ジョージアワイン ~世界最古のワイン産地?自然派ワインも人気!産地や特徴を徹底解説

自然派ワインやオレンジワインブームに乗り、この数年日本でも人気と知名度が高まっているジョージアワイン。世界最古のワイン産地の一つとして知られ、かのクレオパトラも夜な夜な愛飲したとの逸話も残っています。

十着の品種から造られる個性的なワインは、一度飲んだら忘れられませんよね。今回は、そんな独自の魅力を放つジョージアワインの歴史から製法、品種、産地などを紐解いていきましょう。

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【目次】
1. ジョージアワイン、その特徴は?
2. 世界最古のワイン造りの歴史
3. クヴェヴリ製法が産む唯一無二の個性
4. 十着品種の宝庫、押さえるべきは3品種
5. ジョージアの主な産地、東のカヘティ西のイメレティ
6. 旅行先としても人気、おもてなし上手のジョージア
7. ジョージアワインのおすすめペアリング
8. ジョージアワインまとめ


1. ジョージアワイン、その特徴は?

ジョージアワインの伝統製法で使用される「クヴェブリ」

ジョージアワインの伝統製法で使用される「クヴェブリ」

ジョージアワインを一言で表すならば、「個性」といえるでしょう。525もの十着品種が存在するジョージアでは、国際品種よりもマイナー品種に重きが置かれ、個性を大切にしたワイン造りが行われています。最大の特徴は、伝統的なクヴェヴリ製法。クヴェヴリと呼ばれる素焼きの壺のなかでワインを醸造する方法で、ワイン発祥の古来より受け継がれてきました。白ワインも赤ワインも造られますが、白ワインの場合でも果皮や種を果汁と一緒に漬け込むため、ほどよい渋みと独特の風味を持つワインになります。野生酵母による無添加のナチュラルワインは、自然派ワインブームの波にのり、世界でもトレンドに。その製法を取り入れる生産者も増えており、いうなれば「最も古くて新しいワイン」といえるでしょう。

このようにジョージア=クヴェヴリ・ワインのイメージが強烈ですが、クヴェヴリ製法によるワインは全体のわずか約1割。「ヨーロッパ式」と現地で呼ばれる近代的なワイン造りが実は生産量の多くを占めているということも忘れてはなりません。大手のワインセラーに行くと、巨大なステンレスタンクが立ち並ぶ醸造施設の片隅に、地中に埋まったクヴェヴリが等間隔に立ち並ぶマラニ(ワインセラー)がひっそりとあるのが一般的です。

また、珍しいワインとして最近話題になっていたのが、水色のワイン「ケサネワイン」。ルカツィテリ種から造った白ワインを赤ブドウの皮の色素を使って水色に着色したもので、「美しい!」「清涼感がある」とTwitter上でも拡散され、注目を集めました。

2. 世界最古のワイン造りの歴史

ワイン造りは約8千年前(紀元前6千年頃)、ジョージアを含むコーカサス地方で始まり、ワインの起源はジョージアにあるとされています。その根拠は、クヴェヴリの前身である素焼きの壺からヴィティス・ヴィニフェラ種の大量の種と、ワインの存在を裏付ける酒石酸が見つかったため。ワインはジョージアからトルコ、ギリシャ、イタリア南部、マルセイユを経由してフランスに北上し広がったというのが定説でした。

それがつい最近、この定説を覆す研究成果が発表されました。2023年3月、中国などの国際チームが、「ブドウの栽培化は約11000年前、中東とコーカサス地方でほぼ同時期に始まり、主に中東から欧州、アジアへ広がった」と主張。つまり南コーカサスからの広がりは限定的だったと推定し、研究結果をサイエンス誌に掲載しました。ワイン用ブドウの歴史を3000年も古く見積もったうえ、ワイン伝播のルートについても再考を促す説を唱えたのです。

いずれにせよ、ジョージアが世界最古のワイン産地の一つということは間違いないでしょう。実際、ワイン文化に誇りを持つジョージアでは、ワインが一般庶民の生活の隅々にまで根付いています。キリスト教を国教として認めた世界でも最初の国のひとつであり非常に信仰の厚いジョージアでは、宗教とともにワイン文化が発展してきました。驚くべきことにワイン生産が免許制度で管理されていないため、個人でもワインを醸造・販売することが可能です。実際、ほぼ全ての家庭で自家製ワインを醸造しており、プラスチック容器等に入れて保管しています。統計によると6600万ℓの消費量のうち瓶詰されたのはわずか2.3%の150万ℓ。街なかを歩いていても、一般家庭の軒先や家の中庭などいたるところにブドウ棚があり、複雑に絡み合う蔦とたわわに実るブドウを見つけることができます。

宗教行事にもワインは欠かせないため、修道院でのワイン造りも行われてきました。特にカヘティ地方にあるアラヴェルディ修道院が有名で、8~10世紀の修道院を2005年に修復し、現在も修道士がクヴェヴリ製法でワインを造っています。

ロシアの禁輸で開けた世界市場

1991年まで旧ソ連諸国だったジョージアでは、ワイン造りが社会情勢に大きく影響を受けてきました。最大の輸出国である旧ソ連やウクライナに安価なワインを供給する必要があるため、ステンレスタンクによる近代的なワイン造りがもたらされました。1980年代に実施されたペレストロイカ政策は、アルコール消費に対する規制を強化し、酒類の販売制限や増税を行ったため、ジョージアのワイン生産に深刻な影響を与えました。生産量は大幅に減少し、生産コストの高い職人的な小規模な造り手は収益性が悪化、多くの十着品種が引き抜かれたのです。

2006年~2013年にはロシアが政治的理由から、ジョージアワインに禁輸措置を発動。ジョージアはその全輸出量の87%を失う大打撃を受けましたが、まさにこのことが別のワイン市場への道を拓き、自らの独自性や強みを見直すきっかけになりました。レッドオーシャンの国際品種や近代的なワイン醸造で勝負するのではなく、名の知られていない十着品種やクヴェヴリの技術が唯一無二の個性として見直されました。ロシアでは赤の半甘口ワインが絶大な人気を誇っていましたが、それ以外のジョージアワインの品質を見直すことにもつながったのです。

また、クヴェヴリ製法は、ブドウや醪を壺に入れたら温度管理や酸化防止剤も加えないのが一般的です。一方、輸出市場が広がるにつれ、クヴェヴリ・ワインの安全性を確保するため、少数ながらクヴェヴリの周りに冷水パイプを設置したり、窒素や酸化防止剤を使用したりするなど、人的介入をする生産者も出てきました。

現在も輸出先トップはロシア・ウクライナですが、マーケットを世界市場に広げ、イギリスや中国・香港、アメリカ市場はもちろん日本でも積極的なプロモーションを実施。アンバサダーの大橋健一MWらの尽力により、ジョージアワインの認知度も上がりました。今やコンビニでも茶色の陶器瓶に入ったジョージアワインが売られています。

このクヴェヴリによる伝統的なワイン造りは2013年にはユネスコの世界無形文化遺産にも登録され、今では世界中のワイン生産者がクヴェヴリによる製法を取り入れ始めています。世界最古の伝統製法が最も最先端という、「温故知新」がここでも起こっているのです。

ジョージアワインについてより深く知りたい方は、2019年に公開されたドキュメンタリー「ジョージア、ワインが生まれたところ」を見ることをおすすめします。ロシア(旧ソビエト)との確執、社会情勢がジョージアのワインに与えた影響や、その伝統製法について学ぶことができますよ。

3. クヴェヴリ製法が産む唯一無二の個性

ジョージアでは伝統的に、クヴェヴリと呼ばれる大きな素焼きの壺を地中に埋め、その中で果皮や種もすべて一緒に発酵させる独特の製法で造られます。クヴェヴリは、古代エジプトやギリシャ、ローマでワインの製造や貯蔵に使われていたアンフォラの原型と考えられています。もともとは地上に立てて使われていたそうですが、紀元前2千年代に起きた大地震で破損したことで、地中に埋めて使われるようになりました。

具体的な方法は、地方や生産者によって異なりますが、基本的には次の通り。まずはマラニと呼ばれるセラーで、木製の槽を使ってブドウを踏み潰す→ブドウジュースとは最後の果肉・果皮・種・茎(チャチャ)をクヴェヴリに入れて発酵(20~40日)→果房が沈んだら石やガラス製の蓋でクヴェヴリを密閉し熟成→5~6か月マセラシオンさせ翌年春にチャチャを分離。別のクヴェヴリや樽に移すか、そのまま瓶詰め。赤ワインの場合は、果皮のマセラシオン期間が約1か月と短くなりますが、造り方は同様です。

クヴェブリが地中に埋められたワインセラー「マラニ」

クヴェブリが地中に埋められたワインセラー「マラニ」

クヴェヴリでの熟成によってワインに素朴な土の風味が加わり、独特の香りを呈するようになります。また、果汁をマセラシオンすることにより、白ワインは黄金色やアンバー色(琥珀色)になり、ドライフルーツやナッツの香味と、果皮や種から抽出された渋みをかねそなえたワインになるのです。この色合いから、ジョージアではクヴェヴリ製法のワインは「アンバーワイン」とも呼ばれています。

ちなみに今流行中のオレンジワインは、ジョージアのこの伝統的な製法から発展したもの。白ワインの果汁を果皮や種とともに発酵させる手法は同じですが、クヴェヴリだけでなく様々な容器が使われます。自然派ワインブームとともにオレンジワインやアンバーワインは世界中に知られるようになりました。

4. 十着品種の宝庫、押さえるべきは3品種

少なくとも525もの独自品種をもつジョージア。商業的に使われるのは約45品種ですが、そのオリジナリティに誇りを持つこの国では、国際品種は全体の6%ほどしか栽培されていません。自宅でもブドウを栽培しているため、正確な品種ごとの栽培面積や生産量は把握できませんが、推計によると、多い順にルカツィテリ、サペラヴィ、ムツヴァネ、その他ツォリコウリ、アレクサンドルリ、ムジュレトゥリと続きます。このうち押さえておきたいのは3品種、白ブドウのルカツィテリとムツヴァネ、黒ブドウのサペラヴィです。

年間収穫量の約60%を占めるルカツィテリは、カヘティ地方の主要品種。病気に強く熟しやすいのが特徴で、ロシアや中国でも広く栽培されています。しっかりとした酸を持ち、ニュートラルですっきりした白ワインから、クヴェヴリ製法のユニークなワインまで造ることができます。

ムツヴァネはルカツィテリに比べ、酸はより穏やかでリッチなワインになる白ブドウ。香りもよりアロマティックで、白い花や白桃の香りを持つため、香り控えめで酸が高いルカツィテリとブレンドされることも多い品種です。

黒ブドウの王者といえば、なんといってもサペラヴィ。年間収穫量の約30%を占めるジョージアを代表する品種です。その名前は「染料」を意味するとおり、飲むとお歯黒になるくらいタンニンが豊富。果肉まで赤いタンチュリエのため、非常に濃い赤ワインになります。味わいとしては、ブルーベリーやダークフルーツなどの豊かな果実味、スパイシーな風味が特徴。辛口赤だけでなく甘口や半甘口の赤ワインも造られ、キンズマラウリというワインが特に有名です。面白いことに、京都の丹波ワインや天橋立ワインなど日本でもサペラヴィが栽培されています。

5. ジョージアの主な産地、東のカヘティ西のイメレティ

ワイン産地は10に分かれていますが、最も重要なのは2つ。東部のカヘティ地方と西部のイメレティ地方です。25のPDO(原産地呼称)のうち19個がカヘティ地方にあります。

カヘティ地方

ジョージア最大のワイン産地カヘティ地方のワイン畑

ジョージア最大のワイン産地カヘティ地方のワイン畑

総生産量の約7割強を占めるジョージア最大の産地。首都トビリシのあるカルトリ地方の東にあります。最も乾燥した大陸性気候で、さっぱりとしたルカツィテリの白ワインから、より柔らかなムツヴァネの白ワイン、サペラヴィからは渋みのあるしっかりとした辛口赤ワインや(セミ)スイートワインなどを生産しています。ヨーロッパ式と伝統的なクヴェヴリ製法のどちらからもワインは造られますが、クヴェヴリ製法の場合は、イメレティ地方に比べるとマセラシオンの期間が長く、よりフルボディのワインになります。十着品種が大切にされていますが、テリアニPDOはジョージアで唯一国際品種から造られ、カベルネ・ソーヴィニヨンが主要品種となっています。キンズマラウリは、最大の輸出先ロシアでも人気ナンバーワンの赤のセミ・スイートワインで、輸出量でも圧倒的トップに君臨しています。

有名生産者として必ず名が上がるフェザントティアーズは、アメリカ画家のジョン・ワーデマンがジョージアへ移住し始めたワイナリー。「ユネスコ無形文化遺産」にも認定されたコーカサス山岳地帯の多声音楽にちなみ、417品種を混植混醸する「ポリフォニー」などのワインを造っています。

イメレティ地方

西部にあるイメレティ地方は、生産量の約15%を占める第二の産地。黒海の影響を受けるため、東部に比べると湿潤で雨量も多くなります。ツィツカツォリコウリといったイメレティ独自のブドウ品種もあり、生き生きとした酸を持ったワインになります。イメレティ地方でも他の産地同様、ヨーロッパ式と伝統方式のワイン造りがありますが、クヴェヴリが地上で使われるのが興味深いポイントです。クヴェヴリによるワイン醸造の場合も、白ワインはスキンコンタクトをせずに果汁だけを醸造することが多いのも特徴。カヘティ地方とも異なる食文化があり、食もワインも軽めになってきます。イメレティ地方の有名なワイン生産者として知っておきたいのが、ラマズ・ニコラゼ。2010年にクヴェヴリ・ワイン協会を設立し、若い造り手の指導を行うなど、この地方の中心的存在です。オーガニックでブドウを栽培し完全手造りのため、生産量も数千本と少ないですが、目利きのインポーターのおかげで日本でも飲むことができます。

その他の産地

もっとも標高が高い山岳部にあるメスヘティ地方は、生産量は少ないですが覚えておきたい産地。ジョージア最古の産地の一つとされ、サペラヴィもメスヘティ地方が原産だと考えられています。ギオルギ・ナヘナゼという生産者が造る樹齢400年のワインは、一度は飲んでみたいワインです。

また、イメレティの北、ジョージア西部にあるラチャ・レチュフミ地方は赤のセミ・スイートが有名。このあたりは標高が高く生育期も長くなるため、遅摘みしたブドウから半甘口/半辛口ワインが自然にできるのです。特に名高いのがフヴァンチカラPDO、アレクサンドルリとムジュレトゥリという土着品種のブレンドから造られるワイン。「フヴァンチカラ!フヴァンチカラ!」とジョージア国内でも最高級のワインとして誇らしげに売られています。

6. 旅行先としても人気、おもてなし上手のジョージア

首都トビリシ

首都トビリシ

スキーもできるコーカサス山脈から黒海のリゾート地まで、多様な観光スポットがあるジョージアは、実は旅行先としても人気があります。自然豊かで人も優しい、行けば必ずファンになる素晴らしい国です。

ワイン産地を訪れるなら、まずはジョージア最大の産地カヘティ地方を訪れるのがおすすめ。カヘティ地方のテラヴィまではトビリシから車で東2時間ほど。トビリシに滞在しながら日帰りで訪れることも可能です。トビリシでワインを楽しむなら、クヴェヴリ・ワインが豊富な地下ワインバー「ヴィーノ・アンダーグラウンド」は必訪です。

ジョージアではゲストは「神の賜物」。ジョージア人はおもてなしが大好きで、ゲストが来ると家族や友人が集まり、ごちそうと自家製ワイン、チャチャと呼ばれる蒸留酒で盛大におもてなしをし、飲めや歌えやの大宴会になります。この宴は「スプラ」、宴会を取り仕切る長は「タマダ」と呼ばれ、年長者や家長が行います。乾杯音頭は「Gaumarjos(ガウマージョス)!」。ワイン好きなら、「こんにちは」「ありがとう」と同じくらい使用頻度の多いワードなので、ぜひ覚えておきましょう。ときにはヤギの角の杯で乾杯をすることも。この杯はテーブルにはおけないため、一度杯を満たしたら最後まで飲み干さねばならないので酩酊注意なのです。

7.ジョージアワインのおすすめペアリング

ジョージア料理、シュクメルリ、ハチャプリ、ヒンカリ他

ジョージアの郷土料理としてよく食卓に上がるのが、トマトやキュウリのサラダ、鶏肉のクリームソース煮込み「シュクメルリ」や、バターと半熟卵を熱々のパンの上に乗せたチーズパン「ハチャプリ小籠包に似た「ヒンカリ」など。当然、煮込み料理やピザ、中華、エスニックなど幅広い料理に合います。特にクヴェヴリ製法のアンバーワインは、ほどよい渋みを持っているため、さまざまな料理に合わせることができる万能ワイン。サラダからお肉まで、1本で通すことができるので常備しておくと便利です。サペラヴィの赤ワインは、しっかりとした味わいのため、お肉のグリルなど重めの料理と合わせるのがおすすめです。

8.ジョージアワインまとめ

最近のジョージアワインの快進撃は、唯一無二の個性が大切なのだということを再認識させてくれます。クヴェヴリ製法によるアンバーワインだけでなく、さまざまなワインを造っているジョージアは、奥の深いワイン産地です。日本でも良い造り手のワインがたくさん手に入るので、ぜひその魅力を味わい尽くしましょう!

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