リースリングは、最も高貴な白ブドウとも、テロワールを最も忠実に表現するブドウともいわれています。一方では、誤解を受けているブドウとも。日本ではリースリングを積極的に楽しんでいる愛好家は相当の通か、このブドウ或いはドイツワインにこだわりを持つ方々でしょう。一般のワイン好きで、「これぞ」と思うリースリングのワインにたどり着いたことがある方は少ないのではないでしょうか。今回は、リースリングの素晴らしさと難しさを克服するヒントをご紹介したいと思います。
【目次】
1. 故郷はやっぱりドイツ
リースリングの生まれ故郷はドイツのラインガウ辺りではないかと考えられています。そして、片親は、グーエ・ブランというブドウだという事はわかっています。古くから存在する品種ですが殆ど知られていません。このブドウとはシャルドネやトカイワインのフルミントも親子関係にあります。ですから、私たちが良く知っているシャルドネとリースリングは親戚関係ということになります。
リースリングは、芽吹きが遅い割には比較的早熟ですが、ドイツのブドウ品種の中では晩熟の方で、収穫は黒ブドウのピノ・ノワールやシャルドネよりも後になります。芽吹きが遅いので遅霜には耐性が有ると言われます。
寒さにとても強いところと、収量が上がっても品質が急激に落ちることが無いのは強みです。品質を担保する収量は平均的には50~70hl/ha程度と言われますが、栽培のやさしい平地では、100hl/haを超える様な収量も見られます。
病害では花ぶるいや結実不良を起こしやすく、ベト病、うどん粉病にかかることもあります。房がコンパクトなので、灰色カビ病にも、掛かりやすいですが、上手く管理する事で、貴腐菌として甘口ワイン造りで活躍します。
ドイツの冷涼な地域での栽培の印象があるリースリングですが、実は生育期間の平均気温は13℃から17℃迄の幅があります。冷涼な気候から温和な気候まで意外と幅広い気候帯で栽培されているのです。
アメリンとウィンクラーの気候区分ではドイツのモーゼルやラインガウは気候区分ではRegion-I、フランスのアルザスはRegion-II、オーストラリアのクレア・ヴァレーはRegion-IIIにわかれます。冷涼ですが、急斜面で豊富な太陽光の恩恵を受けるモーゼルやラインガウ、夏の日中はとても暑いけれど、夜には気温が大幅に下がって、非常に大きな日較差があるクレア・ヴァレーと夫々の産地には特徴があり、気候区分だけでは語れないところもあります。
2. 甘くて酸っぱい?!
ドイツやアルザスのリースリングを辛口といわれて飲んだのだけれど、想像していたよりも甘くて上手く食事に合わなかったといったご経験をお持ちの方はいないでしょうか?これがリースリングに馴染めない理由のひとつになることもあります。
また、ドイツでは伝統的な甘口のスタイルは減少して、辛口が半分を占める様になってきています。それでも、日本や、イギリス、アメリカでもまだまだ、ドイツのリースリングのワインと言えば甘いという印象が残っています。
EUの規則では通常、辛口の場合は残糖4g/L迄ですが、9g/L迄の残糖ならば、糖度より2度低い総酸度、つまり7g/Lの総酸度があれば辛口に分類されます。
残糖4g/Lでも総酸度が低めのブドウ品種ならば、甘く感じます。でも、リースリングは、もともと非常に酸が強くてマロラクティック発酵をする事も稀なので、8g/L~11g/L程度の酸があるのも普通。ですから9g/Lの残糖があっても辛口に分類されるのです。
高い酸と適度な甘さが心地良いバランスを醸し出すわけですし、それでシャルドネを軽く超える抜群の長期熟成のポテンシャルを生むのです。一方で、甘さに敏感な方にとっては、期待と違った結果になってしまうことがあるのも事実です。
一般的な見分け方としては、辛口(トロッケン、ドライ)であることを確認した上で、アルコール度数が10%くらいまでのものは、中甘口からオフ・ドライ、11~12%くらいならオフ・ドライから辛口、12~13%以上なら辛口と思って選ぶのがひとつの目安です。
3. 香りのひみつ
食事をするときに乾杯のスパークリングから最後のデザートワインまでペアリングできるほど、リースリングのワインのスタイルには幅があります。
アロマティックでありながら、樽香バリバリのシャルドネのように繊細な食事の邪魔をすることもありません。果実香の表現としてよく用いられるの は、白い花、柑橘類、青リンゴですが、完熟したブドウから造られた力強いワインには、アンズやパイナップルの香りも見られます。味わいの特徴は、シャープで強い酸と凝縮したミネラル風味で、全体に優美で繊細な印象を受けます。
こうした香りの成分は果物や花の香りのモノテルペンとβダマセノンという物質に由来しています。
モノ テルペンは、ブドウの中に存在していますが醸造の過程を通して香りを解き放ちます。マスカットやゲブルツトラミネールに多く含まれる香りの物質です。
βダマセノンは、ブドウの成熟期の終わりの方で蓄積が多いと言われます。
ドイツでは夏の終わりから秋に掛けたやさしく長い日照時間で、代謝もゆっくりしながら糖を蓄積して酸も落ちることなく、香りに恵まれたワインが造られるのです。
この品種でよく言われるのは、ぺトロール香です。化学成分は略してTDNといわれることが多いですが、トリメチルジヒドロナフタレンという物質です。モノテルペンやβダマセノンの香りが熟成と共に薄れていくのとは逆に香りを強く感じる様になります。
このTDNの元々の成分(先駆体)はブドウの果皮に存在していて、温暖な気候や強い日照により増加します。
ですから、ドイツやアルザスのリースリングでは、熟成に伴って穏やかにペトロール香を感じるようになりますが、オーストラリアのイーデン・ヴァレーやクレア・ヴァレーではブドウの生育環境の影響によって早い内からこの特徴香を感じる様になります。
4. テロワールを映す鏡
リースリングはテロワールを映すブドウだと言われます。醸造や熟成で造り手が余分な干渉をしないで、産地特有のブドウ本来の風合いをそのままのワイン造りをすることが多い事もありますし、またTDNに由来するペトロール香の現れ方も地域特性のひとつといえます。
エレガントで酸が高く柑橘系のモーゼル、豊満でトロピカルフルーツまで感じるラインガウ、凝縮した果実感のイーデン・ヴァレー。もっともよく知られた土壌はドイツの粘板岩です。アルザスでは石灰岩土壌が重量感を出しているとも言われます。
ワインと土壌との関係では第一人者のアレックス・マルトマンは、ドイツでは粘板岩土壌の畑の方が石灰岩土壌の畑で育ったリースリングよりも一般的にpHも低くて高い酸に恵まれていると述べています。またTDNも土壌の岩盤が粘板岩の所のワインでは多く見つかるとも言っています。
成熟期間がゆっくりしているため収穫は狙った熟度や味わいや酸度で選択的に行えます。その結果、味わいの多様性や辛口から甘口のデザートワイン、貴腐ワインやアイスワインが造れるのです。他方、温暖な地域で早熟で収穫されてしまうと、香りや酸に乏しい、つまらないワインになってしまいます。
仕立ては、ギュヨなどの垣根仕立てで栽培されるの が一般的ですが、急斜面に畑が拓かれているモーゼルでは、作業者の利便性や安全性の面からワイヤーを使わない長梢をハート型に曲げた棒仕立てが用いられます 。他にも、短梢剪定が使われる場合もあります。
クローンは、ドイツで60種以上ほどのクローンがありますが、あまり大きな個体差は無いといわれています。60~70年代のドイツのクローンは収量中心で、90年代からは低収量が意識されます。
初期のクローンの研究はバイエルン州、ファルツのノイシュタットで行なわれます。20世紀初頭のフィロキセラの被害で、耐性のある台木に接ぎ木するクローンで最も評価されたのはN90です。このクローンは機械化にも向いていることがわかりました。カリフォルニアのFPSでも認定されて、FPS12と名付けられています。
ガイゼンハイム大学で1921年に始まったプログラムでは、収量や糖度、酸度や香りの強さなどを元に、110Gm、198Gm、24Gm、64Gm、94Gmなどのクローンが選ばれます。
アルザスでは、CTPS49が1950年代からのプログラムで開発されて、暫くはずっと使われていました。
醸造では、トレードマークである酸が落ちないようにスキンコンタクトには慎重です。しかし、一部の生産者は、酸は高いが成熟度が余り高くないという場合に、発酵前にスキンコンタクトを用いて、果皮からアロマを抽出しています。マロラクティック発酵を避ける為に、亜硫酸を添加する生産者が多数派です。ドイツやアルザスでは過去、伝統的には大樽を使用していました。近年ではフレッシュさ、クリーンさを念頭にステンレンスタンクを使う醸造が主流です。
華やかな花や果実の香りが持ち味ですから、樽も樽香が付く様な新樽はこの品種には合いません。旧樽を使って、穏やかな酸化的な熟成をして複雑性を付ける場合もありますが、品種香と引き換えです。
また、リープフラウミルヒと呼ばれる軽い甘口ワインやバルクワインを除けばブレンドも稀です。
古くはエルブリン、サヴァニャン、シルヴァーナとのブレンドが行われて来たようですが、やはりブレンドすることで補完されるというよりも失うものの方が多いです。
オフ・ドライや甘口のワインは、発酵が冬場の低い気温で自然に止まったり、冷却に依って意図的に止めたり、ズースレゼルヴを加えるといった手法が取られます。
酒石酸の分離除去や無菌濾過など清澄や安定化処理はしっかりとします。酵母や不純物を排除して、再発酵や納品先の保管状態による酒石酸の結晶化を防ぎます。
5. 糖度よりもテロワール
ドイツとオーストリアでは収穫時のブドウの果汁糖度で等級が決まります。20世紀初頭にはとても寒い天候に襲われる事も多くて、ブドウが完熟する事が簡単ではありませんでしたから熟度がなにより大切でした。
こうした中で1971年のドイツのワイン法で定められたクヴァリテーツワインとプレディカーツヴァインが糖度に注目して必ずしも品質を保証するものでは無かったことが、ドイツワインの判り難さ、ひいてはリースリングの難しさのひとつであったのかもしれません。
ドイツワインの原産地呼称にはクヴァリテーツヴァインと、その上位としてプレディカーツヴァインがありますが、補糖が許されない高品質ワインのプレディカーツヴァインの方には更に果汁糖度によって6種類の分類があります。
その中で、最も果汁糖度の高いのはトロッケンベーレンアウスレーゼで、以下、果汁糖度の順番にベーレンアウスレーゼ、アウスレーゼ、シュペートレーゼ、カビネットとなります。アイスヴァインは凍結したブドウを使いますが果汁糖度ではベーレンアウスレーゼと同程度です。
まとめるとプレディカーツヴァインに分類されている高級ワインはおおむね、貴腐ブドウや過熟、完熟ブドウが使われた甘口や、辛口といっても日本市場で見かけるものは、残糖が高めのワインが大半となっています。
こうした糖度中心の分類ではなくてワインの品質に注目した格付けに注目が集まります。
1910年にできたVDPドイツ高級ワイン生産者協会はドイツ全国で200程度の生産者の民間団体に過ぎませんでしたが、指定した畑で造られるワインで、厳しい条件を満たした辛口ワインをグローセス・ゲヴェックスと名付けて、「GG」というマークを付ける事としました。
小規模の生産者の集まりのVDPが辛口ワインを対象に発表した格付けが定着してきたのです。2012年からは、ブルゴーニュの方式に類似した広域地方名ワインのグーツワイン、村名ワインに相当するオルツワイン 、1級エアステ・ラーゲ、そして特級グローセラーゲと言う4段階の階級を定めました。
このVDPの階級が取り入れられた形で2021年1月に1971年のドイツワイン法が改正されました。2026年のヴィンテージから適用になる予定です。
2002年から、オーストリアでも糖度に基づく分類に加えて産地の個性を重んじた原産地呼称による区分、DACが導入されました。
6. 黄金時代と受難の日々
最も昔にリースリングがドイツで資料に登場するのは1435年です。16世紀頃には高品質なワインとしてドイツやアルザスでも知られるようになります。
19世紀から20世紀前半には、ドイツリースリングはボルドーやブルゴーニュと並んで、世界でもっとも高いワインのひとつとなりました。
この知名度からアメリカでは19世紀にはリースリングとは関係のないブドウ品種や交配品種さえもリースリングの名前で流通して混乱を招くまでになりました。
第一次大戦後にドイツの白ワインは甘くなり1960年代から1970年代にかけてドイツのワインスタイルが世界的に広がりました。至る所で、軽くて甘口のワインが造られました。ワイン造りのテキストでも発酵を途中で止める事で残糖と高い酸で味わいのバランスを取ることが説かれていました。世界的にリースリングと言えば、甘いワインだとの認識が広まるのです。
リープフラウミルヒというワインをご存知でしょうか?もともとは、ドイツ・ラインヘッセンのヴォルムスの聖母教会の前の畑で、19世紀後半に遡れば、高級ワインだったのです。この中世に遡る歴史ある20ヘクタールにも満たない本来の区画のワインは、この名声にあやかって広範囲で造られるワインにその名声をかき消されてしまいました。
大半がミュラー・トゥルガウからできて残糖のあるワインとして1980年代にピークを迎えて、そして凋落しました。甘くて安い低品質で個性のないワインが世界中に広まった事でドイツワインの評価にも悪影響となりました。また、1985年のオーストリア産ワインのジエチレングリコール混入事件のあおりを受けたドイツの甘口リースリングの需要にも悪影響を及ぼしました。
消費大国アメリカでもそれまでの甘口酒精強化ワインの消費が辛口テーブルワインへの需要へと動きが更に加速していきます。
こうして80年代から辛口やオフ・ドライに潮目が変わり、2000年まで勢いが止まる事はありませんでした。甘口から辛口やオフ・ドライへ市場の中心が移行したのです。軽くて甘いワインは1990年代に急激に減少します。また、90年代初頭のポリフェノールの健康への好影響を伝えるフレンチ・パラドックスの大々的な報道。続いて起こる空前の赤ワインブームの到来も白ワインから赤ワインへの嗜好の変化という形で拍車を掛けます。
7. おさえておこう~最重要産地と生産者
冷涼な大陸性気候のドイツには24000ヘクタールほど、全世界の約4割を占めるリースリングが栽培されています。2017年OIVのデータでは、ドイツの栽培面積の25%ほどを占めています。
モーゼルは栽培の北限にあり、モーゼルの気候は、ラインガウと比べても気温が低く降雨量も多いので、十分な日照が必要です。
ルクセンブルグとの国境沿いを流れ、蛇行するモーゼル川沿いの急斜面で太陽のめぐみを一身に受けるブドウ畑が世界的に有名です。
モーゼル中部地区は最大規模での夫々の村には素晴らしい畑の大半が集中しています。
ドクター・ローゼンはモーゼル中流のベルンカステル村に 居を構える高名なワイナリーで、200 年 以上家族経営が続いています。現当主エルンスト・ローゼンはドイツで最も知名度の高い醸造家です。1999 年からは アメリカ・ワシントン州の大手ワイナリー、 シャトー・サン・ミッシェルとの合弁で、「エロイカ」という名のワシントン産リースリ ングも生産しており高い評価を 受けています。
今日では台木を使った栽培がされていますが、粘板岩の土壌のお蔭でフィロキセラの被害が限定的で自根の古木も見つかります。モーゼル川下流のヴィンニンゲン村の銘醸畑ウーレンが良い例です。同じく下流のブレーマー・カルムントは斜度60度を優に超える、急斜面の畑です。世界で最も急こう配のぶどう畑とされています。
モーゼル川の上流のザールは、ドイツでも最も繊細でエレガントなワインを生むといわれています。この地にはエゴン・ミュラーが最大の所有者であるシャルツホーフバーグがあります。そのワインはリースリングの究極とし て、最高の評価を受け続けています。
インターネットのワインのサーチエンジンでは世界的に有名なワインサーチャーの世界高額ワイン・ランキングでエゴン・ミュラーのシャルツホーフベルガー・トロッケンベーレンアウスレーゼが最近では2017年、2019年、2020年に白ワイン世界第1位に輝いています。
ラインガウはライン川北岸にあり川に向かって200~300メーターの南向き斜面が有名です。8割方はリースリングが栽培されています。モーゼルよりもふくよかで重厚さがあります。
この地のシュロス・ヨハニスベルクは、1720年からリースリングに特化した栽培を始めた世界最古の畑とされています。収穫を遅らせたことによりシュペートレーゼを1775年に生み出したという事でも有名です。
アルザスはヴォージュ山脈のお蔭で、乾燥した気候で年間日照量も多い大陸性気候。その山裾にあたる丘陵地の、南を向いた斜面に植えられたリースリングから良質のワインが生まれます。全てが辛口という訳ではありませんが、ドイツの軽い甘口スタイルのワインよりは残糖が少なく、鋼の様な厳格さを持っています。他方、近年では、地球温暖化の影響もあり、アルコール度数が上昇、残糖のあるワインも増えてきています。また、リースリングはこの地で定められている高貴ブドウ品種の一つでもあります。
トリンバックは1626年に創業したアルザスきっての家族経営の名門大手ワイナリーです。40ヘクタールの自社畑ではすべて手摘みでブドウを収穫して、ワインは8割以上を輸出に回しています。栽培農家から購入したブドウも 用いて生産しています。
ヒューゲル・エ・フィス も大手名門ワイ ナリーで、トリンバックと並び称されます。ヒューゲル一族がワイン造りを始め たのは 1639 年に遡ります。やはり8割以上を輸出して国際的に評価されています。
オーストリアのリースリングの栽培面積は5%にも届きませんが、ニーダーエスターライヒ州が銘醸地です。ヴァッハウはその中でも素晴らしい産地でドナウ川を臨む急斜面でブドウが栽培されています。この産地の主要ブドウ品種であるグリューナー・ヴェルトリーナーを押しのけて、一等地の斜面で片麻岩や花崗岩の土壌に根を伸ばします。
ヴァッハウでは残糖9g/L以下の辛口でアルコール度数とスタイルに応じたヴィネア・ヴァッハウの格付けが、良く知られています。このシュタインフェーダー、フェーダーシュピール、スマラクトの等級に加えて、2020年からDACもこの地のリースリングには認められました。
エメリッヒ・クノル はヴァッハウを代表するワイナリー の ひ と つ です。家族経営のワイナリーで、15ヘクタールほどの畑からクラシックで複雑なワインを 造ります。クノル一族は長い歴史を持つ名家ですが、トレードマークにもなっている現在のバロック調のラベルで元 詰めを始めたのは 1962 年からです。
オーストラリアでは、リースリングは栽培面積全体のたった2%程度しか占めていません。それにもかかわらず、クレア・ヴァレーとイーデン・ヴァレーは銘醸地として世界の市場で存在感を放っています。
1960年代から80年代に至るまで、様々な白ブドウをブレンドした甘口ワインがリースリングとラベルを貼られて売られていました。その後の生産者達の努力でリースリング=甘口ワインという誤解を払しょくしたのです。
クレア・ヴァレーは温和ですが夏場の日較差は30度にも及びます。高い酸を保ったまま、ゆっくりとブドウを熟させ複雑性も高めるのです。
この地のワイナリーのグロセットは1981 年 にジェフリー・グロセットが設立しまし た。1998 年にドイツで開かれたリースリン グ・サミットで、年間最優秀醸造家賞に選ばれたオースラリア随一の造り手です。
イーデン・ヴァレーは同じバロッサ地区のバロッサヴァレーでオーストラリアの典型的なシラーズが造られているというのに、高度と風の影響で、冷涼な気候を享受しています。辛口で高い酸をもち、ステンレスタンクで残糖を低く抑えたワイン造りが主流です。
アメリカのワシントン州のコロンビアヴァレーにはカスケード・マウンテンのお蔭で太平洋側から来る湿った空気が遮断されて乾燥した大地が広がっています。7月から9月は日照量がボルドーやナパを超えますが、秋に入ると日は急に短くなり、日較差も大きくなり、リースリングに必要な高い酸が保持されます。
シャトー ・サン・ミシェルは単独企業としては世界最大のリースリング生産者です。1974年にはロスアンジェルス・タイムス紙のブラインド・ティスティングでドイツ、カリフォルニアのワインを抑えて優勝して、自社のみならずワシントン州の存在をアピールしました。
8. リースリングの子供たち
リースリングは様々な交配品種を生み出した事でも知られています。
リープフラウミルヒの爆発的な売り上げで、一躍有名になったミュラー・トゥルガウは、リースリングとマドレーヌ・ロイアルとの交配で19世紀後半に生まれました。生育も容易で収量も多くドイツでは一時期最大品種になったこともあります。
ケルナーは、1929年にドイツのヴュルテンベルク地方の研究所で、黒ブドウのトロリンガーと交配させて生まれた白ブドウです。
ショイレーベはブッケトローブの交配種で、1916年に生み出されました。
一方で、オーストリアのブルゲンラント産で有名なヴェルシュリースリングはリースリングとは無関係です。
近年、ピーヴィと呼ばれるカビ菌耐性品種が注目を集めています。黒ブドウ品種のレゲントが最も有名ですが、リースリングとの交配品種としては、ヨハニーターが白のピーヴィ品種として挙げられます。フライブルク・ワイン研究所で1968年に交配されました。グラウブルグンダー(ピノグリ)とグートエーデル(シャスラ)の掛け合わせにセイヴ・ヴィラール12481(ハイブリッド)を掛け合わせたものを、さらにリースリングと掛け合わせたものです。なんとも複雑ですね。
9. あとがき
ニューヨークのレストランやバーに行けば殆どと言って良いほどリースリングが楽しめますが、日本では有名なワインショップに行っても品揃えは限られています。いわんや「本当の」辛口のリースリングを見かけるのは稀です。
辛口から貴腐ブドウをつかった甘口、スパークリングワインのゼクトとスタイルは多様です。また長期熟成の能力は群を抜いています。リースリングと互角に戦えるのはシュナンブランくらいでは無いかという人たちもいます。
この高貴なブドウは再評価されること間違い無いと言われながら、なかなか爆発的なブームには至りません。シャルドネやソーヴィニョン・ブランでしたら、レストランやワインショップでも簡単に注文ができますが、リースリングは確かにそうはいきませんね。でも、今回しっかり勉強したあなたはもう大丈夫です!