岩瀬大二のワインボトルのなかとそと Vol.14〜「たびの人」としてのリシャールさん

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「たびの人」としてのリシャールさん

当コラムVol.13で紹介した元ドン ペリニヨン最高醸造責任者リシャール・ジョフロワさんの日本酒造りへの挑戦。

そのきっかけ、動機、表現したかったなどについて、この状況下でシャンパーニュの自宅にとどまらなければならないリシャールさんとつなぎインタビューしました。

アッサンブラージュとバランスの哲学など、たとえそれが日本酒に変わっても、シャンパーニュ造りとは変わらない思い、表現が聞けてとても有意義な時間となりました。

その中で当コラムのテーマである「ワインボトルのなかとそと」にとって印象的なエピソードがありました。それは日本、そして今回の酒造りの舞台となった富山との関係です。

この部分を抜粋して紹介することにしましょう。

▼インタビュー全編はこちら↓ 「シュワリスタ・ラウンジ」で読みいただけます(前後編)。

酒とシャンパーニュ、変わらぬ思いと流儀 リシャ―ル・ジョフロワ インタビュー Part1

まずリシャールさんは酒造りの挑戦は、自分への挑戦であり、日本という場がそれを後押ししたのだと言います。

「(退任から酒造りをはじめたタイミングは)私の人生という旅のステージで、新しい表現のフィールドに向かう時がきた、と感じるようになりました。

新しい章のはじまり、新しいチャレンジです。

引き続き同じ命題を探求していますが、まったくちがうプロジェクト、文化、文脈、制約の中で…そう、制約が緊張感をもたらし、もっと高みへと導く。

それがまさに日本だったのです。

探求が日本へと私を導いた」。

制約というのは、彼にとってはポジティブなこと、それが発見の喜びにも成長にもつながる。

それが日本にある。

「日本は、まるで磁石のように私を惹きつけました。

1991年から日本を知っていますが、何度も訪れ、個人的な絆が生まれました。

日本語は話せませんが、日本の感覚を感じる。

私は純粋に日本を愛しています。

今の私にとっては、ヴィジョンや探求心を満たしてくれる唯一の目標、これが日本にある。

論理的な決断ではないかもしれません。

66歳になって、私の人生とエネルギーのすべてを日本に注ぐというのは、大きな動きです。

決して合理的ではないと思いますが、自分でもそれ以上の説明はできないのです。

ワイン造りから酒造りに至ったのではなくて、ワイン造りから日本に至ったのです。

私にとってIWAは単にボトルに入った酒ではなく、もっと大きなこと。

日本そのものなのです。

私は日本人ではないし、日本人にはなれない。

けれど、私なりに日本を解釈することはできる。

それが「IWA 5」です」。

酒造りだけではなくそれは文化的な挑戦。

そこには素晴らしい結びつきがありました。

「これは日本の美しさだと思うのですが、想像以上だったのは、あきらかに、情熱的。情熱の熱量が、もう燃え上がっている。

完璧にむかって、熱心で、何度でもやる、あきらめない。

私のチームの熱量はベストですよ。

会社を立ち上げ、ユニークなスキームで酒を造った。

そこにかける情熱は驚くべきものです」。

このあたりからリシャールさんのトークは熱気を増していきます。

「日本には、学ぶべきところがたくさんある。

このプロジェクトを通じてまた学びました。

すごいですよ、日本。本当にすごい。

警官を辞めてプロジェクトに入った富山の人もいて、そういう選択をするのも驚くべきで、世界は日本のこういう情熱を知らないのですよね。

日本人は、控えめで、シャイと思っているでしょう。

そんなの全然、間違い(笑)。それはうわっつらですよ。

日本人は炎です。熱い。ラテン以上にラテン。イタリア人にも負けない(笑)」

日本国内でも富山は控えめで、トラディショナルなところ、というイメージがあるかもしれませんがリシャールさんによれば、富山は先進的で情熱的な人がたくさんいる場所で、今回のプロジェクトもこうした熱によって進められているとのこと。

余談ですが、地元の方と話していると「富山は暴走族と米騒動の発祥の地だからね」「あとロカビリーの聖地」と笑い話が出ることもある、意外と熱いお土地柄。

「コミュニティに入り込むのは難しいかと思いましたが、いまはみんな助けてくれますし、「IWA」を富山でできるのは、うれしいことです」と、こちらもうれしくなる言葉。

ワインボトルのなかとそと。

富山には「たびの人」という言葉があります。

本当に長く根を下ろさないといつまでも悪く言えばよそ者、「旅の途中の人」と言われます。

立山連峰と海に囲まれ、実際は保守的ならざるを得なかった富山。

たびの人はその象徴ともいえます。でも反面、たびの人を歓迎するという文化もあります。

それはたびの人がもたらす知識、知見、技術などを刺激として受け入れ、保守的な風土に新たな風を吹かせてもらう。

そうやって富山は栄えてきたのです。

そう、リシャールさんが造る日本酒は、ボトルの中だけでの物語ではありません。

求められる「たびの人」として。

新しい人生、この地で。

 

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2020.12.18


岩瀬大二 Daiji Iwase

MC/ライター/プランナー/イベント・オーガナイザーなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカー、ビール、日本酒などの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」、「酒旅ライター」。「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。お酒単体ではなく、スポーツやロック、旅、地域文化、演芸などさまざまな分野とお酒の魅力を結びつけ紹介している。

フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長
ぐるなび「IPPIN」酒キュレーター
「ヤフー!ライフマガジン」日本酒特集担当
他、ワイン専門誌や情報誌、WEBメディアでの特集企画・ワインセレクト・インタビュー、執筆。日本ワイナリー収穫祭や海外生産者交流イベント、日本最大級のスペイン祭りなどお酒と人々を結ぶイベント演出、MC/DJ多数。

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