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「闘う葡萄酒」を読む。
九州でひときわ目立つワイナリーと言えば
宮崎県の都農ワイナリーだろう。
第3セクターでありながら成功した稀有のワイナリーだ。
(そう言えば島根ワイナリーの急激な品質向上も侮れない。)
その都農ワイナリーを紹介した本。
訪問して社長の小畑暁氏に初めてお会いしたのは2004年。
その年、イギリスの「ワインリポート」で
「世界の最も注目すべきワイン100選」に日本のワインが選ばれた。
場所は南国宮崎県!
第三セクターのワイナリーが!!
しかもワインはキャンベル・アーリーで!!!
これは心底驚きだった。
九州という南国で上質なワイン造りをしていることがとても不思議だった。
その問いに、小畑さんは「南米でワインを造っていたから」と
事も無げに答えたのを鮮明に覚えている。
さて、この本。
共同通信社の上野敏彦さんの著作。
いかにもプロらしい入念な取材をもとに書かれている。
都農ワイナリーが、実は順風満帆なスタートではなかったことや
その中での小畑さんを中心とする関係者の悪戦苦闘が描かれる。
一見温和そうな小畑さんが、
実は古武士のような剛の性格の持ち主だと知る。
特に小畑さんの南米時代の破天荒な逸話は読む者を惹き込まずにはいられない。
そして赤尾誠二さんを始めスタッフやワイナリーに関係ある人々を
ページを割いて事細かに紹介。
いかに地元の多くの人々によって
このワイナリーが支えられているかを描き出している。
銘酒を造り出すのは、
人の繋がりと情熱に他ならない。
闘う葡萄酒
著者:上野俊彦
出版社:平凡社
「イタリアワインと料理の強化書」を読む。
日本ソムリエ協会会報の連載をまとめたもの。
執筆陣は日本ソムリエ協会と日本イタリア料理協会の精鋭という豪華さだ。
記号として料理名とワイン名を単に並べただけではない。
イタリア全20州毎にその特徴や歴史的背景を解説し
表情豊かなイタリア各州の食文化を理解することができる。
代表的な料理の紹介は
さすがイタリア料理協会メンバーによるだけあり
表面的な解説に留まらず読みがいがある。
そこにソムリエの中でもイタリアを得意とする面々から
上手い合いの手が入る。
本当のプロ同士のコラボは見ていて気持ち良い。
書中で水口晃さんが
イタリアワインを「謙虚で寛容なワイン」と表現していた。
さすが水口さん、イタリアワインの本質をひと言で表している。
言い得て妙だ。
この本、ソムリエ協会の直売なので一般の書店では見つけにくい。
気になった方はソムリエ協会にお問い合わせを。
イタリアワインと料理の強化書
著者:日本ソムリエ協会&日本イタリア料理協会
出版社:日本ソムリエ協会
2020.01.31
遠藤利三郎 Risaburo Endo
本名遠藤誠。三代目遠藤利三郎を襲名する。
ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュの3大ワイン騎士団を始め多くのワイン騎士団から騎士の称号を受ける。世界の歴史や文化の視点からワインをわかりやすく語り、ワイン以外の酒類やシガーにも幅広い知識と愛情を持つ。著書に「ワイン事典(学研)」、監修に「シャンパーニュ・データブック(ワイン王国)」、「新版ワイン基礎用語集(柴田書店)」、共訳に「地図で見る世界のワイン(産調出版、ヒュー・ジョンソン)」など著作多数。ワインバー遠藤利三郎商店オーナー。