南フランスの山の麓にある小さな村、ジゴンダス。2000年にわたる長い歴史と高い品質を持ちながら、シャトー・ヌフ・デュ・パプの名声に隠れた、知る人ぞ知る銘醸地です。特にグルナッシュ主体の赤ワインは、力強さとエレガンスを兼ね備えた逸品。しかも価格は良心的で、熟成したボトルを見つければ、しめたものです。そんなジゴンダスの奥深い魅力を、テロワールや品種、シャトー・ヌフ・デュ・パプとの違いも含めてご紹介します。
【目次】
1. ジゴンダスとは?:ワインの特徴
2. ジゴンダスのワインの歴史
3. ジゴンダスの気候と土壌
4. 基本は「G・S・M」:ジゴンダスの主要ブドウ品種
5. シャトー・ヌフ・デュ・パプとの違い
6. 押さえておきたいジゴンダスの代表生産者
7. おすすめペアリングと楽しみ方
8. ジゴンダスのまとめ
1. ジゴンダスとは?:ワインの特徴

南フランスのワイン産地ローヌ地方南部にある小さな村ジゴンダス。ダンテル・ド・モンミライユ山の麓、シャトー・ヌフ・デュ・パプの目と鼻の先にあり、シャトー・ヌフ・デュ・パプにも匹敵しうる銘醸地です。その品質は、ローヌ地方4県に認められている広域AOCのコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュから、1971年にいち早く独立した事実が物語っています。しかし、シャトー・ヌフ・デュ・パプの圧倒的な知名度からするとややマイナーなため、お値段もぐっと良心的。実際、ジゴンダスの古いワインなどは、レストランでオーダーする際の狙い目でもあります。ブルゴーニュやボルドー、はたまたローヌの有名ワインはあえて外して、ジゴンダスの飲み頃の熟成ワインを頼めば、さりげなく予算を抑えながらも玄人感がぐっと増すのでおすすめです。
ジゴンダスのワインは主にグルナッシュ、シラー、ムールヴェードル、いわゆるGSMブレンドという典型的なローヌの赤品種から造られます。赤の生産量が9割を占めますが、ロゼの生産も可能。さらに2023年にはクラレット主体の白ワインもAOCに認められ、白・ロゼ・赤すべて生産可能になりました。
典型的なジゴンダスの赤ワインは、ブラックベリー、ブラックチェリーなど黒系果実、野生のハーブ、スパイス、革、甘草などの複雑な香りを持ちます。アルコール度数は通常14〜15度と高め。しっかりとしたタンニンと凝縮感のある果実味が特徴です。最近は若いうちから楽しめるワインも増えていますが、熟成させることで、さらに深みのある味わいに変化します。
2. ジゴンダスのワインの歴史
コート・デュ・ローヌの最も有名な村の一つであるジゴンダスは、2000年にわたるワイン造りの歴史を持ち、紀元前1世紀ごろにローマ軍が最初にブドウを植えたと伝えられています。「ジゴンダス」という地名は、ラテン語の「Jucunditas(喜び・楽しみ)」から来ており、ローマ軍兵士たちの遊興地として拓かれた歴史に由来しています。
14世紀にはローヌ地方の主要都市アヴィニョンにローマ教皇庁が置かれ、修道院や貴族によりワイン造りが支援されると、「教皇の新しい城」を意味するシャトー・ヌフ・デュ・パプをはじめ、この地域のワイン造りが大きく発展しました。
19世紀後半にはフランス全土をフィロキセラ禍が襲いますが、1863年、フランスで最初にフィロキセラが発見されたのは、実はコート・デュ・ローヌの畑でした。その後、アメリカ原産の抵抗性台木の導入により、徐々にジゴンダスのワイン産業も復活していきます。
1930年代にフランスのAOC制度が導入された当初は広域 AOC・コート・デュ・ローヌの一部でしたが、1966年にコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュに昇格、さらに1971年、ジゴンダスは正式に独立したAOCとして認定。ついにその品質が公的に保証されたのです。
3. ジゴンダスの気候と土壌
ヴォークリューズ県に属するジゴンダス村は、ワイン産地上では南ローヌ地方ですが、行政区分でいうとプロヴァンス地方に分類されます。プロヴァンスといえば、太陽が降り注ぐイメージが浮かぶように、穏やかな冬と乾燥した暑い夏を持つ温暖な地中海性気候。日照時間は約2800時間と長く、年間を通して雨の少ない、ブドウ栽培には理想的な環境です。
ジゴンダスのテロワールの特徴は、その標高の高さと土壌の特異さにあります。モンミライユ山系のふもとの急斜面に位置するジゴンダスの畑の標高は最大600メートルと高め。山の影響により、日較差が大きいのがポイントです。温暖な南ローヌでは日中の気温は上がりますが、朝晩が涼しくなるため、生育期間を伸ばし、ブドウは酸を保ちながらも複雑な香りを発達させることができます。

ダンテル・ド・モンミライユ山
特にジゴンダスのワインの主体となるグルナッシュは、酸が落ちやすい品種であるため、酸味をキープできる生育条件は、長期熟成可能な高品質ワインには欠かせない条件です。近年は温暖化の影響からグルナッシュの高アルコール化が問題になりつつあり、温暖な気候を和らげてくれる北風ミストラルの存在も重要になってきています。太陽と北風、まさにこの二つがジゴンダスの気候の核となっているのです。
土壌は石灰岩、泥灰岩、砂、砂岩など様々な土壌が混在する複雑なテロワール。北側と西側のより平坦な低地には、砂質の水はけのよい土壌が広がっています。モンミライユ山の東側の丘陵の斜面には、白い石灰岩の岩盤が露出している部分もあり、この石灰と泥灰土の混ざる土壌は、コート・デュ・ローヌではジゴンダスのみ。ブルゴーニュやバローロ・バルバレスコなどとも共通する要素として、特筆すべき点です。

4. 基本は「GSM」:ジゴンダスの主要ブドウ品種
ジゴンダスのワインに使用される主要品種を簡単に解説していきます。
G:グルナッシュ
スペイン北東部アラゴン地方発祥の黒ブドウで、スペインではガルナッチャと呼ばれます。暑く乾燥した地中海性気候に向き、スペイン・フランスでの栽培がほとんど。ラズベリーや苺などチャーミングな果実香、糖度が上がりやすいためアルコールの高い芳醇なワインになることが多く、酸味と渋みは控えめ。皮が薄いためロゼの原料としても好まれます。

S:シラー
黒系果実やスパイス、特徴的な胡椒の風味があり、タンニンと酸がしっかりした黒ブドウ品種。原産地とされる北ローヌではシラー単体や少量ヴィオニエをブレンドするのが一般的ですが、南下すると、グルナッシュ主体のワインにブレンドとして加えられます。酸や渋味が穏やかなグルナッシュの良い相棒となり、ブレンドにストラクチャーを与え、熟成ポテンシャルを高めてくれます。

M:ムールヴェードル
南部ローヌのブレンドの一部として使用され、ブレンドに野性味や複雑味、骨格を補強してくれます。プロヴァンス地方のバンドールでは主要品種として使用され、熟成向きの力強いワインを産みます。
GSMのほかによく使われる品種が、サンソー。赤果実系のアロマや生き生きした酸味、フレッシュさをブレンドに加えてくれます。白ブドウの主体(AOCの規定は70%以上)となるクラレットは、南仏で多く栽培されている品種。白い花や柑橘果実、ハーブの爽やかな香り、穏やかな酸を持つ白ワインになり、ブレンドの原料によく使用されます。

5. シャトー・ヌフ・デュ・パプとの違い
シャトー・ヌフ・デュ・パプから東へわずか20kmの距離にあるジゴンダスは、テロワールや栽培品種に多くの共通点を持ちます。あらためて共通点と違いを比較してみましょう。
素晴らしいジゴンダスの赤は、シャトー・ヌフ・デュ・パプにも匹敵する品質と言われますが、ジゴンダスAOCの基準はシャトー・ヌフ・デュ・パプと同じ厳しい基準が定められています。まず共通点としては最大収穫量が35hL/haと低く、最低アルコール12.5%と高め、手摘み収穫が必須です。

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品種、生産可能色の違い
生産できるワインの種類は、シャトーヌフが赤白、ジゴンダスは赤・ロゼ・白という違いがあります。シャトー・ヌフ・デュ・パプの赤には13品種もの使用が認められ、比率に関する規定は特にありません。通常はグルナッシュを主体に3~4品種のブレンドで、シャトー・ラヤスのようにグルナッシュ100%のワインも存在します。かたやジゴンダスの赤はグルナッシュの使用比率50%以上、シラーかムールヴェードルをどちらか1つは必ず使用、と定められています。 白ワインの場合は、シャトー・ヌフ・デュ・パプが、グルナッシュ・ブランやクラレット、ブールブラン、ルーサンヌなど様々な品種を比率の規定なしで使えるのに対し、ジゴンダスの白はクラレットが70%主体。シャトー・ヌフ・デュ・パプでは認可されていないマルサンヌ・ヴィオニエも使用できるのが違いとなります。
土壌の違い
シャトー・ヌフ・デュ・パプは複雑な土壌を持ち、砂質や粘土質など様々な土壌がモザイクのように分布しますが、シンボルといえば、丸石がごろごろと転がる「ガレ」という土壌。小石が熱を蓄えることでブドウの成熟を助けると言われます。かたやジゴンダスはシャトー・ヌフ・デュ・パプよりもやや標高が高く、丘陵部には石灰質の割合が多いため、ワインはよりアロマティックでフレッシュなワインになると言われています。

シャトー・ヌフ・デュ・パプのガレ土壌
6. 押さえておきたいジゴンダスの代表生産者
ジゴンダスを語る上で欠かせない、代表的な4生産者をご紹介します。
シャトー・ド・サンコム(Château de Saint Cosme)
16世紀から500年以上続く歴史を誇るジゴンダス最古のワイナリーの一つ。1970年代からローヌでいち早くオーガニック農法を取り入れるなどテロワールを大切にし、14代目の当主ルイ・バリュオール氏は、「ジゴンダスの天才」の異名を持ちます。ワインは野生酵母を使用し全房発酵を用いるなど、手作業でのワイン造りを貫き、特に単一畑シリーズは、ブルゴーニュにも共通するエレガンスを感じられる1本です。
ドメーヌ・サンタ・デュック(Domaine Santa Duc)
1874年創設の家族経営のドメーヌ。1985年5代目のイヴ・グラが、それまでバルクで売っていたワインを元詰めに切替え、さらに現当主のベンジャミン・グラ氏によってビオディナミ栽培や野性酵母による発酵・人的介入を抑えた造りなど、現代に則したワイン造りを導入。「目指すは、ローヌのブルゴーニュワイン」というように、エレガントで上品なジゴンダスの代表格です。
ドメーヌ・ラスパイユ・アイ(Domaine Raspail-Ay)
こちらも1850年創業、ジゴンダスで最古の元詰め生産者。「昔から必要がないため」有機農法を採用し、野生酵母による長めの醸し発酵、古樽の使用という伝統的な醸造を重視。グルナッシュ主体のしっかりとした骨格を持つ、クラシックなワインを造ります。もちろん長期熟成向きで、熟成によってより滑らかで深みのある味わいに進化し、古典的なジゴンダスの魅力を体現する造り手です。
ドメーヌ・サン・ガヤン(Domaine Saint Gayan)
1709年創業、熟成に適した力強いジゴンダスを生み出す伝統派の造り手。古木のグルナッシュを主体とし、凝縮した果実としっかりとしたタンニンと骨格は、おいそれと若飲みさせない気骨のあるワイン。化学農薬は使わないのはもちろんのこと、銅など金属の使用も制限し、環境に配慮したHVE認証も取得。熟成によって柔らかく深みを増すクラシックなスタイルは、ジゴンダスの底力を見せてくれます。
7. おすすめペアリングと楽しみ方

飲みごたえのあるジゴンダスの赤ワインは、メイン料理に合わせたい存在感のあるワインです。ローストしたジビエや煮込みと特に相性の良いジゴンダスのワイン。南フランスに生育するハーブ(ガリーグ)との相性が良いので、ラム肉にタイムやローズマリーなどをたっぷり使用したラムの香草焼き、シチューなどとよく合います。熟成したジゴンダスのワインは、複雑なブーケを放ち、お肉はもちろんのこと、癖のあるロックフォール(青かび)など熟成したチーズにもぴったりですよ!赤ワインは、少し早めに抜栓してワインの香りを開かせ、やや高めの温度で大きめのグラスで楽しむと、その香りや味わいを十分に楽しめるでしょう。
ロゼや白は珍しいので、ワイン会などに持って行っても「ジゴンダスに白なんてあるんだ?」と盛り上がること間違いなし。その際は、プロヴァンス風ラタトゥイユとぜひご一緒に!
8. ジゴンダスのまとめ
ジゴンダスは、知名度こそすごく高いわけではないものの、知っていると得するワイン産地です。標高の高さや石灰質土壌から、ブルゴーニュに通じるようなエレガントなワインも生まれ、濃すぎるワインが苦手、という方にもおすすめです。次のワイン選びに、ぜひジゴンダスを候補に入れてみてくださいね!