オーストリアワイン ~通が愛するワイン産地を徹底解説

芸術の都ウィーン。音楽の街ザルツブルク。ハプスブルク家に、クリムト、モーツァルト。旅情をかき立てるオーストリアですが、ブドウ栽培面積は4万5千ヘクタールほど。ドイツの半分にも及びません。良く知られている品種は、グリューナー・ヴェルトリーナーですが、積極的にこの品種をレストランで選ぶ消費者は珍しいのではないでしょうか。けれど、知れば知るほど興味をそそるのが、オーストリアワイン。今回は、ワイン選びをする上で、知っておきたい基本的な知識と、ワイン通なら知っている筈というトピックに絞って学んで参りましょう。

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【目次】
1. オーストリアのワイン産地は東部に集中!
2. メジャー入りは最近~グリューナー・ヴェルトリーナー
3. オーストリアを代表するブドウたち
4. ウィーンの楽しみ~ゲミシュター・サッツとホイリゲ
5. 貴腐ワインの聖地
6. オーストリアワインが乗り越えた厳しい歴史と復興~ワイン・スキャンダル
7. オーストリアワインを少し深堀り・高級産地
8. オーストリアワインのまとめ


1. オーストリアのワイン産地は東部に集中!

オーストリア地図

オーストリアは全般的には、冷涼な大陸性の気候。首都ウィーンは、北緯48度。みなさん大好きなシャンパーニュのエペルネは、北緯49度という位置関係にあります。さはさりながら、さまざまな気候影響がブドウの成熟度に影響を与えています。

ワイン産地は、ほとんどが東部に集中。東北部のドナウ川沿いオーストリア最大の栽培面積を有するニーダーエスタライヒ州。そして、首都であり、9つの州の一つでもあるウィーン州。北方から北風が吹き込みます。東部にハンガリーとスロバキアが地続きのブルゲンラント州は、暖かいパノニア平原の影響を受けます。南部のシュタイヤ―マルク州は、スロベニアに接し、その南には地中海性気候を生むアドリア海が控えています。そして、西部からは、アルプスや大西洋の冷涼な影響を受けます。

ニーダーエスタライヒ州は、白ワインで有名。ヴァッハウDACクレムスタールDACカンプタールDACというグリューナー・ヴェルトリーナーリースリングの銘醸地がドナウ川周辺に立地しています。

ノイジードラーゼーDACを有する、ブルゲンラント州は、パノニア平原からの暖かい空気の流れのお蔭で温暖。黒ブドウ品種が過半を占めます。また、甘口白ワインでも有名な産地。この州は、第1次世界大戦後、ハンガリーが独立するまでは、オーストリア=ハンガリー帝国の一部。その後、フルミントに代表されるハンガリー品種が、時代と共に、置き換わっていきました。

ウィーン州は、なんと言ってもホイリゲと、混植混醸のゲミシュター・サッツシュタイヤ―マルク州は、オーストリアでは珍しい国際品種のソーヴィニョン・ブランの評価が高い産地。また、酸っぱいロゼワインのシルヒャーも忘れてはいけません。

オーガニック栽培も活発。栽培面積の2割を超えます。そして、その内の1割以上がビオディナミを取り入れています。

ビオディナミは、ウィーン州のヴィーニンガー、カンプタールDACのヒルシュ、ノイジードラーゼーDACのハインリッヒなど多くの生産者が取り入れています。

生産者は、小規模農家が多いのですが、近年、統合が進んでいます。80年代から見ると、生産者は、4分の1程度へ減少し、栽培面積は逆に1生産者辺り、1ヘクタール程度から4ヘクタールへと増加しています。ワイン造りは規模の経済が働きますので、ある程度の規模が無いと持続的な経営を行う事が容易では無いのです。

1980年代に「ワイン・スキャンダル」で信頼を失ったオーストリアワインでしたが、不断の努力で、人気が回復しました。輸出は物量ベースでは伸び悩んでいるものの、金額ベースでは順調に右肩上がりで伸びています。

2. メジャー入りは最近~グリューナー・ヴェルトリーナー

グリューナー・ヴェルトリーナー

グリューナー・ヴェルトリーナーは、18世紀に歴史に登場。サヴァニャン(トラミナー)とブルゲンラント州のザンクト・ゲオルゲンのブドウ樹との交配品種とされています。オーストリアの栽培面積全体の3割強を占めていて、最大品種。国を代表するブドウ品種です。北部中心にワイン産地は広がっていますが、中でも、ドナウ川流域が最高品質。リースリングよりも低地の、肥沃な黄土の土壌での栽培が多く見受けられます。

栽培面積の世界の75パーセントがオーストリアに集中していて、その内、ニーダーエスタライヒ州で9割が栽培されています。オーストリア以外では、スロバキアやスロベニア、チェコ、ハンガリーなど周辺国の栽培面積が中心。新世界の産地では、オーストラリアのアデレード・ヒルズなどが、高く評価されています。

収量はヘクタール当たり100ヘクトリットルとかなりの高収量にも耐え得ますし、白胡椒の香りが目立つもの、フルーティなスタイル、凝縮度が高い素晴らしいワインと多種多様です。ヴァッハウの有名生産者、エメリッヒ・クノールも、香りや味わいでは個性を絞り切れない。多様性こそが、グリューナー・ヴェルトリーナーの魅力と称賛しています。

でも、一般的には、柑橘系でニュートラル、少し緑系の香り、ハーブの香りをまとった少しベジタルで爽やかな酸が特徴的なスタイルが典型でしょうか。暖かい年には、トロピカルフルーツの味わい迄、熟度が上がったスタイルにもなります。

シラーでは黒胡椒を感じる元となる、ロタンドンが果皮に多く含まれていて、白胡椒の香りを感じさせます。人が感じる閾値の17倍もの量を含むとも言われます。特に、最北、最大で2002年に認定された最初のDAC、ヴァインフィアテルの北部では、冷涼でこの胡椒の感じがもっとも出やすいとされます。

90年代末から2000年代には米国への輸出に成功して、一躍ファッショナブルな品種と、もてはやされました。その後、人気に翳りが出て、生産者たちは、品種の綴りが簡単では無いので、浸透が難しいのでは無いだろうかとも頭を悩ませました。小規模な生産者が多いので、大手のディストリビューターを通じた販売ボリュームの確保が難しいという悩みも聞こえます。

一世を風靡したレンツ・モーザー仕立て

レンツ・モーザーは、ワイナリーとしても有名ですが、ブドウの仕立て「レンツ・モーザー仕立て」の由来としても知られています。レンツ・モーザー3世が、それ迄の主流だった株仕立てから、背の高い垣根仕立てを開発。1950年代から流行しました。お蔭で、機械化も可能になり、収量も増加。1980年代には、9割近くがこの仕立てを取り入れる事となりました。グリューナー・ヴェルトリーナーが最大品種になったのも、この仕立てとの相性が良かったことが一因という話もあります。

レンツ・モーザー仕立ての葡萄

高さは1.2メートル以上に樹冠を上げて、潤沢に日照を取り込み、空気の流れも促進。でも、今では、ギュイヨの長梢剪定や通常のコルドン仕立てに変えられて、あまり見かけなくなりました。

ワイナリーのレンツ・モーザーは、モーザー家の所有では無く、巨大なネゴシアンとなりました。一方、末裔のローレンツ・モーザー5世がカンプタールにあるローレンツ・ファイブというワイナリーで、ワイン造りを受け継ぎました。そして、今は、中国大手のチャンユーとの提携プロジェクト、寧夏のシャトー・チャンユー・モーザーXVでワイン造りをしています。

3. オーストリアを代表するブドウたち

グリューナー・ヴェルトリーナーに続く、栽培面積第2位(14パーセント弱)の黒ブドウ、ツヴァイゲルト。そして、その次には黒ブドウのブラウフレンキッシュと、貴腐甘口白ワインでも有名な、ヴェルシュリースリングが並びます。

ツヴァイゲルトは1922年にフリッツ・ツヴァイゲルト博士の手による、ブラウフレンキシュと、19世紀には既に知られていたザンクト・ラウレントの交配種。第2次世界大戦後になってようやくその名が知られるようになり、レンツ・モーザー仕立てはこの品種を普及させることにも貢献しました。

ツヴァイゲルト

寒冷な産地での順応性が高く、樹勢は強く、早熟。栽培は比較的容易です。チェリーやラズベリーなどの赤系果実の味わい。軽快なピノ・ノワールを思わせるようなワインになることも多く、日本では寒冷地の北海道で大半を栽培。ピノ・ノワールとのブレンドが、良く見られます。

黒ブドウ品種の栽培面積第2位のブラウフレンキッシュブルゲンラント州では、ツヴァイゲルトをわずかに上回り、最大ブドウ品種です。この2品種で合計4割程度の栽培面積を占めています。

ブラウフレンキッシュ

ブラウフレンキッシュは、ドイツではレンベルガーと呼ばれます。黒系果実にしっかりしたタンニン。スパイスや土っぽさの落ち着いた香り。樽とも相性は悪くありません。ハンガリーが7千ヘクタール超えと、世界最大の栽培面積を有していて、オーストリアは第2位。ドイツがそれに続きます。芽吹きは早いですが、晩熟。温暖な産地が向いています。

グリューナー・ヴェルトリーナーに次ぐ栽培面積の白ブドウ品種は、ヴェルシュリースリング。名前とは裏腹に、リースリングとは関係がありません。

クロアチアで最も広く栽培されている晩熟な白ブドウ品種。クロアチアでは、グラシェヴィナと呼ばれ、クロアチア若しくはドナウ川流域が発祥と言われています。イタリア北部ではリースリング・イタリコと名前変えます。多収量で、暖かい気候でも酸が保持できる、ニュートラル品種。貴腐ワインでは、特に実力が発揮されます。

オーストリアのリースリングは、9割までが、ニーダーエスタライヒ州で栽培されています。そして、世界のリースリングの銘醸地の一つ。ドイツのモーゼルとは異なり、辛口のスタイルが主流。豊かなボディで、アルザスにも似たグリップを口中に感じる事が多いとされています。栽培面積は全土の5%にも及ばず、意外と栽培は限定的。最高品質の産地は、ヴァッハウ、クレムスタール、カンプタール。花崗岩や片麻岩の岩がちな土壌で栽培されています。

4. ウィーンの楽しみ ~ゲミシュター・サッツとホイリゲ

18世紀から続くホイリゲ文化は、ユネスコ無形文化遺産に2019年に登録されました。マリア・テレジアの長男、神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世が発起人。ウィーンのブドウ農家に自家製ワインの小売りと簡単な食事の提供をすることを、一定期間許したのが始まりです。地方では、この歴史的な伝統に則ったブッシェンシャンクで、ワインと共にブレッテルヤウゼと呼ばれる軽食が供されます。そして、現代で典型的なのは、暖かい料理も楽しみながら、新酒をジョッキで味わう、ウィーンのホイリゲ。若いグリューナー・ヴェルトリーナーも良いですが、ここで飲むなら、やはりヴィーナー・ゲミシュター・サッツでしょう。

ヴィーナー・ゲミシュター・サッツは、2013年にオーストリアDACに認められました。混植、混醸で生産されます。少なくとも3種類の白のクヴァリテーツヴァイン用品種を使用。最大品種でも、その割合は50%以下の必要があります。

ウィーン州を代表するワインで、ブドウ栽培面積は4割弱に及びます。グリューナー・ヴェルトリーナーを抑えてこの産地では最大面積。成熟時期や酸や糖度も異なる様々な品種が畑によって、植えられています。グリューナー・ヴェルトリーナーもさることながら、シャスラや、エルブリング、リースリングやシャルドネなど、なんでもありです。

混植は、保険的な意味合いもあります。品種による芽吹きや収穫時期の違いで、遅霜や秋雨の被害、或いは耐病性の違いにより、リスクを分散してくれるのです。

複数品種を別々に栽培、醸造した上で、ブレンドするということなら、ボルドー含めて様々な産地で実践されています。でも、ゲミシュター・サッツは、混植、混醸。同じ時期に収穫して、ブドウの成熟度に違いが出る事も上手く利用。味わいの複雑さやバランスにも貢献します。

5. 貴腐ワインの聖地

ノイジードル湖とルストの町を望む葡萄畑

アウスブルッフはブルゲンラント州のライタベルクDACに所在する小さな町ルストで造られる伝統的な甘口ワイン。2020年ヴィンテージから、独立した貴腐ワインのDAC、ルスター・アウスブルッフDACに認証されました。世界で最も古いワイン生産地のひとつで、ノイジードル湖の西岸に位置します。パンノニア平原からの暖かい風で生じたノイジードル湖からの湿気が、貴腐ブドウを生むのです。

20世紀にオーストリアの一部になる前は、17世紀からハプスブルク家支配下のハンガリーの自由都市。コウノトリの名所ということでも有名です。

15世紀に歴史を遡り、トカイやソーテルヌにも匹敵すると喧伝されてきました。ハプスブルク領オランダの知事、マリア・オブ・ハンガリーは、輸出する際の産地証明に、Rの刻印をする事を許したと言います。

フルミントが良く使われていたようですが、今では、ブドウ品種は、ヴェルシュリースリング、グラウブルグンダー(ピノ・グリ)、シャルドネやヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)なども広く使われます。

伝統的には、ベーレンアウスレーゼとトロッケンベーレンアウスレーゼの中間くらいの糖度でした。ですが、DACの認証を受けて、プラディカーツの分類で、トロッケンベーレンアウスレーゼ同等の糖度30KMWが要求されることになりました。

6. オーストリアワインが乗り越えた厳しい歴史と復興~ワイン・スキャンダル

ジエチレングリコール混入による「ワイン・スキャンダル」と呼ばれる1985年に発覚した歴史的事件。前年には国際品評会でも高い評価を受けていたオーストリアワインは、奈落の底へ転落しました。

不幸中の幸いで、死亡された方や重篤な被害を受けた方はいなかったとされています。しかし、関係者の逮捕や生産済ワインが大量に廃棄され、オーストリアワインの名声は地に落ちました。

ジエチレングリコールの添加が、ワインを甘く、そしてボディを厚くすることを利用。安ワインを遅摘みの完熟ブドウから造られるシュペートレーゼやアウスレーゼと偽って、販売したのです。当時は、甘いワインが人気だった時代。ブドウの成熟度が高い、遅摘みのシュペートレーゼやアウスレーゼは珍重されていたのです。ワイン法で認められた添加剤でもありませんし、健康被害を生じる可能性が有り、許されることではありません。

バルクワインとして、ドイツへ輸送して瓶詰されたものが多く、被害はドイツにも飛び火。輸出先のアメリカでも問題になりました。1986年には、85年以前の平均の10分の1程度に輸出量が激減しました。

オーストリアは、その後、ヨーロッパの中でも厳しい規則を導入して、信頼の回復に努め、結果が徐々に出てきました。

1993年にロンドンで開催した、ブラインドテイスティング。オーストリアの甘口ワインを代表する生産者アロイス・クラッハーが実力を発揮します。ボルドーのシャトー・ディケムを始めとした高級甘口ワインを向こうに回して高い評価を受けたのです。

2002年にはジャンシス・ロビンソンとティム・アトキンの2人のマスターオブワインとパリ対決の立役者スティーヴン・スパリュアも審査に参加したロンドン・テイスティングが開催されました。

結果、上位1位から4位をオーストリアのグリューナー・ヴェルトリーナーが独占。カリフォルニアのキスラー、オーストラリアのペンフォールズ、南アのハミルトン・ラッセルや、フランスのルイ・ラトゥールのコルトン・シャルルマーニュなどの並み居る一流生産者のワインも出品されていました。

7. オーストリアワインを少し深堀り・高級産地

高級白ワインの中心地・ヴァッハウ

ヴァッハウは、ドナウ川流域。標高、200メートルから500メートルの畑でブドウ栽培が行われています。品質の高いブドウは、ドナウ川北岸の南向きの急斜面の畑で栽培されます。

また、同じ畑でも、パノニア平原の影響を受ける東側と、大西洋の影響を受ける西側の畑では、糖度、熟度に差が生まれます。日較差も大きく、夏の盛りの8月で昼は26度くらいから、夜は14度程度に気温が下がります。

テラスの畑は、表土が薄く、降雨量も400~500ミリと少ないので、大概、灌漑されます。余り、灌漑を増やすとブドウの味わいが薄まってしまいます。ですから、80~100ミリ程度の点滴灌漑を注意深く行います。また、被覆植物(カバークロップ)を畝間に採用。水分の流出を抑えます。

リースリングも有名なこの産地ですが、それでも、栽培面積は17%。グリューナー・ヴェルトリーナーの57%と比べると控えめです。ヘクタール当たり4千本程度の植栽密度の斜面の畑で手作業の栽培。灌漑量はリースリングよりも、グリューナー・ヴェルトリーナーの方に、余分に与える必要があると言われます。

降雨量は少ないものの、川の影響でかび病には頭を痛めます。貴腐ブドウも生む、ボトリティス・シネレア菌ですが、灰色かび病の症状がでたブドウは、選果ではねる必要があります。醸造工程に入り込んでしまうと、オフ・フレーバーを生むだけで無く、圧搾や清澄に支障をきたして、フィルターを詰まらせる原因にもなります。

幹の病気は、ユータイパよりも、エスカが中心。グリューナー・ヴェルトリーナーよりも、リースリングの方が被害は深刻の様です。剪定する時期を見極めて、丁寧な作業で幹に傷をつけないことが、重要です。

込み入ったワイン法

オーストリアのワイン法は、ドイツと似ていますが、さらに面倒。原産地呼称保護ワインで、良く知られているのはDACヴィネア・ヴァッハウ

DACは、単一畑ワインのリーデンヴァイン、村名ワインのオルツヴァイン、地方名ワインのゲヴェイツヴァインと分類されます。

単一畑は更に、ドイツでもお馴染みの特級畑(グローセラーゲ)一級畑(エアステラーゲ)に区分けすることが提唱されています。オーストリア全体での法的整備も進み、順次、導入されます。

ヴィネア・ヴァッハウは、ヴァッハウの生産者協会による1987年から続く辛口白ワインの分類で、ヴァッハウ独自です。オークチップやタンニンの添加や補糖を許しません。

最低糖度やアルコール度数によって、最低アルコール度数12.5%、リッチで長期熟成も可能なスマラクト、中庸な糖度でバランスが良いフェーダーシュピール、そして最大11.5%と軽快でフレッシュなシュタインフェーダーと分類されています。

最近の温暖化でシュタインフェーダーは余り見かけなくなりました。生産者にもよりますが、スマラクトには澱との接触に十分な時間を取って、まろやかなテクスチュアを付ける手法。そして、フェーダーシュピールでは抽出も控えめに、早飲みに適した造りにするなど、様々なワイン造りの工夫も施されます。

ヴァッハウでは、これまでのヴィネア・ヴァッハウの分類に加えて、2020年ヴィンテージからDACが導入されました。2022年現在では、オーストリア全土で、17の地域がDAC認定を得ています。

DACのリーデンヴァインで認められているのは、グリューナー・ヴェルトリーナーとリースリングのみ。ヴィネア・ヴァッハウと同じく、補糖が認められず、また、オーク樽の影響を規制対象にしています。

とは言っても、大樽やステンレスタンク、アンフォラにコンクリートエッグと言った様々な容器を使って、ブドウ品種の個性を引き立てたワイン造りが行われています。

この他にもドイツ同様、プレディカーツヴァインの階層があります。但し、この枠組みでは、ドイツとは異なり、キャビネットは独立して存在します。

また、果汁糖度は、ブリックスやボーメでは無く、独自のクロスターノイブルガー・モストヴァーゲ(KMW)。ドイツのエクスレとも異なります。

消費者は、アルコール度数と残糖が分かれば十分。ですが、プレディカーツヴァインでは、夫々の階層の、最低糖度がKMWで定められています。ですから、生産者や流通に携わる関係者には重要です。プレディカーツヴァインの中で、もっとも糖度の高いトロッケンベーレンアウスレーゼで最低糖度は、30KMW。これはドイツの156エクスレに相当します。ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼの最低糖度は産地によって、150から154エクスレ。ですから、ほぼ同じと言えます。因みに、ボーメでは19.6で潜在アルコール度数は、22%に相当します。

補糖は許されないけれど、ブドウの糖度を上げたいとき。アルコール度数を上げ、ボディに厚みを持たせたい時には、収穫を遅くします。9月末から11月初めに掛けた長い収穫期間の中で、最適な収穫のタイミングを見極めます。一口に収穫を遅くすると言っても、落ちてゆく酸、秋雨によるかび病や凝縮度の低下との闘いになります。手間暇をかけた品質重視のワイン造りは、この地域の生産者の誇りです。

ヴァッハウの兄弟分

クレムスタールもドナウ川両岸に広がります。西にヴァッハウ、東にカンプタールの間に立地しています。ヴァッハウやカンプタールよりも暖かく、ブドウは成熟度が高くワインは、リッチな傾向が有るとされます。ですが、いやいやカンプタールの方が少し暖かいという生産者も。グリューナー・ヴェルトリーナーが向いているとされる黄土が中心ながら、岩がちな土壌でリースリングが栽培されています。

カンプタールは、ドナウ川支流のカンプ川から名づけられました。クレムスタールと似た気温ですが、乾燥しています。これら2つのDAC産地のワインは、ヴァッハウと比べて、総じてこなれた価格帯で手に入ります。

ソーヴィニョン・ブランの銘醸地

国際品種で特筆すべきなのは、ソーヴィニョン・ブラン。シュタイヤーマルク州の最大白ブドウ品種になっています。

19世紀に庶民からも愛されたとされるヨハン大公が紹介。オーストリア全体の過半がシュタイヤ―マルク州で栽培されています。ズュートシュタイヤーマルクDACが銘醸地。急斜面の畑から生まれるソーヴィニョン・ブランは、世界レベル。80年代までは、マスカット―シルヴァーナーと呼ばれていました。

赤ワイン、甘口、そしてロゼ

一方、ブルゲンラント州は黒ブドウが主流。ブラウフランキシュの中心地は、南部のミッテルブルゲンラントDACで、栽培面積の過半を占めています。通常のDACに加えて、畑名表記のDAC、そして、リザーヴの3段階の分類。

ノイジードル湖をはさんで対岸のノイジードラーゼーDACでは、ツヴァイゲルトが主役です。ブラウフランキシュを引き離して、栽培面積の24パーセントを占めます。そして、ノイジードラーゼーDACは、甘口貴腐ワインでも有名な産地。主要品種のヴェルシュリースリングが1割弱の栽培面積を占めています。水深の浅いノイジードル湖からの霧で発生した貴腐菌は、果皮に穴をあけます。そして、晴れた秋の午後の日照で、乾燥して水分が蒸発。凝縮して、ブドウの糖度が上昇します。

この産地でも、通常のDACに加えて、リザーヴが設けられていて、最低アルコール度数は13パーセントが必要。伝統的な大型の樽や小樽を使用することとされています。

甘口ワインでは貴腐の他に、アイスワインも生産されますが、温暖な産地なので、ニーダーエスタライヒ州北部には一歩譲るとも言われます。

シュタイヤーマルク州では、シルヒャーを生む、ブラウアー・ヴィルトバッハーが最大黒ブドウ品種。シルヒャーは、ヴェストシュタイヤ―マルクDAC名産で、ブラウアー・ヴィルトバッハーを早摘みして造るロゼワイン。16世紀の昔から知られています。長めの醸しやセニエを取り入れた、濃い目の色合いで、高い酸が特徴です。

ブラウアー・ヴィルトバッハーは、ポルトガル原産かオーストリア/ドイツ発祥かで議論があるブラウアー・ポルトゥギーザーとブラウフレンキッシュの交配です。ツヴァイゲルトと同じく、フリッツ・ツヴァイゲルト博士によって交配されました。

酸っぱいことで、有名なロゼで、総酸も8g/lを超えるものが普通。ドライなスタイルですから、オーストラリアの鋼のようなリースリングとも良い勝負。プロヴァンスのロゼと比べても、だいぶ酸は高く、油断して飲むと酸っぱい!となるのは当たり前ですね。

今回は、スティルワインに絞ってポイントを解説しましたが、スパークリングワインのゼクトも近年注目を集めています。19世紀に遡る歴史も有り、最近、ゼクト・オーストリア、リザーヴ、グローセ・リザーヴと3段階の階級も整備されて輸出も伸びています。

8. オーストリアワインのまとめ

余り飲むことは無いけれど、グリューナー・ヴェルトリーナーという品種の名前は知っているというのが平均的なオーストリアワインとの距離間なのでは無いでしょうか?でも、改めて勉強してみると、新しい発見も。飲んでおきたいワインも見つかります。これまでなじみの無かったワインを、レストランでオーダー。ワイン仲間を一歩リードしてしまいましょう。アカデミー・デュ・ヴァンでも、世界の銘醸地のワインを味わえるStep‐II総合コースでは、オーストリアも取り上げて、みなさんをお待ちしています。

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