カンパーニアワイン~王に愛された伝統と革新!カンパーニア州のワインを徹底解説

カンパニア州、アマルフィ海岸

ナポリやカプリ島、アマルフィ海岸など観光地も多く、南イタリアを代表する花形の州カンパーニア州。古代の王に愛されたワイン「ファレルヌム」から始まり、現在も「南のバローロ」の異名を持つタウラージを筆頭に数々の銘酒を産出しています。アリアニコやファランギーナなど地品種のオンパレードで、起伏な豊かな土地から生み出される多様なスタイルのワインは、まさにイタリアの縮図のよう。本記事では、そんな魅力あふれるカンパーニアのワインについてポイントを押さえて解説していきます。

本記事は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」が監修しています。ワインを通じて人生が豊かになるよう、ワインのコラムをお届けしています。メールマガジン登録で最新の有料記事が無料で閲覧できます。


【目次】
1. カンパーニア州のワインとは
2. 古代の王にも愛されたカンパーニアワイン
3. 多様なカンパーニア州の風土と気候
4. アリアニコだけじゃない!押さえておきたい主要品種
5. カンパーニアの主要ワイン産地とDOC/DOCG
6. 見どころ盛りだくさん!観光も楽しいカンパーニア州
7. カンパーニアの名物料理とおすすめペアリング
8. カンパーニアワインのまとめ


1. カンパーニア州のワインとは

イタリア、カンパニア州の位置

イタリア南部に位置するカンパーニア州では、州全土から優れたワインが生産されています。特に銘醸地として名高いのが、ナポリの東に位置するアッヴェリーノ県イルピニア地方。カンパーニアを代表する3DOCG-赤のタウラージDOCG、白のフィアーノ・ディ・アッヴェリーノDOCGグレコ・ディ・トゥーフォDOCGを生み出すエリアです。山間部に位置するイルピニアのあたりは、温暖な気候を持ちながらも標高が高く寒暖差も大きいため、高品質な白ワインも造ることができるのです。

イタリア、カンパニア州地図

赤ワインはアリアニコ種から造られるタウラージが有名ですが、実はもう一つアリアニコ種のDOCGがあるのもお忘れなく。それがナポリから内陸へ50㎞ほど入ったサンニオ地方で造られるアリアニコ・デル・タブルノDOCG。中心都市であるベネヴェントはローマとプーリア州を結ぶアッピア街道上の分岐点の町として古くから栄え、現在も当時を偲ばせる遺跡が多く残されています。このエリアにあるタブルノ山周辺にアリアニコのDOCG生産エリアが広がっています。

ほかにも「ファレルヌム」の生産地だったファレルノ地区、火山性土壌が分布するナポリ周辺のヴェスヴィオやカンピ・フレグレイ、イスキア島やカプリ島といった島々、新規の生産者も目立つ南部チレントなど個性豊かな産地が分布しています。アマルフィ海岸の断崖絶壁でも生産量は少ないもののワインが造られており、リゾート客に大人気。特にマリーザ・クォーモの造る地品種の白ワインは、イタリアで最も称賛を集める白ワインの一つです。アマルフィ海岸から続くソレント半島にも、半島固有の土着品種が多く残り、そのブドウ栽培の古い歴史を物語っています。

2. 古代の王にも愛されたカンパーニアワイン

ワイン造りの歴史は紀元前のギリシャの植民地時代に遡り、イタリアの中でも特に長いワイン造りの歴史を持ちます。古代ローマ時代になると、ワインの銘醸地として名声を誇り、特に「ファレルヌム」というワインが上流階級に人気を博しました。「幸運あるカンパーニア」と讃えられた地には、皇帝や貴族がこぞって別荘を建てワインを楽しみ、栄華を極めます。その後、東ゴート族、ランゴバルド族、東ローマ帝国、ノルマンの支配を経て、ナポリ王国、1861年以降のイタリア王国時代とさまざまな紆余曲折を経るなかでも、カンパーニア産ワインは州の重要な産物として珍重されてきました。温暖な気候、ブドウ栽培に理想的な環境に恵まれたカンパーニア州の生産者たちは、それに甘んじて品質向上への努力を怠っていると非難された時期もありますが、近年、伝統にあぐらをかかない革新的な生産者も現れ、その躍進に注目が集まっています。

特に絶対に押さえておきたい生産者は、「マストロベラルディ―ノ」と「フェウディ・サン・グレゴーリオ」。200年以上の歴史を持つ名門ワイナリー「マストロベラルディーノ」は、カンパーニアワインの発展に貢献した立役者。世界中で国際品種が流行する中、9代目当主のアントニオ・マストロベラルディーノ氏はカンパーニアの固有品種を守り、グレコやフィアーノの評価を高めました。また、カンパーニアの3大DOCGワインの品質向上に努め、DOCG認定に尽力したのも大きな功績です。

ヴェスヴィオス火山を望む マストロベラルディーノの葡萄畑

もう一人の立役者、「フェウディ・サン・グレゴーリオ」は90年代半ばに登場した新星。最新技術と卓越したマーケティングでカンパーニアワインを世界に広め、他の生産者たちにも刺激を与えました。歴史ある「マストロベラルディーノ」と新進気鋭の「フェウディ・サン・グレゴーリオ」により、カンパーニアワインが世界的ワイン産地として復活を遂げたのです。

Irik – stock.adobe.com

一方、カンパーニア州ではCOOPも重要な役割を果たしています。カンパーニア州全土で最も古い「カンティーナ・ディ・ソロパカ」は州を代表する協同組合。ワイナリーにはガソリンスタンドならぬワインスタンドがあり、地元の人がペットボトルに自分でワインを注ぐ姿も垣間見ることができます。カンパーニアではワインは生活必需品だということがよくわかる光景です。

3. 多様なカンパーニア州の風土と気候

イタリア南西部に位置するカンパーニア州は、西はティレニア海、北はラツィオ州、モリーゼ州、東はプーリア州、バジリカータ州に接しています。地中海とアペニン山脈にはさまれた州は起伏も豊かで、丘陵地帯と山岳地帯が州の85%を占め、平野部は15%のみ。標高や斜面の向きなど、さまざまな微気候が存在し、それがカンパーニアのワインの多様なスタイルに繋がっているのです。特に良い畑は、やはり日当たりと水はけの良い斜面、標高200~600mあたり。気候も地域によって異なり、沿岸部が温暖な地中海気候、イルピニア地方など内陸部は寒暖差の激しい大陸性気候で冬には雪も降ります。

カンパーニア州の土壌も重要です。今も活火山であるヴェスヴィオ山やカンピ・フレグレイ周辺には火山性土壌も多く分布し、フィロキセラすら生き残れないため、自根の高樹齢の地品種が現存しています。

またイルピニア地方の丘陵地帯には、粘土石灰質土壌も分布。ほどよく水分を維持しながらも水はけの良い土壌は、この州でも最も名高い3つのDOCGを生み出します。

4. アリアニコだけじゃない!押さえておきたい主要品種

他のイタリアの州同様、カンパーニア州も土着品種のオンパレードです。

最も栽培量が多い黒ブドウはアリアニコ。南イタリアで最も偉大な品種といわれる、タウラージの主要品種です。もともと「ギリシャの」という意味の「エラニコ(hellanico)」に由来しギリシャ紀元のブドウとされてきましたが、最近の遺伝子調査でその説は否定され、カンパーニア発祥のブドウである可能性が高いとされています。非常に晩熟の品種で、豊富なタンニンが熟すには長い生育期間を必要とします。そのため、多品種を育てている生産者は、アリアニコを湿度が低く日照量の多い最良の区画に植えることが多いようです。ワインは薔薇や赤プラム、ブラックベリーのようなアロマに、高い酸とタンニンを持ち、この頑健なタンニンを和らげるため、多くがオークの小樽か昔ながらの大樽で熟成されます。赤ワインがほとんどですが、2011年にDOCGに昇格したアリアニコ・デル・タブルノでは、赤ワインのほか、珍しくロゼワインもDOCGとして認められています。

アリアニコ

白ブドウで押さえておきたいのがファランギーナ、グレコ、フィアーノ。ファランギーナは白ブドウの生産量トップの品種です。収量も多く取れる馬車馬品種的存在でしたが、1980年代以降に世界的に人気が高まり、2000年前後に大ブームに。今では州の誇る白ブドウ品種として君臨しています。

特にファランギーナで有名なのが、ナポリから内陸部に入ったサンニオ地方。ファランギーナ・デル・サンニオDOCのエリアはこの品種の発祥の地とされ、南イタリアのファランギーナの実に80%を生産しています。ワインは林檎や白桃にハーブの香りを持ち、高い酸味とミネラル感が特徴。樽をかけずにすっきりスタイルが主流ですが、樽熟成したもの、はたまたスパークリングから辛口白、遅摘み、パッシート(甘口ワイン)まで幅広いスタイルが造られています。その酸の高さと汎用性の広さはシュナン・ブランやリースリングと似ているといえるかもしれません。

パッシート用に陰干しするファランギーナ

近年温暖化対策としても注目されているのがグレコ。南イタリアの重要な品種です。グレコ・ディ・トゥーフォグレコ・ビアンコの2種類があるのですが、グレコ・ディ・トゥーフォDOCGを産むイルピニア地方で主に栽培されているのは、トゥーフォのほう。果皮が厚く、酸とミネラルが強く、リンゴの皮の香りとミネラル感が特徴のしっかりとした白ワインになります。灰カビやうどんこ病など病気には弱く収量も低いのですが、干ばつに強い品種であることから、イタリアのみならず他の温暖な地域でも期待が持たれています。非常に長熟のポテンシャルを持った高貴な品種です。

白3品種のなかで量が少ないのがフィアーノ。フィアーノ・ディ・アッヴェリーノDOCGの主原料となる品種です。フラワリーかつヘーゼルナッツのような香りを持ち、力強いグレコに比べると優美で繊細な白ワインになります。テロワールの違いも反映しやすいといわれ、砂質の多い土地では軽やかなワインが、粘度が多くなると重めのワインになるともいわれています。

ほかにも変わった品種として押さえておきたいのがコーダ・ディ・ヴォルぺ。房が長く狐のしっぽに似ていることから「狐のしっぽ」という名を持つ白ブドウで、イルピニア地方で少量栽培されています。酸の少ない軽めの白ワインを産むブドウ品種で、果実のアロマは控えめですが、独特の塩気が感じられるのが特徴です。

赤ワインの地品種としては、ピエディロッソも念のため頭に入れておきましょう。カンパーニア州だけで栽培されている黒ブドウ品種で、イスキア島やヴェスヴィオ周辺が主生産地。赤果実の香りと、優しいトーンのワインを産む品種です。

5. カンパーニアの主要ワイン産地とDOC/DOCG

・タウラージDOCG
・アリアニコ・デル・タブルノDOCG

南イタリアが誇るタウラージは、内陸部のイルピニア地方、粘度石灰質の火山性土壌の丘陵地帯(標高400~700m)から造られる長熟タイプの赤ワイン。

「南のバローロ」といわれるゆえんの頑健な酸とタンニンを持ち、若いうちは厳格すぎて、少し飲み時が難しいワインともいえます。そんなときにぜひ試してほしいのが、タウラージの西、タブルノ山周辺で生産されるアリアニコ・デル・タブルノDOCG。タウラージと比べると、タンニンが柔らかく若いうちからも楽しみやすいのに加え、知名度がやや低いことから値段もリーズナブル。日本にも輸入されている銘柄もあるので、狙い目のワインといえます。

その酒質の差は両者の熟成期間に表れていて、タウラージが最低3年(リゼルヴァは4年)に比べ、タブルノの赤ワインは2年(リゼルヴァは3年)と少し短くなっています。

また、珍しいのはロゼの生産も認められていること。アリアニコ・デル・タブルノDOCGのロゼはスパイシーさが際立つロゼで、軽いお肉にも合わせられるしっかりとしたフルボディです。

・グレコ・ディ・トゥーフォDOCG

イルピニア地方の標高の高いエリアのグレコ種から造られる白ワイン。花のような香りとストーンフルーツのアロマにときおりスモーキーなニュアンスが加わり、厚みのある酸とミネラルが特徴。現地の生産者からは「白の洋服をきた赤ワイン」と呼ばれているほど。多くが樽熟成なしで造られますが、長期熟成の可能性を持つ偉大な白ワインです。

・フィアーノ・ディ・アッヴェリーノDOCG

グレコに比べると香りも繊細で軽やかなスタイルになるのがフィアーノ・ディ・アッヴェリーノ。樽熟なしでヘーゼルナッツのアロマを持ち、フローラルで繊細なアロマが特徴。グレコほどではないにせよ熟成のポテンシャルを持ち、特に粘土石灰質のフィアーノはしっかりとした骨格、オイリーな風味があり、良いものは軽く10年は熟成するポテンシャルを持ちます。

・サンニオDOC/ファランギーナ・デル・サンニオDOC

アリアニコ・デル・タブルノDOCGを含むサンニオ地方の広域DOCはカンパーニア州全体の55%を生産する超巨大なDOC。様々な品種やタイプを包括する巨大DOCでしたが、2011年に原産地呼称が大きく変わり、ファランギーナ・デル・サンニオDOCやアリアニコ・デル・タブルノDOCGなどが独立しました。サンニオ地方でもフィアーノやグレコ・ビアンコが栽培されていますが、イルピニア地方のものと比べると厳しさが少なく、果実味豊かで柔らかい味わいになります。

・ファレルノ・デル・マッシコDOC

ラツィオ州に隣接する西部のファレルノ・デル・マッシコ地区は、古代にファレルヌムを生産していた歴史的なエリア。白はファランギーナ、赤はアリアニコやピエディロッソ、珍しくプリミティーボやバルベーラが使われることもあります。

・ヴェスヴィオDOC/カンピ・フレグレイDOC

火山性土壌の影響が強いナポリ周辺のヴェスヴィオDOCやカンピ・フレグレイDOCは、ピエディロッソやシャシノーゾやアリアニコ(黒ブドウ)、ファランギーナ、コーダ・ディ・ヴォルぺ、ヴェルデーカ(白ブドウ)といった地品種によるワインを生産。特にヴェスヴィオDOCに含まれる「ラクリマ・クリスティ」―「キリストの涙」を意味するワインは、日本で根強い人気があります。

・島ワインーイスキアDOC/カプリDOC

ナポリ南部にあるイスキア島は白ワインの生産で有名。固有品種ビアンコレッラの塩味を感じさせるイスキア島の白ワインが、地元の魚介料理と合わせて愛飲されています。

青の洞窟で有名なカプリ島でもワインが造られていて、白はファランギーナとグレコ、赤はピエディロッソを主体に造られます。

・チレントDOC

南のチレントDOCエリアは、新規生産者の活躍が目立つエリア。フィアーノとアリアニコ種が基本ですが、特徴もイルピニア地方とは異なり、トロピカルフルーツを感じさせる陽気なフィアーノ、完熟したフルーティーなアリアニコなどが注目されています。

6. 見どころ盛りだくさん!観光も楽しいカンパーニア州

全州が観光名所といっていいほど風光明媚なカンパーニア州。ナポリ歴史地区やカゼルタ宮殿アマルフィ海岸など世界遺産も多く、見所が盛りだくさん!カンパーニア州の玄関口ナポリには、古代ローマ時代からの遺産が多く残っています。特に17世紀から18世紀前半にかけて花開いたナポリ・バロック期の建築物は、建築好きならずともぜひ見ておきたいものです。また、古代ローマ時代の都市の片鱗を残すポンペイ遺跡や、今なお脈動を続けるヴェスヴィオ火山、そして絵はがきのように美しいアマルフィ海岸は、ドラマのロケで日本でも一気に有名になりました。一生に一度は訪れてみたい青の洞窟で有名なカプリ島やイスキア島などの島々、かたや山間部のイルピニア地方には雄大な山々や自然……海も山も楽しめる多彩な魅力を持つのがカンパーニア州なのです。

7. カンパーニアの名物料理とおすすめペアリング

ピザマルゲリータイタリアン、というと私たちが想像する料理―たとえばピッツァ・マルゲリータ(トマトと水牛のモッツァレラ)やにんにくと唐辛子、オリーブオイルのシンプルなペペロンチーノ、あさりのボンゴレスパゲッティなどは実はカンパーニアの名物料理。ナポリを歩けば、おいしいピッツァやパスタのお店が並んでいます。

現地ではピッツァにワインを合わせるなら、ファランギーナ一択!「ピッツァ&ファランギーナ」と称してプロモーションを行っているくらいで、カジュアルなファランギーナをマルゲリータなどと合わせると、異様な相性の良さに驚くはず。

内陸部の山間部では牧畜もさかん。アリアニコ種の赤ワインは、タウラージなど厳格なものは、カンパーニア州でよく食べられる山羊や羊のローストなどジビエともぴったり。逆に、タンニンがより柔らかいタブルノの赤は、仔牛のステーキなど身質の柔らかいお肉と合わせるのがおすすめ。羊乳から造ったペコリーノやリコッタチーズも有名で、遅摘みのファランギーナなどと合わせるとカンーパニア州らしい見事なペアリングが楽しめますよ!

8. カンパーニアワインのまとめ

ワイン造りが古代から栄えてきたカンパーニアは、ワインが文化として根付いている真のワイン産地といえます。あまり馴染みのない銘柄や品種を発掘する楽しみもありながら、大きな外れがないのは、さすがワインの理想郷。ぜひ失敗を恐れずに、果敢にカンパーニアのワインの魅力を掘り下げてみて下さい!

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