イタリアで栽培量トップに君臨するイタリア地ブドウの王様サンジョヴェーゼ。バブル時代を経験された方は、ユーミンが足しげく通ったという飯倉の「キアンティ」とともに「サンジョヴェーゼ」を思い起こすのではないでしょうか。キアンティやブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノといった有名ワインの主要品種となり、カジュアルなワインから長期熟成向きのワインまで様々なスタイルを造ることができるサンジョヴェーゼ。今日はそんなイタリアの代表選手について、その味わいから主な産地、おすすめペアリングなどを絡めてしっかりと解説していきます。
【目次】
1. イタリア代表品種!サンジョベーゼの香りや味わいの特徴
2. サンジョベーゼは意外と育てるのが難しい?栽培特性や適した土壌
3. 呼び名もたくさん !サンジョベーゼのクローンと別名
4. ワイン造りの変遷 スーパー・タスカンが生まれたわけ
5. サンジョヴェーゼの主な産地と有名ワイン
● トスカーナ地方
● キアンティDOCGとキアンティ・クラシコDOCG
● ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCG
● ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノDOCG
● その他の産地
6. サンジョヴェーゼのおすすめペアリング
7. サンジョベーゼのまとめ
1. イタリア代表品種!サンジョベーゼの香りや味わいの特徴
地ブドウの宝庫イタリアでも、トップに名前が上がるサンジョヴェーゼ。栽培面積は67,634ha(2021年)と、イタリアで最も多く栽培されています。まさに「イタリアといったらサンジョヴェーゼ、サンジョヴェーゼといったらイタリア!」といっても過言ではない、イタリアが誇る黒ブドウ品種です。
サンジョヴェーゼの赤ワインの特徴は、サワーチェリーやプラムなど赤果実やすみれやハーブなどのチャーミングな香り。色合いは、多くが濃すぎず淡すぎない中程度のルビー色といった様子で、この色調がブラインドテイスティングの際のヒントになることもあります。酸味や渋みは本来強く、ミディアム~フルボディのワインになる品種なのですが、大量生産ワインは、しゃばしゃばとした薄いワインになることも‥‥。いずれにせよ、しっかりと収量をコントロールしたブドウから作れば、骨格ものしっかりした、凝縮感のある長期熟成向きのポテンシャルを持つワインになります。
2. サンジョベーゼは意外と育てるのが難しい?栽培特性や適した土壌
同じくイタリアで有名なネッビオーロなどと比べると栽培面積が格段に大きいだけあり、馬車馬品種とみられがちですが、意外と栽培が難しいのが生産者泣かせなところ。芽吹きが早く晩熟の品種であることから、霜害や収穫期の雨などリスクも大きく、良いブドウを収穫するには畑の場所を考えなければなりません。
土壌は、特に粘土石灰質との相性が良く、キアンティ・クラシコ地区やモンタルチーノに分布する泥灰土(ガレストロ)からは、上質なサンジョヴェーゼが生まれるといわれています。このエリアは丘陵地で標高も比較的高いため、晩熟品種であるサンジョヴェーゼではベスポジを確保することが重要。たいてい、南向きのゆるやかな斜面の中腹にサンジョヴェーゼが植えられます。一般に、標高が高めの畑のサンジョヴェーゼは香り高くエレガントなワインに、標高が低めのサンジョヴェーゼはリッチでパワフル、柔らかい渋みを持つワインになります。
キアンティ地区は非常に広大なエリアですが、生産地域ごとのテロワールを表現しようと、キアンティ・クラシコ協会は2021年にサブリージョンを導入。その最上級「グラン・セレツィオーネ」では11の村名(UGA: Unita Geografiche Aggiuntive=追加地理的単位)を名乗ることが可能になりました。
3. 呼び名もたくさん !サンジョベーゼのクローンと別名
サンジョヴェーゼの名前は「ジュピターの血」に由来し、古代から栽培されている紀元の古いブドウ品種です。サンジョヴェーゼの親は、トスカーナ品種のチリエジョーロとカンパーニア州のマイナー品種カラブレーゼ・モンテヌオーヴォとの自然交配という説が有力です。
ピノ・ノワールのように突然変異しやすいという特性があり、長い歴史の中で様々なクローンが生まれました。以前は、ざっくり粒の大きさで、「サンジョヴェーゼ・ピッコロ」と「サンジョヴェーゼ・グロッソ」の2つに大別されていましたが、現在は様々なクローンが公式に認められています。
特にサンジョヴェーゼの品質向上に寄与したのが、キアンティ・クラシコ協会が推進した「キアンティ・クラシコ2000」プロジェクト。これにより優良クローンが選抜され、多くの生産者が優良クローンへの植え替えを進めています。
また、イタリアでは主にトスカーナ州、エミリア・ロマーニャ州、マルケ州で多く栽培されていますが、地域によって呼び方が異なるのもイタリアらしいところ。例えば、トスカーナ地区のモンタルチーノでは「ブルネッロ」、モンテプルチアーノ地区では「プルニョーロ・ジェンティーレ」、そして海岸のスカンサーノのエリアでは「モレッリーノ」、国外に飛んでフランスのコルシカ島では「ニエッルッチョ」と呼ばれています。
4. ワイン造りの変遷 スーパー・タスカンが生まれたわけ
サンジョヴェーゼのワインの醸造スタイルの変遷として、ざっくり押さえておきたいのが、品種構成と樽の使い方です。
まずは品種構成から。サンジョヴェーゼはブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCGとロッソ・ディ・モンタルチーノDOCでは100%義務であることを除いて、基本的にはブレンドが認められています。
キアンティの品種構成に重要役割を果たした人物が、ベッティーノ・リカゾーリ男爵。1141年から続くトスカーナの偉大な名門バローネ・リカーゾリ社の当主で、その強烈なカリスマ性で、イタリア王国の首相にまで上り詰めました。彼はキアンティの品質を上げるべく、理想的な品種構成を研究し、「サンジョヴェーゼ70%、カナイオーロ(ローカル黒ブドウ)20%、白ブドウのマルヴァジアを10%」を「リカーゾリ男爵の公式」として1872年に提唱しました。白ブドウの混醸を薦めたのは、サンジョヴェーゼの強すぎる酸と渋みをまろやかにするためです。
リカーゾリ男爵が「公式」の研究に勤しんでいた頃、ブルネッロ地区でも奮闘している人物がいました。それがブルネッロ・ディ・モンタルチーノ生みの親であるビオンディ・サンティ。通常のサンジョヴェーゼよりも皮が厚くて粒が大きいクローンを選別し、そのブルネッロ(サンジョヴェーゼ・グロッソ系)から長期熟成向きのワインを造ったのです。その後紆余曲折を経て、1970年代以降にようやく商業的にも成功したブルネッロの評判をゆるがしたのが、2008年のスキャンダル。大成功を収めていたアメリカマーケットの嗜好に合うよう、こっそり未認可の品種をブレンドしたことが発覚。それを機に、「他の品種も認可すべきでは」という議論も起こりましたが、ブルネッロならではの個性を守るべく、サンジョヴェーゼ100%のままで決着しています。
もうひとつ、サンジョヴェーゼの品種に関して避けて通れない話題が、スーパー・タスカン。1960~70年代、伝統と革新の間でゆれるトスカーナで、ワイン法にとらわれず、自由な発想でワインを造ろうとした造り手とワインのことです。カベルネ・ソーヴィニヨン主体の「サッシカイア」のリリースを皮切りに、キアンティ地区でもアンティノリ家がサンジョヴェーゼに少量のカベルネを加えた「ティニャネッロ」をテーブルワインのカテゴリで発売。つづいてサンジョヴェーゼとカベルネの比率を逆転した「ソライア」もリリースし、他の生産者も続々と追随します。また、当時のキアンティ・クラシコではサンジョヴェーゼ100%は認められていませんでしたが、モンテヴェルティーネがキアンティ・クラシコ協会を脱退し、サンジョヴェーゼ100%でワインを造り始めました。法律的には格下になったとしても、品質を重視してトスカーナの「伝統」を打ち壊し、革新の波を起こしたのです。
その後、様々な法改正を経て、現在はキアンティ・クラシコには白ブドウの使用は完全禁止され(ベーシックなキアンティでは可)、サンジョヴェーゼはブレンドの80~100%(残りはイタリアの伝統品種家内オーロ、コロリーノ+カベルネやメルロなど国際品種の黒ブドウ)、以前は不可能だったサンジョヴェーゼ100%でキアンティ・クラシコが造れるようになりました(モンテヴェルティーネはIGTのまま販売していますが……)。地ブドウを大切にする流れが強い現在は、少なくともサンジョヴェーゼ90%以上~サンジョヴェーゼ単体で造る生産者が増えています。
また熟成に関してですが、酸味と渋みが強いサンジョヴェーゼは、もともとボッテと呼ばれるスラヴォニアンオークの大樽で長期間熟成することで、味わいをまろやかにするのが伝統的な製法でした。これは同じく酸味と渋みが強いネッビオーロと共通しています。イタリアワイン近代化の波「イタリアワイン・ルネッサンス」が起こると、ピエモンテ州同様、短期のマセレーションやフランス製の小樽での熟成といった近代的手法が導入され、新樽比率を高めた果実味を重視した早飲みできるワインが造られるようになりました。ひと昔前のワイン造りへの回帰が見られる近年では揺り戻しが起こっており、新樽使用比率を下げ、500ℓなど大きめの樽や、大樽を使う生産者が増えています。
5. サンジョヴェーゼの主な産地と有名ワイン
トスカーナ地方
サンジョヴェーゼの故郷ともいえるトスカーナには有名ワインがごろごろ。まずは言わずもがなのキアンティとキアンティ・クラシコ、そしてブルネッロ・ディ・モンタルチーノとヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノは絶対に押さえておきましょう。サンジョヴェーゼを使用したワインは多く、ここでは紹介しきれないものもありますので、より詳しく知りたい方は、こちらのトスカーナの解説版をご覧くださいね。
キアンティDOCGとキアンティ・クラシコDOCG
イタリアの赤といえばキアンティ。キアンティDOCGは幅広いスタイルが生産される広義のDOCGです。丘陵地のクラシコエリアから生産されるキアンティ・クラシコDOCGは、3つのカテゴリに分かれています。まずは通常のキアンティ・クラシコ、そして最低熟成期間が2年(うち3か月が瓶熟成)でアルコール度数も高いキアンティ・クラシコ・リゼルヴァ、さらに2013年に新設された最上級カテゴリがグラン・セレツィオーネです。通常のものとリゼルヴァは、品種はサンジョヴェーゼが80%~100%、20%までカナイオーロやコロリーノ、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンなど他の黒ブドウも混ぜてOK。グラン・セレツィオーネでは、自社畑のブドウを使用し最低アルコールは13%、最低30ヵ月の熟成(うち瓶熟成3か月)、さらにサンジョヴェーゼの比率は最低90%以上、国際品種のカベルネやメルロは使えないなど、より厳しい基準が定められています。スーパー・タスカンの走りである「ティニャネロ」「ソライア」を始め、元祖サンジョヴェーゼ100%のモンテヴェルティーネの「レ・ペルゴーレ・トルテ」(優美な女性の顔のラベルが印象的です)、同じくサンジョヴェーゼ100%で造られるビービー・グラーツの「コローレ」「テスタマッタ」、ロバート・モンダヴィと名門フレスコバルディが組んだ「ルーチェ」などスターワインが綺羅星のようにきらめいています。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCG
地元では「ブルネッロ」と呼ばれるサンジョヴェーゼ・グロッソ100%から造られる重厚な長期熟成型の高級ワイン。収穫から最低4年(うち木樽熟成2年)、リゼルヴァだと最低5年が経たないと販売できないため、手間やコストもかかる高級ワインです。いまやバローロやバルバレスコと並んで‟3B”と称されるほどのイタリアを代表する銘醸酒ですが、意外と歴史は短く、ビオンディ・サンティ家によりブルネッロが本格的に造られたのは1970年前後。それまでのモンタルチーノは、南トスカーナで最も貧しい町というから驚きです。ビオンディ・サンティはもちろん、アメリカへブルネッロを売り込んだマーケティング上手のバンフィ、カーぜ・バッセなど名だたる生産者が、ワインラバー垂涎の素晴らしいワインを生産しています。より熟成期間の短いブルネッロの弟分がロッソ・ディ・モンタルチーノDOCです。
ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノDOCG
モンタルチーノの東に位置するモンテプルチャーノ村で造られるDOCGがヴィーノ・ノービレ・ディ・モンタルチーノ。「ノービレ」とつく通り、しなやかで優美な味わいが魅力で、キアンティとブルネッロの陰に隠れている感はあるものの、中世より名声も高い歴史のあるワインです。地元ではプルニョーロ・ジェンティーレ(「プルーンのような、優しい味わい)の意味)と呼ばれるサンジョヴェーゼを70%~100%使用し、2年の熟成(リゼルヴァは3年)が義務付けられています。ブルネッロと同じくこちらにも弟分がいて、ロッソ・ディ・モンテプルチャーノは、ソフトで若いうちから楽しめるワインです。
その他の産地
そのほとんどがイタリアで栽培されているサンジョヴェーゼですが、イタリアの影響を強く受けたフランスのコルシカ島、そしてイタリア移民の多いアルゼンチンやカリフォルニア、オーストラリア等でもサンジョヴェーゼは栽培されています。カリフォルニアではアンティノリ家がナパのアトラス・ピークに進出しサンジョヴェーゼの栽培を試みましたが、上手くいかなかったらしく、現在はカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にワインを造っています。オーストラリア・ヴィクトリア州には第二次世界大戦後に移住したイタリア人コミュニティがあり、キング・ヴァレーやビーチワースでは、サンジョヴェーゼだけでなくネッビオーロやバルベーラも栽培されています。今世紀に入っては、気候変動への対策をかねた「代替品種」としても注目され、アデレード・ヒルズやマクラーレン・ヴェイルなどで栽培が広がっています。
6. サンジョヴェーゼのおすすめペアリング
サンジョヴェーゼはカジュアルなワインから重厚なワインまで幅広いスタイルが造れるだけに、食事との相性の幅が広い優秀なワインです。基本的にトマトの酸味と抜群の相性をみせてくれるので、トマト系パスタやピッツァ、トマト煮込み料理に合わせておけば間違いはありません。またトスカーナの名物料理といえばTボーンステーキ。少し上級のキアンティ・クラシコと合わせると、その肉の旨味を引き立ててくれます。熟成したブルネッロなどは、ジビエ料理と最高ですし、ゆっくりと開く重厚な味わいは、チーズなどをつまみながら長い夜を楽しむにもぴったりですね。
7. サンジョベーゼのまとめ
いかがでしたでしょうか。サンジョヴェーゼについて学ぶことで、トスカーナのワインについても深く学ぶことができましたね。日常に楽しめる気軽なワインから、とっておきの高級ワインまで幅広く作れるサンジョヴェーゼは、懐の深い品種でもあります。イタリアが誇る黒ブドウを、これからもひいきにして、ワインライフを楽しんで下さいね。