ブドウをそのままワインにしたような華やかな香りとジューシーな飲み心地のナイアガラワイン。アメリカ原産のブドウ品種ですが、昔から日本でも食用やワイン用として栽培されてきました。最近は甘口だけでなく辛口白やスパークリング、ペットナット、はたまたオレンジワインなど多様なスタイルも生まれつつあるナイアガラワイン。今回はそんなニッチな魅力を持つナイアガラについて学んでいきましょう。
【目次】
1. アメリカ生まれの食用ブドウ、ナイアガラとは?
2. フォクシー・フレーバーはキツネの香り? ナイアガラのワインの香りや味わいの特徴
3. 日本におけるナイアガラと主な生産地
4. ナイアガラのワインの楽しみ方とおすすめマリアージュ
5. まとめ
1. アメリカ生まれの食用ブドウ、ナイアガラとは?
ナイアガラは、その名の通りナイアガラの滝で有名なニューヨーク州・ナイアガラ原産のブドウ品種。ワイン用のみに使われるヨーロッパ系品種(ヴィティス・ヴィ二フェラ)とは異なり、食用にもできるヴィティス・ラブルスカ系の交配品種です。1868年に「コンコード」と「キャサディ」の交雑によって生まれました。
多産性と耐寒性に秀でているため、原産地のアメリカ・ニューヨーク州やカナダでよく栽培されています。甘い香りを持ち、生食用ブドウやジュース、ジャムなど加工品になることが多いですが、ワインの原料にもなります。実際、1970年代までカナダワインのほとんどは甘口酒精強化ワインであり、その原料はコンコードやナイアガラでした。1980年代以降になると、それ以外の寒さに強い交雑品種(ヴィダル・ブラン等)、そしてヴィ二フェラ品種へとシフトしていきました。
寒さの厳しいアメリカ東海岸でも、ヴィ二フェラが普及する1950年代までは、自生するヴィティス・ラブルスカ品種からワインを造っていました。ただしアメリカ原産品種にある「フォクシー・フレーバー」とも呼ばれる独特の香味は、ヴィ二フェラに慣れた欧米人に好まれず、交雑品種やヨーロッパ系品種栽培への取り組みが進みました。試行錯誤のうえヴィ二フェラの栽培に成功した今では、ナイアガラのワインは地元消費用の安価な中甘口ワインの原料になることが多く、海外市場ではほとんど見かけません。
後述するように、実は日本でもナイアガラは多く栽培されています。歴史も意外と古く、1893年(明治26年)に川上 善兵衛氏によって導入されました。日本のアメリカ系品種としては、ナイアガラのほかにデラウェアやコンコード、キャンベル・アーリ―、アジロンダック等が有名です。
2. フォクシー・フレーバーはキツネの香り? ナイアガラのワインの香りや味わいの特徴
ナイアガラのワインの特徴は、なんといってもその華やかな香り。グレープジュースをそのままワインにしたような瑞々しい香りを放ちます。この甘い独特の香りは、フォクシー・フレーバー(狐臭)と呼ばれ、忌み嫌われることも…。キツネの香り?と思いきやそうではなく、実は語源ははっきりしていません。
有力な説としては、アメリカではラブルスカ系ブドウのことを「fox grape」と呼んでいたため、その香りをfoxy flavorと呼ぶようになった説。ほかにも、フォックスさんというブドウ研究家が指摘した香りだから、という説。フォクシー・フレーバーの原因となる化合物が、キツネの麝香(ムスク)の香りと共通するから、など諸説あります。
味わいとしてはライトでフレッシュな甘口や中甘口スタイルが主流ですが、最近は、辛口白ワインやスパークリングにして、その甘い香りとのバランスをとる造り手が増えています。そのほか、果皮と浸漬させてオレンジワインなど新しいスタイルに挑戦する造り手も。いずれにせよ、ワインとしてはジューシーで飲みやすいスタイルのため、ワイン初心者にもおすすめです。
3. 日本におけるナイアガラと主な生産地
実はナイアガラは日本ではよくワインに用いられる品種です。同じくフォクシー・フレーバーのあるマスカット・ベーリーAを固有品種に持つ日本では、独特の甘い香りに対する嫌悪感が、欧米人よりも少ないからかもしれません。
日本でワインの原料としても使われるナイアガラの数量は、甲州、マスカット・ベーリーAに次いで3番目。白ブドウでは甲州に次ぎナイアガラが2位という多さ!内訳は多い順に北海道、長野、山形といった寒冷地で主に栽培されています。いま日本では欧州系品種などの注目が高まっていますが、数値だけを見るとやはり食用ブドウが多いというのも面白いですよね。(※2022年統計)では、特にナイアガラが有名な産地、北海道と長野について詳しくみていきましょう。
北海道
北海道では、なんとワインに使われる品種のトップがナイアガラで、28.1%もの割合を占めています!温暖化などが進み、ヨーロッパ系の栽培も増えているとはいえ、寒冷な北海道では、昔から寒さに強いラブルスカ品種や交配品種が多く栽培されてきました。特に北海道のワイン用ブドウ栽培地の中心、後志地方の余市町ではナイアガラの栽培がさかん。野生酵母で造られた微発泡酒ペットナットのナイアガラなど、新感覚のワインも造られています。北海道ワイン「おたるワイン」でも、ナイアガラのフルーティーなやや甘口ワインは、人気ナンバー1のロングセラー商品となっています。
北海道ワインについてはこちらもご参照ください。
長野
長野でもワインに使われる白ブドウでのトップはナイアガラ。白赤合わせてもコンコード、メルロに次ぎ3位(9.1%)の受け入れ数量を誇っています。アメリカ系品種がそれぞれ赤白の1位という数字からは、日本ワインの歴史を見ることができます。
昼夜の寒暖差が大きく、降雨量も日本全国のなかでは比較的少ないことから、現在、長野はメルロやシャルドネなど欧州系品種に向く産地として地位を固めています。ですが、欧州系品種が植えられる前は、長野・特に塩尻の主要品種といえばコンコードとナイアガラでした。なぜなら、食用だけでなく、甘味ブドウ酒の原料として使われていたから。日本では本格的な辛口ワインが主流になるのは1975年以降で、それまでは甘口で飲みやすい甘味果実酒が多く消費されていたのです。
嗜好の変化とともに甘味果実酒の需要が減り、それまでナイアガラ、コンコードを栽培していた何百軒という果樹農家は原料過多で困ってしまいます。そんな折、塩尻・桔梗が原を救うために動いたのが、当時メルシャンの工場長だった故・麻井宇介氏。約六千本ものメルロの苗木を傘下の農家に配り、産地一丸となって塩尻・桔梗が原をメルロの適地として再生させました。
欧州系品種への改植が進んだとはいえ、ナイアガラやコンコードは塩尻を支えてきた品種。今でもナイアガラワインは地元の人々に愛飲されています。ただし、農家の高齢化やシャインマスカットなど高く売れるブドウへの切替が進んでいるため、栽培量は年々減少しているようです。
また、ワインに使われるナイアガラの量が3番目に多い山形県では、近年ワイン用を想定し種ありでの栽培ケースが増加しており、スパークリングワインが急増しています。
4. ナイアガラのワインの楽しみ方とおすすめマリアージュ
ナイアガラにはブドウをそのまま食べたような甘い香りがあるため、ワイン初心者や飲みなれていない人にもおすすめ。女子会にもぴったりのワインです。価格がリーズナブルなものがほとんどのため、大勢が集まる気軽な飲み会にももってこいです。
甘口や中甘口ワインのナイアガラは、単体でいただいてもおいしいですが、デザートにもよく合います。特に、フレッシュな香りとライトな味わいが特徴のため、フルーツを使ったタルトやフルーツ大福などの和菓子、スフレケーキなど軽やかなデザートと合わせるのがおすすめです。
辛口白ワインやスパークリングは、食中酒としても楽しむことができます。塩尻発祥の名物料理、鶏もも肉を揚げ焼きにした山賊焼き、蕎麦やおやきなど地元の料理ともよく合います。また、最近見かけるようになったペットナットのワインは、無濾過で旨味が強いため、出汁の効いた和食やチーズなど、旨味の強い食事と合わせるとマリアージュの妙が楽しめるでしょう。
5. まとめ
ここまで読んだあなたは、ナイアガラのワインについて相当詳しくなったはず。なかなか普段注目することの少ないかもしれませんが、ナイアガラからここまで多様なスタイルを生産している国も珍しく、日本食とのマリアージュなどは、日本人ならではの楽しみ方といえます。比較的リーズナブルで手に入りやすいので、ぜひ試してみて下さいね。