ニュイ・サン・ジョルジュ ~グラン・クリュ級の一級畑を有するワイン産地の特徴から代表生産者まで徹底解説

ヴォーヌ・ロマネに隣接するコート・ドールのワインビジネスの中心地ニュイ・サン・ジョルジュ。1級畑の数はコート・ドール最多ながらグラン・クリュ(特級畑)がなく、ややマイナーな印象を与えるアペラシオンでもあります。裏を返せば、ブルゴーニュワインの価格が高騰しているなかで、人気生産者のワインが比較的安価に手に入るという利点も。この記事では、ニュイ・サン・ジョルジュのワインの特徴から、押さえておきたい一級畑や生産者まで網羅してお伝えします。

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【目次】
1. ニュイ・サン・ジョルジュのワインの特徴
2. 主なブドウ品種
3. 3つに分かれるニュイ・サン・ジョルジュのテロワール
4. なぜニュイ・サン・ジョルジュにグラン・クリュがないのか?
5. 代表的な一級畑
6. 覚えておきたいニュイ・サン・ジョルジュの生産者
7. ニュイ・サン・ジョルジュのまとめ


1. ニュイ・サン・ジョルジュのワインの特徴

コート・ドール地図・ニュイ・サン・ジョルジュ位置

コート・ド・ニュイの最南端、ディジョンとボーヌのちょうど中間に位置するニュイ・サン・ジョルジュ。フェヴレイを始め本拠地を置く大手ネゴシアンも多く、ボーヌに次ぐワインビジネスの中心地です。しかし、数あるコート・ドールの村の中でも、ややマイナー感が否めず、特徴が掴みにくいアペラシオンの一つといえるかもしれません。

その理由として大きいのは、グラン・クリュがないため。パッと思い浮かぶような著名な畑がないことが、知名度の低さと地味な印象に繋がっているといえます。その代わりといっては何ですが、プルミエ・クリュの数はコート・ドール最多で、41もの区画が一級畑に認定されています。中には特級畑に比類しうる素晴らしい畑もありますが、比較的価格が控えめなのは嬉しいところ。知っておくと、お得にブルゴーニュワインが楽しめる穴場の産地でもあるのです。

ニュイ・サン・ジョルジュ村は、地域の真ん中を流れる川を境に大きく北部と南部に分かれ、ヴォーヌ・ロマネに隣接する北側は、味わいもヴォーヌ・ロマネに類似した繊細で華やかなワイン、南側は骨格とタンニンの強い堅牢なワインになるといわれます。ニュイ・サン・ジョルジュで最も著名な一級畑であるレ・サン・ジョルジュやヴォークランは南側にあり、「ニュイ・サン・ジョルジュらしい」というと、通常はこの長熟で力強いスタイルを指すことが多いです。また南側に隣接するプレモー・プリセ村もニュイ・サン・ジョルジュAOCの名で生産され、こちらは有名生産者のモノポールが多く存在するエリアです。

2. 主なブドウ品種

人口約5千人と比較的大きな村であるニュイ・サン・ジョルジュには、ブドウ畑の面積としてもコート・ドールの中でボーヌに次いで2番目に大きい産地です。畑の面積は村名が320ha、うち147haを一級畑が占めています。生産量の97%が赤ワインで、白ワインはわずか3%のみ。ブドウ品種は、黒ブドウがピノ・ノワール100%(ただし混植の場合に限り、15%までシャルドネ、ピノ・ブラン、ピノ・グリの混醸が可能)、白ブドウはシャルドネとピノ・ブランが使用可能です。ピノ・ノワールやシャルドネはテロワールがワインに反映されやすく、道路1本挟んだだけで味が違うとよくいわれます。ニュイ・サン・ジョルジュの中でも土壌や斜面の方向など微細な条件によって味わいが様々に異なるのも魅力です。

面白いのが、ピノ・ブランも植えられていること。この地域の代表的生産者であるアンリ・グージュでは1936年にピノ・ノワールが突然変異した白ぶどう品種を単独所有畑で発見。このピノ・ブランをドメーヌでは「ピノ・グージュ」と呼び、最初に発見したクロ・デ・ポレ・サン・ジョルジュと後に植えた1級畑レ・ペリエールなどから、希少なピノ・ブランのワインを生産しています。

3. 3つに分かれるニュイ・サン・ジョルジュのテロワール

ニュイ・サン・ジョルジュ村と、隣接するプレモー・プリセ村から造られたワインがニュイ・サン・ジョルジュAOCを名乗ることができます。テロワールとしては大きく3つに分類でき、ムーザン川で分かれるニュイ・サン・ジョルジュ村の北側と南側、そしてプレモー・プリセ村で分けられます。

土壌の組成も異なり、ヴォーヌ・ロマネと隣接する北側は、石灰質の割合が多く、粘土が少なくやせた土地。葡萄畑も北東を向いていることから、ヴォーヌ・ロマネに似た繊細で優美な酒質になるといわれています。ヴォーヌ・ロマネ屈指の一級畑である「マルコンソール」に隣接した「オー・ブード」は、柔らかくしなやかなスタイルで人気です。

ニュイ・サン・ジョルジュ村の南側の産地は、北側と比べると斜度が緩やか&粘土の強い土壌。南東向きの斜面の畑ではブドウがより熟しやすいため、ワインは濃密で力強いスタイルになります。特に別格なのがレ・サン・ジョルジュとヴォークラン。タンニンが強く、アーシーかつスパイシーな力強い味わいで、ワイン本来の魅力が発揮されるとグラン・クリュにも引けを取らない素晴らしいワインです。長熟のポテンシャルを持ち、若いうちは固く厳格ですが、熟成するとなめし皮や煙草などの複雑な風味を呈し、ジビエ料理などともよく合います。

隣接するプレモー・プリセ村では再び石灰が強くなり、赤ワインは、ニュイ・サン・ジョルジュ村の南と比較するとやや軽やかなスタイルになるといわれます。後述するように、モノポール(単独所有畑)の畑が多く存在するのもプレモー・プリセ村の特徴です。

4. なぜニュイ・サン・ジョルジュにグラン・クリュがないのか?

現在はグラン・クリュのないニュイ・サン・ジョルジュですが、決してグラン・クリュに値する畑がなかったわけではなく、グラン・クリュ認定の申し出を拒否したからでした。実際、現在のブルゴーニュの格付けの元になった1855年のラヴァル博士の格付けでも特級(テート・ド・キュヴェ)に認定された畑はいくつもあります。

中でもグラン・クリュに最も近いと言われるのが、南部にあるレ・サン・ジョルジュとヴォークラン。レ・サン・ジョルジュはニュイ・サン・ジョルジュの村名の由来にもなった偉大な畑です。もともと村名はシンプルに「ニュイ」という名前でしたが、「ピュリニー・モンラッシェ」や「ヴォーヌ・ロマネ」のように街を代表する畑名を冠したものに改名しようという運動が起き、レ・サン・ジョルジュ派とヴォークラン派で真っ二つに分かれました。わずか1票差でレ・サン・ジョルジュ派が勝ち、村名が「ニュイ・サン・ジョルジュ」になったという経緯があったのです。

1930年代初頭の原産地呼称の発足にあたって、レ・サン・ジョルジュも当然グラン・クリュ候補にあがりましたが、当時の委員だったアンリ・グージュはレ・サン・ジョルジュの大地主であったため、自己贔屓になることを憂慮しグラン・クリュ認定を辞退。グラン・クリュに対する地税の高さも要因だったようです。時代が移り変わった現在は、ティボー・リジェ・ベレールらを中心に、レ・サン・ジョルジュの区画を所有する生産者達がグラン・クリュへの昇格運動を行っています。

5. 代表的な一級畑

ニュイ・サン・ジョルジュ

他のブルゴーニュのクリュと同様、良い畑は斜面の中腹部に帯状に密集しています。押さえておきたい畑をご紹介します。

北部

オー・ブード

ニュイ・サン・ジョルジュで最北端に位置する畑。ヴォーヌ・ロマネ最高の一級畑のひとつ「オー・マルコンソール」に隣接しており、その隣は「ラ・ターシュ」という素晴らしい立地の畑です。味わいは力強いニュイ・サン・ジョルジュよりも、ヴォーヌ・ロマネに近い味わいといわれるため、ヴォーヌ・ロマネ好きにもおすすめの一級畑です。

オー・ミュルジェ

アペラシオン北部、ヴォーヌ・ロマネから続く南東向き斜面の中腹に広がる畑。ムルジェは「石垣」を意味する通り、畑には石が多く水はけの良い土壌です。日当たりも良く、凝縮したブドウが収穫できることから、ニュイの北側の畑のなかでは、力強い味わいのワインを生み出します。

ニュイ南部

レ・サン・ジョルジュ

レ・ヴォ―クランと並んで村を代表する一級畑で、現在最もグラン・クリュに近い畑です。緩やかな南東向き斜面で、比較的標高も低いため、ブドウはゆっくりと太陽の光を浴びながら熟し、長熟向きの力強いワインを産むといわれています。

レ・ヴォークラン

レ・サン・ジョルジュと双璧をなすニュイ・サン・ジョルジュを代表する一級畑。畑の名前は「無価値」を意味する通り、非常にやせた土地です。レ・サン・ジョルジュから続く斜面の真上にあり、長塾でパワフルな酒質で知られています。

レ・カイユ

レ・サン・ジョルジュに隣接する評価の高い畑。名前はフランス語で「小石」を意味する通り、小石と砂質交じりの水はけの良い土壌が広がっています。味わいはレ・サン・ジョルジュに似た力強さと、繊細なエレガンスを備えた畑といわれます。上記二つに比べて若干ワインの価格も安価になるため、狙い目のワインといえるでしょう。

プレモー・プリセ村

モノポール街道

このエリアは有名生産者のモノポールが並ぶ「モノポール街道」が続きます。プリューレ・ロックのクロ・デ・コルヴェをはじめ、ドメーヌ・ド・ラルロのクロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ&クロ・デ・ラルロ、レ・サン・ジョルジュと地続きのクロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュやレ・ディディエ(オスピス・ド・ニュイの単独所有畑)などは力強い味わいですが、クロ・デ・ラルロやクロ・ド・ラ・マレシャルへと南へ進むにつれ、タンニンが柔らかく優しい味わいのワインとなります。

6. 覚えておきたいニュイ・サン・ジョルジュの生産者

アンリ・グージュ

1925年設立の、この地を代表する生産者。創設者の初代アンリ・グージュ氏は、当時蔓延していた粗悪なブルゴーニュワインをなくすためにINAOを設立し、ブルゴーニュの格付けを制定するなど地域の発展に貢献。ドメーヌ元詰めを開始し、当時から小区画をラベルに記載して販売するなど、テロワール重視のワイン造りをいち早く行ってきたパイオニアです。現在は4代目のグレゴリー・グージュ氏が舵をとり、有機栽培を取り入れるなど、環境に配慮したワイン造りを行っています。

ロベール・シュヴァイヨン

1960年代後半より頭角を現したこの地の名門ドメーヌ。1977年よりすべてドメーヌ元詰めに切り替えた、この地域のトップ生産者。現在はロベールの二人息子兄弟ベルトランとドゥニが仕切っています。特に樹齢の高さで知られ、古樹ゆえの低収量と減農薬栽培、手を加えすぎない伝統的な醸造方法から、テロワールの個性を生かしたワイン造りを行っています。

ドメーヌ・ド・ラルロ

2003年から全畑でビオディナミを実践する造り手で、全房発酵&抽出を抑えた透明感とエレガントな味わいで、国内外で高い評価を得るドメーヌです。2つのモノポール「クロ・ド・ラルロ」「クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ」がフラッグシップ。クロ・ド・ラルロの区画からは、コート・ド・ニュイでは珍しい白ワインを造っています。

ティボー・リジェ・べレール

ブルゴーニュの名門リジェ・べレール一族のティボー・リジェ・べレール氏が2002年に立ち上げた、人気急上昇中の新星ドメーヌ。畑には有機栽培やビオディナミを導入し、自然な造りを貫いています。ワイナリーを代表する畑が樹齢60年を超えるレ・サン・ジョルジュ。レ・サン・ジョルジュ全体の区画のうち約1/4に当たる2haを所有し、グラン・クリュ昇格運動の旗手としてニュイ全体の地位向上にも努めています。

ダニエル・リオン&パトリス・リオン

1955年設立の老舗ダニエル・リオンは、華やかで外交的なワインで人気のニュイ・サン・ジョルジュの大御所です。その長男であるパトリスが独立し、2000年に興したのがパトリス・リオン。シャンボール・ミュジニーを彷彿とさせる優美でしなやかなスタイルで人気急上昇中です。

オスピス・ド・ニュイ(オスピスドニュイ・サン・ジョルジュ)

ニュイ・サン・ジョルジュ村に本拠地を構える13世紀に設立された慈善施設。ボーヌのオスピス・ド・ボーヌ同様ワイン造りも行っており、販売利益を施設の運営費用に充てています。オスピス・ド・ニュイの所有する畑は12.5haと小規模かつボーヌ比べて知名度も高くなく、価格も控えめです。毎年オークション&樽からの試飲会は収穫翌年3月に行われるため、11月に開催されるオスピス・ド・ボーヌよりも正当にワインが評価できるとされています。

7. ニュイ・サン・ジョルジュのまとめ

価格高騰が止まらないブルゴーニュワインですが、ニュイ・サン・ジョルジュの一級畑のワインなら、頑張れば手の届く価格です。生産者によっても味わいの方向性が異なるので、ぜひ自分の好みを探りつつ、ブルゴーニュワインの楽しみ方を広げてみてくださいね。

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