シャトー・モンテレーナを訪問。知ったかぶりで、パリスの審判で1位を取ったシャルドネが売りですよね!と従業員たちを前に一席ぶつと、冷や汗をかくかも知れません。いやいや弊ワイナリーはカベルネ・ソーヴィニョンが売りなんですよと言われる場合も。
白ワインで優勝した時のモンテレーナのシャルドネは、ナパヴァレーよりも冷涼なソノマのブドウの方が多く使われていたのです。今回は、意外と奥の深いナパのふところに飛び込んでみましょう。
【目次 -前編- 】
1. ユニークなナパのテロワール
2. ナパはカベルネ王国
3. ナパの開拓者たちと中興の祖、そして巨大資本の力
4. 畑と醸造所の緊張関係
1. ユニークなナパのテロワール
2万ヘクタールにも届かないナパ。西のマヤカマス山脈、東のヴァカ山脈に挟まれた谷間の東西の幅は、8キロメートル程度しかありません。南北は、50キロメートル弱と縦長の産地です。そこに、まばゆいきら星の様な有名ワイナリーの数々が、広がっています。
西の29号線か、ナパ川を挟んだ、東のシルヴァラード・トレイルを通って観光客が訪れます。マヤカマス山脈は太平洋の冷気の直撃を和らげて、ヴァカ山脈は、内陸のセントラルヴァレーの熱気を押しとどめてくれます。谷間の畑は、霧に覆われて、その冷気を感じられます。
ナパの特に谷間の産地は、霧無しでは暖かくなりすぎます。それでは、高級ワインの産地としては、不適格。霧のお蔭で、夜間から朝にかけて10℃そこそこまで気温が下がってくれるのです。
山間では一般的には標高が高い産地の方が、冷涼です。しかし、フォグ・ラインと呼ばれる霧が到達する標高の上限線より上部のほうが、気温が高くなることも(上述のとおり、霧が気温を下げるためです)。このあたりはとても複雑なのですが、いずれにせよフォグ・ラインの上と下の畑では、ブドウの生育環境が異なってきます。
さらに、同じ山の産地でも、東側なのか西側なのかによっても、気候状況は変わります。
谷間の産地には、ナパの南部、サンパブロ湾から冷涼な空気が霧と共に、流れ込んで来ます。ですから、ナパでは南部の方が冷涼。典型的には、谷間南部の夏場の日中の最高気温は、27℃くらいなのに、北部は、35℃まであがります。
ワイン産地の常識では、南に行く方が暖かいというのが普通。ですから、ユニークな気候環境であると言えます。具体的には、南部のロス・カーネロスAVA、次にクームズヴィルAVAは、冷涼。他方、シャトー・モンテレーナがある北部のカリストガAVAは、温暖です。カベルネ・ソーヴィニョンの成熟に向くわけです。
この様に、代表産地毎に生育環境は変わってくるのですが、大きく言えば、地中海性気候。夏は乾燥して温暖、冬に雨が降る絶好のワイン生産地です。だから毎年素晴らしいヴィンテージで変動はないだろうと思ってしまいがちですが、雨にたたられた年や干ばつで苦労した年とでは、かなりヴィンテージ差は出るものです。加えて近年では、米国西海岸のワイン産地全体で、森林火災が頻発するようになっています(大ざっぱには気候変動の影響と推定されていますが、その原因は多様かつ複合的です)。年によりますが、火事の発生時期や場所が悪いと、収穫前のブドウの果皮に煙の風味がつき、ワインの品質に影響が出てしまいます(スモークテイント、煙害)。この森林火災も、ヴィンテージ評価を大きく左右する、深刻で見過ごせないものになってきました。
有名なAVAを並べると、谷間では、南からロス・カーネロス、クームズヴィル、ヨーントヴィル、スタッグス・リープ・ディストリクト、オークヴィル、ラザフォード、セント・ヘレナ、カリストガとなります。ちょっと、地図で位置関係を確認しておきましょう。
山間の産地は、西側が南からマウント・ヴィーダー、スプリング・マウンテン、ダイアモンド・マウンテン・ディストリクト。東側が南から、アトラス・ピーク、ハウエル・マウンテンとなります。
ナパヴァレーは、マヤカマス山脈とヴァカ山脈の間をナパ川が浸食した賜物。ヴァレーの両側に深くて、でも水はけの良い土壌が形成されています。特に有名なのは、ラザフォード・ベンチです。そして、南北方向では、堆積土壌が優勢な南部と、火山性土壌が優勢な北部と特徴が変わってきます。
とは言うものの、一つのワイナリーの畑を取っても、その中の場所によって、火山性、砂利質、砂質やシルトの土壌、沖積土壌と様々。そして、山の斜面から谷間の平地へと広がった沖積扇状土壌。こうした様々な土地から生まれるブドウを上手く使って、テロワール表現をする生産者もいます。
気候に恵まれたナパヴァレーにも、もちろん多様性が有り、テロワール表現という概念が存在するのです。
2. ナパはカベルネ王国
栽培面積では、カベルネ・ソーヴィニョンが最大で、5割を超えます。次はシャルドネで1割強。パリスの審判で欧州の名だたるワイナリーに打ち勝った二つの品種。ですが、圧倒的に、カベルネ・ソーヴィニョンが、その栽培面積だけでなく生まれるワインの価格の高さにおいても、中心的な存在です。
シャルドネが最大品種のお隣のソノマ・カウンティから、ブドウを調達する構図はまだ健在です。もちろんナパでもロス・カーネロス、クームズヴィルなどの冷涼な産地では良い品質のブドウが収穫できます。
もっと栽培しているのでは?という印象のメルロやソーヴィニョン・ブラン、そしてピノ・ノワールはみな1割未満の栽培面積です。価格で比較してみると、2022年の平均価格で、ナパカベは、トン当たり8,000ドルを軽く超えて、ソノマの倍以上の価格。他方、冷涼なロス・カーネロスを除けば、生育環境が厳しいナパのピノ・ノワール。3,000ドルを切って、ソノマの4,000ドル弱より安くなります。
メルロにとっても、ナパヴァレーは暑くなりすぎてしまって、必ずしも上手く行っていません。クリスチャン・ムエックスは、ドミナスで1999年には9%を占めていたメルロを、2002年を最後に使うのを止めました。しかし、ヨーロッパスタイルの抑制されたものを造ろうと努力する生産者も出てきています。
3. ナパの開拓者たちと中興の祖、そして巨大資本の力
ワイン用ブドウの歴史は、開拓者ジョージ・ヨーントが1838年に最初のブドウ樹を植樹したことで始まったとされています。ヨーントヴィルAVAはジョージ・ヨーントにちなんでいます。
その後、すぐに、銘醸畑のト・カロンを見出したハミルトン・クラブ、今では伝統方式のスパークリングで有名なシュラムスバーグのジェイコブ・シュラム、ベリンジャー、イングルヌックらのパイオニアが続きます。
1920年から1933年まで続く禁酒法が終焉。当時は、アリカンテ・ブーシェやカリニャンが多く栽培されていましたが、ナパ屈指の老舗ワイナリーであるボーリュー・ヴィンヤーズの所有者ジョルジュ・ド・ラトゥールが、のちに伝説となる1936年ヴィンテージのプライヴェート・リザーヴをリリースしました。
モンダヴィが世界的な注目を集めるのは、ロバート・モンダヴィが本格的に活躍するまだ先の事。ですが、開拓者たちの一人、チャールズ・クリュッグのワイナリーを、ロバートの両親が1943年に買収しました。
こうした歴史的なワイナリーの変遷を最低限、押さえておくと、今日のナパヴァレーへの系譜、全体像を理解するのに役立ちます。
E&J ガロ
禁酒法時代が終焉するや、温度制御可能な発酵槽を持った先進的なワイナリーを建設したルイ・M・マルティーニ。2002年に、全米最大手のガロが買収しました。
ガロは、最近でも、ワインの女神とも称されるヘレン・ターリーがワインメーカーを務めたこともある、パルメイヤーを2019年に買収。1980年代からカスタム・クラッシュ(小規模ワイン生産者に醸造設備・スペースを貸す事業)を営んでいた草分け的存在のロンバウアーも、2023年に買収しました。ドミナスやダックホーンもここでワイン造りをしていた由緒あるワイナリーです。そして、いずれのワイナリーにもカルトワインで有名なハーランでダイレクターを務める、ボブ・レヴィが働いていました。
イングルヌックからコッポラへ
イングルヌックは、1879年にフィンランド人のグスタフ・ニーバムが設立。やはり、禁酒法時代の終焉後、人気を博しますが、1960年代にはユナイテッド・ヴィントナーズに売却。1975年にはコッポラが一部買収して、1995年には完全に手中に収めます。一時期、コンステレーションにブランド名は売られ、安ワインにもイングルヌックの名前が使われていました。でも、2011年には、コッポラが商標権を得て、イングルヌックのブランドを復活させました。
そして、当時シャトー・マルゴーの醸造技術主任だったフィリップ・バスコールを醸造責任者としてチームに加えました。そのフィリップ・バスコールは、2017年からシャトー・マルゴーのマネジング・ディレクターも兼務しています。
モンダヴィの貢献
今日のナパヴァレーの形が有るのは、ロバート・モンダヴィのお蔭と言っても大げさではないかも知れません。1966年にロバート・モンダヴィがワイナリーを開設。それから新しいワイナリーが次から次へと参入。今日存在するワイナリーの過半数が、モンダヴィの登場以降に設立されたと言われています。
ステンレスタンクやオーク樽熟成の採用という技術面の進歩、ブドウ品種を前面に打ち出した販売手法、目端が利くセカンドライン的なブランドであるウッドブリッジの設立。そして、1993年に家族経営から株式上場を果たしました。
90年代には、ナパヴァレーの最大生産者でもあり、様々な意味で、ナパヴァレーを、ひいてはカリフォルニアワインを牽引した生産者だったのは間違いありません。カルトワインの設立にも手を貸し、ペトリュスのクリスチャン・ムエックスに歴史に名高い銘醸畑ナパヌックを紹介した立役者。
そのモンダヴィも結局は、米国第3位のコンステレーション・ブランズに、2004年に吸収されました。
外国ワイナリーの進出
開拓者に名を連ねるボーリュー・ヴィンヤードは、2015年にオーストラリアを本拠とする、全米第6位トレジャリー・エステートに売却されます。
1876年に、フレデリックとジェイコブのベリンジャー兄弟によって創業された、ベリンジャー・ヴィンヤーズ。この歴史が長いワイナリーも、トレジャリーに買収されます。そして、傘下のボーリュー・ヴィンヤーズなどの高級ラインのワインも集中的に醸造する拠点となりました。
モエ・エ・シャンドンは、アルゼンチンの次の海外拠点をナパヴァレーにおきました。ロス・カーネロスと、マウント・ヴィーダーにも畑を有してスパークリング・ワインを生産しています。
ポムロールの泣く子も黙るペトリュス。この経営者、クリスチャン・ムエックスは、カリフォルニア大学デイヴィス校に留学してワイン造りを学んだ経歴の持ち主で、ナパを愛したのは有名な話。一時期、ボーリュー・ヴィンヤードで働いたこともあります。銘醸畑ナパヌックのブドウを使う、ドミナス・エステートを開設します。
他にもナパヴァレー北東部ダラーハイドに畑を有するセント・ヘレナのサン・スペリーが、シャネルに買収されました。シャネルにとっては、マルゴーのローザン・セグラ、サン・テミリオンのシャトー・カノンに続く買収です。
ワイナリーだけでなく、一般企業もナパヴァレーには食指を伸ばしています。韓国企業の「新世界」は、2022年にシェーファーを2億5千万ドルで買収しました。シェーファーは、出版業から転身したジョン・シェーファーが、今のスタッグス・リープ・ディストリクトに起こしたワイナリーです。長男のダグ・シェーファーが引き継ぎ、韓国企業への売却後も今のところ、ワイナリーの運営を続けています。
ワイナリーの市場評価
年間百万ケース超の大手が支配を強める一方で、多くが1万ケース以下の中小規模事業者と言われるナパ。買収により規模の経済が働くことは良い点もある一方、土地価格の上昇が所有の集中化を招いています。その一方、年間生産量が1,000ケース以下のカルトワインがここまで集中しているのも、今のナパヴァレーならではでしょう。
大手というものの、資本主義国家アメリカでは決して安泰ではありません。モンダヴィは、株式上場も果たしましたが、コンステレーションに2004年に買収され、上場廃止。
ワイン造りの大きな部分は農業。その年のブドウの出来に経営が左右されます。そして、初期投資やその後の設備投資など、投資回収よりも前にキャッシュが先に出ていきます。ですから、市場での資金調達や適正な株価評価を得る事は難しい所です。
2024年に、ダックホーンも株価低迷が続いた後、ファンドに買収され非上場になりました。
2021年の8月にピークを迎えたアメリカのワイン出荷量は、2023年年末には、17%減少。ナパヴァレーでも厳しい状況は例外ではないのです。
4. 畑と醸造所の緊張関係
ワイナリーと栽培事業者の構造
ワイナリーが、原料ブドウの大きな部分を外部調達に頼っているのは、ナパの特徴と言えます。特定の栽培業者との長期契約も、市場でのブドウ売買も存在しています。
一昔前までは、畑の面積では無くて、収穫重量当たりの代金支払いが当たり前の商慣習でした。そして、90年代、ワイナリーから栽培家たちはフルーツ爆弾の様なワインを造る為、過熟なブドウを要求されるようになります。その為には、ブドウの収穫を遅くまで待たなければなりません。ブドウの水分が蒸発して、ブドウの重量は減りますから、栽培者側には不利になります。収穫時に、雨にたたられれば病害リスクも高まります。
こうした文化を変えたのが、ト・カロンに畑を保有する栽培事業者のベクストファー。クロ・デュ・ヴァルや、スタッグス・リープと言った有名ワイナリーにブドウを販売していましたが、トン当たりのブドウの取引価格を、ワインのボトル価格の100倍にすべきだと主張しました。
この様に、栽培事業者とワイナリーは利益が一致しませんから、利害調整が必要となります。ワイナリー側で栽培事業者との連携マネージャーを決めて、共同テイスティング会を開催して、年間の栽培上のポイントを振り返るなど、協力し合うシステムを築いています。
また、ワイナリーによっては剪定や摘房の指示まで具体的にできる人材を置いている所も。毎年のワインスタイルや品質に一貫性をもたせる為、栽培事業者との長い付き合いが大切と考えるワイナリーが有る一方、言う事を聞かないなら関係を切るという厳しい考え方を持つ企業も存在します。
長期的なトレンドを見ると90年代から、ブドウ価格は上昇が続いています。2019年、2020年とナパのブドウ価格は下落しましたが、2021年、2022年にまた復調。
ところが、2024年秋にはとうとう大幅な値引きをしないと売れないという事態に陥ってしまった模様です。余りに値上がりしたナパのカベルネ・ソーヴィニョンの価格が、果たして持続可能なのだろうかという懸念が頭をもたげています。
ブドウ畑の取引価格も、上昇が続き、ナパヴァレーでは、ヘクタール当たり百万ドルを超える畑の取引が目に留まるようになりました。ブルゴーニュやボルドーまでは行かないにせよ、こんなに高額な価格では、新しくワイン造りに参入するのが難しくなります。畑も醸造設備も持たず、買いブドウをカスタム・クラッシュで仕込むワイナリーが益々増えていくかも知れません。
ト・カロンの畑
ト・カロンは、ハミルトン・クラブがオークヴィルで1868年に購入した銘醸畑。クラブは、当初はゴールド・ラッシュで一攫千金を夢見たと言われていますが、いざ栽培を始めるや、様々なブドウ品種や台木を試行して、栽培の第一人者としてナパヴァレーを牽引。カベルネ・ソーヴィニョンがナパヴァレーに最も適した品種と確信して、カリフォルニアワインの評価を高めるべく努力しました。
ト・カロンは、ギリシャ語で、最も美しいという意味です。その後もハミルトン・クラブが畑を追加で購入して拡大して行きます。クラブが、1868年に購入した区画、1881年に購入した区画、1891年に購入した区画と、歴史的な経緯が分かる区画名が今でも見られます。
その後、幾多の変遷を経て、1940年代には、マーチン・ステアリングが大規模な買収を始め、拡張も行います。また、伝説のワインメーカー、アンドレ・チェリチェフが牽引していたボーリュー・ヴィンヤードも買収に参画。カルト的な人気を得たプライヴェート・リザーヴの中心的な原料ブドウとなります。その後、畑は、ベクストファーに売却されます。ベクストファーは、自社でワインを造るのでは無く、ブドウをワイナリーに販売しますが、カルトワイン用ブドウの生産拠点と言った趣です。
モンダヴィは、1960年に、ワイナリー建設の為、一部を購入し、その後、一部区画をオーパス・ワンも譲り受けました。
このト・カロンと言う名前はブランド・商標なのか、それとも地理的な呼称なのかという論点が根本に有り、2002年には、モンダヴィ、ベクストファー、シュレーダー・セラーズを巻き込んだ、訴訟合戦にも発展しました。
最近の動きでは、ト・カロン・ヴィンヤード・カンパニーという分かりやすい名前のワイナリーが、2019年に設立されます。ト・カロン・ヴィンヤードのブランド名を使えるモンダヴィを傘下に納めたコンステレーション・ブランズがト・カロン・ヴィンヤード・カンパニーを設立して、ハイエスト・ビューティー等の高級ワインをリリースします。
しかし、なぜ、ここまでト・カロンが名声を博したのか?
クローンの多様性を挙げる人もいます。カベルネ・ソーヴィニョンでは、4,6,7等と様々な種類が使われて、摘房も贅沢に行って、ブドウの熟度を高めている栽培事業者が多い様です。ただ、問題は、畑の立地に如何なる特殊性が有るのかです。
水はけが良い深い土壌で、肥沃度が中程度の沖積扇状地の土壌であること。そして、ヨーントヴィルの丘が午後の日照を和らげる。さらに、サンパブロ湾の海風が冷涼な影響を与えて、酸と味わいを保つのだと分析する専門家もいます。
ト・カロンだけでなく、こうした伝説的な畑は他にもあります。ハイツ・セラーのカルトワインに、1960年代からブドウを供給するオークヴィルの小さな畑。その設立者の奥方の名前を取ったマーサズ・ヴィンヤード。1999年に米国のワイン誌『ワインスペクテーター』が発表した、20世紀のトップ12本に選ばれたワインを造った畑です。マヤカマス山脈に隠れて、西日から守られる一方で、朝日と午後の日差しを受けてブドウが良く成熟するとされています。
ブレンドと単一畑
こうした素晴らしい畑の名声がとどろくに連れて、ワイン造りをするワインメーカーは畑の立地、テロワールへのこだわりを強めています。
ケイマス・スペシャルセレクションは、山の畑と谷間の畑のブレンドです。素晴らしい年のブドウからだけ造られたワイン。ブドウ品種だけで無くて、同一品種でも、区画の異なったブドウをブレンドする事で、複雑味を得ています。ワイン雑誌『ワインスペクテーター』でも複数回、ワイン・オブ・ザ・イヤーを受賞している稀なワインです。しかも価格は約2.5万円税込(日本市場での実勢価格)と抑えられています。
他方、単一畑への関心の高まりを垣間見ることができるものには、例えば1997年のハーラン・エステートのボンド・プロジェクトが挙げられます。AVA内の様々な契約畑のブドウをブレンドせずに、夫々個別に使ったキュヴェをリリースしたのです。
機械収穫か手収穫
ナパヴァレーでは、手摘みが多く、機械収穫は2割強と言われています。でも、最近では、労働力不足への対策という点で、機械収穫が不可欠になりつつあります。
現状を大雑把に言えば、大手のワイナリーで谷間の産地は、機械収穫をして、効率性を高める傾向が有ります。一方、家族経営の小規模なワイナリーや山間の畑では伝統的な手摘みで収穫。しかし、労働人員を集めるのが難しくなってきたと、中小のワイナリーは危機感を強めています。
収穫したい時、すべき時に収穫できるのが機械収穫の良い所。ブドウの成熟が最高の状態に差し掛かり、さぁ収穫だというタイミング。そこで、急な雨が降っても、手収穫では、すぐに作業員を集める事ができません。雨で折角のブドウの凝縮度も落ちて、病害リスクも高まります。
他方、機械収穫では、かび病に汚染された、しなびたブドウが、ブドウ樹に取り残され、総じて品質の良い果実が収穫できるという生産者もいます。
機械だから駄目、手収穫だから良いとは必ずしも言い切れません。
AVAのルール
さて、こうして様々な畑から収穫された、ブドウを使ったワインは、ラベルではどう表現されるのでしょうか?
1981年にナパヴァレーはカリフォルニアで初のAVAを認定されました。
広域ナパAVAの殆どの部分が、サブAVAに分かれています。AVAは地理的な区分をするもの。ヨーロッパのアペラシオンの様に、ブドウ品種や品質などは規定せず自由なワイン造りができます。
これまで、16のAVAが存在しましたが、2024年に新しく17番目のAVAが認可されました。セント・ヘレナAVAと、カリストガAVAに隣接したクリスタル・スプリングAVAです。2011年に認可されたクームズヴィルAVAに続く最新のAVA。AVAの名前を使う場合は、85%はAVA内でのブドウを使う義務があります。
また、カベルネ・ソーヴィニョンとラベル表示してあるワインは、ルール上は、75%以上のカベルネ・ソーヴィニョンが使用されていれば大丈夫。ですから実際は、ボルドーのワインと同様に、メルロや、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドがブレンドされているワインも多いのです。
⇒【後編】につづく