ヴェネチアやヴェローナなど人気の観光都市を有するヴェネト州は、ワインの生産もイタリアトップクラス。生産量世界No.1スパークリングのプロセッコをはじめ、ソアヴェやヴァルポリチェッラ、アマローネなどイタリアを代表する有名ワインを産出するワインの銘醸地です。今回は、様々なスタイルのワインを生産する奥深いヴェネトの魅力に迫っていきます。
【目次】
1. ヴェネト州のワインの特徴
2. ヴェネト州の風土と気候
3. 主な土着品種
4. 押さえておきたい陰干し製法
5. ヴェネト州の主要ワインとDOC(G)
● プロセッコ
● ソアヴェ
● ヴァルポリチェッラ
● その他のDOC(G)ワイン
6. ヴェネト州の郷土料理とおすすめペアリング
7. ヴェネト州のまとめ
1. ヴェネト州のワインの特徴
水の都ヴェネチアを州都に抱えるヴェネト州。ワインの生産もさかんで、ワイン大国イタリアのなかでも生産量は常に上位3位以内に入っています。ロミオとジュリエットの舞台になったヴェローナ周辺はソアヴェやヴァルポリチェッラを産出する銘醸地。ヴェローナでは毎年ワインの国際見本市「ヴィニタリ―」も開かれ、イタリアワインの首都とも言われています。ワインの種類も実に豊富。プロセッコから白のソアヴェ、赤のヴァルポリチェッラやアマローネ、甘口ワインのレチョートなどが有名で、ブドウの搾りかすから造られるグラッパもあるので、ヴェネト州のワインで泡から蒸留酒まで完結してしまいます。特にソアヴェは、イタリアの白といえば一番に名前が上がるさっぱりとした白ワイン。1960~70年代に爆発的に人気になり、大量生産の結果、「ソアヴェ=安ワイン」というマイナスイメージがつきまとった時代もありました。現在は、ソアヴェのイメージを回復しようとソアヴェ協会が力を入れており、2020年には33の畑が公式の「単一畑」に認可され、ラベルに堂々と表示できるようになりました。
赤のヴァルポリチェッラは地元で一番飲まれている赤ワインで、安価なデイリーワインから、飲みごたえのあるプレミアムワインまで様々なタイプが造られています。
そして世界的人気を誇るのがアマローネ(アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ)。陰干しして糖度を高めたブドウから造られるリッチな辛口赤ワインです。その搾りかすを再利用したリパッソと合わせて人気が高く、生産量は1990年代中盤から約6倍(リパッソは4倍)に増えています。このようにヴァルポリチェッラひとつとっても、幅広いスタイルがあり、様々な楽しみ方ができるのが、ヴェネト州のワインの魅力といえるでしょう。
2. ヴェネト州の風土と気候
イタリア北東部に位置するヴェネト州は、北は山岳地帯、南はアドリア海、東西はフリウリ・ヴェネツィア・ジュ―リア州とロンバルディア州に接しており、アルプスの雪解け水を運ぶ河川に恵まれた農業州です。気候は温暖な大陸性気候。標高の高い丘陵部はやや冷涼で寒暖差が激しく、またロンバルディア州に接する西側には巨大なガルダ湖が広がるため、湖からの涼風が近隣の畑に冷気をもたらしてくれます。
56%が平野部と、イタリアにしては平野が多いのも特徴。広大な平野の畑は機械収穫にも向き、大量生産のデイリーワインも多く造られています。一方、ソアヴェ・クラッシコやヴァルポリチェッラ・クラッシコのように「クラッシコ」が造られるエリアは、質の良いブドウが取れる斜面の丘陵地帯。ブドウの生育環境もだいぶ変わります。斜面のブドウ畑がより水はけがよく土壌も痩せているのに対し、平野部は土壌も肥沃で水もたまりやすいため、収量はかなり多くなります。平野部では、デイリーワイン用の国際品種も栽培されており、ピノ・グリ―ジョやシャルドネ、赤ワインだとメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンも多く植えられています。なかでも圧倒的人気を誇るのがピノ・グリ―ジョ。1990年代後半、シャルドネに飽きてきたアメリカ市場から火が付き世界的ブームになり、イタリアでも一気に栽培面積が増えました。ヴェネト州のピノ・グリ―ジョは、水代わりにぐいぐい飲めるようなフレッシュ&フルーティーなワインが主流です。
3. 主な土着品種
ここではヴェネト州の土着品種について紹介していきます。
まずは、白ブドウ品種はグレラとガルガーネガ。グレラはプロセッコの原料となる品種で、白桃や白い花のアロマ、ほのかな苦味が特徴です。なんだか地味な名前で印象に残りにくいかもしれませんが、以前は、ワイン名と同じ「プロセッコ」として知られていました。しかし人気のあまり、同じ品種を使っただけの偽プロセッコが続出。2009年に正式にブドウ名を「グレラ」に変更し、同時にそれまでIGTだったプロセッコはDOCに、DOCだったコネリアーノ・ヴァルドッビアーデネがDOCGに格上げされました。この変更より、原産地呼称で認められた産地のみ「プロセッコ」を名乗れ、同じ品種を使ったワインは「グレラ」と表記できるのみになったのです。プロセッコについては詳しい解説記事がありますので、こちらもご覧ください。
そしてソアヴェの原料になるのがガルガーネガ。ヴェネト州では昔から植えられている白ブドウ品種で、樹勢が強くほっておくとモリモリ房をつけます。そのため質の良いブドウを得るためには収量制限が必要です。なんだか強そうな名前ですが、ブドウ自体としてはそんなに主張は強くないニュートラルな品種。ワインはりんごや洋梨、柑橘系などの爽やかな風味に、ちょっと熟したものだとストーンフルーツなどの香りも現れます。通常は樽熟せずに爽やかに仕上げられることが多いですが、高級なものになると新樽を使って樽熟成し、リッチに仕上げることも。熟成するとアーモンドや蜂蜜のような芳しい香りを呈するものもあり、実は表現の幅の広い品種です。
赤の主要3兄弟は、コルヴィ―ナ、ロンディネッラ、モリナーラ。コルヴィ―ナ(正式にはコルヴィ―ナ・ヴェロネーゼ)は、ヴァルポリチェッラの原料になる品種。主原料のコルヴィ―ナは、樹勢が強く育てやすい品種で、果皮が厚いため陰干しにも向いています。ロンディネッラ、モリナーラとよくブレンドされますが、アレグリーニの「ラ・ポヤ」のように単一品種でリリースした成功例も。ワインはすみれやチェリー、プラムなど赤い果実、高い酸味と穏やかなタンニンが特徴です。
ブレンドに使われるロンディネッラは、病気に強く収量が安定しやすい品種。香りはシンプルですが、ブレンドに酸と厚みを与えてくれます。モリナーラは、着色が弱いため、最近は栽培面積が減っていますが、ブレンドに加えると酸と赤果実、抜け感を与えてくれる品種です。
4. 押さえておきたい陰干し製法
ヴェネトのワインを理解するのに重要なのが、干しブドウからワインを造る製法(パッシート)。ソアヴェでもヴァルポリチェッラでも、陰干し製法が用いられます。収穫したブドウを通気性のよいロフトや小屋などで3~4か月ほど乾燥させ、水分を飛ばしたブドウからワインを造る製法です。干しブドウを造るときにまず大事なのは、ワインのバランスに大切な酸味をキープするため、早期に収穫すること。かつブドウを干す際に換気をよくし、カビないようにすること。水分を飛ばすことで糖度とフレーバーが凝縮し、よりアルコールの高い濃密なワインを造ることができます。その際、干しブドウの中で化学変化が起こり、グリセリンが生成されることで、柔らかくリッチな口当たりが生まれるのです。出来上がったワインが甘口のものは、レチョートと呼ばれ、ソアヴェではレチョート・ディ・ソアヴェ、ヴァルポリチェッラではレチョート・ディ・ヴァルポリチェッラの呼称が認められています。辛口のもので基準を満たしたものは、アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラと呼ばれ、このアマローネは特に世界的に需要があります。
また、ヴァルポリチェッラに使われる「リパッソ」の製法も押さえておきましょう。リパッソ(「元に戻す」の意味)は発酵終了間際のアマローネの果皮を分離させ、ヴァルポリチェッラワインに加える製法。果皮には残糖分やアルコールが含まれているため、ワインにアマローネの風味と強さをプラスすることができるのです。
5. ヴェネト州の主要ワインとDOC(G)
ヴェネト州にはDOCやDOCGが多いのですが、大きく分けて、泡はプロセッコ、白はソアヴェ、赤はヴァルポリチェッラの3つに考えると分かりやすいです。順にみていきましょう。
プロセッコ
- プロセッコDOC
- コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネDOCG
- アゾロ・プロセッコDOCG
リーズナブルな価格と親しみやすい味わいで、いまや世界で一番飲まれているスパークリングワイン、プロセッコ。ヴェネト州のみならず、お隣のフリウリ州含めて2万ha超の広大な産地から年間6億本超が造られています。
泡の製法は、ほとんどがタンク方式。洋梨やりんご、白桃など繊細な果実の風味を活かし、すっきりとピュアなスタイルを造るには適した製法です。フランスではシャルマ方式と呼ばれますが、イタリアでは、シャルマ方式の名づけ親であるユージン・シャルマよりも早く特許申請したフェデリコ・マルノッティにちなんで「マルティノッティ方式」とも呼ばれています。ちなみにタンク方式がほとんどとはいえ、わずかに田舎方式で造られるプロセッコ(スイ・リエーヴィティ=シュール・リー)も生産されています。
世界遺産にも認定されたコネリアーノとヴァルドッビアーデネの丘陵地帯で造られるコネリアーノ・ヴァルドッビアーデネDOCGの収量は、13.5トン/haで、一般的なプロセッコDOCの18トン/haよりも低く定められています。ヴァルドッビアーデネの丘の南、2000haのエリアから造られるアゾロ・プロセッコDOCGは生産量が全体の約3%と少ない珍しいDOCGです。
また、2020年にはプロセッコDOCにロゼのカテゴリーが誕生。グレラにピノ・ネーロを最大15%ブレンドしてシャルマ方式で造られます。見た目にも華やかなプロセッコのロゼは、パーティーなどでも大活躍してくれそうですね!
ソアヴェ
- ソアヴェDOC/ソアヴェ・クラッシコDOC
- ソアヴェ・スペリオーレDOCG
- レチョート・ディ・ソアヴェDOCG
イタリアを代表する白ワインといえばガルガーネガ種主体で造られるソアヴェ。すっきりフレッシュ、水代わりにごくごく飲めるデイリーなワインから、樽熟成したしっかりとしたタイプまで幅広いタイプが造られています。8割を占めるのが、一般的なソアヴェDOC。ソアヴェの爆発的人気により面積は急拡大し、今では1931年の3倍の面積に増えました。石灰と玄武岩土壌の広がる丘陵地帯のより良い畑から造られるのが、ソアヴェ・クラッシコDOC。ソアヴェDOCが105hL/haに対し、クラッシコは98hL/haと収量も制限されています。さらに収量が低く(70hL/ha)、高いアルコール度数と長い熟成期間が定められているのが、ソアヴェ・スペリオーレDOCG。DOCGとして独立しているものの、この呼称を使用する生産者が多くないのが現状です。
レチョートは、ソアヴェと同じ品種の陰干しブドウを使った白の甘口ワイン。水分が抜けブドウも軽くなるため収量は低く(最大36hL/ha)、フローラルなアロマと蜂蜜など甘い香りが特徴の、なんとも幸せなリッチなワインです。
ヴァルポリチェッラ
- アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCG
- ヴァルポリチェッラ・リパッソDOC
- レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCG
ヴェローナの北部に広がるヴァルポリチェッラ地区は、赤の銘醸地。こちらもソアヴェと同じく、平地ではシンプルでデイリーなヴァルポリチェッラDOCが多く造られ、丘陵地のクラシッコ・エリアからは、より品質の高いヴァルポリチェッラ・クラッシコDOCが造られます。
また、陰干しブドウから造られるのがアマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCG。やや甘みのあるものもありますが、基本はドライで残糖は最高でも9g/Lまでと定められています。リリースには最低2年以上の熟成(リゼルヴァは4年以上)が必要で、アルコール度数は最低14度以上とパンチ力抜群。ドライフルーツやチョコレートなどの芳醇な香りとヴェルヴェットのような滑らかな口当たりがなんとも甘美なワインです。
アマローネの片鱗を感じられるコスパワインとしては、製法のところでも紹介したヴァルポリチェッラ・リパッソを覚えておくとよいでしょう。価格もアマローネに比べるとかなりリーズナブルで、おすすめです!
レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCGは、陰干しブドウから造られる甘口の赤ワインです。
その他のDOC(G)ワイン
まだまだ紹介しきれない程、DOC(G)があります。ルガーナDOCは、ガルダ湖周辺で造られるすっきりとした白ワイン。トレッビアーノ・ディ・ルガーナ(ヴェルディッキオのシノニム)から造られます。同じくガルダ湖に連接する地域で造られるのが、バルドリーノDOC/バルドリーノ・スペリオーレDOCG。ヴァルポリチェッラと同じコルヴィーナ主体で造られますが、より軽やかでスミレや赤果実のフルーティーな風味が楽しめる赤ワインです。キアレットと呼ばれるバルドリーノのロゼも、イタリアでは人気があります。また、タイという珍しい品種から造られる白ワイン、リソンDOCGも覚えておくと良いかもしれません。
6. ヴェネト州の郷土料理とおすすめペアリング
海にも山にも接するヴェネト州は食文化も豊富で、沿岸部では魚介類、内陸部で肉類やお米、野菜を中心とした料理がよく食べられています。郷土料理としては、バッカラ(干しだら)料理やイワシの南蛮漬け(サルデ・イン・サオール)、ビゴリと呼ばれるヴェネト特有の太麺のパスタ、ヴェネチア風仔牛のレバーと玉ねぎ炒め(フェガト・アッラ・ヴェネツィアーナ)などが有名です。また、グリーンピースとお米を煮込んだリゾット(リージ・エ・ビージ)などのように素朴な料理に、カジュアルなソアヴェが良く合います。珍しい料理としては、馬肉を長時間煮込んだシチュー(パスティッサーダ・デ・カヴァル)は、ヴェローナの名物。濃厚な煮込み料理にはアマローネや上級のヴァルポリチェッラがばっちりです。また少し甘みを感じるアマローネは、中華料理などスパイシーな料理にも合いますし、チョコレートなどをつまみながら、ゆっくりと贅沢な時間を愉しむにもぴったりです。
7. ヴェネト州のまとめ
幅広いスタイルが造られているだけに、多様なシーンに適応できる懐の広さを持つヴェネトのワイン。プロセッコで乾杯して、ソアヴェで前菜や魚介を楽しみながら、ヴァルポリチェッラやアマローネでお肉料理を楽しむ…そんな楽しみ方もできちゃいます。さっそくヴェネトのワインをセラーに補充して、気軽に楽しんでみて下さいね!