*連載コラム「葉山考太郎の新痛快ワイン辞典」のアーカイブページはこちら
葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「ほ」で始まる語の後編をお届けします。
見出し語について
(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー
(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー
(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート
■ほ■のつづき
ホベーフ・パフケフ(Robert Parker)
フランス・ワインの天敵、ロバート・パーカーのフランス語読み。フランス語のラリルレロは日本語のハヒフヘホに似ているので、どうしてもこう聞こえる。ちなみに、有名なジャズ・ピアニスト、ハービー・ハンコックは、パリのコンサートでフランス人の司会者から、「エルビアンコー」と紹介されていた。【関連語:ロバート・パーカー】
ポマール(Pommard)
シャトーヌフ・デュ・パプと間違うほどドッシりした赤ワインを作るブルゴーニュの村。コート・ド・ボーヌ地区にあり、コート・ド・ニュイ地区のジュヴレイ・シャンベルタン村に相当する。名前が短かく響きがキレいなので欧米や日本で人気が高い。【反対語:シャンボール・ミュジニー、関連語:ジュヴレイ・シャンベルタン】
ポムロル(Pomerol)
ボルドーで、ラフィットやラトゥールみたいな高級高価なメドックのワインよりも高価な(ということは、ボルドーで最高価)赤ワインを産する地区。ここのワインを「ボルドーのブルゴーニュ」と呼ぶのは、味よりも、天文学的な値段のためか? 1本10万円以上もするポムロルの条件は、①メルロー種100%、②新樽100%、③生産量500ケース以下、④「高いほど高級」と思ってくれる金持ちファンが多いこと。貧乏だけれどすばしっこい人は、ラ・ドミニクやアローゼのような、良く似た風味のサンテ・ミリオンを買う。【関連語:群雄割拠、ポムロルの格付け】
ポムロルの格付け(ポムロルのかくづけ)
将来、公式になるかも知れない非公式格付け。ポムロルには格付けがないはずだが、「非公式ながら、ラ・コンセイヤントは1級」と書いた本があり、調べると、ポムロル商工会議所が勝手に選んだ委員が決めたらしい。特級はペトリュスのみ、1級にラフルールなど9つ、2級にセルタン・ド・メイ等9つ。「1855年のメドックの格付け」も初めは非公式だったから、公式になるかも。でも、ポムロルには格付けがないので、ル・パンみたいなシンデレラ・ワインが出たと思う。【関連語:ポムロル】
誉め言葉 (ほめことば)
素晴らしい点や特筆すべき特徴を表現すること。世間一般で良い意味に使わないのに、ワイン界で最高の誉め言葉になるのが、「複雑な」と「淫らな」。逆に、通常はイイ意味なのに、ワイン界ではケナシ言葉になるのが「シンプル」「正直」「可愛い」。芸術の世界では、マジメ、正直、品行方正は美徳ではない。偉大な芸術家は大抵その逆。自分勝手で、好色、傲慢。【関連語:言い換え、フレッシュ・アンド・フルーティー】
ポメリー(Pommery)
シャンパーニュの大手生産者の一つ。大衆価格のメーカーというイメージがあるが、毎年12月10日、ストックホルム市庁舎で開催されるノーベル賞受賞祝賀晩餐会で、20世紀以降、最も多く提供されたシャンパーニュ。1993年、日本で開催したポメリー主催の第一回ポメリー・ソムリエ・スカラシップの筆記試験で、「シャンパーニュのメーカーで最も古いメーカーはどれか。① Taittinger ②Moet et Chandon ③Pommery ④Ruinart ⑤Krug」という問題が出た。「ポメリーのコンクールなので③だろう」と考えそうだが、正解は②。競争相手を話題にするとは何と太っ腹!と思っていたら、別の問題として、「シャンパーニュメーカーの中で、名声を高めたのが女性のメーカーを3つ選べ。①Pommery ②Moet et Chandon ③Veuve Clicquot ④Bollinger ⑤Pol Roger ⑥Henriot」を出題して、抜け目なく宣伝をした(正解は①③④)。3つ選ぶのがミソで、1つだけなら、ポメリーが入っていなかったかも?【関連語:ヴーヴ・クリコ】
ポメリー・ブリュット・ロゼ(Pommery Brut Rose)
ポメリー社のシャンパーニュのラインナップの中で、最高級の「ルイーズ・ポメリー」よりも私が好きな泡。ほとんどのシャンパーニュ・メゾンのロゼはアサンブラージュ方式(あとで赤ワインを混ぜるお手軽方式)だけれど、ポメリー・ロゼはマセラシオン方式(黒葡萄を皮ごと漬けるもの)。このためか、重量感があり、ボディーも大きく香り高い。少なくとも、倍の値段のボランジェ・ロゼ・ブリュットよりウマい(気がする)。
ボランジェ (Bollinger)
超有名なシャンパーニュ・メゾン。男性的でボディの大きな玄人好みのシャンパーニュと言えば、最初にここの名前が挙がる。イギリスに熱狂的なファンが多く(消費量は1位が英国、2位がフランス)、イギリス読みのボリンジャーから来た「ボリー」の愛称で親しまれている。看板はRDとヴィエーユ・ヴィーニュ。007シリーズの第8作目、『死ぬのは奴らだ(1973年:ボンド役は3代目となるロジャー・ムーア)』にてボランジェが登場して以来、ジェームス・ボンドはボランジェ社の営業部長に就任。 (関連項目:RD、ボランジェ・ヴィエーユ・ヴィーニュ)
ボランジェ・ヴィエーユ・ヴィーニュ (Bollinger Vieilles Vignes)
ワイン・ファンなら一度は飲みたいのに、誰も飲めない幻のシャンパーニュがこれ。ロマネ・コンティは、金さえ払えば飲めるが、これは、財力と幸運がなければ飲めない。黒ブドウから作る白シャンパーニュ(ブラン・ド・ノワール)の最高峰。フィロキセラに罹っていないこの奇跡の畑は、ボランジェ社の敷地内にあり、高い塀でガチガチに囲ってある。数年前、一部がフィロキセラに罹患し、生産量は50ケースほど。探すのは白いカラスを見つけるより大変。
ポリフェノール(polyphenol)
第5次ワインブームのキーワード、「赤ワイン健康法」の最重要物質。血管に弾力性を与え動脈硬化を防ぎ、老廃物の排出を促す効果があるそう。赤ワインから抽出したポリフェノールの錠剤まで出る始末。これまでは眉ツバだった「ワインは百薬の長」に信憑性が出て、健康のために赤を飲む「不健康な人」が増えた。シガーも流行の兆しを見せたけれど、さすがに「健康に良い」とは言えないのがツラい。【関連語:赤ワイン健康法、第6次ワイン・ブーム】
ボルドー商法(ボルドーしょうほう)
金さえ払えば、これまで何の付き合いもない人にでもワインを売るビジネス。高品質のワインを大量に作ることができるボルドーならではの商法。高品質ワインがごく微量しかできないブルゴーニュでは、何回も現地に通い、出来の悪い年の日常消費ワインも大量に購入して、やっと看板ワインを1ケース売ってもらえる。ワインで大儲けを企む連中は、ブルゴーニュではなく、ボルドーのプリムールに投資するのが基本。フランスの軍需産業も、ボルドーのワイン販売同様、金さえ払えば誰にでも武器を売る。1982年、アルゼンチンとイギリスで起きたフォークランド島紛争では、アルゼンチン軍所有の仏ダッソー社の最新鋭戦闘機、シュペルエタンダールから発射したMBDA社製空対艦ミサイル、エグゾセ(仏語でトビウオの意味)が英国王室海軍の駆逐艦、シェフィールドを撃沈した。【関連語:ダッソー】
ボルドーの価格急騰(ボルドーのかかくきゅうとう)
これまで何度も発生した周期的な現象。1991年以降、良いヴィンテージに恵まれず4年間の欲求不満が貯まっていたこと、最大の消費国、アメリカの経済が絶好調になったこと、中国、シンガポール、台湾、香港の金持ちがワインに目覚めたこと、ボルドーの生産者が欲張りになったこと等で、1995年に価格が一挙に倍に跳ね上がった。もうこうなると、ワインの値段ではなく、自動車の価格になり、飲むか乗るかで悩む。飲むなら乗れない、乗るなら飲めない。【関連語:二極化】
ポルトガル(Portugal)
スペイン人の宣教師、フランシスコ・ザビエルが1551年、日本へ最初に持ってきたワインがポルトガル産の赤、Tinto (チンタ:珍陀酒)。長い航海でも腐敗しないよう、ポート風にやたら甘かったよう。周防の大内義隆への献上が記録に出るワインの最初。自給自足の当時の日本の人口は農地面積で決まる。紫式部から織田信長の時代まで田畑の面積は増えず、日本の人口は1千万人ほど。献上ワインが1ケース(12本)とすると、戦国時代の「国民一人の年間ワイン消費量」は1万分の1cc。化粧パウダーの一粒分。なお、イベリア半島を「左向きの人の横顔」に見立てると、ポルトガルの国境線は髪の生え際。横顔の「目玉」の位置がポルトで、「鼻の穴」は首都リスボン、「おでこ」が白で有名なヴィニョ・ヴェルデ。スペインは、「耳の穴」がマドリード、「喉仏」がヘレス(シェリー)。ポルトガルは、日本へ最初にワイン(と鉄砲)を伝えた国であるせいか、漢字で「葡萄牙」と書く。
ポワン、フェルナン (Fernand Point)
1897年~1955年。伝説の名シェフ。弟子には、アラン・シャペル、トロワグロ兄弟、ポール・ボキューズ、ルイ・ウーティエら超一流シェフがゾロゾロ。「フレンチ界の手塚治虫」、あるいは、「フレンチ界のアート・ブレーキ―」的。連続で50年以上、ミシュランで3ツ星をもらった最強のレストラン、「ラ・ピラミッド」のオーナー。(関連項目:ポール・ボキューズ)
本直し(ほんなおし)
味醂を焼酎で割り、飲みやすくした江戸時代の酒。冷やして飲む。アルコール度数の高いドイツ・ワイン風? 関西では柳陰と呼び、落語によく出てくる。【関連語:味醂】【同義語:柳陰】
2020.01.17
葉山考太郎 Kotaro Hayama
シャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター。ワイン専門誌『ヴィノテーク』等に軽薄短小なコラムを連載。ワインの年間純飲酒量は 400リットルを超える。これにより、2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエを授章。主な著書は、『ワイン道』『シャンパンの教え』『辛口/軽口ワイン辞典(いずれも、日経BP社)』『偏愛ワイン録(講談社)』、訳書は、『ラルース ワイン通のABC』『パリスの審判(いずれも、日経BP社)』。
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