新世界のワイン産地として筆頭に上がるアメリカ合衆国。ワイン消費量世界一、生産量もイタリア、フランス、スペインに次ぎ世界第4位という、押しも押されもせぬワイン大国です。特筆すべきは50州すべてでワインが生産されていること。「人種のるつぼ」といわれるアメリカらしく、多様な品種とスタイルが造られています。今回の記事では、そんな自由の国アメリカのワインについてまとめていきます。
【目次】
1. アメリカワインの特徴
2. アメリカのワイン造りの歴史と品種
3. アメリカのワイン消費とパーカリゼーション
4. アメリカワインの主要産地
● カリフォルニア州
● ワシントン州
● ニューヨーク州
● オレゴン州
● テキサス州
● ミシガン州
● バージニア州
● ユニークなワイン産地:ハワイ、アラスカ
5. アメリカワインのまとめ
1. アメリカワインの特徴
アメリカのワインは沼が深すぎて特徴を簡潔に説明するのは難しいのですが、あえていうならば「多様性」の一言につきます。その土地ごとに本当に様々なワインが生産されています。
ワインのスタイルでいうと、ヴァラエタル・ワイン誕生の地である点は押さえておきたいポイント。アメリカワインの多くは、ラベルに品種名が表示された単一品種のワイン(75%以上)なのです。ヴァラエタル・ワインがアメリカで考案されたのは1930年代。その後1950~60年代のアメリカワイン勃興期に、伝説的なワイン商であるフランク・スクーン・メーカーが世に広めます。「シャルドネ」「カベルネ・ソーヴィ二ヨン」など品種名がラベルに表示されたワインは、ラベルから味わいを推測しやすく、かの地に根付いていきました。

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ワイナリーの数も1万超と多いのですが、生産者の規模や形態も実に様々です。「ベアフット」「カルロ・ロッシ」など大衆的ワインブランドから小規模高級ワイナリーまで傘下に収める E & J ガロワイナリーや、かのロバート・モンダヴィ等を有するコンステレーション・ブランズといった世界屈指の巨大ワイン企業から、はたまたスクリーミングイーグルやハーランエステートといった極少量生産のカルトワインまで、非常に広いレンジでワインを見つけることができます。
アメリカのワインは一般的には果実味豊かで力強く、アルコール度数が高めと思われる方が多いと思いますが、それだけではありません。カリフォルニアの中でもソノマの海岸沿いやサンタ・バーバラなど海の影響を特に受ける産地や、オレゴン州、ニューヨーク州などは気候が冷涼で、酸が綺麗で涼しげなワインもたくさん造られています。詳しくは主要産地のパートでご紹介させていただきますね。
2. アメリカのワイン造りの歴史と品種
アメリカのワイン造りの歴史は、東西で分けて考えるとわかりやすいです。現在の主要産地である西海岸では、18世紀末にスペイン人宣教師が、ミサ用のワインを造るためにブドウ栽培を開始したのが最初とされています。一方東部では、17世紀のはじめからワイン造りが始まりました。しかしながら、湿潤な気候のせいで、そもそもワイン用の欧州系品種(ヴィティス・ヴィニフェラ系)の栽培そのものがいばらの道だったところに、19世紀後半になるとフィロキセラにより多くのブドウ畑が壊滅してしまいます。フィロキセラの害を受けたのは、西部の産地も同じでした。アメリカ系台木への接ぎ木によりフィロキセラが克服できるとわかり、徐々にブドウ畑の再建が進められていた折に、追い打ちをかけたのが1920~30年代の禁酒法。この間、酒類の製造や販売輸送が禁止され、特別な許可を受けたワイナリー以外は廃業を余儀なくされたのです。1933年に禁酒法が廃止された後も、飲酒の規制がいまだ厳しい州などもあり、アメリカの酒類販売は非常に複雑な仕組みとなっています。
一方、東部には、古くからヴィティス・ラブルスカ系というアメリカ原産品種が自生していました。ヴィ二フェラ(欧州系品種)が持ち込まれるも、厳しい冬の寒さと病害にやられ定着せず、在来種のラブルスカ系との交配により、耐寒性と病害抵抗性を持つ品種の開発が進められました。代表例が、アレキサンダー、カトーバ、デラウェア、コンコードといった品種で、生食用やジュース用もかねて広く栽培されるようになります。その後、ラブルスカ品種特有のフォクシー・フレーバーの少ない交配品種も次々と開発されていきました。
寒冷地でワイン用品種の成功したのは1950年代、コンスタンティン・フランク博士の功績です。ウクライナ出身の彼は、ニューヨーク州フィンガー・レイクス地域でヴィ二フェラ栽培に挑戦。膨大な数の苗木を試験栽培し、気の遠くなるような努力の末、1957年についにリースリングとピノ・ノワールの収穫に成功します。1962年には初めてヴィ二フェラ品種でワインを発売し、この「ヴィ二フェラ革命」により、東部のワイン産業は大きく発展しました。
現在のアメリカでは、主力品種であるカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ピノ・ノワール、ジンファンデル、メルロからローヌ品種、リースリングなど、気候や土壌に合わせて多様な品種が栽培されています。近年はまた、気候変動を考慮した持続可能な農業への関心の高まりとともに、PIWI品種(病害抵抗性品種)の栽培も広がっています。

最後に、これらのアメリカのワイン業界の隆盛に大きな役割を果たしたのが、ワインの教育・研究機関の存在です。その2本柱が西のUCデイヴィス(カリフォルニア大学デイヴィス校)と、東のコーネル大学。UC デイヴィスは、世界中からワイン栽培・醸造技術を学びに訪れる世界最高峰のワイン研究機関の一つです。アメリン&ウィンクラー博士による気候区分(ワイン生産地の気候を積算温度に基づいて分類し、どのブドウ品種がその地域に最も適しているかを示す指標)の考案や新品種やクローンの開発、温度管理付ステンレスタンクの開発やマロラクティック発酵の制御など現在に伝わる画期的な技術を生み出し、ワイン業界を支えてきました。コーネル大学は、デイヴィスに比べると知名度は低いかもしれませんが、ハイブリッドの育種のみならず、世界初のブドウ収穫機械を開発したことで有名です。ネルソン・ショーリス教授は、今や世界中で行われているブドウの新梢管理(キャノピー・マネジメント)の祖でもあり、その世界のワイン業界への貢献度は計り知れません。
3. アメリカのワイン消費とパーカリゼーション

いまやワイン消費国としてもトップを誇るアメリカですが、れっきとした産地として世界のワイン地図に乗ったのはここ50年ほどです。禁酒法から立ち直り、徐々にワイン産業を拡大していた1940年代のアメリカでは、シャブリやシャンパーニュなどの名前を騙ったジェネリックワインが横行。それに腹を立てた冒頭のスクーン・メーカーが大手ワイナリーとタッグを組んで、1950~60年代に品種名表示ワインを世に広めます。1970年代にはサター・ホーム社が偶然に開発したロゼワイン(ホワイトジンファンデル)が、ほんのり甘くてフルーティー味わいでアメリカ人の心をわし掴みにし、ワインを日常的な飲み物として普及させるきっかけとなりました。フルーティーで飲みやすいワインが最初に好まれるのはどこの国でも同じですね。
一方、少量生産で高品質なワインを目指す動きもひそやかに着実に広がり、この時期にロバート・モンダヴィを代表とするブティックワイナリーがカリフォルニアで次々と設立されます。

ロバート・モンダヴィ・ワイナリー
ついに世界がアメリカ大陸を発見したのは、1976年の「パリ・テイスティング」。カリフォルニアワインがフランスの名門ワインを上回る評価を得た「事件」により、アメリカワインの品質と可能性が世界に示されたのです。
1980~90年代にかけては、ワイン評論家ロバート・パーカーが、世界のワインマーケットに強い影響力を与え始めます。パーカーが始めた100点評価システムは、ワインを点数で評価した実にわかりやすい指標だったため、「ワインは難しい」「興味はあるけど何を買えばいいのかわからない」という大衆にはうってつけだったのです。彼が好んだ、濃厚で樽香が強くアルコール度数の高いワインスタイルは「パーカー・スタイル」と呼ばれ、パーカーの高得点を欲しがる生産者はこのスタイルに追従し、世界中のワイン造りに大きな影響を与えました。
しかしワイン業界も常に移り変わるもので、2010年代以降はワインのトレンドに揺り戻しが来ています。より軽やかで、土地の個性を反映したワインへの関心が高まり、アルコール度数を抑えた伝統的なスタイルや、自然派ワインへの注目が集まっています。若い世代を中心に、オーガニックやサステナブルな生産方法への関心も高まっており、アメリカのみならず世界のワイン消費は新たな段階を迎えているといえるでしょう。
4. アメリカワインの主要産地
カリフォルニア州
アメリカンの生産地は大きく東西に分かれ、主要産地は温暖な西海岸に集中しています。カリフォルニア州は、アメリカ全体の約8割以上のワイン生産量を担う最重要産地。特に有名なナパ・ヴァレーでは、ブドウ栽培に向いた温暖な地中海性気候を活かし、グラスに太陽を詰め込んだようなリッチなスタイルでとても人気があります。ただしカリフォルニアの中でもソノマ・カウンティやサンタ・バーバラ等では、海の影響がもたらす冷涼な気候条件を活かして、シャルドネやピノ・ノワールなどの栽培も盛んです。果実味はありながらも酸がしっかりしてメリハリのきいたワインは、リッチすぎるスタイルが苦手な方にもおすすめです。

ソノマ・カウンティ
カリフォルニアでは基本的に、海の影響をうける太平洋側の産地から内陸にいくほど温暖になります。内陸部の産地としては、リーズナブルなワインの一大生産地であるインランド・ヴァレーズ、ジンファンデルやローヌ品種に適したパソ・ロブレスも有名です。
さらにカリフォルニアはサステナビリティへの取組みのリーダー的存在でもあります。州全体のプログラムのほか、ナパ・グリーンやローダイ・ルールズといった地域別の環境保護認証も重視されており、多くのワイナリーが最新の灌漑システムによる水資源の有効活用や太陽光発電の導入など、環境に配慮した生産方法を採用しています。
ワシントン州
生産量がアメリカで2番目に多く、全体の約5%を占めるのがワシントン州。コロンビア・ヴァレーAVAやヤキマ・ヴァレーAVA等が主要な産地で、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンなど赤ワイン品種のほか、優れたリースリングやシャルドネでも知られます。州を南北に縦断するカスケード山脈の東にあるワシントン州の主要産地は、海側からの冷たく湿った風が山によって遮られるため、太陽が照り付ける乾燥した半砂漠のような土地。冷涼で湿ったお隣のオレゴンとは全く異なる気候帯です。いくつかの理由から、州のほとんどのブドウは接ぎ木なしの自根で植わっているのも、ワシントンの特徴のひとつです。また、小規模生産者が多いオレゴンに比べると、大規模なワインメーカーが多いのがこの州の特徴でもあり、州の生産量の半分以上をサン・ミッシェル・ワイン・エステーツ1社が占めています。

ヤキマ・ヴァレー
ニューヨーク州
東海岸を代表するワイン産地がニューヨーク州。冷涼な気候を生かした質の高いワイン造りが行われており、最近の世界のワイン消費のトレンドにも合う透明感のあるエレガントな味わいのワインが、コアな愛好家やプロフェッショナルの人気を集めています。
主要な2つの産地が、フィンガー・レイクスとロングアイランド。フィンガー・レイクス周辺は特に冷涼な気候を活かし、リースリングやシャルドネなど白ワイン品種で高い評価を受けています。ここで超重要なのが湖の存在。冬の厳しい寒さを和らげ、夏には太陽熱を蓄えてくれる湖が気候を安定させ、ブドウの生育を可能にしてくれるのです。ニューヨーク州で初めて欧州系品種の栽培に成功したドクター・コンスタンティン・フランク・ワイナリーはぜひ覚えておきましょう。一方、ロングアイランド地域はボルドーに似た温暖な海洋性気候を活かし、カベルネ・フランやメルロなどの赤ワイン品種で成功しています。ウォルファー・エステートは、NYセレブ御用達のワインとして有名です。

フィンガー・レイクス
オレゴン州
アメリカ生産量第4位はオレゴン州。ニューヨーク州より生産量が少ないのが意外に思われるかもしれませんが、これはニューヨーク州に本拠地を置く、超巨大ワイナリーが1社あるため。とはいえ、オレゴン州は、ドメーヌ型の家族経営の小規模生産者も多い、こじんまりした産地です。今ではピノ・ノワールの名産地として名高いオレゴンですが、このブドウが初めて植樹されたのは1960年代と比較的最近のこと。1970年代にアイリ―・ヴィンヤードのピノが、仏ゴエ・エ・ミヨ誌が発表した「ピノ・ノワール部門トップ10」にランクインし、その名が一躍世界に知られます。その後ブルゴーニュの名門ジョセフ・ドル―アンがウィラメット・バレーAVAにドメーヌを設立し、オレゴンの可能性が確たるものとされました。この20年でワイナリー数は5倍に増え、高騰するブルゴーニュの代替ワインとしても注目が集まるホットな産地です。

ウィラメット・ヴァレー
テキサス州
意外や意外、生産量第5位に食い込んでくるのがテキサス州。ワイナリー数だけで見ると、4位にランクインしています。興味深いのが、ブドウの原産種の種類が世界一であること。フィロキセラ耐性のある台木用に使われる原産種のベルランディエリも、元はテキサスに自生していたものです。ある意味、テキサスが世界を救ったといっても過言ではありません。
主要生産地はテキサス・ハイ・プレーンズやテキサス・ヒル・カントリーで、温暖で乾燥した気候に合ったカベルネ、タナ、テンプラニーリョ、シラーなどが栽培されています。今後伸びしろのある産地として、覚えておくと良いかもしれません。
ミシガン州
カナダの国境に隣接するミシガン州は、生産量6位のワイン産地。五大湖のうち4つに囲まれた独特の気候条件を持ち、ニューヨークのフィンガー・レイクスと同じく、湖が気候を安定させてくれています。栽培面積が最も多いのがリースリングで、その他シャルドネ、ピノグリやピノ・ノワール、カベルネ・フランといった冷涼系品種が栽培されています。また、厳しい冬の寒さによりアイスワインも生産可能です。
バージニア州
ワシントンDCに隣接したバージニア州ではその昔トーマス・ジェファソン大統領(独立宣言を起草した人)がバージニアをワインの聖地にしようとしたのですが、初めはうまくいきませんでした。当時はフィロキセラ対策も確立されてなかったばかりか、バージニア州の気候と言えば、冬は厳しく夏は高温多湿なため、ワイン用品種の栽培には難しかったのです。1970年代には、たったの6ワイナリーが何とか交配品種(ヴィダル・ブランやノートンといったアメリカ系交配品種)を育てているような状況でしたが、気候変動や栽培技術の向上によりヴィニフェラ品種の栽培も可能になり、現在ワイナリーは約400に増えました。シャルドネやボルドー品種のほか、ヴィオニエ、プティ・マンサンなどローヌ品種も期待がかかっています。
ユニークなワイン産地:ハワイ、アラスカ
50州すべてでワインを生産しているアメリカで特に異彩を放っているのがハワイやアラスカといったユニークな産地です。
ハワイ州では、パイナップルやグァバなどの南国フルーツからワインが造られていますが、数軒のワイナリーが何とブドウからワインも造っています。ヴィオニエからシュナン・ブラン、シラー、マルベック、グルナッシュなど温暖な気候に向いた品種のほか、シンフォニー(マスカット・オブ・アレキサンドリアとグルナッシュ・グリの交配種)という交配品種からワインも生産されています。
はたまたアメリカ最北のアラスカ州でもワインが造られているというから驚きです。大半がラズベリーや苺、ブルーベリーなどを使用したフルーツワインで、ブドウ果汁にルバーブをブレンドしたユニークなワインなども造られています。最も有名なベア・クリーク・ワイナリーのワインは、可愛らしいクマのラベルがアラスカらしくて印象的です。
5. アメリカワインのまとめ
主要産地の西海岸やニューヨーク州以外にもミシガンやバージニア、テキサス州、そしてハワイやアラスカといったユニークな産地もあり、その可能性は計り知れません。ワインの勉強には、興味があるワイン産地を一つ一つ飲んでいくのが一番です。まずはワインショップで気になるワインを購入し、アメリカワインの奥深い魅力を、掘り下げてみてはいかがでしょうか。