パロミノ(Palomino)またはパロミノ・フィノ(Palomino Fino)は、スペイン南西部、アンダルシア地方を原産地とする白ブドウ品種です。この品種は、辛口シェリーとほぼ同義に語られる存在で、シェリー生産地域にあるブドウ畑の、およそ95%を占める圧倒的な主要品種となっています。それはこのブドウの栽培特性が、シェリーという風変わりで個性的なワインに過不足なくフィットした結果でしょう。
しかしながら、近年になって、パロミノに対する認識は変化しつつあります。辛口のテーブルワイン(非・酒精強化、非・発泡ワイン)として、テロワールを表現する潜在性が注目されており、特に古木から造られるワインは、その土地固有の特徴を示すと評価されています。
【目次】
1. パロミノはどんなワイン?
● タイプと別名
● 風味の特徴
● スタイルの多様性
2. パロミノの栽培特性
3. パロミノの歴史
4. パロミノの主要産地
● スペイン
● ポルトガル
● 新世界諸国
5. パロミノのサービス方法とフードペアリング
● サービス方法
● フードペアリング
6. まとめにかえて
1. パロミノはどんなワイン?

タイプと別名
パロミノには、主にスペイン国内で認識されている、いくつかの変種が存在します。最も重要で広く栽培されているのがパロミノ・フィノ (Palomino Fino) であり、シェリー生産に利用され、通常パロミノとだけ言った場合、想定されているのはこのサブタイプです。その他に、パロミノ・バスト (Palomino Basto) や、パロミノ・デ・ヘレス (Palomino de Jerez) といった名前も挙げられますが、これらはパロミノ・フィノの祖先もしくは親戚関係にある変種で、収量が低くなりがちなため、今日では廃れてしまいました。さらに、近年の研究では、パロミノ・ペルソン (Palomino Pelusón) のような体細胞変異体も確認されており、これらはパロミノ・フィノと同一の遺伝子型を持つものの、毛状突起の多さなど、形態学的に異なる特徴を示すと報告されています。
果皮の色は「白」(黄緑色)のみですが、果皮の厚さについては、文献によって記述が異なる点に注意が必要です。薄い、中程度、厚いとバラツキがあり、この矛盾は、前述の変種や体細胞変異体の存在、あるいは栽培環境による違いが原因だと思われます。なお、パロミナ・ネグラ(Palomina Negra)という黒ブドウ(スペインでは一般にリスタン・プリエト、チリでパイス、北米でミッションと呼ばれる)がありますが、パロミノと遺伝的に近い関係ではありません。
パロミノは、栽培される地域によって様々な別名で呼ばれています。最も広く知られているのは、スペイン領カナリア諸島で用いられるリスタン (Listán) またはリスタン・ブランコ (Listán Blanco) です(フランスでの呼び名もリスタン)。パロミノまたはリスタンは、カナリア諸島で重要度の高い白ブドウ品種として栽培されており、スペイン本土とは異なる特徴を持つワインが生み出されています。ポルトガルでは、マルヴァジア・レイ(Malvasia Rei)がその通り名です。同国領のマデイラ諸島では、リストラオン (Listrão) と、呼ばれもします。南アフリカでは、フランスドルイフ (Fransdruif) またはホワイト・フレンチ (White French) という名で、フランス由来のブドウと認識されていました(フランスドルイフは、英語の「フレンチ」を、現地の公用語アフリカーンスで言い換えた言葉)。
シェリーの地域内では、サンルカール・デ・バラメダ地域で、マンサニージャ・デ・サンルカール (Manzanilla de Sanlúcar) とパロミノが呼ばれていたため、同地で生産されるシェリーのスタイル名、マンサニージャの由来ともなりました。シェリーの地域では、スペイン語の同地域名であるヘレス(Jerez)が、パロミノの別名として使われていた時期もあります。シェリー/ヘレスのエリアが属する、スペイン南部アンダルシア地方内では、テンプラニーリャ(Tempranilla)という、スペインを代表する黒品種、テンプラニーリョ(Tempranillo)とそっくりの別名があり、興味深いです。ほかにも、かなりの数の別名があって、それはパロミノが歴史的に広範囲に伝播し、各地の環境に適応してきた証左でしょう。
風味の特徴
パロミノで造られるワインの代表格は、なんといっても辛口シェリーです。最もメジャーな、淡い色をしたシェリーは、一般にフィノと呼ばれますが、上述したように、サンルカール・デ・バラメダ地域のフィノには、特別にマンサニージャの名が付けられています。これらのワインは、特殊な醸造・熟成方法に由来する風味が特徴です。製法の詳細は、こちらの記事をご覧ください。
共に、産膜酵母に由来する独特の香り(アーモンド、ハーブなど)があり、フルーティさがなく、味わいには海から来た塩味が感じられます。マンサニージャは、一般的なフィノよりも、さらに軽やかで、塩味が強いです。しっかり酸化熟成をさせたアモンティリャード、オロロソといったタイプのシェリーは、琥珀色や褐色をしていて、ナッツ香が強く感じられます。

シェリー地域のボデガ(ワイナリー)内部。熟成樽が積まれている
これら辛口シェリーのベースとなるパロミノは、これといった特徴的な風味特性を持たない、「ニュートラル」なブドウです。いわば白いキャンバス生地であり、製法の妙によって、シェリーの複雑で多彩な風味が生まれてくるのが興味深いところ。なお、酸味については弱い性質のブドウなので、しばしば酒石酸添加などの手法で、ワインになったあとの酸の強さが引上げられます。
スタイルの多様性
シェリーの様々なスタイルについては、上述のほかに別記事(シェリー酒ってどんなお酒?ワイン好きなら知っておきたい知識)をご覧いただくとして、ここでは辛口のテーブルワインについて述べましょう。近年、シェリー/ヘレスのエリアでは酒精強化を行わないパロミノが注目を集めていて、ヴィノ・デ・パスト (Vino de Pasto)と称されたり、単に畑名や地域名で呼ばれたりします(ヴィノ・デ・パストとは、英語のテーブワインと同義)。これらは、パロミノが単に「ニュートラル」なだけのブドウだという、従来の固定観念挑戦するワインです。特にアルバリサ (albariza)という、アンダルシア地方の石灰質土壌で育った古木のワインは、フレッシュさ、際立った塩味、チョークを思わせるミネラル感、豊かなテクスチャー、そしてテロワールの表現力で高く評価されています。風味としては、控えめながらリンゴ、アーモンド、柑橘類、塩味、ハーブ、時にはナッツのようなニュアンスが見られるでしょう。カナリア諸島などの別地域に植わる、あるいは古木の畑といった特殊な栽培条件下のパロミノでは、通常より強い酸味が感じられる場合があります。さらに、パロミノは、主に南アフリカで、ブランデーにも用いられます。ブランデー生産には、強い風味個性のないブドウが向きますが(コニャックやアルマニャックに用いられる、ユニ・ブラン=トレッビアーノのように)、パロミノもその条件を満たすブドウです。
2. パロミノの栽培特性
パロミノは、栽培学的に見て、いくつかの顕著な特徴を持つブドウ品種です。まず、樹勢が旺盛で、それは高い生産性に繋がるので、一般的に収量が多い品種として知られています。灌漑なしでもヘクタールあたり80ヘクトリットル、条件が良ければ150ヘクトリットルに達するときもあるそうです。ただし、これは主にシェリー生産を目的とした栽培の場合であり、高品質テーブルワインを目指すときや、古木の畑においては、低収量で凝縮した果実が生まれます。収穫時期は、早めから中程度ですが、糖度上昇はゆっくりで、シェリー用のブドウでは糖度19度程度で摘み取りがなされます(ふつうのスティルワインの場合、摘み取り時の糖度は22~26度ぐらい)。土壌への適応性に関しては、シェリー/ヘレス地域特有の石灰質土壌、アルバリサとの好相性が知られています(アルバリサに限らず、石灰質土壌全般でよく育ちます)。好ましい気候は、原産地であるアンダルシアの暑く乾燥した天気で、干ばつや強い日差しへの耐性が高いです。この耐暑性・耐乾性は、地球規模での気温上昇が進む現代において、他地域での栽培可能性が、注目される点でもあります。
カビ系の病害については、ベト病には弱く、ウドンコ病には強く、灰色カビ病にはほどほどといった具合です。花振るいなど結実不良は起きにくいブドウで、それも高収量につながっています。果房は大きめ、果粒は中程度の大きさです(房が大きいので、ワイン用以外に生食用に用いられる例もあります)。

シェリーの生産エリア、サンルカール・デ・バラメダ地区のパロミノの畑
3. パロミノの歴史
パロミノの起源は、スペイン南部のアンダルシア地方にあると考えられています。彼の地におけるブドウ栽培の歴史は古く、紀元前9世紀から8世紀頃に、フェニキア人が伝えたという説が有力です。ローマ時代には、ワイン生産がさらに発展しました。こうした太古の歴史の中で、パロミノの栽培がいつ始まったかは定かでないものの、少なくとも数百年前まで遡る可能性は高いでしょう。
品種名の語源として最も広く受け入れられているのは、13世紀のレコンキスタ(イベリア半島におけるキリスト教国による再征服運動)の時代に活躍した騎士、フェルナン・イバニェス・パロミノ (Fernán Ibáñez Palomino)に因むという説です。当時のカスティーリャ王国の王、アルフォンソ10世に仕えた騎士であったフェルナン・イバニェスは、戦功により王から土地を与えられたと伝えられています。この人物が、シェリー/ヘレス地域のブドウ栽培に関して、何らかの貢献があったため、その名が白ブドウに名付けられたのではないか、というのが当説の主張するところです。
ただし、フェルナン・イバニェスが生きた時代のパロミノ種は、まだシェリー/ヘレス地域の主力品種ではありませんでした。重要性が増し始めたのは、18世紀頃と、比較的最近になってから。飛躍を遂げたのは、19世紀後半のフィロキセラ禍のあとです。パロミノは、当時シェリー/ヘレス地域で栽培されていた他の白品種よりも、アメリカ系ブドウの台木との接ぎ木がしやすく、収量が高い点も栽培家に好かれ(この頃、シェリー酒は世界市場で大人気で、需要過多でした)、植え替え時にシェアを大きく伸ばしましました。
なお、Google検索で「Palomino」と入れて検索すると、一番上位に表示されるのは、馬の毛色についてのWikipediaの項目です。馬のパロミノは、たてがみと尾が、白、銀、アイボリーをしていて(体毛の色はさまざま)、特定の遺伝子構成を持っています。馬のパロミノも語源は諸説ありますが、ブドウのパロミノの語源とはどれも無関係です。
4. パロミノの主要産地
2016年時点の統計によると、世界全体で23,190ヘクタールのパロミノが栽培されています。新旧世界で見ると、原産地スペインを含む旧世界が圧倒的に多く、22,746ヘクタール。新世界諸国には、まだ443ヘクタールしか植わっていません。旧世界の中では、原産地アンダルシアを擁するスペインが圧倒的なトップで、20,110ヘクタール。同じイベリア半島のポルトガルが次いでいて、2,594ヘクタールあります。フランスには、スペイン国境近くにあるルーション地方にそのほとんどが植わっていますが、41ヘクタールとごくわずかです(上述したように、南アフリカでパロミノが、「フレンチ・ホワイト」と呼ばれているのを鑑みると、不思議な気がします)。
スペイン
シェリーを産する最南部のアンダルシア地方に、パロミノは最も多く植わっていますが、その面積は9175ヘクタールと、国全体の半分を下回ります。アンダルシア地方の中でも植栽が集中するのが、伝統的に最良のシェリーが生まれるとされる、「シェリー・トライアングル」の内側です。この三角形は、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ (Jerez de la Frontera)、サンルカール・デ・バラメダ (Sanlúcar de Barrameda)、そしてエル・プエルト・デ・サンタ・マリア (El Puerto de Santa María) の三つの町を結んで形成されています
アンダルシア地方に次ぐのは、カナリア諸島の5,550ヘクタールで、これは多くの人の想定を超える面積ではないでしょうか。この島々でパロミノは、リスタン・ブランコの名で知られ、非常に重要な白ブドウ品種となっています。カナリア諸島の火山性土壌と、独特の気候条件の下で育つリスタン・ブランコからは、塩味やミネラル感が際立つ、個性的な辛口テーブルワインが生み出されており、世界の先端的ワイン消費都市で、新しいモノ好きな愛好家やプロに一目置かれる存在になりました。

カナリア諸島のランサローテ島では、石垣で囲んだ穴の中でブドウを栽培する
このほか、フレッシュな白が有名な北西部のガリシア州(3,128ヘクタール)、赤の銘醸地リベラ・デル・ドゥエロがあるカルティーリャ・イ・レオン州(2,197ヘクタール)にも、かなりの面積のパロミノが植わっています。
ポルトガル
主に国の北部(中でもドウロ渓谷)と、首都があるリスボン地方に植えられていて、あまり面白みのないテーブルワインになるのがほとんどです。しかしながら、マデイラ諸島内のポルト・サント島では、酒精強化ワインに長年用いられてきた古木から、目を見張るような非・酒精強化ワインが生まれだしました。
新世界諸国
ニュー・ワールドで最も植栽の多い南アフリカ(134ヘクタール)では、オリファンツ・リヴァー地域、スワートランド地域でこの品種に取り組む造り手がいます。歴史的にはブランデーや酒精強化ワインの原料として用いられてきましたが、近頃は古木から丁寧に造られた非・酒精強化ワインが、高い評価を受けるようになりました。「スワートランド革命」の牽引役となったふたりの生産者、イーベン・サディ(ザ・サディ・ファミリー・ワインズ)と、A.A.バーデンホーストが、古木のパロミノを扱っています。
南アフリカに次ぐ面積なのは、意外にもメキシコです(109ヘクタール)。国土の北部中央にあって、アメリカ合衆国テキサス州と国境を接するコアウイラ州(Coahuila)と、北西部にあって、米国アリゾナ州およびニュー・メキシコ州と国境を接するソノラ州(Sonora)に、それぞれパロミノのブドウ畑があります。生産しているのは、辛口のテーブルワインで、古木の果実を用いた銘柄も見られます。
アメリカ合衆国には70ヘクタールの植栽があり、内陸のインランド・ヴァレーズを中心に、カリフォルニア州全土に畑が点在しています。同州南部の産地、クカモンガ・ヴァレーでは、古木のパロミノから注目に値するワインが生まれ始めました。
このほか、アルゼンチンにも104ヘクタールが植わっています。
5. パロミノのサービス方法とフードペアリング
サービス方法
シェリーを含めると、そのスタイルにかなりの差がある品種で、サービス方法も変化します。
まず、サービス温度について。シェリーの中で、軽やかかつフレッシュなフィノ、マンサニージャの各タイプについては、6~9℃までよく冷やして、クリスプ感や塩味を引き立たせるの定石です。ボリュームがあり、酸化熟成により風味が複雑化したアモンティリャード、パロ・コルタド、オロロソの各タイプについては、やや高めの温度(12~14℃)が推奨されます。甘口シェリーでは、比較的軽いペール・クリームは9~10℃で、もっと甘味が強く濃厚なミディアム、クリームの各タイプは、10~15℃がよいでしょう。非・酒精強化のパロミノについては、フレッシュな辛口ならば6~8℃、古木由来、樽熟成などの理由でより複雑かつスケールが大きいワインは、10~12℃が推奨されます。
ワイングラスについては、シェリーに特化して用いられてきた伝統的なグラス、コピータ(Copita)について、まず触れなければならないでしょう。形状は、ステム(脚)のついたチューリップ型で、いわゆる「ワイングラスの形」なのですが、容量が現代のワイングラスと比べると小さく、90~120mlほどしかありません。グラス容量が小さいのは、アルコール度数が比較的高め(15%~22%程度)であるシェリーを、少量ずつ、ゆっくりと嗜むという昔ながらの飲用スタイルに適していたからのようです。シェリーのボデガ(ワイナリー)では長らく、ブレンド担当者が樽から試飲をする際、このコピータが用いられてきた歴史もあります。

シェリー用の伝統的なグラス、コピータ(Copita)
とはいえ、現代におけるワインサービスの基準に照らした場合、コピータはシェリーに最適のグラスとは言いがたいです。理由はシンプルで、ボウル部分が小さすぎて、アロマやブーケの広がりが十分に感じ取れないから。今の時代にシェリーを味わうなら、最低でも容量200ml程度はある、白ワイン用のグラスを用いましょう。ボリュームがあり、風味が濃厚・複雑なワインほど、それがシェリーであれ、非・酒精強化ワインであれ、ボウル部分の大きいグラスが推奨されます。シェリー/ヘレスの原産地呼称委員会が運営する公式サイト、「www.sherry.wine」でも、推奨されているのはコピータではなく、通常の白ワイン用グラスです。
フードペアリング
シェリーといえば、フィノかマンサニージャを食前酒としてクイっと、というイメージが日本国内では強くあります。それはそれで素晴らしいのですが、実のところ辛口シェリーは、食中酒として幅広い料理に美しく寄り添う、大変にフード・フレンドリーなワインです。アスパラガス、アーティチョーク、刺身といった、ワインとの組み合わせが難しいとされる食材でも、シェリーがうまくフィットし、飲み手を驚かすのは珍しくありません。辛口シェリーに感じられる塩味、ナッツ風味と、「果実味が少ない」という特徴が、この多才さの秘密のようです。

ワインの難敵、アーティチョークにもシェリーは立ち向かえる
シェリーのタイプ別に、推奨される料理例を手短かに挙げていくと、フィノ&マンサニージャには、まずスペイン料理の伝統的なタパス全般。魚介類は、生でも火を通した料理でも、何でも来いと考えていただいてかまいません。その他、サラダ、ガスパチョなどの冷たいスープ、フレッシュチーズなど、ボリュームの軽い食材や料理ならば、ほぼ万能。揚げ物全般も、オススメです。
フィノとオロロソの中間的性格をもつアモンティリャードは、スティルワインで言うところのロゼのような存在で、守備範囲が大変広いという輝く才能を持っています。鶏や豚など白身肉、マグロやサバのように脂の乗った魚、スモークサーモン、キノコ類、米料理(パエリアやリゾット)、アーティチョークやアスパラガスという難敵の野菜などなど、その深い懐には何でも入りそうです。
辛口タイプのシェリーで最も濃厚なオロロソは、スティルワインで言うところの赤ワインのような存在で、風味の強い料理との相性に秀でています。牛肉や子羊肉などの赤身肉、ジビエ(鹿、猪など)、煮込み料理(シチュー、カスレ)、熟成したハードチーズ(コンテ、グリュイエールなど)、パテ、ナッツ類などが、リストの上位にくる推奨品目でしょうか。
甘口シェリー各種は、単独で食後酒として楽しんでもよし、デザートにあわせてもよし、です。濃密なミディアム、クリームの各タイプは、ブルーチーズにもよく合います。
非・酒精強化のパロミノについては、辛口白ワインのセオリー通りです。軽くフレッシュなタイプなら、前菜類全般と、生あるいはシンプルに調理した魚介類がよいでしょう(塩味の強いワインは、特にシーフードと好相性です)。凝縮感が強く、スケールが大きいタイプは、味の強いソースを使った魚介料理や、白身肉、火を通した甲殻類などが推奨されます。
6. まとめにかえて
現代のワイン愛好家の目には、シェリーの姿が、「安価で人気のない、古くさい酒精強化ワイン」と映るかもしれません。しかしながら、シェリーには長きにわたる、輝かしい黄金期がありました。大航海時代にシェリーは、スペインの重要な輸出品になり、イギリスが大の付く得意先、シェイクスピア(1564-1616)の作品群には40箇所以上、シェリーへの言及が見られます。この時代のシェリーは、黄金や香辛料に匹敵する贅沢品で、ボルドー、ブルゴーニュ、ドイツ産の高級ワインと肩を並べていました。シェリーの栄光と繁栄は1970年代末まで続き、旺盛な需要に応じて生産量・輸出量が増え、価格も庶民の手が出るところまで、徐々に下がっていきます。しかし、シェリーとて栄枯盛衰の例外にはなれませんでした。過剰生産のツケがきた1980年代以降、政情や経済環境の問題もあって、生産量・輸出量が激減し、今に至るまで価格と人気の低迷が続いています。

シェイクスピアの作品、『ヘンリーⅣ世』の主要登場人物、フォルスタッフ。酒好きで、何度となくシェリーの名を口にする
他の人気産地の高級ワインが、過去50年で猛烈な価格上昇を見せたのに対し、シェリーの価格は時が止まったように動いていません。かつての品質を取り戻した現在、シェリーは世界でもっともお買い得なワインのひとつです。近年は、単一畑の個性を追求した「テロワール・シェリー」や、古木のブドウにフォーカスした非・酒精強化のシェリーも登場し、この産地には新しい風が吹いています。その動きの中で、原料ブドウであるパロミノも、「没個性なブドウ」というレッテルが、張り直されつつあるのです。パロミノの再評価は、シェリー/ヘレスのエリアに留まりません。世界各地で気炎を上げる、「古木ハンター」の栽培醸造家たちによって、優れたパロミノのテーブルワインの創出が続いています。
パロミノやシェリーに負の先入観のある方はぜひ一度、昨今の進化を試してみてください。ふたたび黄金期が到来するさまを、目の当たりにできるかもしれません。