklip土壌のシラーで、ブラックペッパーやベリーのアロマが豊かなワイン。それぞれのワインは生産量も少なく、比較してテイスティングすることで真価を発揮するものであり、なかなか一般的に楽しまれる類のワインではないかもしれませんが、こうした細部に拘ったワインが生産され、注目を集めることこそが、SIPが目標とするワイン造りであり産地形成に繋がるのです。

南アフリカの赤ワインを語る上で忘れてならない品種がピノタージュです。1925年、ステレンボッシュ大学ブドウ栽培学の初代教授アブラハム・イザック・ペロールが、ピノ・ノワールとサンソーの交配に成功し誕生した品種ですが、実際に商業的な栽培が始まったのは1950年代になってからで、1961年にリリースされたランゼラックLanzeracのピノタージュのPinotage 1959が、ピノタージュとして初めて生産されたワインです。

転換期が訪れたのは、1991年のこと。1950年代当初からピノタージュを生産していたカノンコップKanonkopの1989年ヴィンテージが、ロンドンで開催される国際的なワインコンクール「International Wine and Spirits Competition」において最優秀赤ワインに選ばれ、さらにこのワインを手掛けたワインメーカー、ベイヤーズ・トルターBeyers Truterは、年間最優秀ワインメーカーに選ばれたのです。これをきっかけに、地元でピノタージュの人気が急上昇。セラーの片隅にストックされていた古いヴィンテージのピノタージュを開けてテイスティングしてみると、とても良い熟成を経ていたことから、熟成のポテンシャルも認識されるようになりました。カノンコップの現セラーマスター、アブリー・ビースラールAbrie Beeslaarは、国際的なコンクールで年間最優秀ワインメーカーに3度も選ばれるという活躍ぶりで、ピノタージュのスペシャリストとしての地位を築いています。

カノンコップの古木のピノタージュの畑

クラシックなピノタージュのワインはフルボディで、熟した赤い果実の風味はアメリカンオークとの相性が良く、熟成によって土やシガーのような風味に発達するスタイルです。また、ピノタージュを主体にカベルネ・ソーヴィニヨンなどのボルドー系品種をブレンドするワインは、「ケープ・レッド・ブレンド」と呼ばれます。それに対して、近年では親品種であるピノ・ノワールやサンソーのフレッシュで軽やかな特徴を備えたワインを造る生産者も増えてきました。過去には「絵の具や焼けたゴムのような特徴がある」と酷評されることもありましたが、栽培・醸造技術の向上に伴い生産者の間でも見直され、ピノタージュから興味深い多様なスタイルのワインが生産されるようになっています。

ワインラヴァーにとっては、ピノ・ノワールの存在も気になるところでしょう。温暖で乾燥した気候の産地が多い南アフリカで、冷涼な気候を好む繊細なピノ・ノワールに適した土地はそう多くはありませんが、注目の産地はウォーカー・ベイ。ヘルマナスという小さな港町から北東に形成されるへメル・アン・アールダ・ヴァレー内に3つの小地区があり、ここが南アフリカにおけるピノ・ノワールのホットスポットです。パイオニアは、1975年設立のハミルトン・ラッセルHamilton Russellで、2代目アンソニー・ラッセルは、1990年代からシャルドネとピノ・ノワールのみの生産にフォーカスし、詳細な地質調査なども行っています。
第3世代で筆頭に挙げられるワインメーカーは、クリスタルムCrystallumのピーター・アラン・フィンレイソンPeter-Allan Finlaysonと、ハミルトン・ラッセルで10年間醸造長を務めたハネス・ストームHannes Stormです。ストームは2012年から自身の名前でピノ・ノワールを生産している若手最注目のつくり手で、3つの小地区からそれぞれ別のキュヴェをリリースし、即完売の人気を誇ります。まだ若い産地ながら、ピノ・ノワールの産地として十分な可能性を秘めています。

ストーム夫妻

南アフリカで今後注目したいその他の赤ワイン品種として、サンソー、グルナッシュ、カベルネ・フランを付け加えておきます。生産量は少ないながらも、目を見張るクオリティのワインが見つかります。中でもサンソーは南フランスでブレンドやロゼに使用される地味な印象の品種ですが、南アフリカでは気鋭の生産者たちが、チャーミングな赤系果実の風味が爽やかな、軽やかで飲みやすい魅力的な赤ワインを生産しています。昨今の食のライト化トレンドにも合っていて、また、蒸し暑い夏に少し冷やして楽しむ赤ワインとしても最適です。
白ワイン編に続く・・・

 

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3.おすすめの南アフリカ産赤ワイン

●スターク・コンデStark-Conde /カベルネ・ソーヴィニヨンCabernet Sauvignon
ステレンボッシュの小地区ヨンカースフック・ヴァレーにある自社畑は、ニューヨーク出身の元グラフィックデザイナー、ホセ・コンデが切り拓いた。ステレンボッシュの街を見下ろす急な渓谷斜面で、他のエリアと比べて降雨量が多く、日照量も豊富な土地で、凝縮度がありながらもエレガントなカベルネが育つ。

ヨンカースフックの自社畑に立つ、スタークコンデのホセ・コンデ

 

●サワーヴァイン Saurwein /オム&ノム ピノ・ノワールOm & Nom Pinot Noir
2015年より自身のワイン造りを始めた若き女性ワインメーカー、ジェシカ・サワーヴァインJessica Saurwein。Omオムはへメル・エン・アールダ・リッジ、Nomノムは標高700mのエランズクルーフの畑で、若いながらも透明感溢れる美しいワイン。クリスタルム、ストームに続くピノ・ノワールのつくり手として期待が高まる。

 

●モメントワインズMomento Wines /グルナッシュ・ノワールGrenache Noir
グルナッシュに魅せられた女性ワインメーカー、マレリーズ・ニーマンMarelise Niemann。彼女のグルナッシュにはどこにも暑さは感じられず、フレッシュでチャーミングな赤系果実と調和するスパイスの風味、グルナッシュの魅力あふれるナチュラルなワイン。

モメントワインズのマレリーズ・ニーマン

 

●マリヌー Mullineux /シラー・スワートランドSyrah Swartland
クリス&アンドレア・マリヌーChris & Andrea Mullineuxは、南アフリカワイン業界をリードするおしどり夫婦。本文で紹介したシラーの他、複数の区画をブレンドしたシラーやシュナンも非常にお買い得なワインとしてオススメ。

マリヌーのクリスとアンドレア夫妻。

 

●サヴェージSavage Wines /フォロー・ザ・ライン・サンソーFollow the Line Cinsault
ケープタウン市内にあるアーバンワイナリー。ダンカン・サヴェージDuncan Savageは、長身イケメンのサーファーで、ケープの波を感じるセンスあふれるワインを生産している。

サヴェージワインズのダンカン・サヴェージ。

 

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高橋佳子 (Yoshiko Takahashi DipWSET)

Y’n plus代表 大学卒業後ワインサービス、インポーター、ワイン専門卸を経て、2013年よりフリーランス。アカデミー・デュ・ヴァン講師、ワイン専門通訳・翻訳、執筆、コンサルタントなどワイン業界で多角的に活動する。2019年よりWOSA Japan(南アフリカワイン協会)プロジェクトマネージャー。「日本ソムリエ協会 教本」南アフリカ・オーストラリア・ニュージーランドの項を担当。
WSET® Level 4 Diploma/Level 3 SAKE
日本ソムリエ協会認定ソムリエ/SAKE DIPLOMA

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