葉山考太郎の新痛快ワイン辞典 Vol.26

葉山考太郎,ワイン,ボキャブラリー,辞典,ワイン用語

*連載コラム「葉山考太郎の新痛快ワイン辞典」のアーカイブページはこちら

葉山考太郎先生が1999年に出版した『辛口・軽口ワイン辞典』(日経BP社)の続編です。ワインに関する用語が、葉山先生特 有の痛快な語り口で解説されています。今回は、「ま」で始まる語をお届けします。

見出し語について

(1) アルファベットで始まる語はカタカナ表記で配列した。【例】AOC⇒エー・オー・シー

(2) シャトーやドメーヌが付くものは、それを除いた見出し語で収録した。【例】シャトー・ラヤス⇒ラヤス、シャトー

(3) 人名は、「姓+名」で収録した。【例】ロバート・パーカー⇒パーカー、ロバート


■ま■

マタロ (Mataro)

南方系の黒ブドウ、ムールヴェードルの別名。ラングドック・ルーションやローヌで人気。大塚製薬が経営するカリフォルニアのワイナリー、リッジで作っていたし、「真太呂」と漢字で書けそうなので、勝手に日本のブドウと思い込んでいた。ジャンシス・ロビンソンの『ワイン用葡萄ガイド』によると、ムールヴェードルの蔑称らしい。仕事もしないでフラフラしている人を「与太郎」と言うようなもの?(関連項目:『ワイン用葡萄ガイド』)

マッコリ

韓国のお酒。どぶろくの様に白く濁っている。アルコール度は3、4度とビール並みに低く、ヨーグルトのようなすっきりした酸味と微かな甘味があるので、「明治スコッチ・キャンディー・ヨーグルト味」を思い出す。大きなドンブリで出され、巨大シャモジですくうのが豪快。夏でも冬でも冷やせば、スイスイ入り、一度飲めばクセになる。マッコルリの「ル」を少しだけ発音するとそれらしく聞こえ、店の人に尊敬される。

まぼろしのさんだいれこるたんシャンパーニュ(幻の三大レコルタン・シャンパーニュ)

シャンパーニュでは、巨大オートメーション工場で生産し世界展開するネゴシアン物に対し、親子で細々と地酒的に作るのがレコルタン物とのイメージがある。レコルタン物は営業力がないので、昔は、日本で見ることは稀で、当時の私には、ヴィルマールの「クール・ド・キュヴェ」、ジャック・セロスの「キュヴェ・ドリジンヌ」、アラン・ロベールの「メニル・ラール・トラディシオン」が三大地酒シャンパーニュだった。どれもクリュグ風で、飲むと圧倒される。(関連項目:アラン・ロベール、ヴィルマール、ジャック・セロス、ネゴシアン、レコルタン)

マリリン・メルロー (Marilyn Merlot)

「モンロー」と「メルロー」をかけたカリフォルニアの赤ワイン。ラベルにマリリン・モンローの写真がある。名前がおふざけにしては20年前、4,800円と結構高価(今では1万円近い……)。モンローは、グレース・ケリーとは逆で、「お勉強はできなさそうだが下町風魅力のある美人」とのイメージがあるが、実は頭脳派だった。ケネディー、プレスリーとともに、今でもアメリカで世代を超えたカリスマ的人気がある。(関連項目:グレース・ケリー)

マコン・クレッセ・スペシャル・キュヴェ・ボトリティス

ブルゴーニュの珍品の白。ドメーヌ・ボングランがシャルドネで作る超甘口の貴腐ワイン。ちゃんとシャルドネの風味があるのがエラく、全体に肉付きが良い。ドイツ産リースリングの貴腐ワインがエレガントな女子フィギュアスケートの選手とすると、こちらは筋肉ムキムキの200mスプリントのスケーター。

マジック・パッケージ (Magic Package)

ヴーヴ・クリコ・イエロー・ラベル用の特別パッケージ。ケースの上半分を抜くと、折りたたまれた下半分が傘状に開き、シャンパーニュ・クーラーに早変わり。防水紙なので、氷と水を入れればOK。紙のたたみ方の傑作が「ミウラ折り」。三浦公亮氏が発明した折り方で、宇宙船の折りたたみ式アンテナで使う。長方形ではなく平行四辺形に折るのがミソ。本屋の山岳コーナーにこの方式の地図が多い。1秒で完全開閉できるので感動する。

マゾワイエール・シャンベルタン (Mazoyeres- Chambertin)

ブルゴーニュの稀少赤ワイン。ジュヴレイ・シャンベルタン村にある9つの有名な特級畑の1つ。シャルム・シャンベルタンを名乗ってもよいので、大部分の生産者は、知名度が高くてキレいに聞こえるシャルムで出荷。マゾワイエールで出している頑固な生産者は4家だけなので、探すのはとても大変。

マッソン、アンドレ (Andre Masson)

1957年のムートン・ラベルと、1982年のテタンジェ・コレクションを描いたフランスの抽象画家。無意識に浮かぶ意味のないイメージの絵を描く。幼稚園児がデタラメに描いた線を見て、「ここは牛に似てる、これは鳥だ」と絵を描くようなもの。晩年、ニューヨークへ移住。近辺には、移住組のシャガール(露)、ダリ(スペイン)、エルンスト(独)ら大物がワンサカいたが、互いに言葉が通じず交遊がなかった。ムートンの絵は、ブドウ畑で酔っぱらいが寝ている図。男の顔が谷岡ヤスジ(古語?)の漫画風。(関連項目:シャガール、ダリ)

マッタ (Matta)

1962年のムートン・ラベルを描いたチリのシュールレアリスト。南半球初のムートン画家。遠近感が捩じれたような背景に、一昔前のSF映画に出てくるみたいな異星人やメカ物をポツポツ配した絵が多い。ムートンに描いた絵は、梅の木みたいな裸のブドウ樹。絵の下には「このビロードのような口当たりのまろやかさは、多くの反逆者を魅了する」と不思議な文句が書いてある。

マルキ・ド・サド (Marquis de Sade)

サド侯爵の5代目が1988年から出しているシャンパーニュ。ジャン・ミシェル・ゴネが作る。ブリュット、ブラン・ド・ブラン、ロゼ、プライベート・リザーブの4種類があり、いずれもエレガントで香り高い正統派。レコルタン物なので、探すのが大変かも。昔の肩ラベルには、鎖でつながれた女性が描いてあったが、今は、妖しい仮面舞踏会風のマスクになった。パイパー・エドシック社のジャンポール・ゴルチエ・モデルと並び、シャンパーニュ2大セクシー・ボトル。(関連項目:ジャンポール・ゴルチエ・モデル、レコルタン・マニピュラン)

マルケロしゅ(マルケロ酒)

清水義範著、『国語入試問題必勝法』中の短編、「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」に出る架空のワイン。地中海のマルケロ島の酒。トマトとキウィに似たアタマンダという果物から作る。アタマンダは、人が近づく気配を察すると実が地面に落ちて潰れるので、地元の人は体にスミを塗り気配を殺して収穫する。著者は、同短編の最後で、「ワインでうんちくを傾けるのはろくな人間ではない」と喝破。肝に銘ずべき言葉デス。

マロ

業界用語。マロラクティック発酵の略称だが、略すと急に品がなくなる。

マンションのモデル・ルーム

マンションの広告写真を見ると、リビング・ルームのテーブルには必ずワインを立て、グラスを2客並べるのがお約束。キレいに見せるため、プロヴァンスのロゼを置くことが多い。ワイン通は、必ず、ラベルを読んで、ワインの種類を当てようと必死になったり、「赤ワインなのに、なぜ、シャンパーニュ・グラスが置いてあるんだ?」と無意味なクレームをつけるのがお約束。ちなみに、欧米での「マンション」は客間が二、三十ある大邸宅。ワイン屋で会った英会話のアメリカ人教師に「アタシ、戸越銀座のマンションに住んでるの」なんて言うと、「大邸宅のお嬢様にしては、シケたワインを飲んでるなあ」と不思議がられる。なお、日本の「マンション」は、英語で「a condominium」、略して「condo」という。

2020.02.28


葉山考太郎 Kotaro Hayama

シャンパーニュとブルゴーニュとタダ酒を愛するワイン・ライター。ワイン専門誌『ヴィノテーク』等に軽薄短小なコラムを連載。ワインの年間純飲酒量は 400リットルを超える。これにより、2005年、シャンパーニュ騎士団のシュヴァリエを授章。主な著書は、『ワイン道』『シャンパンの教え』『辛口/軽口ワイン辞典(いずれも、日経BP社)』『偏愛ワイン録(講談社)』、訳書は、『ラルース ワイン通のABC』『パリスの審判(いずれも、日経BP社)』。

葉山考太郎,ワイン,ボキャブラリー,辞典,ワイン用語

豊かな人生を、ワインとともに

(ワインスクール無料体験のご案内)

世界的に高名なワイン評論家スティーヴン・スパリュアはパリで1972年にワインスクールを立ち上げました。そのスタイルを受け継ぎ、1987年、日本初のワインスクールとしてアカデミー・デュ・ヴァンが開校しました。

シーズンごとに開講されるワインの講座数は150以上。初心者からプロフェッショナルまで、ワインや酒、食文化の好奇心を満たす多彩な講座をご用意しています。

ワインスクール
アカデミー・デュ・ヴァン